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タイトル未定2026/07/16 17:04

 音をテーマにしたホラー小説です。

 ある日突然に簡単に人を殺せる力を手に入れてしまったら、果たして人間はどうなってしまうのか?

 あなたならどうする?

 そんな物語です。

#1

 古河和也は、いかにも不機嫌そうな顔で自宅アパートに向かっていた。

 以前から務め先のコンビニ店長に勤務態度について色々と注意を受けていたのだが、とうとう不満が爆発して辞めてしまったのである。

「クソ面白くもねぇ。

何処かに巨大隕石でも落ちて来ればいいのに。」

 そんな事を考えながらアパートの前まで来ると、一階の住人である六十過ぎの女性、楠さんが親しげに声をかけてきた。

「あらー古河君、今お帰り?

お疲れさま-、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど……」

 そう言って自分のスマホを差しだそうとする。

(やばい、この婆さんに捕まると話が長くなる)

そう思った和也は「すいませんね、急いでいるんで、また後で」そう答えるとそそくさと二階への階段を上がって行った。

(あの婆さん、俺には変に慣れ慣れしいんだよなぁ。

 何を考えてんだか。)

 そんな事を思いながら自分の部屋に入りテレビのスイッチを入れようとした時、不意に胸ポケットのスマホが、それまで聞いたことのない奇妙な着信音を立て始めた。

 何となくかんに障る不快なメロディに思わず画面を見ると、そこには真っ赤なドクロのイラストが写っていた。

 そして場面が勝手に切り替わり、ゆっくりと文字が流れ出す。


(ようこそ 悪魔のアプリへ

貴方は幸運にも我が社の開発致しました新アプリの試作品「悪魔のアプリ」一ヶ月お試し期間の当選者に選ばれました。

 よって誠に勝手ながら、当アプリを送らせていただきます。

 使用方法は至って簡単、アプリ内の起動と書かれた箇所をタッチするだけ。

 それで半径5メートル以内にいる、言葉を喋っている人間を誰でも何人でも、殺すことが出来ます。

 正確に言えばこのアプリは人間の話す言葉に反応して特殊な電波を発信し、対象者の脳細胞を破壊してしまう、そんな凄い力を秘めているのです。

 一つだけ大事な注意点を申し上げますと、このアプリは半径5メートル以内にいる全ての人間に有効なので、起動中にはくれぐれも言葉など漏らさないようお願い申し上げます。

 呻き声程度ならギリギリセーフに設定しておりますが、注意するに超したことはありませんからね。

 それでは貴方様の御健闘を心からお祈り申し上げます。

 悪魔のアプリ制作委員会より )


「あー阿呆らしい。

 最後まで読んで損したぜ。」

 和也は呟くとスマホの電源スイッチを切った。


#2

 それから三日後の事

 和也はブツブツ呟きながら、駅の方向に向かって歩いていた。

「やれやれ、そろそろ新しい仕事を探さないと……俺も来年三十だし、いつまでもコンビニ勤務てわけにはいかないからな」

そう思って前を見た時、不意に嫌な記憶が蘇った。

(ヤベエな、アイツは黒谷じゃあねえか)

五十メートル程先を、金髪で黒のジャンパーを着た男が通り過ぎるのが見えた。

 和也の中学生時代の同級生だが、ともかく素行の悪い男で、現在は有名な愚連隊グループのメンバーだと聞いたことがある。

 (あんなのに関わるとろくな事にはならないからな、さっさと行こう。)

 そう思い早足になった時、不意に物陰から手が伸びて襟首を掴まれた。

 振り向くと、黒谷がニヤニヤしながら立っている。

 ピアスだらけの口元を歪めながら、奴は獲物を見つけた漁師のような嬉しそうな声で言った。

「やあ古河君、久しぶり。

 こんな所で会うなんて奇偶だねぇ」

「おい、離せよ。

 俺は急いでるんだ」

 そう言って振り切ろうとした時、いきなり脇腹にジャブが入った。

 軽く打ったようだが、かなりの威力だ。

「おいおい、久しぶりに会った親友にそんなに連れなくするもんじゃないぜ。 

 なに、無理な事は言わないよ。

 今持ってる金、全部貸してくれりゃあいいんだ。

 もちろん返すつもりは無いけど。」

「金なんてねえ。

 俺は今、無職で……これからハローワークにでも……」

 そう言い終わらない内に、今度は強烈なひざ蹴りが胃袋に入った。

 胃液を吐いてうずくまる和也を見下ろしながら、黒谷は勝ち誇ったように言った。

 「バカだなぁ、素直に出せば痛い思いををせずに済むのに。

 おや、これは……

 中々いいもの持ってるじゃん。」

 さっきのひざ蹴りで路上に転がっていたスマホを、黒谷は無造作に拾い上げる。

「あっ、それは……」

「何だぁ、まだやられ足りねぇのかぁ?

 黒谷は威嚇しながらスマホの電源スイッチを入れた。

 すると、あの独特の不快な着信音が鳴り響く。

「何じゃあ、これは?」

 黒谷は馬鹿に仕切った声で、スマホの画面を見詰めている。

「何だぁ、悪魔のアプリだあ?

新作のゲームアプリかよ?

お前まだ、こんなくだらねぇものやっているのかよ?」

 そう言ってスマホの画面に触れると、不意に奇怪な金属音が鳴り響き始めた。

 和也はほとんど反射的に、自分の口元を押さえながら思った。

( この馬鹿野郎!

 あのアプリを起動させたのか?

いや、まさかそんな事は無いはずだが……しかしもし、あれが本物だったら……)

「おや、急に口元なんか押さえてどうしちゃったのかな?

 さっきのひざ蹴り、そんなに効いちゃったのかな?……」  

 勝ち誇った顔でそこまで言った時、不意に彼の言葉が途切れた。

 見るといつの間にか、奴は顔面蒼白になっている。

そして!

突然黒谷が自らの頭を両手で押さえながら、獣のような唸り声を上げ始めた。

「ウゲエェェ……!

 頭が割れるぅ……

 てめえ……一体……何を……

 しやがった……」

 血の涙をダラダラ流し続ける黒谷を見て、和也は確信した。

 間違い無い!

 あの悪魔のアプリは本物だった!

 そして次の瞬間、黒谷は両目と鼻から大量の血を吹き出すと、バッタリと倒れて動かなくなった。

 和也は急いでスマホを拾い上げると、電源スイッチを切った。

 (なんてこった!

 てっきりタチの悪い冗談だとばっかり思っていたのに……

 しかしもしかしたら俺は、とんでもない力を手に入れたのかもしれないぞ!)

 和也はハッとして周囲を見渡したが、幸い誰にも見られた様子は無い。

 (ともかく一端家に帰って、こいつの有効な活用方法を考えよう。)

 和也は黒谷の死体をそのままに放置して、元来た道を引き返えした。


#3

 その夜のニュースで黒谷の変死体が発見された事が、ごく短く報じられていた。

警察は事件と事故の両方の可能性が有ると見ているらしい。

(大丈夫だ。

誰にも見られていないし、あの辺には防犯カメラも無い。

奴の死体と俺を結びつけるものは、何もないはずだ。)

和也は自分に言い聞かせるように呟いた。 


 それから五日後の深夜一時、和也はバイクに乗って、あるコンビニに向かっていた。

 そこはついこの間まで彼が勤務していた店である。

 彼の胸ポケットには、悪魔のアプリが入ったスマホがしっかりと出番を待っている。

(フフフ、俺をクビにしやがったあのクソ店長め。

 思い知らせてやるぜ!)


 和也はこの数日間、如何にしてこのアプリを有効に使えば大金が手に入るか?そればかりを考えて来た。

 ともかくこいつは使い方次第では、その場にいる人間を無差別に殺し続ける恐るべき殺人兵器となる。

 まずは銀行に行き行員を皆殺しにして現金を奪うか?

 いやダメだ!

 銀行の中は防犯カメラだらけだから、すぐに足がつくだろう。

 それに警察に繋がる防犯ベルでも鳴らされたら、それまでだ。

 うーん、何かいい手はないものか?

 色々考えたあげく、和也はまず小さい店を狙っての、強盗の予行演習をすることにした。

 そのターゲットとして最も理想的な店が、ついこの間まで勤務していたコンビニ、ホワイトバード岬店であるという結論に達した。

 (日曜の深夜一時頃なら店長が一人で勤務している時間帯だし、一般客もまず来ない。

 あんな親父ぐらい、このアプリを使えば簡単に始末出来る。

 防犯カメラのハードディスクも有る場所は分かっているから、取り外して持ち帰って破壊してしまえばOKだ。

 フフフ、我ながら完璧な作戦だぜ。)

 空想を巡らせる内に、和也はすっかりやる気になっていた。


 コンビニから百メートル程離れた場所にバイクを停めると、和也は頭からフードを被り歩き出した。

 店の外からそっと覗くと、思った通り

店長が一人でカウンターの中にいる。

「よし、やるか!」

 覚悟を決めると、彼はまっすぐに店内に入って行った。

「いらっしゃいませ……

何だ、お前 古河じゃないか!

今頃、何しに来やがった?」

 店長が眼鏡越しに、険のある視線を向けて来る。

(フン、相変わらず口の悪い野郎だな。)

 和也はそう思いながら、そっとスマホの電源スイッチを入れると、わざとらしい和やかな声で言った。

「いやぁ、突然にすいません。

 実はね、どうしても見て欲しいものが有りましてね。」

 そして「悪魔のアプリ」を起動させると、店長の顔の前にスマホをズイッと突き出した。

 あの不快な金属音が、狭い店内に鳴り響く。

「おいっ!

 人の顔の前にスマホなんか向けるなよ。

 相変わらず失礼な奴だ……」

 店長はそう言い終わらない内に、突然両手で頭を押さえて苦しみ出した。

(黒谷の時と同じだ!

 やっぱりコイツは本物だ!)

 和也が強い確信を持つと同時に、店長は両目と鼻の穴から大量の血を吹き出してカウンターの裏側に倒れこんだ。

(相変わらず凄い威力だ。

 念の為にこいつを持って来たが必要無かったな。

 それにしてもこのアプリは十分、注意して使わないと……)

 和也はスマホの電源スイッチを切ると、ジーンズの尻ポケットに差し込んだ防犯用スプレーに手をやりながら思った。


 コンビニ、ホワイトバード岬店では思った以上の成果が有った。

 和也はレジの中に、せいぜい数万円有れば良い方ぐらいに思っていたが、机の引き出しから数十万円の入った紙袋が見つかったのだ。

(ATMに入れる予定の売り上げ金かな?

 どちらにしてもラッキーだったぜ。)

 和也はほくそ笑みながら、警察に停められないように制限速度を守り家路についた。


#4

 翌日の昼過ぎ、和也は上機嫌で散歩をしていた。

 コンビニから奪った金は全部で八十五万円以上有ったからだ。

(アプリの威力は、よく分かった。

 後はいかにして大金を稼ぐかだが……)

 そんな事を考えていると、一人の白いジャケットを着た恰幅の良い年配の男性が、バスケット型の手提げバッグを抱えて前を歩いてゆくのが見えた。

 左手には、洒落た白いステッキを握っている。

 白髪に黒い丸メガネ……どこかで見た顔だなと思っていると、ハッと思い出した。

 (そうだ、間違い無い。

 この何処かのフライドチキン屋みたいな顔をしたおっさん、丘の上の大きな総合病院の院長をしていた奴だ。

 脱税容疑で逮捕されたが結局、不起訴になったと以前ニュースで見た覚えが有る。

 確か今は息子に病院を継がせて、本人は悠々と暮らしているそうな……

 よし、そんな奴なら死んでも構わないな。

 あのバスケット、何か金目の物が入ってそうだし。)

 和也は決心すると、そっと元院長の後を付け出した。

 一定の距離を保ちながら、なるべく不自然にならないようについてゆく。

 (出来るだけ人の多い所には行かずに、辺鄙な場所に行ってくれれば助かるんだがなぁ……)

 すると和也の願いが通じたのか、元院長はある河の河川敷にある、一部が工事中の公園に入って行った。

 工事中のせいで、周囲には誰も人はいない。

 和也は思わずニヤリとした。

 (ちょうど自分から、おあつらえ向きの場所に来てくれたもんだ。

 これはもう、殺してくれと言っているようなものだぜ)

 和也はスマホを取り出して、電源スイッチを入れる。

 そして足早に、元院長の背後五メートル以内にまで接近した。

 ふと見ると足元に薄汚れたゴムボールが転がっていたので、それを拾い上げ、元院長の後頭部目掛けて投げつけた。

 「痛っ!」

 ボールが大きく吹っ飛び、元院長が驚いて振り向いた。

 その様子が面白かったので、和也は思わずプッと吹き出す。

 すると元院長は顔を真っ赤にしながら喚きだした。

 「おいっ、お前!

 人にボールをぶつけておいて失礼な奴だな。

 ちゃんと謝らんかい!」

「ハハハ……こいつはどうも失礼しました。」

 和也は言い終わると、アプリを起動させ元院長の目の前にスマホを突き出した。

「何をする、無礼者めが!

 まったく最近の若い奴らは……」

 そこで元院長の言葉が止まった。

「グググッ……グエエエーッ!

 貴様……何をしやがったのだああ!?」

 手に抱えていたバスケットをドサッと落として、彼はそのまま動かなくなった。

 眼鏡のレンズが両方とも、血で真っ赤になっているのが分かった。

(フン、どいつもこいつも死ぬ間際に言うセリフは、似たようなものだな)

 心の中で呟きながらスマホの電源スイッチを切ろうとした時、不意にバスケットがガサガサと動いた。

(うん?何だ一体?)

 バスケットの異変に気を取られた瞬間が、結果的に和也の明暗を分ける事となった。

 何やら黒い物体が凄い勢いで飛び出して、スマホを持っている和也の左手に噛みついたのだ。

 「グワッ!」

 アプリが起動中にも関わらず、思わず呻き声が漏れてしまう。

(何だ、一体……)

 見るとそこには、小型だが妙に大きな頭部を持った真っ黒い犬が、和也の左手の甲に食らいついていた。

 スマホは何処かに吹っ飛び、牙の食い込んだ左手からは、真っ赤な血が流れている。

(おのれ……この野郎!)

 和也は黒犬の左側頭部目掛けて、右のパンチを叩き込もうとしたが、一瞬早く敵は飛び退いた。

 そして地面に着地すると、凄まじい敵意の籠もった眼光で和也を睨みつけ、恐ろしい唸り声を上げている。

(ともかくアプリを止めないと……

 スマホは何処へ行ったんだ?)

 周りを見回すと、三メートル程離れた場所に転がっている。

 画面には、真っ赤なドクロのイラストが写っており、未だに起動中である事が分かる。

(あそこだ!)

 和也がスマホに向かって駆け寄ろうとすると、黒犬が背後から飛びつくようにして、左のふくらはぎに噛みついた。

「グッ!」

 小さな呻き声を上げ、和也は前のめりにぶっ倒れた。

 何とか態勢を変え右足で蹴りを食らわそうとしたが、難なく交わされてしまう。

(クソッ!こいつ凶暴な上に、凄く敏しょうだ。

 あのジジイ、何だってこんな危ない奴を持ち歩いてやがったんだ?)

 黒犬はいつでも跳びかかれるように身構えている。

(ともかくアプリを止めないと、このままではいつか俺の声で反応してしまう。)

和也がスマホに手を伸ばそうとした時、黒犬は大きくジャンプすると、その牙をむき出しにして襲いかかって来た。

 咄嗟に左腕でガードすると、二の腕に黒犬の牙が深々と突き刺さる。

 強烈な激痛が走るが、自分の顔面を守る為には仕方なかった。

(このままでは、いつかやられちまう……一体どうすれば……)

 絶望的な状況の中、不意にある考えが閃いた。

(そうだ……あれを使えば……)

 和也は左腕を噛まれながら、右腕をそっと下ろして、ズボンの尻ポケットに入れていた防犯用スプレーを手に取る。

(食らいやがれぇ!)

 心の中で叫びながら、黒犬の顔目掛けて思い切り噴射した。。

 強烈な刺激臭が鼻をつく。

「ギヤウーン!!」

 黒犬は悲鳴と共に大きく飛び跳ねると、激しい勢いでのたうちまわっていたが、やがて何処かへ逃げて行った。

(ざまあみやがれ、バカ犬め!)

 和也は地面を這うようにしてスマホを拾い上げると、ようやくアプリを停止させた。

「ハァハァ、助かった……

 危うく自分で自分の頭を破壊する所だったぜ。

 それにしてもなんて凶暴な奴だ。

 クソッ、指が二本ともちぎれかかってるじゃあねえか。」

 和哉の左手の小指と薬指はグラグラになっている。

「ともかく救急車を呼ばないと……

 足のケガもひどいし、これでは歩いて病院に行くのは無理だ。」

 何とか上体を起こして、再びスマホの電源スイッチを入れ119番をプッシュする。

 そして「もしもし……」と呼びかけた時、突如あの不吉な金属音が、何処からともなく鳴り響いた。

「まさか!?」

 和也はいきなり頭全体を、巨大な腕で締め付けられるような圧力に襲われた。

(苦しい……何故だ……

 俺のアプリは停止させたはずだ……)

 鼻血が流れ意識が遠退いてゆく……そう思った時、不意に頭全体にかかっていた圧力がスーッと消えた。

(何だ、一体どうなっている?)

 その時、背後から聞き覚えの有る女性の声がした。


#5

「とりあえず大丈夫よ。

 私が話せるようにアプリは一旦、解除したわよ。」

 顔をねじ曲げるようにして振り向くと、そこにいたのはアパート一階の住人、楠さんだった。

 彼女はいつも通りの人のよさそうな笑顔を見せながら、右手に持ったスマホをこちらに向けている。

 そしてその画面には、あの赤いドクロのマークがハッキリと見えた。

「婆さん……まさかこれは、あんたがやったのか?」

「厭だわ、婆さんだなんて。

 私まだ、孫もいないのよん。」

「ふざたこと言ってんじゃあねえぞ!

 どういう事か説明しろ!」

 大声を出そうとするとズキンと激痛が走ったので、和也は思わず頭を押さえてうずくまる。

 その様子を見下ろしながら、楠さんが、まるで幼子を諭すような口調で言った。

「しょうがないわねえ。

 じゃあ話してあげるけど、こないだ私のスマホをみて欲しいと言ったでしょう。

 あの時実は前の日に、私のスマホにこの(悪魔のアプリ)が送られて来ていたの。 

 でも君は話を聞いてくれないから、しばらく放置していたのよ。

 でもさ、さっき河川敷公園を散歩しようとしたら偶然、君があの院長さんを尾行しているのを見つけたのよ。

 それで興味を引かれて、私も一緒についてきたって訳。

 全部見ていたけど、まさかあのアプリが本物だったなんてビックリしたわよねー。」

「それで……俺をどうする気だ!?」

 体中の痛みに耐えながら和也が声を振り絞るように言うと、楠さんはニッコリ笑って答えた。

「そうねぇ、君も影では色々と悪さしているみたいだから、やっぱりお仕置きが必要だよね。

 それじゃあ、おばさんが止めを刺してあげるわよん。」

 そう言ってスマホを差し出した。

「クソッ、こちらが先に殺してやるぜ!」

 和也が自分のスマホを突き出そうとした瞬間、予想外の強い衝撃を受けた。

 いつの間に手に入れたのか、楠さんは元院長のステッキを振り上げて、和也のスマホを弾き飛ばしていたのだ。

 スマホは画面に大きなヒビが入り、遠くへ吹っ飛んで行った。

そして直後に、例の金属音が鳴り響く。

 楠さんが、自分のアプリを起動させたのだ。

 (マズイ!逃げないと……)

 和也が立ち上がって何とか走り出そうとしたが、黒犬に噛まれていない方の右膝に、強烈な一撃を食らった。

 もんどり打って転倒する和也。

(膝の皿が砕けたかも……

 どうやらこのババァを甘く見ていた事が、この俺の敗因らしいな……)

 半ば観念した彼の心に、そんな考えが浮かんだ。

(今の一撃、とても手応えが有ったわ。

 昔取った杵柄、これでも剣道をかじった事が有るのよん。

 これでもう逃げられない。

 さあ、あきらめて何か喋りなさい。)

 楠さんがさらに痛めつけようと大きくステッキを振り上げた時、和也は両手を上げて降参の意思表示をした。

 そしてアプリ起動中にも関わらず、自ら口を開いた。

「俺の負けだ。

 最後に聞いてくれ……」

(うん?何かしら?)

 油断した楠さんが近寄って来た所を狙って、和也は頭の後ろに隠し持っていた防犯用スプレーを一気に、相手の顔目掛けて噴射した。

「ウギャアー!このクソガキがぁ!」

 思わず大声で怒鳴った直後、彼女は一瞬「しまった!」と言う表情を見せたが、数秒後には両目から血飛沫を上げて、バッタリと倒れていた。

 (ヘッ、ざまあみやがれ……)

 心の中で呟くと、和也もほぼ同時に脳細胞が破壊されていた。

 

エピローグ


 それから一時間後、工事中の河川敷公園にやって来た作業員によって、三人の変死体が発見された。

 警察の捜査の結果、三人の死因は急性による脳内出血であり、詳しい原因は捜査中とのことだった。

 なお三人所有のスマートフォンを解析した結果、着信履歴及びアプリなどに不審な点は全く無かったらしい……


(了)

 


 

 








 これまでは作詞を中心に創作活動を行ってきましたが、今回初めてホラー小説に挑戦してみました。

 今後も良いアイデアが浮かべば、小説に挑戦して行こうと思います。

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