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第56話 夏季休暇満喫

 登校日。

 それは夏季休暇を満喫する者たちに水を差す、厄介なイベント。

 しかし、それは同時に、夏季休暇によって離れた友達と久しぶりに再会するイベントでもあるのだ。


「おひさ、ジーク」

「久しぶりだ、トーマ」


 そんなわけで、トーマは数少ない友達の一人であるジークと再会の挨拶を交わしていた。

 久しぶりに会ったジークは、その肌を若干日焼けしており、薄くこんがりとした仕上がりである。普段、クールで仏頂面な外見と相まって、奇妙な愛嬌が生まれている。


「夏季休暇の間は、特訓をさせてやることが出来なくて悪かったな」

「いやいや、気にしなくていいって。こっちはこっちで、色々とやることがあったからさ」

「ほう、具体的には?」

「まず、弟子を鍛えて」

「弟子、居たのか」

「その次は、仲間の実験に付き合って。仲間をしばきまわして」

「駄目な類の実験だったんだな」

「後は未開拓地のダンジョンへの冒険!」

「ほう、その話は興味がある。詳しく――」

「中身がエロでトラップなダンジョンだから、外側からダンジョン主をぶち殺した」

「なんて???」

「中身がエロでトラップなダンジョンだから、外側からダンジョン主をぶち殺した」

「…………なんで未開拓地にそんな、人間特攻みたいなダンジョンを?」

「多分、ダンジョンマスターの淫魔が馬鹿だったんだろ」


 出会った当初はとっつきづらいオーラを纏っていたジークだったが、トーマとの交流により、多少の棘が抜けたのか、普通に和やかな……和やかかどうかはさておき、普通に会話をしている。良くも悪くも、トーマという規格外の超越者に出会って、何かしらの影響は受けているらしい。


「そういうジークは夏季休暇中、一体何を?」

「大体がダンジョンアタックだな。とにかく、『負けられない戦い』を経験することで、自分自身の中にあった『負けても次がある』という甘さを切り捨てようとしていた」

「その結果は?」

「Ⅽ級ダンジョンの転移トラップに引っかかって、裏ボスみたいなやたらと強い魔物と戦って生還してからは、生きているだけで俺はあらゆるものに勝利しているって気分になれた」

「それは、祝ってもいい奴?」

「いや、未熟さを思い知ったから、むしろ罵ってくれ……っ!」

「えぇ……友達を罵りたくないんだけど……」


 仏頂面から打って変わって、今のジークは表情豊かだ。

 どうやら、夏季休暇で生命の危機に陥ることにより、何かが吹っ切れたようだ。


「とりあえず、自虐する暇があったら強くなろうぜ!」

「ああ、そうだな。そうだった。俺はまだ、強く……」

「ちなみに、うちのシラサワ――仲間が人間を強化する薬物を研究しているんだが、よかったら治験に協力しない? 報酬は【原初の青】の死体から作った魔術の触媒」

「くっ、やめろ。怪しげな実験への忌避感を上回るほどの報酬を出すのはやめろ……っ! 友達を積極的に闇に堕とす趣味でもあるのか!?」

「今時、改造程度で闇には堕ちないって!」


 トーマとジークは、重要なようでくだらない話を交わし合いながら、校門から校舎へと歩いて行ったのだった。



●●●



 登校日の役割には諸説ある。

 たとえば、学生たちの休みボケを防止するため。

 たとえば、学生たちへと連絡事項を伝えるため。

 たとえば、学生たちの安否を確認するため。

 諸説、理由は様々であるが、その大体が学生たちの意識を夏季休暇から、休み明けの学期へと向ける役割を果たす。

 これにより、学校側は学生たちが休み明け、惨憺たる有様になることを防いでいるのだ。

 しかし、親の心子知らずというように、学生たちにとってはそんな意図は知ったことではない。肝心なのは、夏季休暇中にわざわざ呼び出されて面倒だということ。

 そして、久しぶりに友達と会えて、喜ぶ者も少なからず居ることだ。

 夏季休暇中、綿密なスケジュールで日々を送っていたトーマもまた、その例に漏れなかったわけなのだが。


「……ええと、ナナ?」

「うん、そーだよっ!」

「あーっと、ヴォイド」

「僕に何が文句でもあるのか? ああ?」

「…………か、変わったな、二人とも」


 テイマー科の教室で再会した友達二人は、変わり果てた姿となっていたのだ。

 再会の喜びよりも先に、困惑が来てしまうほどに。


「えへへへー、ちょっとしくじっちゃった!」


 まず、いつも元気溌剌、コミュニケーション強者のナナであるが、その外見が変わっていた。

 十四歳の少女から、八歳程度の幼女へと若返ってしまったのである。


「ふんっ! 見世物じゃあないぞ!」


 次に、金髪とひねくれた目つきが特徴的な『男子』だったはずのヴォイドだが。

 何故か、今は『女子』になっていた。

 しかも、金髪で縦ロールというお嬢様スタイルである。

 見世物ではないと言いつつも、見世物になる程度には派手な外見だった。


「あー、二人とも。とりあえず、理由を訊いても? その内容次第では、解決に手を貸せると思うから」

「「…………」」


 そして、変わり果てた二人はトーマからの提案に、しばし顔を合わせて無言で悩み、その後、渋々と言った様子で口を開いた。


「なんか、トーマ君に頼るとずるい気がするけど、背に腹は代えられないからなぁ」

「恥を忍んで、事情を話すしかないか」

「なんだよ、なんでそんなに渋るんだよ? 友達だろ?」

「「むしろ、友達だからこそ乱用したくない」」

「人を薬物みたいに……」


 文句を言いつつも、トーマは二人の自制心にへらりと笑みを浮かべた。

 なんだかんだ、トーマにとってはグッドコミュニケーションだったらしい。


「じゃあ、まずは私からねっ!」


 渋々ではありつつも、事情を話すと決めたのならば、ナナの切り替えは早い。

 たとえ、姿が幼女に変わっても、そのコミュニケーション能力に衰えは無いようだ。


「実は私、ちょっと知り合いの伝手を辿って、A級ダンジョンに攻略に参加していてね?」

「へぇ。それはまた、随分と無茶をしたね?」

「うん。無茶をするぐらいじゃないと、テイマー科の……ううん、色んな場所で出会ったライバルたちに置いてかれちゃうからね! そんなわけで、自己研鑽のダンジョン攻略をしていたわけなんだけどね? その…………攻略メンバー全員が転移トラップにかかっちゃって」

「ふむ、被害は?」


 転移は即死に通じる。

 S級ウィザードであり、数多のダンジョンを潰してきたトーマはそれを知っている。

 最悪の場合、攻略パーティーが全滅しかねない罠であることを。


「幸いなことに全員生還だよ。うん、重傷を負った人も居たけど、回復魔術の使い手が居てくれたから、どうにかね? だけど、私は分不相応なダンジョンを抜けるために無理をしたというか、なんというか…………自分では扱いきれないぐらいの上級魔物と契約してね?」

「なるほど。外見変化はその代償ってわけか」

「悪い子じゃないんだけどねー。ちょっと我儘でねー? 今は、どうにか元に戻してもらえるように交渉中って感じ」

「ふむふむ」


 ナナの説明に、トーマは頷き、納得する。

 上級の魔物というのは大体が気難しい。使役するにも仲間にするにも、高難易度の条件を課すものが多い。

 普段ならば慎重にその契約を進めるはずが、A級ダンジョンでの転移罠ということで、生還のためにナナもなりふり構わなかった部分があるのだろう。

 これは、テイマーをやる上で、さほど珍しくも無い失敗談の一つだ。

 むしろ、命を失っていないだけ、ナナは上手くやった方である。


「次は僕だが……ふんっ、こっちは至極単純だ。『愉快犯』にやられた」


 そして、ナナの明るい説明が終わり、ヴォイドの不本意ながらの説明が始まる。


「愉快犯というと?」

「『ピエロ・ザ・ピエロ』なんてふざけた名前の魔術師だ。等級はA上位相当。殺しはしないが、殺し以外は『面白いならなんだってやる』がモットーの、ふざけた道化師姿の男だよ」

「へぇ、そんな奴が。俺は初耳だね」

「中央部で活動する指名手配犯だからな。その上、殺しはやらないって主義の奴だから、さほど噂が流れるほど凶悪ってわけでもない。知らなくても当然だ……だが」


 ぎりぃ、とヴォイドは奥歯を噛みしめ、忌々しげに言う。


「実際に会った僕は断言してやる。奴は殺しをしないだけで、性格は最悪の屑だ。他人の尊厳を潰すことを何よりもの愉悦としてやがる」

「なるほどね。確かに、潰した方がいい相手だ」

「言っておくが、やるのは僕だ。僕があいつを潰して、この屈辱を雪ぐ」

「できるの?」

「やるさ…………だが、生憎、奴の居場所を探る手段が見つからない」


 だから、と苦々しく言葉を紡いで、少女状態のヴォイドはトーマを見る。

 睨みつけるように、けれども敵意ではなく誠意を込めて、言う」


「手伝ってくれ、トーマ。あのクソ野郎を見つけるのを」

「なるほど。俺の役割はお膳立てってわけか」


 ヴォイドからの頼みごとを受け、トーマはしばしの間考える。

 ヴォイドだけではなく、ナナが抱える問題も一緒に考える。


「わかった」


 そして、三十秒も経たずに答えを出した。


「乱用されない程度に、程よく手助けをするぜ! 今から!!」

「「今から!?」」


 そうだ、今すぐやってしまおう、と。

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