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第十五話『ルターズの冒険者達』


ニール達のパーティーを壊滅させた“霧の悪魔”を倒すため、仲間を求めて酒場へ来た私達。

幸いパーティー募集の求人募集の張り紙を各酒場に張り出していたので、酒場の主人に結果報告を聞いてまわるだけで済むのだが、そう簡単に仲間が見つかれば苦労などしなくていい。

つまり、結果は思わしくなかったわけで……。

「……やっぱり観光目当ての冒険者しかいないって事ね……」

テーブルを囲み食事をしながら辺りを見渡す。

冒険者ばかりが目に入る。

だが彼等はこの街に冒険に来たわけじゃない。

ライマー島最大の観光地である“夜の都”を楽しむために来ている。

いくら名誉ある“デビルバスター”の称号を得る機会があっても、観光に来てわざわざ危険を犯そうなんて思う者はいないって事。

見た目はなかなかの冒険者が揃っているだけに余計に歯がゆい思いに駆られる。

「……確かに、この街に来て危険を犯そうとする輩はいないな……」

酒場で馬鹿騒ぎしている冒険者達を一瞥して酒を飲むドム。

これでもか!というくらいに娯楽施設の揃った“夜の都”は冒険者の欲望を満たして止まない。

ここに来る冒険者達の大半は、日頃の危険を忘れるために娯楽に興じるのだから彼等を責める事はできないが……。

「……困りましたね?マーガレットさん、どうしましょうか?」

困り果てた表情でエルは冒険者達を見る。

意気込んで酒場に乗り込んだはいいものの、冒険者達のあきれる程の弾けっぷりに声を掛け損ねた私達は食事をしていた。

まだ一件目だし、ゆっくりまわっても特に問題は無い……いや、どこもこの酒場と同じだと思うとなかなか腰が浮かなかったのだ……。

この街には冒険者ギルドが無いので酒場しか仲間を仲介してくれる所が無い。よって今私達に出来る事は無い。

(……ラナン・ディンの話だと何件か冒険者の酒場がある、って聞いたんだけどなぁ……)

宿を出る時にラナン・ディンに『冒険したい人達が集まる酒場』を聞いてここに来たのだが……。

(……まさか、ガセ?いや、まだ何件かあるから根気良く探すしかないかぁ……)

この街は常時“夜”なので酒場の数が多い。店の閉まる時間がバラバラなので、それなりの店舗数がないと観光客が回転しないのだ。

だから店によって集まる客層が偏る、とラナン・ディンは言っていた。

(……ここにいる人達は明らかに観光目当てよね……)

一件目は、見事にハズレってわけだ。

「―――次はどの酒場に行こうか?」

賑やかな雰囲気が落ち着かないのか、ニールは料理に手を付けずにそわそわしていた。焦っているのだろうか?

「ニール、焦っても仲間は見つからないわ。少し落ち着いて……」

そう言って端から見ていて焦りまくっているニールの手を優しく握るエル。

ニールはその優しさに落ち着きを取り戻したのか、エルに微笑みかけると料理に手を付け始めた。

 

「―――さて、飯も食ったし次の酒場へ行くか」

グラスに残った酒を飲み干し、ドムは立ち上がった。

いつまでも酒場でまったりしてるわけにはいかない。

私達はカウンターでコップを磨くマスターに挨拶して次の酒場へ向かった……。

次に訪れた酒場は“純真なる風来坊”という一見すると意味不明な名前の酒場だった。

中に入ると数えるくらいしか客がいなかった。

カウンターにはコップを磨くマスターとトロールの男女が一人ずつ、入り口から見て左奥のテーブルには人間の女性が一人、その反対側のテーブルには人間の男性とリザードマンの男性?、それにエルフ……いや、雰囲気からしてハーフエルフかな?の女性がいるだけだった。

ただ、他の酒場にいる冒険者達とは明らかに雰囲気が違った。

(……当たり、かな?)

身にまとったオーラの違いを感じる。

妙に緊迫感がある冒険者独特の雰囲気。

私達が店に入った途端、店内の視線が一斉に集まった。

その中でマスターは私の姿を確認すると手招きしてきた……。

「―――いいところに来たな。そこに求人募集を見て来た冒険者がいるぞ」

マスターは声を掛け人間の女性を指さした。

その声に反応した女性が私に頭を下げてくる。

私は初めて『求人募集作戦』が成功した事に内心狂喜乱舞した。

「―――はじめまして、私がマーガレット・メロウスイートです」

足早に女性のいるテーブルへ行き挨拶をする私。喜びが隠しきれない。自然に笑顔になっていた。

「……はじめまして、私はメイユール。マイア神殿に仕える神官戦士です」

メイユールと名乗った女性は丁寧に頭を下げてきた。

格好は戦士のそれだが、神に仕える身だからか、後ろの壁に立て掛けられた武器は棒の様な形状をしていた。

(変な武器ね?あんなんで戦えるのかしら?)

初めて見る武器に私は一瞬不安になった。

私は戦士ではないので武器の種類がどれだけあるのかも、どの武器がどういう効果があるのかも知らないけど、その棒状の武器はとても殺傷力があるとは思えなかった。

(……まぁ、見た目で判断しちゃいけないよね……)

神官戦士というくらいだから神聖魔法の使い手だし、戒律によって携帯できる武器に制限があるかもしれない。

本来、神官戦士といわれる者は冒険者になったりしないし、彼等の装備なんて理解できるわけもない。

「……マーガレットさん?いかがなさいました?」

「えっ?」

不意に声を掛けられ、私は我に返る。

悪い癖が出た、わからない事に出くわすとつい考え込んでしまう。

まだ仲間の自己紹介も済んでないのに……私は内心反省しつつ、メイユールに仲間を紹介した。

「よろしくお願いします」

みんなにも丁寧に頭を下げて挨拶をする。やはり神に仕える者は礼儀正しい。

私はさっそく彼女にこれからの冒険について話を切り出した。

「……というわけなの。メイユール、協力してくれる?」

メイユールは“霧の悪魔”の話を静かに聞いていた。

時折、眉をひそめたり目を見開いたりしていたが恐れている風には見えなかった。

一通り話し終わるとメイユールは天に召されたニールの仲間達の冥福を祈った。

「―――もちろん協力いたしますわ。いかなる悪も見過ごす事はできません」

祈りをすませたメイユールは静かに、だが力強い口調で答える。

「……ありがとうございます」

ニールとエルはメイユールに握手して感謝の言葉を掛けた。神聖魔法の使い手が仲間になった事に素直に喜んでいる。

今回の冒険は彼等の仲間の仇討ちなのだからその喜びは大きかった。

「―――その話、俺達にも噛ませてもらえないか?」

背後から声が掛かる。

振り向くとメイユールの反対側にいた三人組の一人、人間の男が立っていた。

「俺達もその悪魔退治に加えてくれよ?」

男は不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

「―――盗み聞きしてすまないが、君達だけでは心許ないだろう?俺達もそろそろ冒険に出ようと思ってたところだし“悪魔殺し”の称号が得られるなら、危険を侵す価値はありそうだ。魔法も使えるし、腕も立つ。我々を仲間に加えてはどうだろうか?」

男はそう言って仲間を指さし自分達を売り込んできた。

男は戦士で魔法も多少使えるという。

リザードマンの男は怪力の持ち主で魔法剣を振るう戦士だしハーフエルフの女性は僧侶だという。

“霧の悪魔”と戦うにこれだけの人材が集まれば、たしかに戦闘を有利に進められるだろう。

私はニールとエルの顔を見た。

決めるのは彼等だ。彼等は私の視線に気付くと小さく頷いた。

「……わかったわ。でも、私達は報酬は出せないの。それでもいいかしら?」

私は男達の顔を見回す。

相手は冒険者、無報酬で雇われる可能性は低い。

しかし“悪魔殺し”の称号に惹かれた様なので期待出来そうだった。

「―――ああ、いいぜ。金には困ってないからな。称号目当てだから別にかまわないよ」

男は手を差し出してきた。

(……交渉成立ね)

その手を握り返す。交渉成立だ。

これで戦力的な問題は解決した。あとは作戦を立てて“悪魔”の住処に乗り込むだけだ。

 

首尾よく仲間を見つけた私達は、この場は一旦解散して後日この酒場に集まる事にした。

いろいろ準備しなければならないのですぐには出発できないからだ。

装備もそうだが、対悪魔戦の戦術を考えなければならない。

特に魔法の使い方ひとつで戦闘内容が大きく変わる。

同じ宿に住む私とエル、それにまだ宿を決めてなかったメイユールは魔法の連携について時間をかけて話し合った。

それでも万全とは言えない。

……星が瞬く夜の都。

旅立ち前の私達を喧噪が包む。高鳴る鼓動を抑え、出発の“朝”を迎える……。

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