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第二十四話『別離』


ニールとプラナが目覚めた―――。

マイア神殿の神官からその事を聞いたガンツェルは、神殿内走行禁止にも関わらず全速力で彼等の部屋まで走って行った。

ベッドから身を起こしたプラナが部屋に飛び込んで来たガンツェルを見て吹き出す。

ニールの方はベッドに横になっていたが顔色はいい。

だが、まだ体内のダメージは抜け切っておらず、見た目とは裏腹に完治までには時間がかかるとの事だった。

(……いかんな……)

ただ一人、昏睡状態のヘイグを見てガンツェルは厳しい表情に戻る。

全身に刺し傷があるヘイグはいまだに意識が無いまま眠り続けている。

神官達の治療でも意識が戻るかどうかはわからないという。

(……俺はまだいいな……仲間が目覚めたんだし……)

戦友を失ったドムに比べれば、自分達は希望があるだけまだマシである。

冒険者にとって死別するのは特に珍しい事ではないが、やはり戦友を失うのは堪える。

そのドムはというと、メイユールから渡されたマーガレットの指輪を見て、懸命に気持ちを切り替えようとしていた。

古くからの付き合いなのだろう。

ガンツェルにはドムにかけてやる言葉がなかった。

下手な感傷でドムの心を乱すわけにもいかない。

それは、冒険者にとっては最低限のルールだ。

だからドムが行くまでは、誰一人としてマーガレットのところへは行かなかった。

それが戦友に対する思いやりなのだから……。

部屋にメイユールもやって来て、今後の話をする事にした。

メイユールはマイア神殿の神官でもあるので、ニール達の治療の面倒を最後まで看てくれる様に神殿側に頼んでくれた。

そのおかげで治療に専念できるが、問題はその後だった。

ニールの状態はかなり悪く、冒険者として復帰するには半年以上の治療が必要であるというのだ。

もちろん、その間はマイア神殿からも出る事はできない。

“闇の力”に侵された体は聖なる波動を受け続けなければ、その影響で人格すら変わってしまうのだ。

不運な事にニールは“闇の力”に対する免疫が冒険者とは思えないくらいになかった。

そのため体の髄まで“闇の力”の浸食を受けてしまったのだ。

エルはニールに付き添う事を決め、ドム達とはここで別れる決意を固めている。ガンツェル達は元々“霧の悪魔”を退治するまでの仲間なので、ヘイグが回復したら旅に出る事を決めていた。

彼等は残されたドムについて話し始めた。

「―――俺としては連れて行きたい。だがドムは断ると思うな……」

ガンツェルはいかにも義理堅そうなドムが、すぐに他のパーティーに混ざるとは思えなかった。

(……ま、そこが良いところなんだがな……)

冒険者にしては情に厚いドムを気に入っているガンツェルは、真剣にドムのこれからの事を心配していた。

ニール達はしばらくの間マイア神殿から離れられないから問題外だし、唯一求人募集で仲間になったメイユールだけでは心許ないだろう。

(……せめて、ルターズが近ければ……なんとかしてやれるのに……)

ガンツェル達の拠点はルターズだったので、離れたマイア神殿へ頻繁に通うわけにもいなかった。

結局、決めるのはドムだ。

とやかく議論しても始まらない。

そもそも冒険者がこの様な話題を議論する事自体がおかしいと言える。

それだけ絆が深まったのだろうか?ガンツェルは疑問に思いながらも部屋を後にして、話をしようとドムの元へ向かった……。

 

マイア神殿の礼拝所―――。

荘厳な雰囲気と聖なる波動で包まれた聖域で、ドムは目の前の女神像を見て思案に耽っていた。

(……この指輪にふさわしい銀細工を造ろう……)

ドワーフ族は、職人顔負けの優れた装飾品を造り出す金物細工の職人である。

生まれながらにして指先が器用なドワーフ族にとって金物細工は数少ない趣味のひとつとも言える。

ドムは亡き戦友のために装飾品を造ろうと思い、礼拝所の女神像を見て頭の中でマーガレットに似合う装飾を思い描いていた。

「……ここにいたのか」

ドムを探しに神殿内を歩きまわったガンツェルが礼拝所にやって来た。

(ドワーフ族は信心深い種族と聞いたが……実際に見ると違和感があるな)

この無骨な戦士が女神像を眺める姿はさすがに想像し難い。

よってガンツェルはこの礼拝所に最後に訪れたのだ。

女神像を眺めるドムは振り返るとニカッと笑みを浮かべる。何か思いついたのか?戦いの後、感情を表に出さなかったドムの笑顔にガンツェルは不思議な感覚を覚えた。

「……いろいろ心配かけてしまったな。俺は大丈夫だ!メイユールが一緒に行ってくれるし、仲間がいないのには慣れている。それに思いついた事があってしばらく冒険をやめようと思う……」

ガンツェルの話を聞いたドムは思いの外淡々とした口調で答えた。

その口調からガンツェルは、ドムが冒険を捨てたわけじゃない事を察した。

「いらぬ心配だったな?俺は冒険者とはいえ、戦友を亡くしても気丈に振る舞えるあんたを尊敬するぜ……」

そう言ってガンツェルは満面の笑みを浮かべると手を差し出し、力強く、固い握手を交わした。

―――それぞれの道は決まった。

エルはマイア神殿でニールの治療に付き添い、ガンツェルとプラナはヘイグの回復を待つ。

ドムとメイユールは、宿屋に置いてきた荷物を取りにルターズへ一旦戻る事にした……。

 

―――地下の一室。

その部屋のドアには『遺体安置所』と書かれている。

そこには美しいエルフの女性が眠っていた。

静かな寝息を立て、かすかに胸は上下している。

彼女は生きている―――。

しかし、誰もその事に気付かずエルフの女性は静かに眠り続けていた―――。

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