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第53話 とある伝説の終わり

 当たり前だが、御伽噺と現実は違う。

 そもそもがフィクションである可能性が高く、曲解に曲解を重ねた結果、元になった出来事の原型など残っていないことも多々ある。

 そんな御伽噺の中で、歌姫と【原初の青】に関わる物語は、珍しいことに概ね一緒だった。

 【原初の青】が生贄契約により、港町を守護していたのは事実。

 生贄となった大切な人を救うため、歌姫が生贄というシステムに立ち向かったのも事実。

 ただ、異なるのは【原初の青】側の発言のみ。


 【原初の青】はクソ真面目なエンシェントドラゴンだった。

 その上、当時の基準でかなり慈悲深い性格をしていた。

 混沌渦巻く当時の情勢で、【原初の青】が月に一度の生贄で町を守護してくれる。

 これはかなり破格の条件だった。

 当時の町民たちも、喜んで【原初の青】の慈悲に縋った。

 故に当初、この生贄契約は人間側にとって圧倒的に有利なものだったのだ。

 しかし、人間というのは平穏に慣れる生命体だ。

 最初はありがたがっていたとしても、慈悲だと感謝していても、当然のようにそれが続けば、感謝の気持ちも薄れていく。

 やがて、『生贄が可哀そう』という結論に達するのには、さほど時間はかからなかった。


 無論、【原初の青】は契約の破棄を願い出るのならば、素直にそれを受け入れただろう。

 クソ真面目であるが故に、人間だからと見下さず、生贄を出し続けることを止める選択を尊重しただろう。

 しかし、だ。

 その場合、町の守りはどうなるのだろうか?

 一体誰が、襲い掛かる魔物から町を守ってくれるのだろうか?

 何とか【原初の青】の威を借りつつ、生贄も止める方法は無いものか、と町の住人たちは考えていて。

 そこにちょうど、異能を持った歌姫が声を上げたのである。


「生贄なんて間違っている! 私たちは竜の餌じゃない!」


 などと、歌姫がもっともらしく言う言葉に、町の人間たちは同調した。

 そして、【原初の青】を罠にかけることにしたのである。

 当初の生贄を歌姫とすり替えて、【原初の青】が最も油断し、慈悲を向ける瞬間――即ち、生贄を食らう瞬間に罠を仕掛けたのだ。

 それは魂を揺さぶる異能に、幾重にも重ねられた封印の魔術。

 偶然、あるいは『何かしらの作為』によって、タイミング良く街を訊ねた魔術師の協力により、歌姫と町の人間たちは【原初の青】を封印することに成功したのだ。


『何故だ……何故、ワタシを騙した!? 何故、話し合わない!? 何故――』


 封印の瞬間、嘆く声を上げる【原初の青】に構わず、容赦なく。

 人間のエゴを貫いたのだ。

 しかも、町を守るために封印された【原初の青】を用いて、周囲に魔物除けの結界を発動させるあたり、町の人間たちも、魔術師も狡猾だった。

 かくして、竜は人間の裏切りと策謀に沈み、一つの伝説が生まれたのだ。

 自らの罪を覆い隠すための、都合のいい伝説が。



●●●



 都市を切り裂くほどの水の刃。

 平原を全て凍り付かせるほどの冷気。

 山すら焼き焦がすほどの雷。

 【原初の青】の攻撃は全て、自然の猛威の如く。

 抗うことが馬鹿らしくなるほどの威力を秘めている。

 それでいて、【原初の青】の真骨頂はそこではない。

 流動。

 自身の肉体、あるいは空間、あるいは魔力、あるいは魂。

 あらゆる流動を司り、どのような打撃、斬撃、魔術、概念だろうとも受け流す、絶対の防御。

 油断していなければ、先ほどのように歌の異能すらも通じない。

 まさしく無敵。

 この理不尽極まりない無敵性こそが、【原初の青】というエンシェントドラゴンの真骨頂である。


『は、はははははっ! 凄まじいなぁ、勇者! これほどの痛みは久しぶりだ!』

「そりゃあ、よかったなぁ!!」


 しかし、既にトーマはその無敵性を既に攻略しつつあった。

 トーマが振るう拳は、空間、肉体、魂、三つの流動を穿ち、【原初の青】へと確実にダメージを与えている。

 その理屈は至ってシンプル。

 流動とは、流れて動くということ。

 つまりは、流れて動く暇も与えずに、極限の『一点』まで絞った一撃で穿つ。

 簡単に言えば、『防御される前に攻撃する』ということである。

 無論、この戦法はトーマでなければ為せない。

 雷の如き速度の拳。

 神技と言っても差支えのない身体強化の技術。

 人間を遥かに超えた魔力量によって行われる、過剰なほどに重ねたエンチャント。

 これらを呼吸するように行えるトーマでなければ、【原初の青】の無敵性は打ち破れない。


『ああ、良かった! ワタシは今、良かったと思えている! 封印されて良かったと! 貴様のような勇者と戦える機会を得られて良かったと!』


 【原初の青】の鱗は剥がされ、肉は穿たれ、血はとめどなく流れて行く。

 しかし、その黒曜石の如き瞳からは、戦意が全く衰えない。

 むしろ、傷つけば傷つくほどに、戦意が燃え上がっている。


「ははっ、そりゃどうも。光栄だ」


 【原初の青】からの熱烈なアプローチを受けつつも、トーマの言葉は平静そのもの。

 だが、その顔には笑みがあった。

 侮蔑でも余裕でもなく、相対する者として【原初の青】を認める笑みが。


『だからこそ、ワタシは全身全霊を尽くそう――――魂を賭して!』


 アゼルとシラサワの結界がなければ、会場など一瞬で吹き飛ぶような激戦の最中、【原初の青】は覚悟を決めたように吠えた。


『始まりの青が告げる。【世界は流動する】と!!』


 【原初の青】の口から紡がれるは、詠唱。

 大魔術も呼吸の如く放てるエンシェントドラゴンが、わざわざ詠唱を口にする意味。


「……っ!」


 それを侮るほど、トーマは愚かではない。

 だが、それでもなお、【原初の青】が為した『異常』には驚愕を禁じ得なかった。


『これが、ワタシの魂を賭した一撃だ』


 【原初の青】の周囲の空間――否、『世界』が流動し、一つの形を取った。

 それは青い槍のように見える何かだった。

 大きさは【原初の青】の身の丈ほど。

 穂先の刃はさながら、蒼穹を閉じ込めたかの如く、果てが無く青い。

 そんな巨大な、槍のような何かが、【原初の青】の前の空間に固定されている。


「――――神器か」


 その槍のような何かの正体に、トーマは素早く辿り着いた。

 何故ならば、トーマは既に一度、エンシェントドラゴンを、【原初の黒】を下している。

 だからこそ、その槍の神器が尋常ならざるモノだと理解したのだ。


『さぁ、受けるがいい』


 音も雷も超えた速度で放たれるそれが、会場どころか大陸の一角を消し飛ばすほどの威力を持っていると。


「おぉおおおおおおおおおっ!!」


 トーマは雄たけびと共に応じる。

 全身全霊に応じるは、同じく全身全霊。

 強く拳を握り、魔力を極限まで圧縮し、雷を超えた速度で振るう。


 ――――ゴッ!!!


 槍と拳の激突は、その余波だけで浜辺が吹き飛んだ。

 槍の青と、拳の白色が交じり合い、がりがりと空間が千切れ飛び、世界そのものが傷つくような激突。


「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 その激突の中、更に一歩トーマは踏み込んだ。

 踏み込み、更に力を籠める。

 全身全霊を更新する。

 何度も魔力が枯渇しそうになったとしても、魂から幾度も汲み上げる。

 規格外、ここに極まれり。

 トーマの魔力は尽きることなく、その魂も朽ちることは無い。


「砕けろぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 無理無茶無謀を殴り飛ばし、今、トーマはかつてと同じように神域へと手をかける。


 ――――バキャンッ。


 勝敗を分ける音はあっけなく響き渡った。


『見事』


 青の槍は砕かれ、白き極光を纏う拳は【原初の青】の魂を穿つ。


『勇者よ。貴様と殺し合えたことを誇りに思う』


 表情など無いはずの大蛇の顔は、安らかに。

 【原初の青】の肉体は、ゆっくりと海へと横たわり、その命を終えた。


「はぁ、はぁっ、げほっ、はぁ――――俺も」


 そして、余裕など皆無という表情で荒い息を繰り返していたトーマは、その終わりを見届けると、力強く笑みを作った。


「俺も、お前を殺せたことを誇りに思うぜ、【原初の青】」


 竜は討たれ、超人――否、勇者が勝利を世界に宣言する。

 長く、長く、果てしない時を生きた青き竜の伝説は、ここで終わる。

 一人の勇者の誕生を、言祝いで。

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