第79話 遺伝子を提供してください
「これから面談を始めます」
「はい」
「では、ご自身の特技の説明をお願いします」
「はい。私の特技は魔導ナノマシンによる武芸百般です。あらゆる兵器、武具を魔導ナノマシンによって作り出し、インプットされた戦闘データにより、あらゆるスタイルでの戦闘が可能となります」
「なるほど……この魔導ナノマシンとは?」
「魔力で動くナノマシンです。ナノマシンとは、極小の機械の集まりであり、これが私の肉体にたくさん内臓されています。この魔導ナノマシンは変幻自在。武器にも兵器にもなり、自身の姿を変身させることも可能となります。その応用として、多少の負傷ならばその場で修復可能です。使い終わったナノマシンは排出され、また新しいナノマシンが体内で製造されます」
「ふむ。ご自身の活動時間の限界は?」
「老化などの制限はありません。最終兵器なので」
「よくわかりました。では最後に、これからの意気込みをどうぞ」
「ありとあらゆる障害を駆逐し、最終兵器としての性能を発揮したいです」
「ありがとうございました。面接は終了です。合否は…………どうするかなぁ」
「ここまで来て、落とされる流れなのですか、私は!?」
マキナを倒して滅亡世界を救った後、トーマたちは元のシェルターに戻ってきた。
この後、どう行動するにせよ、とりあえずはオメガへ報告にしなければならない。
そのような判断でシェルターに帰還し、諸々の経緯と結果を説明。
無事に滅んだ世界の後始末を終えて、後は新たなる仲間を迎えるだけ、だったのだが。
「いや、連れて行く流れだったのは分かる。俺も新しい仲間として歓迎する気は満々だった。だけど、面接ごっこをしていてちょっと考えたことがあるんだよ」
「それは一体?」
「多分、元の世界に戻ったらお前、接収される流れになるなぁ、って」
「接収!!?」
新たなる仲間を切望していたトーマだったが、ふと死闘を終えて冷静になってみると、当たり前の事実に気づいたのだ。
そう、この屠龍の八番という最終兵器、異世界の技術の塊だなぁ、と。
「いや、元々『人類が滅んだ世界の原因調査』でやってきたわけなんだよ、俺。一応、その調査は万事解決で問題は無いんだけど、依頼調査でやって来ている都合上、事後報告は必要不可欠というわけで。多分、いや、絶対、屠龍の八番について説明することになる」
「いいではないですか! どんどん、私の凄いところを説明してあげてください!」
「説明したら多分、『こんな異世界の技術の塊、漏洩するのが怖いからこっちで管理ね!』と言われる気がするんだよなぁ」
「そんなぁ!」
屠龍の八番に内蔵された機能、魔導ナノマシン。
この仕組みを解析するだけで、パラディアム王国には莫大な利益が生まれることだろう。
そして、その機会を魔法学園及び、テイマー協会が見逃すとは思えない。
加えて、屠龍の八番はあくまでも『最終兵器』だ。
人権のようなものを考慮される立場にあるかは微妙であり、場合によっては物品扱いされるかもしれない。
「私、嫌です! 接収されて研究材料にされるのは!」
「多分、そんな雑な扱いはされないと思うぞ? 精々、一日に何度も検査を受ける程度で。後は研究施設の中なら、ある程度の自由は認められている」
「嫌です! そんなことになったら、私は暴れます! 最終兵器としての性能を生かして、貴方の故郷に黄昏を訪れさせます!!」
「なるほど」
「大体、私と貴方は契約を結びました! 貴方の魔物になると契約したのです!」
「――――わかった。確かにお前の意思は確認した」
だが、それは全て、トーマがS級テイマーでなければ、という話だ。
単独で国家転覆すら可能なほどの武力を持っていなければ、という仮定だ。
「どうにかする」
「どうにかとは?」
「こう、グーを構えながらにこやかに偉い人とお話」
「武力行使を前提とした交渉!?」
「後は、何かこの世界から使えそうな遺物を回収できれば、飴と鞭の交渉術が完成する」
トーマほどの戦力を持ち、数多の実績を持つ者ならば、ある程度の『わがまま』は通る。
無論、その過程で色々と面倒なしがらみが増えることになるのだが、それを差し置いても、屠龍の八番は仲間にしておきたいとトーマは思ったのである。
性能の高さもそうだが、何より、『自分の魔物になりたい』と言ってくれた相手は初めてだったが故に。
デメリットを受け入れてでも、屠龍の八番を仲間にすることを決意したのだ。
『《ならば、私がいくらか手ごろな技術を提供しましょう。電子データだと互換性の問題があるので、全て紙媒体でお渡しします》』
「ありがとう、オメガ。でも、かなりの重さにならないか?」
『《空間魔術、使えるのでは?》』
「まぁ、使えるけどね…………研究者たちには不便を強いるが、仕方がないか」
そして、この世界の機械生命体であるオメガの援助を受けるのならば、そのデメリットは限りなく少なくすることが可能である。
何せ、最終兵器という成果物を解析、研究するよりも、最初から技術をわかりやすく提供してくれた方が、あらゆる手間が省けるのだから。
この技術提供という飴があるのならば、大抵の者はトーマとの敵対を避けて、大人しく屠龍の八番を諦めるだろう。
「つまり、私の異世界セカンドライフは問題なく保障されると?」
「そうなる……いや、そうする。仲間になると言ってくれたのならば、俺はテイマーとしてその義務をしっかりと果たす。これは絶対だ」
「来訪者……いえ、マイマスター!」
屠龍の八番は煌めく笑顔を見せつつ、がっしりとトーマの手を両手で握った。
「では、早速、マスター登録をお願いします!」
「おうとも。それで、方法は?」
「遺伝子を提供してください」
「んっ?」
「遺伝子を提供してください」
トーマは煌めく笑顔の屠龍の八番を眺めた後、若干、引きつった笑みで訊ねる。
「具体的には?」
「それはもちろん! 古来、美少女型の兵器への遺伝子提供と言えば――」
『《血液提供で十分ですよ、来訪者》』
「了解! おらぁ!!」
「もがぁ!?」
場が気まずくなるような下ネタを封殺するため、血を流した親指を屠龍の八番の口に突っ込むトーマ。
些かモラル的に問題のあるやり取りではあるものの、屠龍の八番がやろうとした行為よりは遥かにマシな光景だった。
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「異世界の技術と私の技術! そのコラボレーションが必要なんだよー!」
「……つまりは?」
「屠龍の八番ちゃんを改造したい!」
トーマが屠龍の八番のマスター登録を終わった頃を見計らい、シラサワが元気よく挙手した。
研究者として、異世界の技術の塊である屠龍の八番に是が非でも、手を出してみたいという要求があるのだろう。
「ふむ。屠龍の八番の意見は?」
「いくら今後仲間になる相手でも、体を弄らせるのはちょっと」
「オメガちゃんと一緒にやるから! 安全は保障するから! それにほら! 強くなれるよ!」
「強く……?」
「マスターの規格外の力を見たでしょー? 私の現在の研究テーマは、あの力を解析して、可能な限りあれに近づけるように他者を強化することでね? 今ならなーんと! 私の研究成果を使って確実に強くなれます!」
「本当です?」
「本当、本当! 研究者嘘つかない!」
このような流れの後、三十分ほどの説得を加えた結果、疑いつつも屠龍の八番はシラサワとオメガという異世界コラボレーションに改造を任せることに。
トーマとしては本人の納得の上なら問題ないので、改造中、暇な時間を使ってアゼルと命名に関する相談をすることにした。
「竜の文字は付ける?」
「無理に前の名称に寄せなくてもいいだろ」
「そう? いや、俺は屠龍って強そうなイメージがして好きなんだけど」
「それでも、相手は女の子だぞ? 可愛らしいもの方が良いのではないか?」
「む、確かに一理ある」
「こういうのは、どのように生きて欲しいのかで考えることが多いらしいが」
「そうなると、強さ優先というよりは、こっちの世界でもきちんと居場所を見つけて生きて欲しいという意味で……後は音の響きを優先して……」
結局、トーマとアゼルの相談は、屠龍の八番の改造が終わるギリギリまで続けられたという。




