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第九話『裁きの夜・前編』


襲撃決行当夜。

ドムにリリト、彼女の仲間である戦士のアリスと私の四人はアトラの屋敷の前にいた。

表門の奥には多くの護衛がいる。

時間が経ったためか、ケールの街ではアトラの屋敷に乗り込む話が密かに広まっていたのだ。

しかし、街の人達の反応は歓迎しているみたいで、しかもケールの自治警護団もこの襲撃を黙認している。よっぽどアトラの評判は悪い様だ。

そのおかげで武装した私達は、アトラの屋敷の前まで誰にも咎められる事無く辿り着けた。

「……リリトとアリスが先陣を切り、ドムと私がその後に続き屋敷へ潜入……リリト達はローエンを、私達はアトラをそれぞれ成敗する、と……」

本来、ローエンとアトラは私達で成敗する予定だったが、リリト達の任務がローエンの処刑なので私達はアトラの成敗に専念する事になった。

「……それでは、わらわ達は先に行く……ところで、お主は血が多い方と少ない方、どちらが良い?」

リリトは刀を抜き、刃先を見ながら私に問い掛けた。

「……えっ?」

「……意味がわからなかったかえ?……では、死ぬ者が多いのと少ないのでは、どっちが良い?好きに選ぶが良い」

余程、自分の腕に自信があるのか?戦い方を選ばせるなんて……もちろん、死ぬ人は少ない方がいいに決まってる。

「……少ない方でお願いします」

私は余裕の表情でたたずむリリトを見た。

彼女は私の言葉に頷き刀の刃を返す。

「お主、人が良いな?……アリス、峰打ちでゆくぞ」

「……はい」

アリスも刀の刃を返す。

そして、二人は静かに屋敷へ走り出す。門番を一瞬で倒し、そのまま中へ消えてゆく。

私とドムもその後に続いて走った……。

 

門を抜け屋敷の敷地に入ると、二人は次々と敵に斬りかかっていた。

彼女達が一振りするごとに敵は声も無く倒れる。

まるで、無抵抗の人を相手にするが如く斬りまくっている……そう見えるのは、戦力に差があり過ぎるからだろう。

よっぽど恐ろしかったのか、それともアトラの人望が無かったからか、二人の圧倒的な強さに護衛達は次々と門から逃げて行く。

私とドムが屋敷の入り口に着いた頃には、戦える護衛は一人もいなかった。

リリトは汗ひとつかいておらず、何事も無かった様にアリスに指示を出す。

「……アリス、後は任せたぞ。わらわは屋敷内へ進入する……ローエンが来たら、逃すでないぞ」

そう言って、リリトは着物に返り血がかかっていない事を確認して私達の方に振り向いた。

「……屋敷内にはまだ敵もおろう。油断するでないぞ?」

 

アトラの屋敷は、自分の財力をひけらすために造りが単調だった。大きなフロアには豪華な調度品が所々に置かれており、壁のいたる所に華やかな絵画が飾られている。

フロアの奥の方には二階へ続く広い階段があり幅もあるため、まさに攻めに易く守り難い造りになっていた。

階段を駆け上がり二階へ出るとこれまた廊下が広い。

そこで三人の護衛と遭遇した。

「うおぉぉっっ!!」

ドムは気合いの雄叫びを上げて突っ込んでいく!

護衛の戦士も剣を構えて迎え撃つ。

だが、ドワーフの突撃はなかなか防げるものではない。

ドムは敵の剣を弾き飛ばし、返す剣で胴を払った。

その一撃は鎧に阻まれ斬る事はできなかったが剣の勢いは止まらず、そのまま振り抜くと護衛は吹き飛ばされ、前のめりに倒れ込んだ。

鎧は剣の形にへこんでいる。衝撃だけでもかなりのダメージを受けただろう。

残る二人の戦士はリリトに斬りかかっていた。

しかし、ひらひらと舞う様にかわすと二人の側頭部を打ち、難なくと気絶させる。

(……あっけないわね……)

援護する間も無く、あっけなく戦闘は終わった。

ドムとリリトは、ゆっくりと廊下を歩き出す。

両端にある部屋からの奇襲を警戒し、武器を持ったまま廊下の真ん中を歩いていた。

「マーガレット、少し下がっていろ……殺気がみなぎっている!」

ドムは、私に注意を促すと一歩前に出る。

「……バレてるぞ。出て来たらどうだ?」

その声に反応して右前方の扉が開く。そして、中から黒装束の男が出て来た。

「…………。」

黒装束の男は無言のまま剣を抜く。

(……護衛の戦士達とは“格”が違うってわけね……)

黒装束の男からは、滲み出る殺意というか、重厚な威圧感が全身から漂っていた。

もし突然私の目の前に現れたら、おそらく身動きが取れなくなっただろう。それくらいの威圧感があった。

ドムは剣を構えると、まだ構えも見せない黒装束の男に向かって突撃した。

「どらぁぁぁっっっ!!!!」

ドムの渾身の一撃が振り降ろされる!

黒装束の男はその剣筋を見切り、左に少し避けると剣を横にないだ。

ドムはドワーフとは思えない反応で体を捻った。辛うじて鎧で剣を受ける。

「ぐっ!!」

それでも無事では済まされない。

わずかだが、脇腹を斬られたようだ。鎧から血が流れる。

黒装束の男は続けざまに剣を振る。ドムは必死に避けて体勢を整えた。

二人の戦いを黙って見ていたリリトは、私の方へ歩み寄るとローブの裾を引っ張った。

「……ここはドム殿に任せようぞ。わらわ達は先にゆくぞえ」

「……ドムを置いていくの?」

剣の素人である私から見ても、戦況は少し不利だと思った。

ここは二人で援護して戦った方がいいはず。

「……そうじゃ。ドム殿の背中が助力を拒んでおる。わらわ達がこの場にいても、戦いの邪魔になるだけじゃぞ?」

そう言うとリリトは私の手を取り、ドムと黒装束の男の横を駆け抜ける。

「……通さぬ!」

黒装束の男は攻撃を止め、ドムから一歩離れると走る私に向けて剣を振り降ろした!

「させるかっ!」

ドムは黒装束の男に突撃する。

その攻撃に意識がいったため、私はなんとか黒装束の男の一撃をかわし走り抜ける事に成功した……。

 

マーガレットとリリトが先に行ったのを確認すると、ドムは再び剣を構え間合いを詰めていく。

「……貴様、只者ではないな?」

ドムは目の前の男と剣を交え、その技量を悟った。

この男は自分より強い。この男に勝てたら、俺は今よりもっと強い戦士になれる……。

その機会に巡り会えた事に、ドムは笑みを浮かべた。

「……貴様の様な強者に会えた事を神に感謝しよう……」

ドムは剣を振り被った。

黒装束の男はその構えを見て、剣を横に寝かせ後ろに重心をかける。

ドムは一撃必殺の構えを、黒装束の男はカウンター狙いの構えの様だ。

「……俺の名はドム。貴様の名は?」

ドムは半歩前へ出る。脇腹から血が流れ、鎧を赤く染めていた。

「……俺か?俺はレヴィン。闇に生きる者だ……」

黒装束の男はレヴィンと名乗った。

「……お前はすでに手負い。俺には勝てんぞ」

そう言ってレヴィンは地を蹴った!

「どらぁぁぁっっっ!!!」

ドムも突撃する!二人は激しくぶつかり合う。

互いの一撃は鎧の補強された部分に命中していた。偶然か、それとも無意識に反応したのか?補強部分が壊れただけで致命傷にはなっていない。

「……運のいい奴!だが、力だけでは俺には勝てぬ!」

レヴィンの連撃がドムを襲う。

流れる様な鋭い太刀捌きにドムは防戦一方になる。

かわしきれずに鎧には傷が増えていく。致命傷を防ぐので精一杯だった。

しかし、それも長くは続かなかった。

レヴィンの一撃がドムの左腕の小手に直撃した!その衝撃で小手は壊れ、乾いた音を立てて床を転がる。

ドムは後ろに跳び間合いを取り左手を振った。

(……大丈夫だ、まだ剣は持てる……だが、速くて打ち合いになったら分が悪いな……)

ドムは剣を持ち直すと低く腰を落とした。

人間の胸元くらいの高さしかないドワーフが腰を落とせば急所はカバーできる。

スピードは落ちるが防御しやすい構えであると言えよう。

手数では勝てないので力を溜めての一撃狙いだ。

「……一撃狙いか?今度は外さぬぞ……」

レヴィンはドムの狙いを読み、剣を少し短く持ち直した。

……戦闘経験によりレヴィンは細かく攻める事を選んだのだ。

より速く、より確実にダメージを与える。

必殺の一撃を放つのは相手の動きを完全に止めてからで充分だ。

じりじりと間合いを詰めるレヴィン。対してドムは力を溜め待ちかまえる。二人は互いに間合いを計りながら相手の出方を待つ。

(……相討ち覚悟か……)

レヴィンはドムの放つ気合いに気持ちを引き締めた。

時に、覚悟を決めた者は自分の実力以上の力を発揮する。

レヴィンは柄を握る手に力を込めた。

(……まさか、中央からは来るまい。左右のどちらかだ……)

何度も突撃を防いでいる。

今度こそフェイントを使ってくるはず。

その一撃をかわせば俺の勝ちだ。

そう考えたレヴィンは、ドムに向かってまっすぐに突っ込んでいった。

同じタイミングでドムも大きく剣を振り被る……。

「おおぉぉぉぉっっっっ!!!!」

ドムは躊躇せずにまっすぐに剣を振り降ろした!

(……なんだと!?)

予測もしなかった攻撃に一瞬、回避反応が遅れた。

とっさに攻撃を止め、後ろに跳ぶがドムの剣が胸元を斬り裂く……。

鎧ごと胸元を斬られ、血で赤く染まる。

だが、その量に比べドムの剣先には血があまりついていない。

(……踏み込みが甘かったか……)

ドムの一撃は、致命傷とまではいかなかった。

内蔵まで剣は達してなく、肉だけを斬ったかたちだった。

しかし、勝負は決まっていた。

膝をつき胸元を押さえるレヴィン。すでに戦闘できる状態ではなかったのだ。

「……まだ、勝負は決まってないぞ……」

剣を杖代わりに体を支える。しかし、立ち上がる事はできなかった。

「……無駄に死ぬ事はない。お前が一撃勝負に応じてくれなければ、俺は勝てなかった……」

ドムは床に落ちてた小手を拾った。

「……自分の戦い方をすれば、苦もなく勝てただろう?何故、俺に合わせたのだ?」

ドムは少し不満気な表情で問いかけた。

実力を出し切っても届かぬかも、と思っていた強者にしてはあまりにもあっけない幕切れ。

まるで手加減されたかの様な勝利に、ドムは素直に喜ぶ事はできなかった。煮えきらない気持ちだけが胸に残る。

ドムはレヴィンの言葉を待った。

「……俺の判断ミスだ……それ以上でも、それ以下でもない……お前が正面からくる事を見抜けなかっただけだ……早くとどめを刺して、仲間を追ったらいい……」

レヴィンは、それだけを言うと黙り込んだ。

敗者には死を。戦いの鉄則だ。

だがドムはレヴィンの横を素通りしていく。

「……この勝負はお預けだ」

(……この勝利は、本当の勝利ではない……俺もまだまだだな……)

ドムは心の中で呟くと、そのまま振り返りもせずマーガレット達の後を追っていった……。

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