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第4話 前世の記憶と初夜と決意

 眠りに落ちたエリーゼは再び前世の頃の夢を見た。

 今回のシーンは、聖国の女王エリーゼが魔国の魔王アゼルに『溺愛の呪い』をかけられて結婚した後のこと。


 どこかの国の城下町の道の真ん中にエリーゼとアゼルが並んで立っている。

 周囲は民家を焼き払う炎の焦げ臭さと、兵士どうしが斬り合う剣の音と血の匂いが混ざり合っている。

 そして逃げ惑う人々の足音と叫び声。見回さなくても聴覚と嗅覚でここは戦場だと認識できる。


 そんな中だというのに、エリーゼはアゼルの腕に抱きつくようにして寄り添っている。

 そんな二人の前には20歳ほどの若い青年が剣を構えて立っている。銀色の髪にプラチナの澄んだ瞳で、白いマントと白の貴族服。そのカラーはアゼルと正反対。アゼルが漆黒の魔王なら、彼は純白の勇者のような出で立ちであった。


「エリーゼ……愛していたのに! 魔王に寝返ったのか……!」


 青年が何を言おうとエリーゼに声は届かない。エリーゼの呪われた瞳は愛するアゼルしか映さない。代わりに答えたのはエリーゼの肩を抱いている魔王アゼル。


「カイン王子よ、残念だったな。エリーゼもウィリアム国もオレのものだ」

「そうはいかない! 僕はエリーゼも国も取り戻す!!」


 カインはアゼルの正面に向かって駆け出すと銀色の長剣を振り上げる。

 全く動こうとしないアゼルだが、彼の腕に抱きついているエリーゼの体から聖なる光が溢れ出て二人を包んでいく。

 この時、ようやくエリーゼが目の前に迫るカインと目を合わせた。その碧眼にカインのプラチナの瞳を映すが、そこに感情はない。

 カインが思わず足を止めると、アゼルが勝ち誇ったように笑いを浮かべてエリーゼに口付ける。ようやく長いキスが終わると、エリーゼは再び感情のない冷たい瞳をカインに向けて口を開く。


「カイン様、諦めて。私はもうアゼルの妃なの」

「エリーゼ……どうしてなんだよ!? どうして魔王なんかに!」


 そうしている間にも、アゼルとエリーゼの全身を包む聖なる光は強さを増していく。これは聖女の能力の一つ『強化』。アゼルの魔力と戦闘能力を一時的に強化する。

 エリーゼが必要以上にアゼルに密着しているのは単にイチャついているだけではない。アゼルはエリーゼに触れる事で常に最強でいられる。

 立ちすくむカインの目の前で、余裕のアゼルはわざとらしくエリーゼとの愛やノロケをカインに見せつける。


「可愛いな、オレのエリーゼ。もっと言ってやれ。オレを愛しているとな」

「……べ、べつに……愛してなんか……」

「ほぉ。なら、もう抱いてやらんぞ」

「……! 愛してる、わよ……」


 エリーゼはアゼルを溺愛しているが基本的にはツンデレである。口ごもりながらも愛してると言うエリーゼのツンデレが可愛すぎて、アゼルは戦場でも悶えてしまう。

 そんなイチャつきの中で、アゼルはエリーゼの能力で自身が最大まで強化されるのを待っている。

 そして時が熟すとアゼルは腰に下げていた鞘から長剣を引き抜く。その剣は漆黒の色の暗黒剣で、カインが持つシルバーの剣とはやはりカラーが正反対であった。


「さらばだ、カイン王子」


 聖なる力の加護によるアゼルの高速の剣捌きが、カインの体を一刀両断した……その瞬間。

 血飛沫を見る事もなくエリーゼの視界が暗転して暗闇に包まれる。かと思うと、次には眩しい光が世界を明るく照らしていく。


 残酷な過去の夢の続きを遮るようにして、エリーゼは目を覚まして瞼を開いていた。


 視界は薄暗いが見えないほどではない。気を失ったのは昼食時だったので、今は夕方くらいだと思われる。

 いつの間にか別室のベッドに寝かされていて、体は暖かい毛布に包まれている。あの夢のせいもあって額には汗が滲んでいる。


(カイン王子……ごめんなさい……)


 前世のエリーゼは、ウィリアム国の王子・カインを殺してしまった。実際に殺したのはアゼルだが、彼に手を貸した罪は事実。

 カインはエリーゼを愛していたが、当時のエリーゼがカインを愛していたかどうかなんて分からない。いや、思い出したくなかった。エリーゼは全てを呪いのせいにして、無意識に罪から逃れようとしていた。

 カインだけではない。前世のエリーゼは世界征服を企むアゼルに付き従い、数々の国を侵略・支配して罪のない人々の命を奪った。汚れてしまった魂では、今世で聖女の力をう失うのは当然だと思った。


(それにしても本当に暑い……)


 この暑さは毛布のせいかと思ったが何かが違う。体の芯が熱を発しているような、体内からくる発熱に近い。少し体を動かしてみると、素肌に触れる毛布の感触が心地よい。


(服着てないのに、なんでこんなに暑いの……え? 私、服着てない!?)


 一気に覚醒したエリーゼが毛布をめくり上げて上半身を一気に起こす。そして今の自分の姿に気付いて衝撃を受ける。上半身どころか全身に何も身に着けていない。つまり丸裸で寝ていた。……それだけではない。


「……ん? エリーゼ……起きたのか?」


 聞き覚えのある声に気付いたエリーゼが恐る恐る視線を横に向けて見下ろすと、同じくアゼルが丸裸で隣に寝ていた。呑気に目を擦りながらあくびをしている。


「あ、あ、アゼル、あんた、まさか……やったの……?」


 エリーゼは布団を強く握りしめたまま体を震わせた。それは寒さでも怒りの震えでもない。二人とも裸で同じベッドで寝ていたという事実が示すものは一つしかない。

 アゼルも上半身を起こすと、今度はエリーゼがアゼルの赤い瞳を見上げる形になる。

 アゼルの筋肉質の胸筋と背筋は逞しく、鎖骨の美しいラインの色気にも目を奪われてしまう。あの胸に抱かれていたのかと思うと全身がゾクゾクと震えて再び熱が巡ってくる。


「クク……最高にイイ顔と可愛い声でオレを求めてたぞ。エリーゼ貴様、最高か」


 その言葉の内容よりも、アゼルの満たされた笑顔とテンションで今に至るまでの出来事を確信してしまった。

 再会して初日に結婚、さらに初夜まで済まされてしまうとは……まだ夕方なのに。しかも記憶がない中でやられたのも無性に腹が立つ。せめて起きている時にしてほしい……なんて言えない。


「エリーゼは未成年だったか? あの程度の酒で酔い潰れるとは……可愛いけどな」

「し、失礼ね、私は20歳よ! ……って、お酒!?」


 変な薬を盛られたと思ったが、ワインに酔っただけだったらしい。しかし普段からあんなに強い酒を飲んでいるアゼルは、さすがの魔王としか言いようがない。

 魔王の貫禄でアゼルはすごく大人に感じるが22歳である。エリーゼと2歳差しかない。それが余計に悔しいと思った。

 しかし怒ったところで何の意味もない。エリーゼが諦めたように息を吐くと、すかさずアゼルが後ろからエリーゼを抱きしめる。アゼルの逞しい胸筋が背中に触れるとエリーゼの肩が強張ってしまう。


「オレのエリーゼ、愛してるぞ。貴様がいればオレは最強だ。今世も二人で全世界を手に入れような」


 その言葉に、エリーゼの高鳴っていた心臓が微かに痛みを伴った。やはりアゼルは聖女の能力を欲している。そして今世でも世界征服に乗り出す気でいる。


(アゼル、ダメなの……それはできない……)


 今のエリーゼには聖女の能力がない。それに、もうカインのような犠牲者を出したくない。

 呪いの効果さえなければ、この腕を解いてアゼルから逃げてやるのに。そんな葛藤すらもアゼルの悪魔の瞳に魅入られて、溺愛という呪いがエリーゼに恋の衝動をもたらす。


「エリーゼ、オレに永遠の愛と忠誠を誓え」


 アゼルはいつでも愛を具現化させようとしてエリーゼに言葉を求めてくる。前世から、そういう男であった。言葉なんて不確かなものより唇で返す方がよほどいいのに。

 だからこそ、ツンデレなエリーゼは言葉で返さない。


「私は、あんたなんか……」


 嫌いだと言っても、好きだと言ってもアゼルを悦ばせてしまう。だからこそエリーゼは言い切る前に唇を寄せて熱い口付けを交わす。


(このままでは、だめ……アゼルが……愛しい)


 熱に浮かされながらも、エリーゼは改めてアゼルの呪いから逃れる事を決意する。自分のためではなく、世界のために。

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