第十四話『作戦会議?』
“悪魔退治”……まさか、この島で悪魔討伐をしようとは……。
エル達と一旦別れて部屋に戻った私は、悪魔に関する資料がないか調べた。
一言で悪魔といっても、その強さは様々だ。
まぁ、冒険者の手に余るのがほとんどなんだけど。
エル達の話では冒険者パーティーを全滅させるだけの力を持っているとの事。
つまり、今の戦力では到底かなわぬと言えよう。
(……前線で戦う戦士は少なくとも五人は欲しい。
魔法の使い手だってあと二、三人いなければ……)
私は頭が痛くなってきた。
せめてエル達が遭遇した悪魔の種類でもわかれば、もうちょっと対策も練れるのが……。
下級悪魔なら必ず何かしらの弱点があるので遭遇してからでも対応できる。
だが、それ以上の悪魔だった場合は前もって充分な対策を練って挑まなければ手痛いしっぺ返し―平たく言えば全滅―という結果につながる。
私は過去に悪魔狩りに同行した事があるが、その時は歴戦の冒険者達にしっかり守られながら戦ったのだ。
その時ですら充分対策を練って作戦にあたったのだから、今回の悪魔討伐は無謀という以外表現できない。
(……ラナン・ディンに、頼ってみようかなぁ……)
リリトさんいわく『馬鹿だが使える男』というくらいだから、何かしらの情報が得られるかもしれない。
私は意を決してラナン・ディンの元へ向った……。
「―――酒場に手配しておこう。それで良いかな?エルフの魔女よ」
ラナン・ディンはさも興味無さげにそう言うと読みかけの本に目を移した。
「……ありがとう。でも、悪魔退治の報酬は出せないの。集まってくれるかなぁ?」
果たして報酬無しで危険な戦いに臨む者がいるだろうか?たしかに悪魔殺し“デビルバスター”の称号は名誉だ。
しかし、観光目当ての冒険者が多いこの街で危険を侵して名誉を得ようとする者がいるとは正直思えない。私はあまり期待できそうもない気がしてならなかった。
ラナン・ディンにお礼を言ってサロンへ寄るとエル達が話していた。二人は神妙な顔で口論している。
「―――ニール、もっと冷静になって」
「俺は冷静だよ。エル、君は仲間の仇を討ちたくないのかい?」
「……何を言ってるの?私は時期尚早と言ってるのよ。たった四人であの悪魔は倒せないでしょ?私達の都合でマーガレットさん達に迷惑はかけられないわ」
エルとニールは私に気付かないほど熱い討論を繰り広げている。
「―――だが他にあてになる者なんていないじゃないか!エル、俺達にそれだけの余裕はないんだよ?だから今の戦力で戦うしかないんだよ!」
ニールはテーブルを強く叩き声を荒げた。
「無謀だわ!」
エルも負けじと反論する。
(……二人で決めない、決めない)
私は二人のところへ行くとテーブルを思いきり強く叩いた。
二人は不意を突かれた格好で私の方に振り返った。
「はい、そこまで。ラナン・ディンに無報酬で悪魔と戦う冒険者を探す様に頼んだから、痴話喧嘩は結果が出た後でやってちょうだい」
私の言葉にきょとんとした顔をする二人。どうやら理解できたみたい。
「……ニール、あなたの気持ちはわかるわ。でも、無駄に命を散らす事はないと思う。今は喧嘩してる場合じゃないの。少しでも対策を練らないと無駄死によ?」
ニールは言い返す言葉が見つからずに低く唸るだけだった。
熱くなっては作戦なんて立てられないのだ。
「……しかし、どうやってあの悪魔と戦えばいいんだ?……剣では傷付かないし、魔法もたいして効果が無い……」
ニールはうなだれる様に頭を抱える。エルも俯き加減に頷くだけだった。
「なんですって?」
(……魔法しか効かない悪魔って……もしかして、あの……)
私はゾッとした。血の気が引いていくのを感じる。
私は知っている。
おそらく、それは俗にいう“霧の悪魔”と呼ばれる悪魔ではないだろうか。
「……その悪魔って、霧状になって斬撃をかわしたりしない?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「え?そ、そうだけど……マーガレットさん、その悪魔を知ってるの?」
エルは驚きの表情で聞いてくる。私は、静かに頷いた。
“霧の悪魔”……ミストデーモンとも呼ばれるこの悪魔は、己の肉体を霧に変えて斬撃をかわし、その霧で敵を包み込み生命力を吸収するという恐ろしい能力を持っている。
しかも魔法に対する耐性も強く、生半可な魔法ではとても致命傷を与える事はできない。
吸収の能力があるので短期決戦で臨まないと倒しきる事ができない中級クラスの悪魔である。
少なくとも四人ではまず勝ち目がない。
実体があって無い存在、それが今回の相手なのだ。
私は思わず天を仰いだ。
「―――無理!あなた達が相手したのは“霧の悪魔”という凶悪な悪魔よ。魔法の使い手が足りないわ。四人で行ったら無駄死によ」
私はきっぱりと言い切った。二人は苦渋の表情に変わる。
「……はっきり言ってあなた達が生きていられたのは奇跡ね。エルの魔法が偶然“霧の悪魔”を怯ませなかったら、今頃あなた達は悪魔の胃袋の中よ」
二人が生きているのは奇跡に他ならない。
悪魔との遭遇はまさに生か死の二つに一つなのだ。
「……剣の通じない相手ではドムやニールは盾にしかならないわ。倒すなら魔法の使い手を探さないと……」
私は誰に言うでもなく呟いた。
私の魔法力では“霧の悪魔”に致命傷を与える事はできない。
ドムとニールの剣に魔力付加の魔法をかけても威力が弱いので結局二人の技量次第。
冷静に考えて“霧の悪魔”の特殊能力を防ぎつつダメージを与えるのは至難の技だろう。
悪魔戦において一番頼りになる神聖魔法の使い手エルの魔法力だが、これもあまり期待できないと思う。
もし通用したとしても倒しきるには決定力に欠ける。
つまり今の戦力ではとても太刀打ちできる相手では無いのだ。
やはり魔法の使い手を仲間にして戦うしか方法は無い。
私は二人にその事を伝える。
私が以前悪魔と戦った経験がある事を告げると素直に耳を傾けてくれた。
ドムにも話をしなければ。私はまだ夢の中にいるドムを起こしに部屋に戻った。
「ふむ、“霧の悪魔”か……マーガレットの魔法で剣に魔力を宿してもらっても、苦戦は免れないな……」
ドムは剣の通じない相手だと知り低く唸った。
「……仲間を募るしかあるまい。それも魔法の使い手でないといけないな……」
「そうね。魔法の……できれば神聖魔法の使い手があと一人でもいればねぇ……」
サロンに集まり対策を検討する四人。
そもそも検討も何も戦力が足りないので愚痴にしかならない。
酒場に求人募集の張り紙をしているので、今の時点では神聖魔法の使い手が来てくれるのを期待するしかなかった。
ラナン・ディンにも頼んでいるが未だに返事がないので期待薄だろう……。
「このままサロンに居てもラチが開かない……」
聞きに徹していたニールが口を開く。
「……酒場に行って仲間を募ろう」
「そうしましょう。直接交渉した方が早いですね……」
エルはニールの言葉に頷き立ち上がる。
このままサロンに居てもしょうがない。私達は宿を出て酒場で仲間を募る事にした……。