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氷の上司に、好きがバレたら終わりや 番外編&特別編  作者: naomikoryo


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番外編②「笑ってるだけが、得意ちゃうんやで」

舞子の恋が動き出したころ。

奈々は毎日、彼女を見守りながら、心のどこかで――ちょっとだけ羨ましく思っていた。


(ええなぁ、あんた。ちゃんとぶつかって、ちゃんと想い、伝えて)


「恋愛なんてもう面倒やし」って言ってる自分の口の裏側で、

(でも、ほんまは誰かに優しくされたい)って、静かに思ってた。


そして――

その“誰か”は、もう心の中では、ずっと決まってた。


 


営業チームの同期、柴田蓮しばた・れん


奈々が入社してからずっと一緒にいて、

いじりやすくて、調子乗りで、でも仕事になると急に頼りになる。


奈々が何気なく弱音をこぼすと、絶妙に茶化しながら支えてくれる。


「あ~あ、明日も残業確定やん。人生ってつら」


「じゃあ俺が明日、コーヒー淹れてやるよ。激甘のやつな。

糖分と俺の優しさ、どっちが沁みるか比べといて」


「はぁ? 誰があんたの優しさ求めてんねん。甘ったるいのはコーヒーだけでええわ」


「いやいやいや~奈々ちゃん、求めてる顔してたから♡」


「うっさい。全員黙らせる顔してやろか」


そんな会話が“日常”になっていた。


でも――ある日、いつもの会話のあとで柴田が言った。


「……俺さ、実は今度、親に紹介される見合いの席、断ったんだよね」


「へぇ、なんで?」


「……なんとなく。

“もうちょい待ってたい相手がいる”って、思ったから」


(……え)


それは、まるで――

自分に向けられた言葉のように聞こえて、

でも自分から「それってうちのこと?」とは聞けへんかった。


だって、聞いて違ったら、怖いから。


奈々は、ずっと“笑ってる役”を選んできた。


誰かの恋の応援役。

誰かの悩みの聞き役。

誰かの幸せを「よかったやん!」って言う係。


けど、舞子が言ってくれた。


「奈々ちゃんは、いつも笑わせてくれるけど、

ほんまは、自分のこと後回しにしてるとこ、あるよな?」


そのとき、胸の奥が、ぎゅっとした。


 


金曜の夜。

オフィスの非常階段。

遅くまで残業していた奈々は、偶然すれ違った柴田と並んで、缶コーヒーを飲んでいた。


「今日もがんばったなー、お互い」


「ほんまそれ。体力ボーナスがほしい」


ふたりは夜風を受けながら、しばらく無言だった。


やがて、奈々は小さく言った。


「なぁ、柴田くん」


「ん?」


「もしさ。もしも、誰かのこと好きやけど、その人が冗談みたいなことばっか言うてきて、

“ほんまの気持ち”見えへんかったら、どうする?」


柴田は、少し笑って言った。


「……だったら、俺が言うよ。

“お前のこと、好きだ”って。

それが冗談でも本気でも、俺はたぶん、どっちも受け止められる気がする」


「……」


「ていうか、奈々。俺、ずっと待ってたんだよ。

“お前から言ってくれたら、どれだけうれしいか”って」


奈々は缶コーヒーを握りしめたまま、ぽつりと呟いた。


「うちも、あんたのこと……ずっと好きやったよ」


「うん。知ってた」


「うっわ、ムカつく。調子乗りめ」


「はいはい、ツンデレかわいい」


「……しばくぞ?」


ふたりはそこで、笑い合った。


奈々は思った。


(笑うって、こんなに“安心できる”もんやったっけ)


いままでずっと“笑う側”でいたけど、

これからは“笑い合える人”と、一緒にいたい。


 


それからというもの――

舞子と奈々は、社内でも外でも“彼氏の話”で盛り上がるようになった。


「なあなあ、最近課長、舞子のこと“君”って呼んでるで?」


「ふふふ、それだけで3日は生きられるやろ」


「こっちは“奈々ちゃん”って呼ばれただけで週超えたからな」


「いや、お互いキモいな」


「幸せすぎてキモいな」


ふたりは、ふたりなりの恋を、

ちゃんと“笑って話せるようになった”。


そのことが、何よりも幸せだった。

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