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第十六話『悪魔退治〜出発!〜』


“夜の都”ルターズに朝は来ない。

それは“夜の領域”と呼ばれる特殊な結界のためだ。

この結界の存在のおかげで闇に生きる種族は争う事なく領土を獲得した。

この“夜の領域”の中で生きる彼等は『街』を造り『文化』を得た。

彼等は人間達と敵対するよりも文化交流を行う事の方が繁栄できる事に気付き、人間達の想像を遙かに越えた娯楽街を築き上げた。

“夜の都”……明ける事のない闇の街を八人の旅人が隊を組んで歩いていた。

どう見ても隊商には見えない。

見るからに冒険者風の集団である。

前を歩くは四人の男。

各々鎧を身にまとい腰に剣を吊している。

人間二人にリザードマンとドワーフが一人ずつ。見た目からして彼等は戦士だろう。

彼等の後ろを歩く四人は皆、女性だった。

人間とエルフが二人ずつ。

いや、エルフのうちの一人は微妙に違っていた。

人間とエルフ、両方の特徴が伺える。おそらくハーフエルフだろう。

彼等は北へ向かっていた。“霧の悪魔”と呼ばれる魔物を倒すために―――。

 

目的地は北。ニールとエルの話では“霧の悪魔”は北の森にいるという。

ただ森といっても大小問わなければ、数え切れない程点在している。

まぁ、“霧の悪魔”が生息しているなら居場所など妖気ですぐにわかるのだが。

私達は“霧の悪魔”を探すため道から逸れて森の中を歩いていた。

前を歩く戦士達が草木をかき分け、私達でも通れる道をつくる。

森の中では道がほとんどないので、少し広めにかき分けていた。

気を張り巡らし辺りを見渡す。

「……妖気は感じないわねぇ」

私は周りに集中しながら危険がないことを皆に伝えた。

“霧の悪魔”という悪魔によってニール達は仲間を失ってしまった。

この“平和の島”と呼ばれるライマー島に悪魔がいること自体珍しいのだが、彼等は運悪く遭遇してしまいパーティーは壊滅した。

幸いニールとエルの二人は命からがら逃げる事に成功し、仇討ちのために“夜の都”ルターズに仲間を探しに来たのだった。

そこで私達―私とドム―に出会い、さらに『求人募集作戦』のおかげで悪魔討伐の仲間を増やす事ができて今回の旅となったわけだ。

「……“霧の悪魔”は悪魔の中でも中級クラス。妖気を感じなくても油断は禁物よ」

みんなには前もって“霧の悪魔”について説明している。

その名の通り“霧の悪魔”は自身を霧に変える事ができる。

たちの悪い事に霧状になった“霧の悪魔”は妖気が弱く探知しにくかった。

しかもこのパーティーの中で“霧の悪魔”と戦った者がいない。私も過去に下級クラスの悪魔と戦っただけであまり詳しくなかった。

「―――マギーさんよぉ、このまま進んでいいのかい?」

ルターズの酒場“純真なる風来坊”で知り合った戦士・ガンツェルは、剣で目の前の草木を払いながら言った。

「この場所じゃ満足に剣が振れないぜ?」

たしかに草木が生い茂る森の中では敵と遭遇した際、戦闘に支障をきたす恐れがある。

だが他に情報がないのでニール達の証言―森で遭遇―をあてにするしかなかった。

ちなみに“純真なる風来坊”では戦士のガンツェルの他にリザードマンの戦士・ヘイグとハーフエルフの女僧侶・プラナ、神官戦士・メイユールが仲間になった。

その中でメイユールは『求人募集作戦』で私達の仲間に、ガンツェル達は“悪魔殺し”の称号目当てに一時的に仲間になってくれている。

つまり、このパーティーは“霧の悪魔”を倒すまでの即席パーティーと言えた。

息の合った連携が取れるかは微妙だが、ガンツェル達は冒険慣れしている様だし、メイユールは神官戦士だ。

ニールやエルは敗れたとはいえ“霧の悪魔”と戦っているし、ドムもどちらかと言えば強い部類に入る。

余程の事がなければあっさり全滅、という事態にはならないと思う。

「……大丈夫よ。“霧の悪魔”クラスの妖気なら、距離が離れてても感知できるから」

“霧の悪魔”は生命力を吸収するために霧状になるので、妖気の放出が大きく魔法を使わなくても容易に感知する事ができる。

よって、魔法の使い手が多いこのパーティーを“霧の悪魔”が奇襲する事はまずないと言っていい。

ただ問題はいつ現れるか。気の抜けない時間は続く。

 

悪魔退治の冒険に出て最初の夜。

警戒しながらの旅だったので、思ったより距離は進んでいなかった。

更地状態の場所を見つけた私達は枝を集め火を起こした。

森の中には獣がいる。獣避けのため絶えず火をつけておかなければならなかった。

「……今夜は出そうもないな。移動してるのか?」

携帯食を口にしながらガンツェルが話しかけてきた。

気の抜けない行軍により疲れてるのだろう。その表情は厳しかった。

「その可能性は高いわね。ひとつの場所に落ち着いてるとは思えないわ。餌を求めて森の中を徘徊してると思う」

私はみんなを囲む様に簡易結界をつくる添え木を地面に挿しながら答える。結界自体の効果は低いものの、魔の力を弱めてくれるので万が一戦闘になっても多少はダメージを軽減してくれるはず。

だが、その効果の割に手間がかかるので、こんな時でないとこの結界が使えないのが難点だ。

「……相手は悪魔、夜の方が出くわす確率が高いだろう。気を引き締めておかなければな……」

ドムはそう言って脇に置いた剣をいつでも抜ける様に手元へ寄せた。

ドワーフ族は疲れ知らずなのか、その表情に疲れは見えない。

逆に強敵との遭遇に気合い充分、といった感じである。

「……そうですね。俺達が遭遇したのも夜だった……」

以前“霧の悪魔”と戦ったニールは緊張した面持ちで辺りを見回す。

剣はいつでも抜ける様に腰に差している。前回の経験を生かしているのだろうか?

エルやメイユール、プラナもそれぞれの術を使い奇襲に備えている。

まだ初日だから万全の態勢で一夜を明かすつもりなのだろう。

……夜は闇の勢力に力を与える。

相手は“霧の悪魔”だ。

私達、人間や亜人族の様に光無き領域で力が衰える事はない。

気の抜けない夜はまだ始まったばかりだ……。

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