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第6話 聖女は異国へと乗り込む

 忘れもしないウィリアム国とは、前世の頃にカイン王子が生きていた国だ。前世でカインを殺めてしまった罪悪感に再び襲われたエリーゼは顔をしかめる。

 そんなエリーゼの険しい表情を見たアゼルは、また何か勘違いをしている。


「ふむ、ウィリアム国を攻めるのか。強国だが落としがいがありそうだ。さすがは愛するエリーゼ。今夜も抱いてやるぞ、嬉しいだろう」

「う、嬉しくなんか、ないんだから……」

「本当は?」


(ぐぅぅ……誰が『嬉しい』なんて言ってやるもんですか……!)


 なぜ、この流れで夜の話を付け加えるのか意味が分からない。

 とりあえずセイクリッド国から目をそらす事には成功したが、今度はウィリアム国が攻撃対象にされてしまう。

 しかしこの反応からすると、おそらくアゼルは前世でのカインを覚えていない。アゼルにとってカインは前世で戦った数多くの敵の中の一人でしかなく、名前も顔も記憶に残るほどではなかった。


「アーサーよ。ウィリアム国ならば、どう攻略するか?」


 アゼルが再び問いかけると、アーサーは顎に片手の指を添えて真剣に地図を見つめている。

 このアーサーという軍隊長は根っからの軍人らしく、アゼルとエリーゼの夫婦漫才を見ても全く無反応であった。良く言えば冷静沈着、悪く言えば無関心。


「ウィリアム国の軍事力も恐れるに足りません。ただ、カイン王子が剣術の手練れと聞きます。彼さえ討てば支配したも同然でしょう」

「カイン王子ですって!?」


 カインの名を聞いたエリーゼは、思わずテーブルに両手を突いて立ち上がった。隣のアゼルは腕を組んだままエリーゼを見上げる。


「なんだエリーゼ、カイン王子と知り合いか?」


 しかしエリーゼにはアゼルの問いかけが聞こえていない。

 考えてみれば、アゼルもエリーゼも前世と同じ名前で現世に転生している。カインも転生したのか、同名の子孫なのかは分からない。だがエリーゼは、カインの存在に現状を打破する希望の光が見えた……気がした。


「アゼル。世界征服って要は世界を支配できればいいんでしょう?」

「まぁ、そうだな」

「なら、力で支配する必要はないと思うの」

「つまり、どうすると言うんだ?」


 エリーゼは聖女らしく、市民を巻き込む戦争での侵略を望まない。前世のように人々が血を流す戦場は見たくない。

 エリーゼは戦争と溺愛ルートを同時に回避する方法を考えた。それにはウィリアム国のカイン王子の協力が必要だと考えて、会いに行く口実が必要だった。


「私に任せてほしいの。私がカイン王子を落として服従させてみせる」


 エリーゼは聖女ではなく女王様だったのか……いや、前世では紛れもなく女王であったが。

 その大胆な発言にアゼルは目を丸くするが、アーサーは相変わらず無表情で発言を続ける。


「なるほど。エリーゼ様がハニートラップを仕掛けるという訳ですか」

「おい、待て。色仕掛けで懐柔するのか? そんな事は許さんぞ」


 エリーゼを溺愛するアゼルの反対は当然だった。しかしエリーゼもアゼルの扱い方が分かってきている。

 わざとらしくアゼルの胸に抱きついて甘えると、瞳を潤ませて上目遣いになる。ついでにアゼルの逞しい胸の周りを指先で撫で回す。次第にアゼルは興奮して鼻息が荒くなる。


「私、愛するアゼルの力になりたいの。お願い、任せてほしいの」

「ふぉぉ……素直なエリーゼも最高だな……しかし勝算はあるのか?」

「私には聖女の力があるから、溺愛の呪いをかければ簡単よ」


 これは嘘で、今のエリーゼに聖女の力はない。そもそも聖女は呪いなんて扱わない。

 しかし、こうもデレデレになっているアゼルを見ると、エリーゼのハニートラップは効果抜群かもしれない。色仕掛けで懐柔されているのはアゼルも同じであった。

 エリーゼがカインに近付き溺愛の呪いをかけて、デヴィール国に対し絶対服従の国交条約を結ばせる。これでウィリアム国はアゼルが支配したも同然となる。……これが、エリーゼの口実としての作戦である。


「しかしエリーゼを一人で行かせる訳にはいかんからな、オレも行くぞ」

「それはダメ。アゼルが行ったら宣戦布告だと思われちゃう。私なら顔を知られてないから好都合よ」


 確かに悪名高いアゼルが行くと、それだけで警戒されてしまう。それは軍隊長アーサーでも同じだろう。エリーゼはつい昨日、アゼルの妃になったばかりなので他国に顔は知られていない。

 しかしエリーゼの裏の目的はアゼルから逃れるための逃避行なので、どうしても一人で行きたい。考えた末にアゼルは承諾した。


「いいだろう。だがウィリアム国の手前までは一緒に行く。護衛の軍隊も少し同行させるからな」

「……分かった、それでいいわ」


 どの道、ウィリアム国までは遠いので馬車で連れて行ってもらう必要がある。

 現状、ウィリアム国とは敵対していないので、エリーゼが一人で王城を訪問しても問題ないと思われる。

 ウィリアム国の王城には事前にアゼルの名で書簡を送り、デヴィール国の王妃エリーゼが挨拶に行くという名目で通知する事になった。

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