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第73話 異界門・開門

 テイマーの仕事は多岐にわたるが、その本分は『人類の領土の拡大』だ。

 古代種から新種まで跳梁跋扈する未開拓地に赴き、人類の生存域を広げる。

 魔物と共に困難を乗り越え、時には襲い掛かる野生の魔物と交渉し、上手くことを収める。

 そして、開拓した地域から新たなる資源を確保し、人類をさらに潤わせていく。

 これがテイマーに求められている責務である。


 ただ、当然ながら物事には適性というものが存在する。

 未開拓地を切り拓くことを得意とするテイマー。

 牛馬を管理することに長けたテイマー。

 魔物の素材からあらゆる物を作る技術を持ったテイマー。

 これらを全てまとめて、未開拓地に放り込むわけでは無い。

 開拓が得意なテイマーは、未開拓地へ。

 畜産業が得意なテイマーは、牧場へ。

 物作りが得意なテイマーは、製作所へ。

 適材適所を心掛けなければ、折角の有能なテイマーを失いかねない。

 従って、テイマーを育成する学園には大抵、テイマーの適性を検査するための授業というものが存在する。

 もっと身も蓋も無く言ってしまえば、『開拓に向いているかどうか?』を判別するレクリエーションが存在するのだ。


 だが、当然ながら未開拓地の開拓に向いているかどうかを判別するために、未開拓地に連れて行っては本末転倒。

 多種多様な危険が盛りだくさんの未開拓地では、テイマーの卵などは一日もろくに生き延びることは出来ないだろう。

 故に、レクリエーションというのは大抵、ある程度の安全が確保された場で行う。

 例えば、山深くの森林。

 例えば、低難易度のダンジョン。

 例えば、未開拓地を再現した施設。


 そして、そんなレクリエーションの中に、変わり種のものが一つ。

 限りなく未開拓地に近く。

 けれども、ある程度の安全は確保されている。

 もしかしたら、未開拓地と同様に、思わぬ資源や発見があるかもしれない。

 それが、『異界渡り』というレクリエーション。

 この世ならざる異世界へと、テイマーの卵たちを送り込む、過酷なレクリエーションだ。



●●●



「わかっている者も多いと思いますが、念のために『異世界』について説明します」


 トーマたちのクラスの担任、フェイ・スメラギは淡々と語る。


「異世界とは文字通り、『この世界とは異なる世界』です」


 背後に巨大な石造りの門――『異界門』がある状態で、学生たちへと説明する。


「まず、大前提として『異世界』はあります。我々とは別の人類、文明、魔物、それらが存在する世界はあります」


 異世界に関わる基本事項。

 されど、どんな賢者でも完全には理解しきれていない、異世界の実在について。


「我々は神人が遺した遺産により、それらを観測し、補足。空間を繋げて、転移することが可能ですが、あくまでも異世界。場合によっては、大気中の温度が我々にとっては致死となる世界も存在するかもしれません」


 学生たちの反応はまばらだ。

 『そんなことは知っている』とばかりに話を聞き流している者。

 異世界の危険性を知っているのか、戦々恐々としている者。

 あるいは、異世界という言葉にロマンを感じて目を輝かせる者も居る。


「従って、私たちは異世界へと転移する際はまず、この異界門を通じて『検索』をかけます。アーキタイプ理論に則って、我々の生活環境と限りなく近いものを無数の異世界の中から絞り込み、そこからさらに、異世界を探し出す用途に合わせての『検索』を行うのです」


 そして、そんな学生たちを眺めるフェイの表情は平静。

 いつもの恒例行事であるため、何度も繰り返したことのある担任教師はテンションが上がらない。緊張感もさほどない。

 それはつまり、これから行く異世界というのは、さほど危険な場所ではないということ。


「貿易を目的としているのならば、文明が栄えている異世界へ。あるいは、こちらの資源を高く買ってくれる文明の異世界へ。未知の技術を求めているのならば、高度に発展した文明を持つ異世界へ。もちろん、この手の『検索』はさほど都合良くは無く、メリットと同等のデメリットが存在しているわけです」


 一拍置いて、わざと固くした口調でフェイは言う。


「異世界の文明との接触は、魅力的でありながらも慎重に行わなければなりません。そうでなければ、世界間での戦争が勃発することもあります。というか、過去にいくつかありました。故に、我々は異界門を正しく運用しなければならないのです」


 警告を終えて、フェイの口から「ふぅ」と小さく息が漏れた。

 固い口調を解除した後、再び淡々と語り始める。


「なので、我々がこれからレクリエーションに向かう異世界は、『既に人類が滅んだ世界』です。種別はポストアポカリプス。既に、王国の調査隊によって安全圏は確保済み。人類は滅んでいますが、現地の動植物、魔物に該当する生物も確認されています。絶対はありませんが、比較的安全な異世界と言えるでしょう」


 フェイの言葉に、学生たちの何割かはほっと胸を撫で下ろし、もう何割かは『バカンスの始まりだ!』と言わんばかりの笑みを浮かべた。

 そんな学生たちの反応に、フェイは僅かに眉を動かしつつも、言葉を続ける。


「ですが、油断はしないように。未開拓地ほど危険ではなくとも、私たちがこれから向かうのは異世界。この世界とは異なる未来を辿り、滅んだ世界です。今回のレクリエーションはあくまでも、様子見程度。滞在期間は三日間。目標は生存。為すべきことはただそれだけです。この門をくぐった後、もう一度この場に戻る時、人数が減っていないことを願います」


 異界渡りに伴う、異界門の開門。

 異世界というワードに、一年生の学生たちが浮足立つのも例年通り。

 故に、フェイは密かに心の中でこれから起こるであろうトラブルを予測し始めていた。

 何故ならば、人間というのは大抵、これでもかと言うほど対策と警戒を重ねたとしても、やらかすときはやらかしてしまう存在なのだから。



●●●



 つまりは、トーマの秘策とはこの異界渡りである。

 この世界の魔物に集合無意識レベルで嫌われている。

 ならば、どうすればいいのか? その答えはシンプルだった。

 別の世界の魔物と契約を交わせばいい。

 別の世界に行って、強い魔物を探してスカウトすればいいのだ。

 なお、『異世界での魔物のスカウト』に関しては、本来ならば諸々の面倒な申請やら資格などが必要となるのだが、そこはS級ウィザード。

 こういう時にこそ、特権は活きるのだ。

 本来ならば数多の面倒な手続きがあることでも、S級ウィザードならば、少しの手続きで問題無し。

 トーマは誰に憚ることなく、異世界の魔物をスカウト可能となったのだ。

 ただし、当然ながら立場と資格には相応の責務が付き物である。


「ポストアポカリプス世界第七十五番の調査を行って欲しい。可能であれば、人類滅亡の原因の究明を求める」


 トーマは異界渡りに伴い、魔法学園――否、王国から一つの依頼を出された。

 それは、未だ調査隊が辿り着けていない謎の究明。

 これから向かう異世界の人類は、何故滅んだのか?

 この謎を解き明かす――もしくは、その手がかりとなるものの調査を求められたのだ。

 無論、断ることも不可能ではない。

 トーマは強い。飽きられるほどに強い。その上、既に今年、踏破不能ダンジョン【神人の遺品窟】の攻略という実績を成し遂げている。

 S級ウィザードとしても、しばらく遊んでいても問題ない実績だ。

 だが、トーマはこの依頼を断らない。

 何故か?

 都合が良いからである。

 学園のクラスメイト達から離れて、単独行動するための口実として。

 強い魔物を探すための理由付けとして、『世界の崩壊理由の探索』という依頼はこれ以上無くうってつけだったのだ。

 こうして、トーマは学園のレクリエーションを最初から離脱する権利を得た。

 もう既に、トーマはテイマー科の学生としては破格どころか、逸脱しているような存在になり果ててしまっているのだが、それはある意味元々なので仕方がない。

 むしろ、望むところだとして、トーマの異界渡りは単独で行われることになった。




「来訪者へ要求します。我々の世界の後始末を手伝ってください」



 そして、例によって例の如く、トーマはやはりやらかすことになった。

 それも、世界規模に及ぶ一大事を。

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