第58話 B級トーナメント
テイマーはA級から一人前のプロとして扱われる。
故に、B級からA級への昇級はかなり厳しく審査される。
単にトーナメントに勝ち進めばいいというものではない。
それ相応の実績というものがなければ、B級トーナメントにエントリーする資格すら得られないのだ。
従って、B級トーナメントに挑む者たちは誰もが一定以上の実績を持つ者ばかり。
下級のトーナメントのように、偶然、弱い奴に当たって運よく勝ち進む、なんてことは起こらない。何故ならば、参加する誰もが実力者であるからだ。
その上、B級トーナメントは単に全力を出して勝ち進めればいいというわけでもない。
トーナメントの形式上、戦えば戦うほど、その情報は他の参加者たちに漏れてしまう。
これは下級のトーナメントも同じことではあるが、B級トーナメントの参加者たちは誰もが、プロになろうと必死の場だ。当然、対戦相手となる人物の情報収集は怠らない。情報収集をした上でなお、その情報に対応できるだけの地力もある。
トーナメントの序盤を圧倒的な力で快勝していた実力者が、終盤に対策に対策を重ねた相手に負けることも珍しくはない。
そう、テイマーにとってB級トーナメントは一種の登竜門であり、また、鬼の棲み処でもあるのだ。
「よし、行くか」
そして今、才能が皆無だったテイマーが、トーマ・アオギリというテイマーが、B級トーナメントへと挑まんとしていた。
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B級トーナメントには専用のスタジアムで開催される。
何故ならば、この等級になってくると魔物たちの強さが今までと段違いになってくるからだ。
すると当然、小型の対戦結界程度ではカバーしきれないほどの大規模戦闘も行われることもある。
あるいは、巨大すぎるが故に、対戦結界内に収まらない魔物なども。
だからこそ、B級トーナメントは『バトルフィールド』を展開可能なスタジアムで行われるのだ。
一試合ごとに、結界ではなく『戦闘空間』を発生させ、その内部でモンスターバトルを行わせる。B級以上のトーナメントでは、主にこのやり方で進めて行くのだ。
とはいえ、対戦結界とは勝手が違うのは確か。
だからこそ、B級トーナメントに参加するテイマーたちは、トーナメントが開始される前に、バトルフィールドの体験ができるわけである。
「ふぅむ」
かくいうトーマも、早速バトルフィールドの確認を行っていた。
「広さは十分。この空間内なら、アゼルが真体を解放しても問題ないな」
バトルフィールド内の光景、まっさらにどこまでも広がる平原を眺めて、トーマは真面目な顔つきで頷く。
「強度は…………ふむ、普通に使う分には大丈夫か。シラサワなら全力を出しても問題ない。ただ、アゼルの場合、固有魔法は封印した方がよさそうだ。というか、あいつの固有魔法はあらゆる魔法に対して特攻だからな。試合中は使えないと考えた方がいい」
ぶつぶつと呟きながら、トーマはバトルフィールドを魔術的に調べていた。
どこまでの威力の攻撃に耐えられるのか?
空間系の魔術の発動でも問題ないのか?
きちんと対戦結界と同じように、『巻き戻し』の機能は付いているのか?
対戦相手の保護は完璧か?
「……まぁ、概ね大丈夫か」
数分ほどの点検を終えたトーマは、納得したように一息吐いた。
その結論としては、全力で戦う分には問題あるが、それでも今までの対戦結界よりは遥かにやりやすくなるというものだった。
アゼルの真体解放に、シラサワの眷属召喚。
この二つを存分に使用可能ならば、トーマたちの戦力は更に向上する。
「後は、どんな対戦相手とぶつかるか、だ」
舞台は整えられた。
参加者は実力者揃い。
トーマはC級トーナメントが肩透かしで終わった分、B級トーナメントへ多大な期待を向けていた。
「えっ? 別のブロック?」
「うん!」
「おうよ」
「そうだ」
「しかも、俺以外全員が同じブロック!?」
「そーだね!」
「運が悪いのか、良いのか」
「トーマへのリベンジは次回までお預けか」
意気揚々とトーナメント表を確認に行ったトーマであるが、既に他の三人は先に確認し終えていたようだった。
しかも、その結果はトーマ一人だけ仲間外れらしい。
「マジか……マジかぁ」
強敵確実の三人――ナナ、ヴォイド、ジークと別ブロックになると知らせられたトーマは、露骨にテンションを下げていた。
基本的に強敵と戦いたいトーマにとって、強敵確実の三人と別ブロックになることは、それだけ強敵と戦うチャンスが減るということでもある。
加えて、そろそろ公式戦で友達と鎬を削り合うという青春をしてみたい、という願望もあったのだ。
その期待が裏切られた今、トーマのテンションはかつてないほどに下がっている。
「大丈夫だよ、トーマ君!」
しかし、そんな落ち込んでいるトーマへ、ナナは明るい笑顔と共に告げた。
「トーマ君のブロック、かなりの強敵揃いだもん。きっと退屈しないよ!」
「え、マジで!?」
トーマのテンションが一瞬でぶちあがる朗報を。
「うん! 私ね、色々と事前に有名な実力者を調べてきたからわかるんだ!」
ナナは「むふー」と胸を張って、説明を始める。
「まず、『虫使い』のニジィ・フーリティア! 虫系の魔物を好んで使う、いぶし銀の青年テイマー! 虫系の魔物を使役することにかけては、テイマーの中でも随一!」
「おおっ!」
「次に、『美少女アイドルテイマー』のリリィ! 可愛らしい外見に、可愛らしい小動物系の魔物というポップでキュートなビジュアルだけど、その実力は紛れもなく本物!」
「そんな奴まで!?」
「さらに、『逆境勇者』のユウキ・クサナギ! 苦戦に次ぐ苦戦! 強い奴ばかりとぶつかる不運の持ち主だけど! その分、逆境からの逆転は得意分野なんだって!」
「うちのアゼルが好きそうな奴じゃん!」
ノリノリで説明するナナに、非常に良い反応を返すトーマ。
この二人の寸劇を、ヴォイドとジークは少し離れたところから眺めていた。
この二人とは友達であるが、それはそれとして一緒にされたくないという思いもあるのだ。
「そして、なんと! トーマ君のブロックには『常勝不敗』とも呼ばれている新進気鋭のテイマー、フォルテ・ストレンジャーも居るんだよ! B級テイマーでありながら、既にA級以上の、ううん、実績からはS級にも及ぶんじゃないかというぐらいの実力者なんだ!」
「ひゅう♪ なんだそれ、最高じゃんか!」
「本当だよ、まったく。トーマ君のブロックの人たちが羨ましいぐらいだよ!」
「はっはっはー! 悪いが、『常勝不敗』に最初の泥を付ける役割は俺がいただくぜ!」
「ちぇー。私もそういうダークホース的な役割をやりたかったなー」
わいわい、きゃっきゃ、と無邪気にはしゃぐナナとトーマ。
その姿を大半の参加者は、『呑気なものだ』と呆れて――――けれども、勘の鋭い者たちは、二人の実力の一端を感じ取り、警戒し始めていた。
そう、この場はB級トーナメント。
登竜門にして鬼の棲み処。
ナナとトーマの外面に油断する者ばかりではない。
試合が開始されるよりも前から、虎視眈々と周囲の実力者を観察し、あらゆる情報を得んと貪欲に視線を巡らせる者たちだって居るのだ。
「はっ。どうやら今回は、僕たち仲間内だけを警戒すればいい、とはいかないようだな」
その警戒の視線に、ヴォイドは好戦的な笑みを浮かべて。
「夏季休暇で培ったことを存分に試せそうで何よりだ」
ジークは周囲の雰囲気に流されず、一人静かに闘志を滾らせている。
だが、この場の四人は知らない。
いや、警戒と観察を続ける勘の良い参加者たちも知らない。
それは、このB級トーナメントが実力者揃いだということ。
――――例年と比べても、等級以上の実力を持った参加者が多いこと。
そして、実力者たちが集まったのは決して偶然ではなく。
「…………トーマ・アオギリ。君を見定めさせてもらう」
大勢集った参加者の中、たった一人が仕掛けた作為であること。
これらの真実を知る者は少なく、けれどもB級トーナメントは予定通りに進む。
誰かの作為があろうとも、この場の誰もが為すべきことに変わりはないが故に。




