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第88話 A級テイマーの仕事

 テイマーとは等級に見合った仕事を任せられるものである。

 それがA級ともなれば、学生の身分であっても相応の重責を背負わされる。

 例えば、とある辺境に出現したA級魔物の討伐など。


「おらぁ!」


 もっとも、トーマはテイマー自身が殴った方が早いので、その手の仕事は一瞬で解決してしまうのだが。

 けれども、当然、仕事は戦闘面の話だけではない。

 テイマーには未開拓地の開拓を求められる。

 未だ、王国の統治が届かぬ未知なる土地を切り拓き、人類の生存圏を広げることを求められるのだ。

 そして、これはただ戦闘力があるだけでは為しえない。

 人類の生存に適した土地の選定。

 未知なる魔物、未知なる生物、未知なる植生。

 あらゆる未知を既知として安全を確保すること。

 更には、『先住民』が居た場合は交渉の下、様々な『配慮』を行うこと。

 このような高度で柔軟な対応が出来なければ、未開拓地の開拓はできないのだ。


「せいやぁ! 街一つ分の生存圏の確保完了ぉ!」


 ただ、トーマは呆れるほどに強い癖に万能だ。

 魔物をスカウトする才能は皆無の癖に、その他のことに関しては大体何でもできる。

 特に、未知なる土地でのフィールドワークは得意分野だ。

 過去に『未開拓地なら俺の仲間になってくれる魔物が居るかもしれない!』と冒険に出て、何の成果も得られなかった経験があるが故に、未開拓地の動き方に慣れているのだ。

 無論、『先住民』との交渉などお手のもの。

 そもそも、トーマという絶対的な戦力は大体どこへ行っても、畏怖と共に丁重に扱われるため、この手の交渉には最初からアドバンテージがあるのだ。

 未開拓地の開拓など、トーマにとってはお手の物だろう。


 そう、この時点で大体察しているかもしれないが、トーマは割と一人で何でもできる。出来てしまうのだ。

 病に悩む幼子のため、過酷な山の中で薬の材料を取りに行く仕事。

 余裕でこなせる。場合によっては三十分もかからない。

 各地方を収める管理者一族の護衛。

 トーマがそこに存在しているというだけで、ほとんどの障害は排除可能だ。

 未知なる珍味を求める者たちからの、未開拓地での食材確保の仕事。

 開拓の際に数十の新食材を持ち込めるので、物のついででこなせる。


 このように、トーマは大体何でもできる。

 A級テイマーの仕事も、余裕で何でもこなせる。

 当然、テイマー協会からの信頼も厚くなっていくわけだが、ここで問題が一つ。


「…………あれ? 魔物じゃなくてテイマーだけが働いている?」


 何でもできすぎるが故に、トーマが単独で仕事をこなしてしまうこと。

 テイマーだというのに、魔物の特性を生かした仕事というものが全くできていないということ。これでは、S級ウィザードである時と何も変わらない。

 そのようなことを考えたトーマは奮起した。

 必ず、A級テイマーに相応しい仕事ぶりを発揮してみせると。

 具体的に言うならば、あの癖が強すぎる仲間たちに適した仕事を割り振って見せると。



●●●



 アゼルの場合、問題はそのプライドの高さにある。

 元々、竜というものは総じてプライドが高い。

 その中でも、竜の始祖の一つである【原初の黒】たるアゼルのプライドの高さは相当なものだ。何せ、自ら決めた約束事を守るため、生理的嫌悪感が凄い相手の仲間になることを決めたぐらいなのだから。

 無論、その契約があるため、トーマからアゼルへと命令を下すのは容易い。

 アゼルも『契約だから』と渋々、どんな仕事であってもこなすだろう。

 よほど嫌な仕事があった場合は、潔く死を選ぶぐらいの拒否権は行使するが、基本的には契約に忠実だ。それがテイマーの仲間としての仕事であるが故に。


 ただ、その契約関係に甘んじてプライドの高さを押し殺させるのは悪手だと、トーマは考えている。モンスターバトルの間や、緊急事態の時は仕方がないにせよ、そうでない時はアゼルのプライドを重視する。そうでなければ、アゼルからの忠誠は一生得られないだろう、と。

 では、アゼルのプライドが満足する仕事とは何なのか?

 アゼルに気持ちよく仕事をさせるためにはどうするのか?

 その答えを、トーマは短くない付き合いでなんとなく理解していた。


「ふはははは! さぁ、人間に付き従う魔物どもよ! この吾輩に傷の一つでも付けてみるがいい! さすれば、褒美として我が息吹で屠ってやろう!」


 下級テイマーへの教導。

 この仕事をアゼルはノリノリでこなしていた。

 何故か? それはアゼルが『挑戦してくる人間たちの勇気と絆』が大好きな龍だからである。

 元々、【試練の塔】を作ったのもその趣味趣向を最大限に満喫するため。

 そして、トーマと下級の時からモンスターバトルを経験していたおかげか、それなりに手加減も上手く、ほどほどの試練を与えて、教導相手を成長させることも可能だった。


「ストレス解消にもなって、アゼル向きの仕事かもしれないね、これは」


 トーマは生き生きと試練を課すアゼルの姿を見て、自分の采配は間違っていなかったと頬を緩めた。




 シラサワの場合、問題は任せられる仕事が限られるということだ。

 本人が度々宣言している通り、シラサワの本分は研究者にある。

 スケルトンやパワードスーツなどを使って、ある程度の戦闘は可能となるものの、本領発揮は人体に関連する研究だ。

 特に、シラサワが最近開発した超人薬などは、その扱いにトーマが頭を悩ませるほどに革命的だ。これが王国に流通した場合、今の人類の在り方が変わるかもしれない。

 良くも悪くも、テイマー社会から超人社会へと変容を遂げるかもしれない。

 そう、シラサワは研究者としてとても優秀――優秀過ぎるのだ。

 得意分野に於いては、世界にすら影響を及ぼす成果を出してしまうほどに。


 故に、肝心なのは塩梅だ。

 シラサワの本分と遠く外れず、けれども得意分野には踏み入らない。

 なおかつ、シラサワの興味が満たされる仕事。


「へぇ、未開拓地の植物って面白いねぇ! 植生が魔力にかなり強く影響を受けている!」


 即ち、それは未知を既知へと変える仕事。

 トーマでも十分可能なれども、研究者であるシラサワならばより的確に、確実に判断がこなせるだろうという判断で、この仕事を任せることになった。

 当初、『えー、自分の研究があるんだけどなー』と渋っていたシラサワであるが、研究者にとって未知とは難題であると同時にご馳走のようなもの。

 直ぐに研究意欲発揮し、息抜き感覚で仕事を始めたのだ。


「上手くはいった。けれども、油断は禁物だな、うん」


 もっとも、未知と好奇心が混ざった時、思わぬ成果が生まれる可能性もあるので、きちんとトーマが監修を努めなければならないのだが。




 イオリの場合、問題は無い。

 何せ、イオリは長寿のアゼルやシラサワとは異なり、ほぼ生まれたての無垢な存在だ。

 最終兵器として設定されたはずの性格は、大分『濃い』ものではあるが、基本的に人の話をよく聞き、素直に従う柔軟性を持つ。

 アゼルのようにプライドが高いわけでもなく、シラサワのように任せられる仕事に限りがあるわけでもない。

 トーマの情報を取得した今のイオリは、トーマほどではないものの、ほぼ万能だ。

 大体何でもできる。

 しかし、その自由さは逆にトーマを悩ませることになる。

 何でもできる、何でもやれる、と言うことは即ち『何でも任せていい』というわけでは無い。

 イオリはまだ学習途中の生物兵器だ。

 何でもかんでも学びにして成長するが、逆に学んでほしくないことも学んで、成長に悪影響を及ぼすことも少なくない。

 何せ、既に仲間たちの影響を受けて、人類愛や研究への興味が芽生え始めているのだから。

 だが、それは必ずしも悪影響とは言えないし、言いたくないとトーマは考えている。

 よほど致命的な悪影響でさえなければ、自由に学び取り、思い思いに育って欲しいと願っているのだ。

 従って、トーマが悩んだ末に導き出した答えは一つ。


「マスター! 次のお仕事の概要を説明します!」


 自身の補佐として、常に共に居る仕事。

 イオリにはそれを任せることにした。

 要するに、目の届く範囲で成長を見守ることを選んだのだ。

 これは人によっては過干渉や過保護だという判断もあるかもしれないが、イオリはまだ生後一年にも満たない生物兵器だ。

 その人格や趣味趣向が安定するまで、近くで見守ることをトーマは選んだのだ。


「魔物に嫌われないってのも、変な気分だけどね」


 自分に懐き、好意的に付き従うイオリにむず痒いものを覚えながらも。



●●●



 トーマの采配は上手く回った。

 アゼル、シラサワ、イオリの三体はA級テイマーとして回される仕事を、上手くこなしていた。細かな問題は時折発生したものの、それもトーマが少し口を出せば解決できる程度

 大きな問題は無く、順調に仕事はこなされた。

 そして、トーマ自身も含めたA級テイマーとしての仕事の達成数は、時を同じくしてA級テイマーに昇格した者の中でも群を抜くこととなり、テイマー協会からの信頼を得ることになったのだ。


「ええと、『子供巡礼』の教導役? え、この俺に? 本気で???」


 そう、王国に於ける、そこそこに重要な仕事を任せられるほどに。

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