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第十二話『夜の都』


ある事情により、故郷を捨ててライマー島へ来た私達。

未知なる島での冒険に胸踊らせ、旅の仲間を募るも“平和の島”と呼ばれるこの島ではなかなか共に旅する者は見つからず、仲間を探すためにライマー島最大の観光地“夜の都ルターズ”へ行く事にした。

道中、奴隷商人に連れ去られた少年・ミッシェルと出会い、話の流れでその奴隷商人を成敗する事になった私達。

中央都市ケールでその奴隷商人を追跡していたリンデン大陸の戦士達の協力もあり無事に悪者退治を終えたのだが、その後に衝撃的な事件が起こってしまった……。

それは、親友でもあり仲間でもあったコンスタンスがミッシェルといい仲になり、冒険をやめたいと言ってきたのだ!

私は複雑な気持ちになった。

しかし、彼女は私のために故郷を捨てて来てくれた。そんな彼女に危険な旅はさせられない。

私は悩んだ末に、その決意を聞き入れる事にした……。

 

中央都市ケールを離れた私達は、当初の目的地である“夜の都ルターズ”へ向かった。

コンスタンスはミッシェル達と共にこの島唯一の港町ローカスへ。

仲間は私とドムの二人だけになった。いくら“平和の島”といっても、まったく平和というわけではない。

二人だけでは危険もあるだろう、とリンデンの戦士リリトがルターズまで同行してくれる事になった。

旅はスムーズに進んだ。

ライマー島北西部には“夜の領域”と呼ばれる年中、闇に包まれた特殊な結界があり、魔物達の領域になっていたため野盗の類が近付かなかったからだ。

この領域に住む魔物達は、人間達相手に商売をしているので私達の様な亜人や人間達に敵意はなかった。

夜の都。ルターズはその名にふさわしいきらびやかな光に照らされた夜の街だった……。

 

ルターズにある酒場兼宿屋“ラナン・ディンの遊び場”という酒場で私達は宿をとる事になった。

なんでも、この酒場の主人ラナン・ディンはリリトの古い友人であり、リリトの知り合いである私達を無料で泊めてくれるというのだ。

ラナン・ディンはルターズでは珍しい人間の店主だった。

冒険者を引退した彼は、冒険で得た莫大な財産を散財するためにこの酒場を道楽で経営しているという。贅沢な話だ。

宿を得た私達は、ルターズ最大の観光スポットでもある“ヘヴンズ・ドア”という店に足を運んだ。

そこは巨大な建物だった。

広いフロアにはいくつものステージがあり、劇をしているステージ、サーカスの公演をしているステージなど、五つのステージのある途方もないスケールの店だった。

この広さはもともと城の跡地だったためらしい。

劇をしているスペースでテーブルを囲む私達。

「……人が数え切れないほどいるわね……」

私はこれほどの娯楽施設を見た事がなかったので驚くばかりだった。

「……この店を目当てにライマー島へ渡って来るのも頷けるわ……」

人が考え得る娯楽を集めたこの店には、多くの人を引きつけるものを感じる。

ここなら、仲間が見つかるかもしれない。

「……リリトさん、ありがとう。おかげで仲間を見つけられそうだわ」

任務の途中でわざわざ私達に付き合ってくれたリリトに感謝の言葉をかける。

リリトはドムと酒を酌み交わし、戦闘の話で盛り上がっていた。

「気にするでないぞよ?わらわ達は結果的にお主達から仲間を奪ってしまったのだから、ついていくのは当然である」

リリトは満面の笑みを浮かべ、酒を口にする。

「……ラナン・ディンは馬鹿だが使える男じゃ。奴に聞けば仲間はすぐに見つけられるじゃろう……」

リリトはそう言って私に酌をする。グラスいっぱいに酒を注ぐと飲め飲めと手で飲む仕草をしてくる。

私は酒を口にして周りを見渡す。

(……期待してもいいのかな?)

この都なら、きっと仲間が見つけられる?私はそんな淡い期待を胸に今宵の宴を楽しむ事にした。

 

その頃。

“ラナン・ディンの遊び場”に二人の冒険者がやって来た。

一人は、薄汚れたプレートメイルを身に着けた戦士。

短く切りそろえられた黄金色の髪が特徴の青年だ。

もう一人は緑色のローブを身にまとった僧侶。青い長髪の美少女。二人とも人間だった。

「……主人、宿をとりたい。部屋は空いてるかい?」

青年は受付で本を読むラナン・ディンに声を掛けた。

「……いらっしゃい、相部屋でよければ空いてるよ」

ラナン・ディンは読みかけの本を閉じて席を立つと二人を部屋に案内した。

「……金は出る時にいただくよ?料金は……今サービス期間中だから一泊10ゴールドでいいよ」

ラナン・ディンの言葉に二人は驚いた。

何故なら、彼の提示した額がルターズにおける通常の価格の半分に満たなかったからだ。

「……そんなに安いのか?ありがたい……では、失礼します」

二人はラナン・ディンに頭を下げると部屋の中へ入っていった。

相部屋というから小さい部屋だと思ったら、なかなかの広さだった。

二人は荷物を置き、戦闘用装備から私服に着替える。

「……ねぇ、ニール。ここなら新しい仲間、見つけられるかな?」

ソファーに座り櫛で髪をとかしながら鎧を磨く青年に声を掛ける。

「……どうだろうな?そればかりは酒場に行ってみないとわからないよ?」

ニールは鎧についた旅の汚れを綺麗に拭き取る。

所々に傷がついて痛んでいる。

かなりの修羅場をくぐり抜けて来たのだろう。

その傷跡がこれまでの戦いを物語っている様に見て取れた。

「……ここに来るまでにかなり魔法力を使っているはず。まずは体力を回復させよう……」

ニールは少女の疲労を考慮して休息を優先させる事にした。

表情には出さないが、精神的にかなりの疲労があるはず。

ここに来るまでに魔法の使用回数が多かったから、ゆっくり休ませないといけないとニールは思った。

「……仲間は後で探そうよ?無理をしてエルに倒れられたら、俺はメイファさんに顔向けできないよ……」

ニールは鎧を壁際に並べて、今度は剣を手にする。エルはニールの優しさに頷き、静かに微笑んで見せる。

「……わかったわ。まずは休みましょう」

二人はしばし冒険を忘れ、休息に専念する事にした。

……ニールとエルの二人は、仲間を探しにルターズへやって来た。

前の冒険でパーティーは壊滅、ニールとエルの二人だけが命からがら逃げ出す事ができた。

ライマー島北東部に位置するマイア神殿を目指していたニール達一行。

その旅の途中、森に迷い込んだニール達はこの島にいるはずのない“悪魔”と遭遇してしまったのだ。

何故この島に現れたかはわからなかったが、ニール達は全力で戦い“悪魔”を魔界へと追い払おうとした。

しかし、力及ばず仲間達は“悪魔”によって命を奪われた。

エルの神聖魔法が偶然“悪魔”を怯ませなかったら、二人もこの世にいなかっただろう。

二人はマイア神殿に駆け込み“悪魔”の出現を報告すると、仲間の仇討ちをするべく多くの冒険者が集まる“夜の都”ルターズへと二人きりで旅して来たのだった……。

 

眠る事の無いこの都に、今日もまた多くの冒険者が訪れる。

様々な理由で人々は集う。それはまるで、何者かに導かれる様にも見える……。

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