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第8話 才能を覆す者

 トーマ・アオギリがテイマーを志した理由は簡単である。

 恰好良かったから。

 幼い頃、幼馴染と共にモンスターバトルの大会を観戦した時、息もつかせぬ迫力ある試合の数々に魅了されてしまったのだ。

 魔物同士の息もつかせぬ戦い。

 魔物とテイマーの信頼関係。

 人間では到底及ばぬ力をぶつけ合い、雌雄を決するモンスターバトル。

 それらを目の当たりにしたトーマは、輝くような笑顔で幼馴染に言ったのだ。


「メアリー! おれさ、テイマーになる! すっごい、テイマーになって! いつか、こんなふうにカッコよくたたかうんだ!」


 幼馴染はトーマの宣言を聞くと、頷いて柔らかな微笑みと共に言葉を返した。


「じゃあ、私もトーマと同じテイマーになるわ。貴方と同じ道を、私も歩く」

「そっか! じゃあ、おれたちこれからライバルだな!」

「ええ、私たちはライバル。切磋琢磨する関係。互いに意識し合う関係。最初は張り合って競い合うけれども、段々と惹かれ合って、最終的に結ばれる。そういう関係になるということでいいのね?」

「うん? よくわかんいけど、たぶん、オッケー!」

「了承したわね? これ、約束よ? 破ったら駄目な約束だからね?」

「うん! おれとメアリーはライバル!」

「そして、最終的には結ばれる関係。忘れないようにね?」

「うん! おれたち、すごいテイマーになって、いっしょに、こんな大会に出ような!」

「婚約関係、忘れないようにね?」

「よぉし! そうと決まれば、魔物のスカウトだー! がんばるぞぉ!!」


 トーマと幼馴染の意思疎通は若干すれ違っていたものの、この時の約束を両者とも忘れることは無かった。

 凄いテイマーになる。

 そのためにトーマは、八歳の頃から魔物のスカウトを始めたのだ。

 しかし、トーマの故郷は王国東部の辺境。

 未だ、王国の威光が届かぬ未開拓地域の近くである。

 そのため、必然と魔物たちの脅威度も高く、子供がお手軽に魔物と触れ合える場所なんてものは存在していなかった。

 あるのは未開拓の森林――C級以上の魔物が跋扈する天然のダンジョンである。


「うおー、おれのナカマになれー!」


 そんな天然のダンジョンに、トーマは日夜入り込み、魔物のスカウトを続けた。

 無論、子供がそんな場所に入り込んだのならば、腹を空かせた猛獣たちの前に生きのいい獲物を放り投げることと同じだ。

 普通に魔物たちに食われて、骨も残らずに死ぬだろう。

 ――――トーマが普通の子供だったのならば。


「ぬおー! なぜだー!?」


 蹂躙。

 その言葉が相応しい有様だった。

 天然のダンジョンに跋扈する魔物たちは、トーマが足を踏み入れた瞬間、競い合うように襲い掛かって――――その大半が、トーマの手によって物言わぬ血肉と変えられたのだ。


「なんでナカマにならないー!?」


 トーマは普通の子供ではなかった。

 否、普通の人間の範疇ですらなかった。

 生まれながらに強く、若干八歳の子供でありながら、既にC級以上の魔物を素手で殴殺することが可能だったのだから。

 ピクニックの延長の気分で、天然のダンジョンを蹂躙出来てしまったのだから。


「ええと、『我が軍門に下れー!』は、ちがう? 『一緒に強くなる!』でもだめなの!? んもう、じゃあ、どんなセリフならナカマになるんだよぅ!」


 トーマは仲間になる魔物を探すべく、近隣のダンジョン全てを踏破した。

 その内部に居る魔物をしつこく探して回り、その全てと交渉し――そして、スカウトの拒絶を受けながら。拒絶と共に襲い掛かってきた魔物を殺しながら。

 この活動により、トーマの故郷の魔物被害は劇的に改善されることになるのだが、そんなことは当時の幼いトーマは知る由もない。

 ただ、無意味な徒労感を味わってしまったという挫折の経験だけが胸の中に残って。


「うわーん、メアリー! どうしよう!? 魔物がナカマにならないよー!?」

「大丈夫、大丈夫よ、トーマ。貴方ならきっと、凄いテイマーになれるわ。今はちょっとだけ、歯車が嚙み合っていないだけ」

「ほんとー?」

「本当、本当。だけど、もしもトーマがテイマーになれなかった場合でも、婚約の関係は継続されるから、そこは忘れないようにね?」

「うん、がんばる! おれ、ぜったいにテイマーになるんだ!」

「トーマのご両親にも、ちゃんと婚約の関係の話は通しておくからね?」


 若干、何か意思疎通にすれ違いがありつつも、幼馴染に慰められて過ごしていた。

 トーマにとってテイマーとは、憧れの職業であり――けれども、どこまでも手が届かない、夜空に浮かぶ星のような存在だったのだ。



●●●



 そして現在。


「ひゃっはぁ! そろそろ俺も混ぜてくれよっ!!」


 念願のテイマーになったトーマは、テンションを爆上げしていた。

 理由は簡単。

 対戦相手であるナナの戦いぶりに感化されたのである。

 何故ならば、ナナの戦い方というのは、幼い頃にトーマが憧れたテイマーそのものだったのだから。

 魔物と絆を交わし合い、異なる種族の魔物同士に的確な指示を送り、まるで一つの群れのように戦う。

 まるで、物語の主人公のようなテイマーに、トーマは幼い頃から憧れていたのだ。

 そんな憧れの対象が目の前に現れて、今、自分と戦っているのだ。

 これでテンションを上げるなという方が無理だろう。


「不要だ、マスター。ここは吾輩に任せて――」

「今こそ、俺とアゼルの絆の力を見せてやる!」

「吾輩の話を聞け!? そもそも、そんな絆の力なんてものを育んだ記憶はないのだが!?」

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

「頼むから、吾輩の話を聞いて!?」


 悲鳴染みた懇願をするアゼルの言葉など全く耳に入らず、トーマは考えていた。

 今、この場で投石を行えば確実に勝てるが、それはいくら何でも空気が読めていない。従って、やるべきなのは手持ちの魔物であるアゼルの強化である。

 だがしかし、トーマにはテイマーの才能が皆無だ。

 それはスカウトだけではなく、手持ち魔物の強化にも及んでいる。

 通常、普通のテイマーは魔物と契約を結ぶだけで、その魔物を自動的に強化することが出来るのだが、トーマにはその常識は当てはまらない。契約したアゼルは現在、一切の強化を受けていない状態だ。

 つまり、そんな強化状態のアゼルを補助し、強化するのならば、順当に魔術による支援が打倒なわけなのだが――――テンションが上がりっぱなしのトーマがそんな常識的な判断をするわけがない。


「おおおおおおおおおっ! 才能なんて、関係ない! 俺の力で覆す! 行くぜ! これが、俺の、絆の、力だぁああああああああああああっ!!」

「ちょ、まっ!?」


 魔物がテイマーの存在によって強化されるのは、契約によって互いの間にパスラインが繋がるからである。

 このパスラインを通して、魔物は魔力の供給を受け、それにより様々な機能を強化するのだ。

 トーマの場合、このパスラインが絶望的にか細く、アゼルはその恩恵を受けられていなかった。だが、この時、トーマは気合により無理やりそのパスラインを強引に広げ、自らの魔力を思いっきりアゼルにぶち込んだのである。


「ぐ、が!? な、なんだこの力は!? だ、駄目だ!? 肉体が、勝手に動いて――」


 その結果、アゼルは本人の希望なく超強化された。

 竜の爪にどす黒い魔力の光が纏わされて、アゼルの意思関係なく動き始める。


「っつ!? ガウ、あれは不味いよ! 逃げてぇ!!?」

『ガウッ!!』


 アゼルにもたらされた謎の超強化に、ナナは素早くガウに回避の指示を出した。

 しかし、それは無意味だった。


「あ、審判。結界を壊すかもしれないので、強化お願いします」

「…………了解しました」


 何故ならば、その一撃を放つ前、トーマは審判へと攻撃申請をしていたからだ。

 そう、つまりトーマはこう言っているのである。

 これから絶対に避けられない強力な攻撃を放つぞ、と。


「いっけぇ、アゼルぅ!!」

「やめろぉ、馬鹿マスター!?」


 そして、威勢のいい号令と、悲鳴のような叫びと共に、その一撃は放たれた。


 ――――ザンッ!!


 それはアゼルの意思に反し、勝手に結界内に迸る爪の斬撃。

 結界の強度ギリギリまで高めた威力の斬撃が、ガウが逃げる隙間もないほどに吹き荒れる。

 さながら、斬撃の嵐のように。


「う、あ……が、ガウが、微塵切りに……」


 当然、その威力に強化されたとはいえ、森狼のガウが耐えられるわけもなく。


「やったぜ、アゼル! 俺たち絆の勝利だ!!」

「二度と吾輩の肉体を勝手に浸食するな、馬鹿ぁ!!」


 才能ある者と才能無き者の戦いは、才能を覆す圧倒的な理不尽によって幕を下ろしたのだった。

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