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第十一話『切ない夜』


……冒険者は、己の目的のために旅を続ける。

そのため、多くの人と出会い、そして別れる。

冒険者にとって、出会いは束の間のものでしかない。

だから、本当に心許せる者は共に旅する仲間しかいない。

……今、私は別れの時を迎えている。

その相手はコンスタンス。

大陸にいた時から、いや、魔術学院にいた頃からの親友だった。

忌まわしき戦争により“反逆者”の汚名を着せられ、大陸にいられなくなった私を助け、共にこの島へ来てくれたコンスタンス。彼女だけはずっと一緒だと信じていた。

しかし、彼女は冒険をやめる決意を固めた。

ミッシェルと共にリンデン大陸に渡るというのだ……。

 

……その理由は至って単純なものだった。

どうやら、コンスタンスは本気でミッシェルに恋していたのだ。

最初、私はその恋は一時的なものだとたかをくくっていた。

しかし、彼女は私達から離れる決断を下したのだ。

私達に、彼女を止める権利はない。

コンスタンスは、危険を承知で私と共に故郷を捨てた。

そんな彼女に、これ以上危険な旅をさせるわけにもいかない。

冷静に考えれば、わかりきった答え。それでも、私の気持ちは複雑なものだった。

「……ふぅ」

酒場でリリト達と食事をした後にコンスタンスに呼び出され、決意を聞いてから私はため息ばかりついている。

「……ふぅ」

心が痛い。私の中でコンスタンスの存在は、思った以上に大きなものだったのだ。

「……ふぅ」

こんな気持ちで眠れるわけもなく、私は宿屋の裏手にある丘で夜空を眺めていた。

(……ミッシェルと知り合って間もないのに……)

いや、愛に時間など関係ないか。

私は必死にコンスタンスを引き止めようと考えを巡らしている。

(……何のため?彼女のため?いや、自分のため、よね……離れたくないって思ってるだけだわ……)

普通なら、ここは大人らしく笑顔で見送るのが本当の友なのだろう。

彼女の幸せを考えれば、私だって笑顔で見送りたい。

しかし、その思いと違った気持ちも心の中にあって、素直に別れを受け入れられない自分もいるのだ。

 

……夜空には星が瞬いている。

その眺めを美しいと思う心のゆとりもない。

「……ふぅ」

何度目かのため息。私は寝っ転がり、意味もなく星を数えた。

冒険者は、長い旅の中で出会いと別れを繰り返す。

その出会いは、この星達の様に一時だけ心を満たしてくれるものだと思っていた。

だから、まさかコンスタンスが私達から離れるなんて……その事を想像すらしていなかった私にとって、彼女のその決断が心に深々と突き刺さっていた。

「……なんだ、こんなところにいたのか?」

聞き慣れた声が、上の方から聞こえてきた。

「……寝れんのか?」

寝っ転がって夜空を見上げる私の上にドムの顔が現れた。

(……あれだけ飲んで、よく起きてられるわね……)

私を見るドムの顔は少しも変わっていなかった。

先程、酒場で小さいながらも酒を酒樽ごと豪快に飲み干したのに、である。

ドムは私の隣に座った。

「……コンスタンスの事か?」

ドムも私と一緒にコンスタンスの決意を聞かされている。

彼もまた、意外そうな表情で彼女の言葉を聞いていた。

「……俺には、お前にかけてやれる言葉は見つけられん……まぁ、お前の事だから心配はしとらんぞ」

相変わらず無愛想な口調だ。

でも、心配してくれている。ちょっと癒された気分になった。

「……心配しなくてもいいわよ、わかってるから。ただ、まだ割り切れないでいるだけよ……」

「……旅に別れはつきもの。仕方の無い事だな……」

私は黙って頷いた。別れ自体は、仕方の無い事だと思う。

コンスタンスの性格を考えればその決断を下すのも辛かったはずだし、彼女の幸せを思えば私達から離れた方がいいに決まっている。

理屈ではわかっていても、胸のモヤモヤは消えない。

「……コンスタンスが本気なら、私には止められないよね……」

たぶん、仲間を失うというよりも親友が離れていくというのが寂しいだけなんだ。

自分のわがままで彼女を困らせたくない。

「……ごめんね、ドム。私が一番彼女を祝福しなきゃならないのにね……」

コンスタンスが自ら選んだ選択だ。

恋を選んだ彼女と、旅を選んだ私達は別れるしかないのだ。

ならば、せめて彼女の幸せを祈り、笑顔で送り出してあげなければ。

コンスタンスはこれから新たなる旅立ちに出るのだから……。

「……まぁ、仲間が減るのは正直痛いが、別れがあればまた出会いもあるものだ……」

ドムは空を見上げる。

「……それこそ、この星の数ほどにな……だから、くよくよするな?夜も遅いし、もう寝ろ」

ドムはそう言うと立ち上がり、私の腕を引っ張り起きあがらせた。

慰めるのが苦手なのだろう。

かける言葉が見つからなくなったドムは、私を宿まで連れ帰るとさっさとベッドに潜り込んだ。

(……ドムも意外に優しいのね……)

ドムの不器用な優しさが心に染みる。

私はその好意を受け入れて眠る事にした。

 

……相変わらず寝相の悪いドム。今度は私を抱き枕と勘違いしている。

抱かれた格好の私は身動きが取れなかった。

しかも全体的に身長の低いドワーフ族のドムの顔は、私の胸の位置にあったのでくすぐったくて仕方無い。

(……いくらなんでも、これはまずいわ……)

寝間着の胸元がはだけていたため、ドムの顔が直接胸に当たっている。

がっちりと抱かれているため動けないし、声を出せば皆部屋に来るだろう。

さすがにこの状況を見られたら誤解される。

特に、コンスタンスとミッシェルに見られでもしたら……。

(……まいったわね……)

そんな私とは裏腹に気持ち良さそうに寝ているドム。毎度毎度私の体を枕にするなんて、本当にその気がないのだろうか?

なんだか、わざとしている様な気がしてならない。

(……まぁ、いいわ。

毎回叩き起こすのもなんだし、今日はこのまま起きるまで待とう……)

昨晩の事もあったし、私は今回だけはその行為を許そうと思い、再び眠りについた。

彼もまた、大切な仲間だしね。

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