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第一話『求む!冒険者』

街で唯一の酒場“アクアブレス”には、多くの冒険者達が疲れを癒すべくテーブルを囲っていた。

よく見れば様々な種族がいる。

この島は他の島々よりも小さかったために各種族で領地を分配する、という常識ではあり得ない平和的手段で各種族の領地が分けられていた。

これは、種族に合った土地がはっきりと分かれていたために行われたらしい。

二つある森は清らかな森と妖気に汚れた森しかなかったので、エルフ族とゴブリンなどの妖魔族は争う事なく、それぞれの領地が決まった。

山岳地帯はドワーフ族が領地とし、特殊な結界により常時、夜の闇に包まれた領土はトロール族やヴァンパイア族が所有する事になった。

人間族は余った地域をその領土とする事ができたので一切の争いは起きなかった。

平たく言えば己の領地以外、住み心地が悪いので争ってまで奪おうとは各種族とも思わなかったのだ。

そんな経緯もあってか、この島のパーティーは異種族混合パーティーがほとんどだった。

かく言う私達のパーティーも異種族混合パーティーである。

ちなみに私達のパーティーは、大陸から来ているので異色のパーティーと言ってもいい。

よく人間達が噂する様に、エルフ族とドワーフ族は仲が悪い。

私の種族であるエルフ族は、優雅で華麗で知性に満ち溢れ、なおかつ繊細な感性を持った高貴な種族。

下品で酒樽みたいな知性の欠片もないドワーフ族とは生来わかりあう事など出来ないのだ。

ちなみに私の仲間にもドワーフ族が一人いる。

もちろん仲は悪い。

確かに腕力はあるし、頑丈だし見た目とは裏腹に手先も器用だけど、とことん性格が合わない。

まぁ、冒険者としての実力は認めるけどね。

テーブルの向かいに座ってお酒を飲んでいるドワーフ、戦士のドムはそんなドワーフ族の中ではまだまともな方だった。それでもあまり話したくないが。

「ドム、飲み過ぎよ。少し控えなさいよ」

私は底無しに酒をあおるドムを見て、胸やけを起こしそうになった。隣に座るコンスタンスが水をくれた。

「……ありがとう、コンスタンス。それにしてもドムは、よく食べてよく飲むわね?転んだら起き上がれないんじゃないの?」

私は皮肉たっぷりに文句を言った。ドムが食事の手を止め、私を睨みつける。

「……なんだよ、マーガレット。なんか文句あるのか?戦士は体力が肝心なんだ。食うのも仕事なんだよ」

ドムは勝ち誇った様に私に向かってウィンクする。

(……酒樽のくせに!転んで起き上がれなくなってしまえ!)下品な言葉を口に出すわけにもいかず、私は黙って食事する事にした。

ここで言い争っても疲れるだけだ。

とは言っても私達のパーティーは三人しかいなかったので、冒険には出れなかったが……。

普通は五人くらいでパーティーを組むのが常識。

これでも私達も大陸にいた時は六人だった。

しかし、大陸に残った仲間達は危険を犯してまでこの島へ来てくれなかったのだ。

意見の食い違いによる離脱。

冒険者にはよくある事だった。

とにかく冒険に出るには人が足りない。

戦士のドムに魔術師の私とコンスタンス、この三人では冒険に出るのは無謀過ぎる。

(……この酒場、いい人材がいないのよね。

でも、戦士が一人じゃね……)ドムは大陸でも知る人は知っていたそこそこの戦士。

それでも魔術師二人を守って戦う事はできない。

せめて、回復魔法の使い手がいれば……。

私は頭が痛かった。

この島は種族による分割統治が見事に成されている。

そのため争いが非常に少なく、必然的に冒険者達は大陸に渡っていった。

つまり、人材の現地調達が困難だったのだ。

しかもこの島に来る冒険者達は、戦いを捨てた者か観光に来る者しかいなかった。

私達は到着早々、難題にぶつかってしまったのだ……。

「……マギー、今日はこれからどうするの?」

綺麗に皿を空けたコンスタンスが水を一口飲んで言ってきた。

「……まさか、今日も見てるだけ?」

清純可憐を絵に書いた様なコンスタンスによる毒が私の胸をえぐる。

「……もしかして、何も考えてないの?」

笑顔で追い打ちをかけるコンスタンス。

この娘、見た目と違って言う事に容赦がなかった。

天然なのか、わざとなのか、彼女の言葉に私は口をつぐんでしまった。

確かにライマー島に着いてから酒場を出ていなかった。

一日中、冒険者のチェックするだけ。

どうやら、コンスタンスはそれに飽きた様だった。

私だってもう飽きてる。

良さそうな人に話しかけても、観光に来た冒険者だったり冒険をやめた人だったりした。

しまいには冒険なんかやめて観光しよう、なんて言われる始末。


向こうから話しかけてきたと思ったらナンパだったり、とさっぱり成果が上がらなかった。


幸い、軍資金はたくさんあったので時間を気にする心配はなかったが……。


「……なかなか見つからないわね……」



私は溜め息混じりに呟いた。


せっかくライマー島まで来たのに、そう思うと気ばかりが焦ってくる。ライマー島には、種族の管理外冒険スポットがいくつかある。

私はそれ目当てに来る冒険者を探したが、まったくと言っていい程興味を持ってくれる冒険者はいなかった。

「……問題は、人材不足だけじゃないわよね……私達にも、問題があるのよね……」


正直、私達のメンバー構成は冒険向きの編成ではなかった。

戦士一人に魔術師二人。

どう考えても戦士が足りないし、回復魔法の使い手がいないのは命知らずもいいところだった。

端から見れば、観光に来たと思われても仕方の無い事なのかもしれない……。だが、ここで引き下がるわけにはいかない!

私はコンスタンスの冷めた目に耐えてカウンターへ向かった。

「……マスター、掲示板使わせてもらうわよ」


私はマスターの許可を得ると昨夜考えた最終兵器に賭ける事にした。

それは……。


『求む!勇気ある冒険者!男女問わず募集。

戦士と魔術師二人のパーティーです。我と思う者はカウンターまで!』


……求人募集の掲示だった。

これなら見た目で判断される事もないはず。

私の類稀な美貌を持ってしても、いや、私の美貌に目が眩み、まともな冒険者が見つからないので、もはやこの方法に賭けるしかないのだ!

「求人募集?……うまくいくのかしら?」


コンスタンスは首を傾げ、冷めた目で私の方を見る。

「……マスターに紹介してもらった方が早くない?」


(……身も蓋もない事を!今に見てなさいよぉ……)

とにかく、なんだかんだ言っても求人募集は採用された。

とりあえず、張り紙で様子を見る事にして一旦部屋に戻るとなった。


まだ冒険は始まったばかり。

急がず、焦らず、まずは仲間を見つけよう。

私は、未来への不安を抱きつつも、これからに期待する事にした……。

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