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第87話 嵐の前の静けさ

 第七十三代目パラディアム国王、カール・パラディアムは名君として広く知られている。

 暴君として奔放に振舞っていた先代の国王――父親を殺し、革命的に王座を奪取。

 先代と繋がり、悪徳を働いていた数々の貴族たちを容赦なく処刑。

 その後、剛腕の如き政治的手腕により、一気にパラディアム王国内の治安を回復させる。

 当然、父殺しにして王殺しのカールに反発を覚える者も多くいたが、その全てをカールは政争によって蹴落とした。

 あらゆる手段を用いて、自らの政策を邪魔する者――国家に仇為す者を排除し、善政を敷いたのだ。

 全ては、国家を正常に運営するために。

 全ての国民に、可能な限りの幸福を与えるために。

 カール・パラディアムという国王は、善なる王として君臨し続ける。

 いつか、相応しい後継者が現れるまで。




「魔王軍の動きが沈静化した、か。不穏だな」


 カール・パラディアムは執務室の中、一人呟く。


「あの手のテロリスト集団は、愉快犯ではない。少なくとも、『魔王軍』と名乗っている以上、奴らを束ねる魔王の存在が居るだろう。まったく、自ら魔王などと呼称する傾奇者など、ろくなものではないだろうに」


 書類にペン先を走らせる動きを止めず、カールは言葉を続けた。


「奴らの動きが止まったのならば、確実に何かの仕込みをしている最中だ。各地方の主要施設への警備を増やすように手配する。『お前たち』は引き続き、魔王軍の動向を探れ。特に、四天王を名乗る魔王軍の幹部の情報は一つでも多く欲しい。あの幹部共は明らかに特記戦力級だ。仕留めるには相応の策が居る」


 だが、いつの間にかその言葉は命令になった。

 カールしか居ないはずの空間。

 当然、返事は無い――――だが、代わりに執務室のカーテンが揺れた。

 窓は閉じられ、風もないというのにカーテンが翻る。

 その奇怪な現象こそ、カールは己の配下が行動を開始した証拠であると確認する。


「…………魔王、か」


 やがて、カーテンの揺れが収まった頃、カールは今度こそ一人呟く。


「あれほどの特記戦力たちを束ねる器の持ち主。単なる賊とは思わぬ。そして、王を名乗るというのだから、あれ以上の戦力を有していると考えると…………S級たちの招集……いや、それでは遅い…………ならば、そうか」


 ぶつぶつと自分にしかわからないことを呟き、ため息を吐いた。


「致し方ない。時が来たと思うしかないか。まぁ、最悪の備えではあるが、困ったことに、この手の勘は外れたことが無い」


 カールはまるで、普段使いしていた食器が割れたような物言いで何かを決める。

 今後、王国の存亡を左右する何かを。


「問題は『その後』だ」


 カールはペン先を止めて、窓の外から空を見上げる。

 遠く遠く、遥か上空に浮かぶ雲よりも先を見通して、言う。


「誰であっても、民のためになればいいのだが」


 何かを予言するかのように呟いた後、カールは意識を切り替えて執務を再開した。

 先ほどの呟きの意味を知る者は、カール本人を除いて誰も居ない。



●●●



 未開拓地に存在する魔王軍の居城。

 その内の一室は、娯楽用の共同スペースとして開放されていた。

 備え付けのソファーは革張りの最高級品。

 魔導機械による冷蔵庫には、キンキンに冷やした各種の飲み物。

 冷蔵庫の隣のテーブルには、魔王が暇な時に補充しているお菓子類たちが。

 そして、なんといっても目玉はイメイとフェイスという魔王軍二大開発担当が作り出した、魔導機械による『ゲーム機』である。

 魔導機械の技術が発展している王国東部でも滅多に見ない、テレビモニターと接続して遊ぶタイプのものだった。

 もはや、悪の居城の一室どころか、平穏という雰囲気が形になったような教導スペースであるが、そんな共同スペースをここ最近、占領している不届き者が居る。


「…………はぁーあ」


 それは、露骨にため息を吐く巫女装束の黒髪美少女、カグラだった。


「コトネぇ……」


 カグラは未練がましく過去の親友の名前を呟き、陰鬱にため息を吐く。

 しかも、共同スペースのソファーで横になり、占領した状態で。

 そして時折、ちらちらと周囲に視線を向けるのだから、明らかに『構って欲しい』という態度が見え見えの状態だった。


 ただ、魔王軍は現在、『とある計画』のために大忙しの最中だ。

 こういう時、渋々カグラを宥める担当であるミーナは、『とある計画』の下準備のために、魔王城には不在。

 フェイスは空間転移を使えるため、過労死になりそうなほどに大忙し。

 イメイは部下として、フェイスの負担を軽くするために奔走。

 マサムネは例によって例の如く、流浪中のために不在。

 従って、残っているのは幹部以下の魔王軍の構成員たちのみ。


「おい、誰かカグラ様の愚痴を聞いてやれよ……」

「やだよ、怖い」

「カグラ様、沸点が低くて、頭が軽いから怖いんだよ」

「引き金も軽いからな、本当に」

「でも、放置すれば放置するほど面倒になるからなぁ……」


 構成員たちは、カグラと絡むのが嫌だった。

 何せカグラは四天王の中でも、群を抜いて面倒くさい性格の持ち主である。

 その上、虐殺者だ。引き金が軽く、あっさりと民衆をぶち殺す。

 弱い人間を嫌い、弱い民衆を嫌い、たくさんの人間を殺すことを目的とする危険人物だ。

 今のところ仲間である魔王軍には手を出していないが、だからと言ってフレンドリーに接するのは無理があった。


「はぁーあ……辛い……」


 だが、カグラは声をかけられ待ちである。

 愚痴を吐き出したいのなら、自分から誰かに話しかければいいものの、誰から声を掛けられるのを待っているのだ。そう、基本的にカグラのメンタルは甘ったれである。

 虐殺者している時以外のカグラのメンタルは、甘ったれのクソガキだ。

 故に、そんな甘ったれのクソガキの愚痴と言う面倒くさい泥を被れる物は一人だけ。


『カグラよ、何か悩んでいるようだな?』


 それは、『とある計画』の準備には全く役に立たないため、暇を持て余している魔王だ。


「――――ひゃっ! ま、魔王様! ご無礼を!」


 魔王から声をかけられたカグラは、流石に飛び起きて姿勢を正す。

 甘ったれのクソガキのメンタルであっても、魔王に対する忠誠心は本物なのだ。


『良い、楽にせよ……というか、そんな敬意を払わなくとも』

「いえ、王たる貴方様と部下である私のけじめはつけなければ」

『そっかぁ』


 部下とフレンドリーに触れ合いたい魔王としては、少し残念な対応ではあるが、それでも敬意を向けられるのは悪いことではない。

 魔王は気を取り直し、改めてカグラへと問いかける。


『それで、何を悩んでいたのだ? カグラよ』

「……これは、魔王様のお耳を汚すことになってしまいます」

『良い、話せ』

「…………ははっ。実は、ですね? その…………」


 魔王から促されて、カグラは己の悩みを語り始めた。

 虐殺者として活動していたこと。

 虐殺する予定だった者たちの中に、かつての親友が混ざっていたこと。

 横槍が無ければ、そのまま殺すところだったこと。

 偶然、親友を殺さずに済んだものの、今までの虐殺という行いの報いを向けられたような気になって、どうにも次なる虐殺に赴く気が出ないということ。


『ふむ』


 それらの愚痴交じりの悩みを、魔王はきちんと全てを聞いた上で告げる。


『ならば、これからは選んで殺せばいいだけの話だろう?』

「えっ? そ、そうなのですか?」

『そうだ。これはそういう話だ。何故ならば』


 困惑するカグラへ、魔王は威厳溢れる声で告げる。


『我々は強い。強いということは、好きに選べるということだ』


 実に魔王らしい、覇気溢れる答えを。

 かつて、カグラが苦し紛れで選んだものと同じで――けれども、揺るぎない信念に基づく答えを。


『虐殺者カグラよ、我がお前を許そう。殺戮を重ねてなお、大切な者だけを掬い取ろうとする強欲を許そう。選び、殺さんとするお前の傲慢を許そう』

「――――あ」

『何も案ずることは無い。我々は魔王軍なのだ、好きに奪い、好きに殺し、好きに救うがいい』


 魔王の覇気により、カグラの悩みは吹き飛ばされた。

 俯き加減だった頭は上がり、魔王を見上げて、その瞳を尊敬と忠誠で潤わせる。


「はい、魔王様! 私、これから思う存分、好き勝手します!」

『よろしい。それでこそ、我が四天王だ』


 かくして、虐殺者は再起した。

 魔王のカリスマにより、敗北の苦悩を乗り越えて、再び悪を為すだろう。

 何度でも、何度でも、命が断たれるか、魔王が存在する限りは。

 そう、魔王軍は止まらない。

 魔王という絶対的なカリスマが君臨し続ける限り、拡大を続けるのだ。

 いずれ、『その時』が来るまで。

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