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第二話『衝撃の事実!』

……冒険者は来なかった。

いや、何人かは来たのだが私とコンスタンス目当ての冒険者しかいなかった……要するにナンパ。

私は、現実の厳しさを思い知った。

この酒場にはまともな冒険者はいないの!?街で唯一の酒場でしょ!?私は思わず叫びそうになった。

(……いけない、いけない。落ち着かなくちゃ……)

魔術師たる者、こういった時に冷静にならないと。

そう、すべてはこの類稀な美貌のせい……容姿端麗、才色兼備、その上優雅で華麗で知性に満ち溢れ、なおかつ繊細な感性を持った高貴な私と、ちょっと毒舌だが清純可憐なコンスタンスの二人を見て心動かされない男なんて、酒樽戦士ドムしかいない!

(……美しさって、罪よね……)

いけない、ちょっと自己陶酔しちゃった。危なく、目的を忘れるところだった……。


街で唯一の酒場であっても、毎日混んでいるわけではない。

特に今日は誰もいなかった。

二階にある宿泊施設は満員だったけど、朝から酒を飲む者は……ドムがいた。

「……おはよう、ドム。いくら仲間が見つからないからって、あまり飲んじゃダメよ?」

私はお約束の文句を言ってドムの隣に座る。

ドムは珍しくカウンターに座っていた。

「……マスター、おはよう。誰か来た?」

マスターは私の方をギロリと見た。

マスターはリザードマンだった。

リザードマンとは、平たく言えばトカゲ人間。目が赤くて舌が蛇で肌は鱗で覆われている。

生理的にあまり関わりたくない種族である。

マスターは水の入ったコップを私の前に無造作に置く。

「……サッパリ、来ナイゾ。今ハ、冒険スル奴ガ少ナイカラナ……」

抑揚のない返事が返ってくる。この状況を見ればよくわかる。

富や名声を求める者は、危険を犯しても大陸へ渡る。

この戦乱の時代、実力さえあれば一国の王になる事も充分に可能なのだ。実際、ある冒険者パーティーが圧政に苦しむ住民達を扇動し、国を攻め滅ぼした事件もあったくらいだ。

今の大陸は冒険者にとって、様々な魅力でいっぱいだった。

実力さえあれば富や名声をその手に、己の野望を叶える事ができるのだから。

「マスター、他に冒険者がいそうな場所ってないのか?」

隣で酒を飲むドムが口を開いた。

「せっかく、ライマー島に来たんだ。ずっとこの街にいるわけにもいくまい。そこで仲間を探す旅に出たい」

(……それ、私が言おうと思ったのに!)

私のセリフが、ドムに取られた……ドワーフだと思って油断してたわ!

「……ソレナラ、夜ノ都“ルターズ”ニ行ケ。北ニアル夜ノ領域ノナカニアル街ダ。ソコナラ、冒険者ガイルゾ……」

マスターはさらっと答える。

「……ルターズか、夜の街だな。マーガレット、どうする?あまり期待できそうもないが、ここにいるよりはいいかもしれんぞ?」

ドムは私を見た。

その顔には、勝ち誇った様な視線も馬鹿にした様な素振りも一切なかった。

(……真面目に答えろ、ってことね……)

もちろん、答えは決まっている。悔しいが、私の『求人募集作戦』は失敗に終わったから……。

「行くしかないわね。ここにいても見つからないもの。じゃあ、今日は出発の準備をして明日出ましょう。回復役がいないから、薬草の買い出しと念のため情報収集もしておきたいわ。それでいいかしら?」

ドムは納得したのか、頷くと席を立った。その目には、力強さがみなぎっている。

「……わかった。じゃあ、俺は近くの海岸で剣の修行をしてくる。何かあったら来てくれ。夕方には帰ってくる」

そう言ってドムは、剣を取りに部屋へ戻っていった。それにしても、酒場には私以外に誰もいなかった。

(……よく潰れないわね。マスターも冒険者だったのかしら?)

マスターはグラスを拭いている。その表情からは何も読み取る事ができない。

(……冒険者同士は不干渉が鉄則。

深入りすると足元をすくわれる。知りたくても我慢、我慢……)

私は昔から興味を持ったらとことん追求するクセがあった。

それは、まさに魔術師向きの性格とも言えなくはないが、私の場合は少し度を越えているらしい。大陸にいた頃は、その詮索癖のせいで余計な依頼を受けたり、事件に巻き込まれたりしたから。

(……わ、話題がない……この沈黙って、なんか重いわね……)

何日も泊まっていたのに、マスターと話す機会がなかったから何を話していいのかわからない。

マスターは相変わらずグラスを拭いていた。何も話さないつもりなのだろうか?

(……ちょっとマスターなんだから、客に何か話しなさいよ。居づらいでしょ!)

なんで私が悩まないといけないのよ!そう思うとだんだん腹が立ってきた。

自慢じゃないが、私に声をかけない男は滅多にいない。

声をかけないのは、ドムみたいに美的感覚が欠如した者だけだ。

(……もしかして私の事、冒険者として見てないの?)

なんか嫌な予感がした。もしかして、求人募集に来た人に……。

「……マスター、一つ質問するわよ。求人募集を見て来た冒険者に、私達の事なんて説明したのかしら?」

マスターはギロリと私の顔を見てグラスを置いた。

「……護衛ヲ探シテイル観光客……」

ああ、やっぱり!いくら私が絶世の美女でコンスタンスがそれなりの美女でも、冒険者に見えないなんて……張り紙の内容くらい見なさいよ!

私は、全身の力が抜けカウンターに突っ伏した。

それじゃあ、まともな冒険者なんて来ないわよね……。

「……マギー、何してるの?」

脱力し切った私に、コンスタンスが声をかけてきた。今頃起きたの?

「ドムから聞いたわよ。明日、いよいよ旅に出るのね?買い出しになら付き合うわよ?いつ出掛けるの?」

コンスタンスはマスターに朝食を注文して私を見た。

「マギーは食べないの?」

今、疲れてるのよ。少し休ませてよ。精神的ダメージが大きい。

いくら魔術師として鍛えられた精神力を持ってしても、この衝撃は大きかった。

「……いらない。出掛けるのは、昼食の後にするわ……」

私は部屋に戻る事にした。魔術書でも読んで、沈んだ気持ちを切り替えよう。

私も、まだまだ修行が足りないわね。でも負けないわよ!

その後、私の『いつか言い負かすリスト』にマスターの名を刻まれたのは言うまでもない……。

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