表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の上司に、好きがバレたら終わりや 番外編&特別編  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

番外編③「好きになってはいけないと思っていた」

仕事に感情を持ち込まない。

部下とは一定の距離を置く。

上司にも、社長にも、対等な距離感で。


それが、自分の“あり方”だった。

7年前までは、違ったかもしれない。

でもあの破談がすべてを変えた。


「君との未来が、見えなくなった」


最後に彼女が残した一言だけが、今でも心に刺さっている。


未来は見えなかったかもしれない。

でも、少なくとも自分は――彼女との現在を、真剣に生きていた。


なのに、それが一瞬で崩れた。


(だったら、もう誰かと“いま”を積み重ねることも、意味がない)


そう思っていた。


 


彼女――宮本舞子が本社に異動してきたのは、よく晴れた春の日だった。


初日から、よく通る声でよく喋る。

まるで空気を動かすかのように、オフィスに馴染んでいくその姿は、

自分とは正反対だった。


「よろしくお願いします、本庄課長!」


初めて目が合ったとき。

その目は、妙にまっすぐで、嘘がなかった。


正直、関わりを最小限にしたかった。


けれど彼女は、何度でも話しかけてくる。


どんな指摘にもめげず、むしろ「勉強になります!」と笑って返す。


(……ああ、これは、強い)


そう思った。

自分とは違う“人間としての強さ”を、彼女は持っていた。


 


代々木公園で偶然再会したとき。

舞子が迷子の子どもに駆け寄っていた姿が、あまりに自然だった。


「本庄さん、そういうとこ……優しいですね」


あのカフェで交わした、なんでもない会話。

でも、自分の“人としての部分”を、真っ直ぐに見つめてくるその言葉に、

心のどこかが――揺れた。


(この人の前では、“冷たい上司”でいられなくなるかもしれない)


怖かった。


誰かに心を見せると、また壊れるかもしれない。


好かれて、信じられて、期待されて。

それで、裏切られたら、また自分は壊れる。


でも。


壊れてしまうほど、惹かれていた。


 


恋心だと気づいたのは、

彼女がそっと自分の肩に触れて、

「ちゃんと寝てください」と言ってくれた、あの出張の夜。


あんなにも優しい声を、誰かに向けられたのは久しぶりだった。


その夜、夢の中で彼女の名を呼んでいたことに、翌朝気づいて――


ただ、逃げた。


(こんな想いを持つ資格はない)


 


でも、舞子は逃げなかった。


真正面から、自分の気持ちを伝えてくれた。

何度でも。


「うちは、あなたをひとりにしたくないんです」


それを聞いたとき、自分の“仮面”が一部砕けた気がした。


(この人は、僕の“過去ごと”抱えてくれるのか)


 


異動の打診があったとき、心は大きく揺れた。


ロンドンに行けば、また感情を閉ざして生きられる。

でも、もうそれじゃダメなんだと、自分の中でもう気づいていた。


だからこそ、怖かった。


(このまま想い合って、遠距離になって、彼女を不安にさせるだけじゃないか)


だからあのとき、伝えるのをためらった。


けど――彼女は違った。


「待ってます。

“離れても、心は変わらへん”って、信じてるから」


あれほどまでに、誰かに“信じられた”のは初めてだった。


信じてくれる人の前では、

自分も“信じる覚悟”を持たなければいけない。


そう思った。


 


ロンドンでは、彼女との毎週のやりとりが救いだった。


会えなくても、声が聞けなくても、

スマホの画面に映る“いつもの文体”が、日常をつないでくれた。


(この人の言葉は、いつだって、まっすぐだ)


だから、僕も。


「帰国したら、ちゃんと向き合おう」


そう心に決めていた。


 


再会の日。


ベンチに座る彼女を見つけたとき、

胸がぎゅっと締めつけられた。


半年ぶりの“たった数メートル”が、

あまりにも遠くて、でも近かった。


そして、言った。


「君のいない時間は、完成じゃないと気づいた」


それは、ようやく出せた、自分の本心だった。


彼女の手を取ったとき、もう怖さはなかった。


怖いまま、進めばいい。

その横に、舞子がいてくれるなら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ