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第92話 過酷な巡礼

 虫。

 虫虫虫虫虫虫虫。

 平原を埋め尽くすような量の昆虫型の魔物が、ナナの目の前に広がっていた。

 スタンピード。

 魔物が集団化し、闘争本能の赴くまま人間へと襲い掛かる現象。

 今、ナナの目の前にあるのは昆虫型の魔物によるスタンピードだった。

 一つ一つは、下級の魔物かもしれない。

 だが、それが津波のように押し寄せて来るのであれば話は別だ。

 範囲殲滅系の能力を持っていなければ、このスタンピードには対応できない。

 ましてや、子供たちを守り切ることなんてできないだろう。

 では、子供たちの守護者として重責を託されたナナには、このスタンピードに対抗する手段はあるのか?


「いくよ、皆」


 その答えは、ナナが召喚した仲間たちがすぐに証明した。


「強化ライン増設――――ランクアップ」


 ナナの仲間たち、本来は下級に過ぎないはずの魔物たちが眩い光と共に形を変える。

 花妖精のヒラヒラは、手のひらサイズから人間大へ。

 森狼のガウは、全長四メートルを超える巨体へ。

 影フクロウのホータローは、全身を闇夜の如き暗黒へ。

 明らかに、本来は起こりえない変異が、ナナの仲間たちに起こっていた。

 だが、これは異常事態ではない。

 ナナが掌握している『異能』の一つだ。


「ヒラヒラ、あいつらを全部捕まえて」

『おっけー!』


 ヒラヒラはナナの指示を受けると、手のひらを魔物の群れへと向ける。

 すると、平原だったはずの地面から無数の植物が生えて、迫りくる魔物たちを縛り上げた。

 一面に広がる魔物たちの群れ、全てを。

 操作可能な植物により、全て捕縛して見せたのだ。


「ホータロー、全部溶岩地帯へ繋げて」

『ホゥ』


 次いで、捕縛された魔物たちは全て、植物の影から這い出た闇に飲み込まれ、この場から消え去った。まるで、最初から何も居なかったかのように跡形も無く。

 大規模の植物召喚。

 大規模の強制転移。

 どちらも、花妖精や影フクロウに出来る仕業ではない。

 明らかに、種族の限界を超えた能力だ。

 そう、つまりはナナの異能とは『そういうもの』なのである。

 テイマーならば一部の例外を除き、誰もが持っている契約することで魔物を強化する能力。

 それを最大限に高めることにより、ナナはついに自らの仲間へ種族を超越する力を与えるほどの強化を可能としたのだ。

 種族超越。

 またはランクアップ。

 テイマーの能力として極まり過ぎて、一つの異能となったものを今、ナナは全力で扱う。


「まだっ! 多分、地中に強い奴が残ってる! ガウ!」

『ヴァウ!』


 ガウはナナと以心伝心。

 掛け声一つで、為すべきことを察する。

 地中に潜み、今かとナナや子供たちを狙う魔物たち。

 それを討滅するために、大きく息を吸い込んで。


『グゥルォオオオオオオオオオオオオオッ!!!』


 指向性を持った咆哮を放った。

 ハウリングキャノン。

 音の砲撃が地中を穿ち、潜んでいた魔物たちをぐしゃぐしゃにシェイクする。

 種族超越の効果により、今のガウの咆哮は上級の魔物にすらダメージを与えるものだ。

 しかも、ナナが更に強化を込めてガウに使わせたものだから、地中に潜んでいた魔物たちは本領を発揮することなく全滅することになった。


「後は――――空っ!」


 しかし、ナナは油断しない。

 平原、地中の魔物を全滅させても油断しない。

 A級テイマーに相応しい戦術眼により、次なる敵へと目を向ける。


『ジジジジジジジジジジッ!!』


 そう、空から影を落とす巨大なるセミ型の魔物へ。


「推定A級上位! 能力は――衝撃波! ガウ! ハウリングで相殺!」

『ガウッ!』


 ナナの観察眼は驚異的だ。

 故に、セミ型の魔物が動き出す前に、脅威度と能力を直感で理解する。

 相手が行動を開始する前に、予め対策を置くように指示を出すのだ。


『ジジジジジジジィッ!!!』

『グルゥォオオオオオ!!!』


 衝撃波と咆哮。

 二つの破壊が互いに相殺し合い、結果、子供たちには届かずに消え去る。


「ヒラヒラ、ホータロー! コンビネーションの十二番!」


 無論、相殺程度では終わらない。

 ナナは間髪入れずに次の指示を出す。

 巨大セミの魔物を仕留めるための戦術を命じる。


『きゃはっ!』

『ホー』


 ヒラヒラとホータローのコンビネーションによって生み出されるのは、漆黒を纏う草木の槍。

 それが弓矢の如く勢いを得て、巨大セミの魔物を貫く。

 的確に、急所となる部分を穿ち、その命を絶やす。


 ――――キュガッ!!


 直後、槍が纏っていた漆黒が広がり、爆発のように巨大セミの死骸を飲み込み、消し去った。

 穿ち、殺し、消し去る。

 巨大な魔物を処理する際、その死骸が周囲に影響を及ぼさないようにするための最善。

 ナナはそれをすぐさま命じることが可能なテイマーなのだ。


「…………ぷひゅー」


 だからこそ、ナナが一息吐いたのは決して間違いではない。

 全方位、感知が届く範囲の敵を全て殲滅した後なのだ。

 あくまでも油断ではなく、次なる行動を考えるための前動作。

 子供たちを安全な場所へと移動させるために、色々と思考を巡らせ始めた。

 その時だった。


「いやはや、お見事、お見事。精鋭は別にあれども、ミーナちゃんの軍勢の一部を全滅させたのは優秀極まりないよ、うん」


 ナナのすぐ横に、気安い声を掛ける怪人が現れたのは。


「――っ!」

「おっと失礼」


 先ほどまでまるで感じなかった気配に、ナナはとっさに体を飛びずさらせる。

 そんな様子を見て、無貌の仮面を被ったトレンチコート姿の怪人は恭しく頭を下げた。


「初めまして、将来有望なテイマーさん。僕は魔王軍四天王が一人、大魔導士フェイスだよ」


 魔王軍。

 そのワードと共に蘇ってくる記憶は、ナナにとって愉快なものではなかった。

 だからこその先手必勝。

 得体のしれない相手へ、ナナはアイコンタクトのみの意思疎通で仲間たちを動かす。

 この怪人の身動きを止めるために。


「得意技は御覧の通りの転移魔術」


 だが、届かない。

 ヒラヒラの植物も。

 ホータローの闇も。

 ガウの咆哮も。

 当たるよりも前にフェイスは煙のように姿を消した。

 そして、ナナの頭上にふらりと姿を現して言う。


「だから、こんなことも可能なんだよ」


 ぱちん、とフェイスが指を鳴らすと、子供たちの前に数十体のゴーレムが現れた。

 どれも人型であり、武具を装備させた人間の如き造形のゴーレム。

 かつて、ナナがD級トーナメントの授賞式で見た、テロリストであるイメイの作品だ。


「やめて! 子供たちに手を出さないで!」

「あははは、安心していいとも。大丈夫、傷つけたりしないよ。ちゃあんと優しく捕縛するさ」

「……っ!」


 ナナは歯噛みして、フェイスを睨みつけて――覚悟を決めた。

 子供たちを守るため、眼前の敵を殺すための覚悟を。


「いいね、素質がある。じゃあ、ちょっと試そうか」


 ただ、その殺意を受けてもなお、フェイスの口調から余裕が消えることは無かった。



●●●



 ゲレルが使役する麒麟、ビリビリは強い。

 雷撃での広範囲の殲滅攻撃。

 雷を纏いながらの突進などの近接攻撃。

 どれもが下級の魔物ならば一撃で吹き飛ぶほどの威力を秘めており、決して弱いわけでは無いのだ。


『クォーク!』


 ならば、この状況は一体どういうことなのか?


「だ、駄目だよっ! 逃げて、ビリビリ!」


 悲鳴を上げるゲレルの眼前で、ビリビリは数多のゴーレムに集られていた。

 無論、雷によって何体かのゴーレムは吹き飛んでいる。

 しかし、魔術攻撃に耐性がある個体もあるのか、ゴーレムの大半はまだ吹き飛んでいない。破壊されていない。ダメージは受けているが、動作は十分に可能。

 従って、ゴーレムたちはまず、子供よりも先に脅威である魔物の処理を行うことにした。

 動く、動く。

 雷撃を受けようが、何度も吹き飛ばされようが、まとわりついてしがみつく。

 最初は四つの足の一つ。

 次は鬣。

 その次は首。

 次々とゴーレムがビリビリに集って、その動きを封殺していく。


「…………ううっ!」


 悲鳴を上げるゲレルの前に助けは来ない。

 だが、教導役であるナナを責めるのは些か酷だ。

 何せ、今のナナは格上も格上の魔王軍四天王、大魔導士フェイスとの死闘中。

 辛うじてフェイスの動きに食らいつき、子供たちの下へ行かせないだけで精一杯。

 いくつかゴーレムの破壊を試みても、このゴーレムは頑丈なので流石のナナも『ついで』では破壊しきれない。

 そして、子供たちの中でまともな戦力であるビリビリは、つい先ほど押さえつけられて沈黙した。死んではいないが、もう子供たちを守ることは出来ない。

 故に、子供たちの前に都合よく新たなる救援が来るような夢物語も無く。

 当然のように事態は進む。

 ゴーレムたちは子供たちを捕らえんと進む。


「ああ、もう」


 だからやはり、この状況に陥ったのも。


「トーマ兄ちゃんの言う通り、これって絶対にトラウマだよなぁ」


 ロンがゲレルの前に立ち、ゴーレムたちと対峙したのもまた、当然のことだった。

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