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第75話 滅んだ世界の滅んだ理由

 思い出すのは『絶死』の空間。

 敵対者が作り上げた恐るべき『架空世界』の領域。

 空は錆色。

 大気は重度に汚染されており、常人は呼吸を三度繰り返すだけで絶命に至る。

 大地は灰色。

 地面は触れるだけで対象の生命力を奪う、特殊領域だ。


 ただ、存在しているだけで死を免れないような空間。

 けれども、この空間はあくまでもただの『戦いの舞台』に過ぎない。

 本当の脅威は、銀色の破壊者だ。


『あはははっ! はははははははっ!!』


 哄笑と共に放つは、惑星を滅ぼすほどの威力を持ったエネルギーの塊。

 視線に混ぜ込むのは、視認しただけで対象の心臓を止める呪い。

 周囲に展開するのは、ブラックホールの如き、あらゆるものを吸い込む暗黒。

 銀色の破壊者――銀の鱗を持つ人型の竜は、完全に条理を逸脱した存在だった。

 その戦闘力たるや、一つの惑星、一つの世界に収まるものではない。

 生命体としての限度を超えて、別の何かになり果てた存在。

 超越者という言葉が相応しい怪物だった。


「はぁ、はぁ、はぁっ――げほっ」


 相対するは満身創痍のトーマ。

 左腕はへし折れて。

 右足は肉が半分ほどそぎ落とされて。

 左腹部は致死の毒が含まれた結晶で貫かれて。

 右目から右頬へと縦に刻まれた傷がある。

 呼吸と共に、何度も血を吐き出して、今や、魔力を練るだけでも筆舌しがたいほどの苦痛が全身を襲っている。


「しぶとい奴め」


 だが、トーマの右手には脈動する赤い塊――敵対者の『四つ目の心臓』があり、それを吐き捨てる言葉と共に握り潰した。


『素晴らしいわ、貴方』


 銀の竜は歌うようにトーマを称賛する。

 少女のような声で、己を傷つけたトーマへ熱情を送る。


『最初は取るに足らない【世界最強】だと思った。どの世界にも居るような、ただ強いだけの人間だと思った。でも、貴方は違う。貴方は追い詰められれば追い詰められるほど本領を発揮して、ついにはこの私に追い付いた』


 歓喜の声を上げる銀の竜へ、トーマは吐血を繰り返しながら尽きぬ殺意を向けた。


『【銀の破壊者】、【放浪する悪竜】、【終わる世界のマクガフィン】とも呼ばれたこの私に。ただの人間が。覚醒を繰り返して、ついには超越して見せた』


 銀の竜は向けられた殺意を心地よく感じているのか、その声には艶やかな色が混じる。


『一体、貴方はどうしてここまで出来るの?』

「…………うる、せぇ」

『吐き捨てる悪態は誰のため?』

「お前は、俺が、殺す」

『あの特異点の少女を助けるため? つまりは愛? それとも恋? あるいは信念?』


 銀の竜とトーマの会話は噛み合わない。

 ただ、お互いに言いたいことをぶつけ合っているだけのドッチボールだ。


「お前の存在を、俺は許さない」

『素敵ね。貴方の存在を謳わせて欲しいわ、死と絶望の中でも輝けるのだって』


 けれども、結論は同じ。

 相手を殺す。

 敵意と殺意。

 歓喜と興味。

 二者の感情は交差しながら、世界の命運を決める戦いは再開されて。



『お見事。だけど、私はまだ死なない。次はもっと楽しく遊びましょう?』



 一週間に及ぶ死闘の末、痛み分けの結果に終わった。

 銀の竜は肉体の急所を全て潰され、リソースの大半が枯渇。

 異なる世界へと逃げ去った。


「二度と、来るな……っ! この、災厄めっ!!」


 トーマは魔力が枯渇。

 四肢の半分が潰れて、顔には消えぬ傷跡が刻まれることになった。


 これが、トーマにとっての最悪にして災厄の記憶。

 己の全力を持っても倒し切れぬ仇敵との、邂逅の思い出だった。



●●●



『《始まりは一つの隕石でした》』


 スピーカーから響く合成音声に、トーマははっと意識を取り戻した。

 どうやら、ほんの一瞬、忌々しい過去を想起していたらしい。


『《その隕石は一つの都市を吹き飛ばし、この世界に落ちました。死者が百万人を超える大災害となりましたが、本当の悲劇の始まりはそこではありませんでした》』


 複数のモニターに映るのは、隕石によって滅んだ都市の跡。

 巨大なクレーターと、それを為した隕石と思わしき物体だ。


『《隕石には未知のレアメタルが含まれており、それは文明の発展に繋がるのだと多くの研究者たちが好奇心に憑りつかれました。百万人の犠牲はあったけれども、それを無駄にしないためにも研究を続けなければならない。主に、こんなお題目で隕石の研究は進められて、そして、研究者たちの思惑通り、我々の文明は飛躍的に発展しました》』


 次いで、隕石内のレアメタルの構造。

 レアメタルを用いた数多の発明品の説明。

 レアメタルによって発展した文明の街並み。

 そんなものがモニターに映されていく。


『《やがて、研究者たちは未知のレアメタルを既知にすることに成功しました。特殊条件下に限り、そのレアメタルを新たに製造することが可能となったのです》』


 やがて、モニターには満面の笑みを浮かべる人たちが。

 そんな人たちの首元には、首輪のようなデバイスがある。


『《最初は国家が有するレベルの特別な演算装置。けれども、レアメタルが量産されることにより、それは段々と一人一台所有することが可能なほどに行き渡りました。高度な演算装置のおかげで、多くの人は労働から解放され、巨大な電子ネットワークを作り上げることにも成功しました。ええ、この時が我らの世界の全盛期だったのです》』


 モニターに映るのは、かつての文明が生み出したもの。

 多種多様な娯楽。

 充実した福祉ネットワーク。

 高度な知性を宿した機械生命体の創造。

 トーマたちの世界には存在しない、高度に発展した文明が作り上げたものたち。

 けれども、それらの映像にノイズが走る。


『《全てが、【放浪する悪竜】の掌の上だとも気づかずに》』


 ノイズが走った後、映像はグロテスクなものに差し変わった。

 それは、体の一部が奇妙に肥大化した患者たちの映像。

 まるで、肉の果実でも熟れているのかというほどの腫瘍が、その患者たちにはあった。


『《始まりは、体の一部が肥大化する病気の発症と流行。当時は原因不明の病の流行ということで、多くのパニックによる悲劇が生まれました。ですが、それは異変の一段階目に過ぎなかったのです》』


 映像が変わる。

 体の一部が肥大化した患者から、体が異形に変わりゆく患者の映像へと。


『《次に、体が肥大化した患者が変異し始めました。人間では無い何者かに変異し、段々と患者は理性を失い、凶暴化していきます》』


 映像が変わる。

 辛うじて人間だった患者から、完全なる異形――『首なしの竜』へと変貌したモノへ。


『《変異が進むほど凶暴化は進み、やがて、首が落ちることによって、それらは完成系へと至ります。悪竜の眷属へと、至ってしまうのです》』


 そして、映像が最初へと戻る。

 空全てを覆い尽くすほどの、首なし竜の映像へと。


『《ここでようやく、生き残った人類は原因を解明しました。隕石から発見されたレアメタル。あれは人類を悪竜の眷属へと変えてしまう『感染媒体』だったのです》』


 淡々と紡がれる合成音声に、少しの雑味が混じる。

 怒りに似た感情の声が混じり、それは滅亡の結末を語る。


『《気づいた時には手遅れでした。既に、人類の大半が感染済み。感染に耐性のある人類を集めてシェルターに籠るも、首なしの竜たちは互いに食らい合うことで際限なく、凶悪に強化されて行きます。結果、多くのシェルターは首なし竜たちに滅ぼされて、そして》』


 映像は消える。

 残るのは真っ黒な画面のみ。

 故に、滅亡の顛末はスピーカーから流れる音声によって決定づけられた。


『《あの悪竜は、最後の最後だけ姿を現し、人類の生き残りに告げたのです。一つの隕石から始まった侵略計画を。一つの人類を滅亡させるための策略を。挙句、最後の最後》』


 ――――実につまらない滅亡だったわ。こんなの、前菜にもならない。


『《心底、こちらに失望した声で、そう言ったのです。あれは、最後に残った人類の尊厳すらも踏み躙って…………私たちの世界の人類は滅亡しました》』


 策略と悪意に踊らされた滅亡。

 それが、アポカリプス世界、第七十五番が滅んだ理由だった。


『《故に、来訪者へと警告します。私たちの悲劇と滅亡を持って警告します。役割を果たせなかったガラクタ――人類支援型機械生命体オメガが願います。どうか、貴方たちの世界を悪竜によって滅ぼされぬように》』


 だからこそ、オメガは言うのだ。

 願うのだ。


『《我らの希望を、間に合わなかった最終兵器を託します》』


 滅亡してしまった世界に遺された希望、それが他の世界の守護者とならんことを。

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