表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/154

第65話 舞台の裏側で

 トーマ・アオギリがS級ウィザードの資格を得たのは、偏に実利のためである。

 幼少の頃、テイマーを志したものの、トーマにテイマーの才能は皆無。

 まるで魔物がスカウトできない。

 町周辺の魔物たちにあらかた声をかけても拒絶されるのみ。

 ならば、とトーマは希望を他の町やダンジョンへと向けたのである。

 この場で駄目ならば、違う場所でスカウトしてみよう、と。


 しかし、当時のトーマはまだ子供。

 いくら魔物を片手で縊り殺せる実力の持ち主とはいえ、流石の両親も認めない。

 ついでに言うならば王国の治安機関も認めない。

 認めてもらうためには、相応の立場というものが必要になった。

 故に、トーマはウィザードの資格を取ることにしたのである。


 Ⅾ級の資格を取った時は、誰もがトーマを子ども扱いしていた。


「困ったことがあったら何でも相談しなさい」


 先輩テイマーなどが、朗らかに笑いながら手を差し伸べる程度には、微笑ましく見られていたのである。


 Ⅽ級の資格を取った時は、トーマは天才少年扱いだった。


「ううむ。その魔力量に魔術の冴え……やはり、天才か」


 試験官となったウィザードが、思わず唸るほど周囲から期待されていた。


 B級の資格を取った時、トーマは規格外扱いをされ始めた。


「英雄個体……いや、それだけでは説明ができない……なんだ『これ』は?」


 王国の研究者たちが、こぞってトーマのことを研究し始めた。


 A級の資格を取った時、誰もがトーマのことを恐れ始めた。


「人類のバグ……そうとしか思えない……このまま成長すれば……」


 未知なるトーマの力に恐れ慄いた何人かがトーマを暗殺しようと試みたが、その全ては失敗した。もう既に、この時のトーマはほぼ人類最強クラスの力を得ていたが故に。


 S級の資格を取った時、王国がトーマの情報を制限し始めた。


「無用の混乱は避けるべきだ。たとえ、それが虚しい先延ばしだとしても」


 周囲も、王国という国家でさえも、トーマの力の凄まじさに気づいていた。

 気づいていながらも、対応することが出来なかった。

 力づくでの拘束?

 論外。力で何とかなるのならば苦労はしない。

 搦め手による排除?

 無意味。危機的状況下でのトーマの直感は未来予知レベルだ。

 欺瞞による懐柔?

 不可能だ。ハニートラップを仕掛けようにも相手は子供。その上、既に隣には月の愛し子たるメアリーが居る。その席を取ろうとするものをメアリーは許さないだろう。

 外道による脅迫。

 失敗だった。トーマの戦力を手中に収めようとした組織はいくつも存在したが、その全てが家族や知人、友人への接触を試みて――――何もできずに壊滅した。

 どうやら、トーマにはその手の外道を行う輩に対して、特攻の『何か』を用意していたらしい。そう、トーマはS級ウィザード。その尋常ならざる強さばかり目に行くが、魔術を組み立てることに関しても超一流なのだ。


 規格外の戦闘能力。

 あらゆる搦め手をへし折る、超一流の魔術。

 この二つが組み合わさった、紛れもなく最強のS級ウィザードであるトーマ。

 そんなトーマに対して、多くの組織はもちろん、王国でさえも同じ対応を取った。

 即ち、『放置』である。

 神人のアーカイブにあるように、触らぬ神に祟りなし。

 どうにもならない相手には、関わらない。

 そういう選択肢を取ったのである。

 そして、それは最善だった。

 何せ、トーマは世界侵略を企む悪のカリスマでもなければ、世界崩壊を狙う破滅の使途でもない。

 単なる、テイマーを夢見る子供だ。

 放置していれば、万事平穏。

 むしろ、下手に誰かが手出ししないように、情報統制をきっちりと敷いて、その結果、トーマは最年少S級ウィザードでありながら、ほとんど噂になることなく過ごしていた。

 これにより、王国は扱いづらいにもほどがある人材に対して、どうにかこうにか一応の折り合いは付けていたのである。

 トーマがテイマーとしての躍進を始めるまでは。


 考えてみて欲しい。

 ただでさえ最強な力を持った人間が、強力な魔物を集め始めた時の周囲の反応を。

 【試練の塔】という高難易度ダンジョンを踏破し、【原初の黒】を仲間にして。

 【神人の遺品窟】という踏破不能ダンジョンを踏破し、神人のリッチーを仲間にして。

 その上、港町では【原初の青】を討伐して見せたのだ。

 王国を始めとした各種の組織は、混乱と共に戦々恐々した。


「くそっ、ついに動いたか! 黙示録の獣め!」


 王国の治安機関のトップは、トーマのことを物騒な異名で呼んで。


「来るな、混乱が……くくく、稼ぎ時か」


 王国に潜む非合法の組織のトップは、来るべき混乱を待ち望んで。


「多分、あの子は普通にトップテイマーを目指しているだけだろう」


 王国のトップたる国王だけが、正しくトーマのことを理解していた。

 けれども、トップだけが理解していても、その理解度を他人に共有することは出来ない。

 何故ならば、トーマが強力な魔物を集めていることは事実であり、やろうと思えば前代未聞の大事件――否、力による革命を成し遂げることすら可能なのも事実なのだ。

 王国としても、何かしらの対応を取らざるを得ない。

 取らざるを得ないが、トーマは下手に触れると火傷どころでは済まないアンタッチャブル。

 何かしらの干渉をするためには、まず綿密な調査が必要となる。

 故に、B級トーナメントに於いて、その先陣が切られたのだ。


「トーマ・アオギリ。君は、何をしようとしている?」


 王国の諜報機関、その長である第三王子によって。



●●●



 ジョン・ドゥはもちろん偽名である。

 パラディアム王国第三王子が、テイマーとして活動する際に用いる『正式な偽名』だ。

 国家ぐるみの偽装であるため、戸籍もきちんと用意されている偽名だ。

 そして、第三王子は情報管理を徹底する人間だ。

 テイマーとして動いている時、部下であろうとも他の名前は呼ばせない。

 些細なこだわりかもしれないが、第三王子――ジョンはこういう細部を徹底するからこそ、機密情報というのは守られると信じているのだ。


『トーマ・アオギリの特徴として、強い者へと関心を示す癖がある』


 そして今、ジョンは盗聴防止の防音結界を張った上で、控室で部下たちと今後の予定を確認していた。


『奴の懐に潜り込むためには、奴の記憶に残るほどの強さが必要だ。だが、ウィザードとしての奴の実力は規格外。彼の最強の騎士が存命であれば、協力を頼んだかもしれないが、魔王軍によって殺されてしまっている。従って、我々には奴の記憶に残るほどの強者は用意できない』

「……ただし人間では、ですか?」

『ああ、その通りだ。僕には契約した魔物たちが居る』


 ジョンは部下の言葉に応え、頷く。

 ジョン自身はさほど強くなかったとしても、ジョンが使役する魔物は強力だ。

 B級トーナメントでは明らかに、過剰戦力となってしまうほどに。


『総合的な戦闘能力としては、僕も含めた誰もトーマ・アオギリには勝てない。だが、このB級トーナメントならば、テイマーとしてならば、僕は奴に勝てる』

「記憶に残る、ではなく、勝利が目的でしょうか?」

「戦力的には可能ですが、勝ち方によっては敵対するのでは?」

『いいや、事前のプロファイリングによれば、トーマ・アオギリはそういう場合はむしろ興味を持って近づいてくる可能性すらある。故に、最善は奴と戦って勝利すること。そして、それをきっかけとして奴と交友関係になる』


 要するに、国家規模の『仲良し作戦』であるが、馬鹿には出来ない。

 規格外な力を持つトーマに対処するのだ。

 警戒はし過ぎても足りないぐらいだろう。

 もっとも、トーマは単にトップテイマーを目指すために真面目に昇格を目指しているだけなのだが、そんなこととは露とも知らず。


『トーマ・アオギリは一度懐に入れた人間に対して甘い。無論、譲れぬ一線を越えればその限りではないが、逆に言えばその一線さえ保てば、滅多に拒絶されることは無い。後はじっくり、僕の話術で奴から真意を探り出す』

「……王子自ら行かなくとも、我々『影』が応じますのに」

『現状、諜報機関で奴を倒せる可能性のあるテイマーは僕だけだ。そして、僕が契約した魔物は僕の命令しか受け付けない。消去法という奴だ』


 それに、と言葉を続けてジョンは言う。


『興味があるのだよ、僕は。奴が何のために、律儀に昇級トーナメントに参加しているのか。それを探るためには、一度思い切り戦うのも悪くはない』


 疑念と興味、そして期待が入り交じった言葉を。

 諜報機関の長としての言葉でも、王子としての言葉でもなく、テイマーとしての言葉を。


 こうして、トーマのあずかり知らぬところで事態は進む。

 約束された、『肩透かしの結末』へと進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ