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第41話 優勝と弟子入り

 トーマは無事に決勝戦までに会場に戻り、そして、順当に優勝した。

 今回、トーマのブロックにはセラを除いて、Ⅽ級相当のテイマーしか参加しておらず、S級魔物二体に対抗するだけの実力者は居なかったのである。

 従って、決勝戦も蹂躙だった。

 シラサワが召喚したスケルトンがバトルフィールドを埋め尽くして。

 身動きが取れなくなった相手の魔物を、スケルトンごとアゼルが雷撃で吹き飛ばす。

 一切合切容赦の無い、見事な塩試合だった。

 あまりの歯ごたえの無さに、シラサワとアゼルのテンションががた落ちしたものの、これにて優勝と相成ったわけである。


「いやぁ、色々あったけれども、全員無事にB級に昇格できて良かったぜ」


 そして、トーマの他に、ナナとヴォイドもまた、別ブロックのトーナメントで優勝しており、これで遠征してきた三人全員が文句なしのB級昇格となった。


「うん、本当に良かった! 私のところはA級魔物三体を操る人が決勝の相手でさ! んもう、ギリギリになって『魔力共鳴』に目覚めないと負けていたね!」

「えっ?」

「ああ、僕のところも中々の強者揃いだった。まさか、B級魔物の中でも、幻とさえ言われた希少種を揃えてくるテイマーが居たなんて……まったく、事前の備えで『魔力共鳴』を習得しておいて助かった」

「えっ?」


 ただ、トーマのブロック以外は何やら激しい戦いが繰り広げられていたようであり、『魔力共鳴』という、上級のテイマーが使う技術なども出てきているので、一人だけ置いて行かれた気分になったトーマである。


「…………『魔力共鳴』か。俺も帰ったら特訓しよう」


 なお、二人に追い付くためにすぐさま特訓を考えるトーマだが、この場合、というよりも大抵の場合、頑張るのはトーマよりもその手持ちの魔物たちという意識はまるで無い。

 自身の未熟を悔いることはあろうとも、妙に手持ちの魔物たちを信頼しているので、自分の特訓にもついて来てくれるだろうと思っているのだ。


「…………帰ったらしばらくボイコットするぞ、新入り」

「まー、私も溜まった実験があるしねぇ」


 その思いは嫌というほど手持ちの魔物たちに伝わり、速やかにボイコットが計画された。

 単なる特訓ならまだしも、『魔力共鳴』というワードに不吉な予感を得たS級魔物たちは、恥も外聞も無く、逃げることを予定していた。


「とりあえず、二人もお疲れ様。それで、この後はどうする? 授賞式はもう終わったから、そのまま帰ってもいいんだけど、折角だから中央の街を観光していく?」


 ボイコットが計画されていることなど露知らず、トーマは級友二人へ軽快に訊ねる。


「観光かー。んんー、興味あるけど、お金がなぁー」

「中央の街はファッションの最前線らしいよ?」

「うぐぐ、お金……マネー!!」

「はんっ、貧乏学生め」

「なにさ、このお坊ちゃん!」


 ナナは観光に興味を示しつつも、軍資金の無さに嘆き、ヴォイドはそんなナナを尊大に見下していた。


「ふん。お前が頭を下げて頼むのならば恵んでやろうか?」

「んべっ! だーれが、君に頭を下げるもんか! いいもん、帰ったらクエストをやりまくって、自分のお金でまた中央に来るもん!」

「はっ、そうするといい。精々、あくせく稼げ…………まぁ、僕もB級となったのならば、実家の融資以上の金が必要となるから、クエストに集中することになるが」

「この贅沢者め!」


 こんなやり取りをしても、二人は意外と仲が良い。

 恋愛的な仲の良さではなく、悪口を叩き合える友達同士の距離感だ。

 この後、東部の学園に帰還すれば、なんだかんだ言いながらも二人は協力しながら金策を始めるだろう。


「クエスト……クエストかぁ」


 一方、この二人と級友でありながら微妙に距離感があるのがトーマである。

 何せ、トーマはこの三人の中でも実力が隔絶している。

 たとえ、テイマーとしての技量が劣っていたとしても、その他で補って余りある実力があるのだ。

 現在、二人が悩む資金問題すらも、S級ウィザードとして数多の依頼をこなしてきたトーマにとっては何一つ障害にならない。仮に、この中央の街で豪遊したとしても、全く尽きない資金の持ち主なのだ。

 しかし、それ故にクエスト――学園側が生徒に依頼を出すというシステムを利用する機会はほぼ皆無。そもそも、利用する必要も無い。

 S級ウィザードであるトーマは時に、魔術師ギルドや国から直接依頼が卸されるのだから。

 前提というか、立場が違うのだ。


「皆とテイマーらしい青春、したかったな」


 トーマは名残惜しみながらも、二人と共にクエストに参加する妄想は抱かない。

 強いということは、立場があるということは、時に不自由になのだということを噛みしめて、街中を歩いていく。


「お待ちください!」


 そんな時だった。

 街を歩くトーマたちの前に、一人の色々とでかい金髪碧眼の少女――セラが現れたのは。


「んお?」

「誰だ?」


 当然、面識のないナナとヴォイドは首を傾げて。


「えっと、何の用?」


 面識のあるトーマですら、呼び止められる心当たりがないので疑問を口にする。


「貴方にお願いがあるのです!」


 戸惑う三人の前で、衆目の面前で、セラはその疑問に答えるための行動を起こした。



「私を貴方の弟子にしてください!」



 そう、トーマの下に跪いて、弟子入りを懇願したのである。

 恥も外聞も無く、けれども絵画になりそうなほど美しい所作の懇願を。



●●●



 場所は移した。

 当然ながら、あんな衆目の面前で注目を浴びながら大切な話をすることなんで出来ない。

 当事者以外の二人は、時間を潰すために街を観光しに行った。

 これはトーマとセラの問題であるため、それに関わらない二人は率先して、立ち去ったのである。


「言っておくけれどね。俺が強いからと言って、他人を育てるのが上手いのかは別問題なわけで。仮に、俺が貴方を弟子に取ったとしても、思ったようには強くならないと思うよ」


 そして現在、トーマとセラは街の喫茶店で向かい合っていた。


「貴方が俺に弟子入りを志願してきた理由は、多分、復讐のためだよね? いや、復讐の是非に関してはどうでもいい。そこに俺は干渉しない。何も言わないし、何も言えない。だけど、あのおじさんを倒せるほど貴方を強くできるかどうかと聞かれたら、俺は首を縦には振れないね。大体、俺だって次に戦う時は勝てるかどうかわからないような相手だし」


 トーマは本音を隠さず、淡々とテストの問題のミスでも指摘するかのように、私見を述べる。

 セラがトーマに弟子入りすることは決して、目的のための最短距離では無いと教えるように。


「ですが、貴方は勝ちました。私が勝てなかった相手に」


 しかし、それでもセラの態度は揺るがない。


「今の私に必要なのは、圧倒的な強さに触れること。少しでもあの領域に近づくため、私が知る限りの一番の強者に――つまり、貴方に触れて、教えを乞いたいのです」


 トーマの言葉を受け止めてなお、威風堂々と弟子入りを志願する。

 まるで、自分には弟子入りが必要なのだと確信しているかのように。


「俺が通っている学校は東部だ。この中央とは物理的に距離が離れすぎている。仮に、俺に弟子入りしたとしても、互いに遠距離過ぎてまともに会う機会すらないよ」

「私が騎士学校をやめて、貴方の近くに住みます」

「やめい。その前の段階で、長距離転移とか色々あるだろ?」

「覚悟を示そうと思いました」

「思うな、馬鹿」


 セラの譲らぬ押しに対して、トーマは段々と口調がぶっきらぼうになっていく。

 丁寧に対応するのが面倒になり、素に近い状態になったのだ。


「そもそもの話。俺が貴方の弟子入りを受ける理由が無い。メリットも無い。むしろ、ついこの間、命の危機を助けたばかり」

「うぐっ」

「俺に弟子入りを頼むっていうのなら、相応のものを提示してくれ」


 素に近くなったトーマは、至極もっともな言葉をセラに告げる。

 概ね善人であるトーマであるが、それはそれとして、ほとんど他人みたいな相手の弟子入りを認めるほどお人よしではない。

 あるいは、物凄く暇な時期だったのならば考えたかもしれないが、今のトーマはテイマーとして日々研鑽を積んでいるところである。その時間をわざわざ割いてまで、赤の他人を育てる理由が無い。


「相応のもの……」


 セラはしばらく考えた後、勢いよく口を開いた。


「お金ならば!」

「間に合っているよ」

「我が家の家宝である聖剣は!?」

「俺は素手の方が強いんだ」

「わ、私の体を好きにしてもらっても構いません!」

「そういうのは冗談でも本気でも、マジでどうかと思う」

「ううっ……」


 手あたり次第、思いつく限りのメリットを挙げたものの、まるで手ごたえが無い。

 セラの提案はほぼ即答で却下され、ほとんど相手にされていなかった。


「あ、後は……私が持っている財産なんて……未開拓地域のダンジョン情報なんて、山師の冒険者も二の足を踏むようなものしか――」

「あ、いいね、それ」

「えっ?」


 だから、ほとんど期待せずに口から出たものが、トーマに気に入られた時、思わず困惑してしまった。

 え、これでいいの? と。


「あの、自分で言うのもなんですが、これはうちの父親が遺した情報であるため、確実性は高いんですけど、内容が危険すぎて、その」

「あっはっは、誰に言っているのさ?」

「あ、そういえば、うちの父親を殺した相手に勝った人でした、この人」

「というわけで、とりあえずの対価はそれでいいよ」


 セラは困惑しつつも、徐々に喜びを感じていた。

 対価が認められたということは即ち、弟子入りに関して受け入れられたようなもので。


「だけど、それでもまた俺は貴方の――セラのことを何も知らない。対価はそれでいいとして、本当に弟子入りさせるべきかどうか、一つテストをさせてくれ」

「テスト、ですか?」

「ああ、安心してくれ。テストは至ってシンプルだ。俺に一発当ててくれ」

「えっ?」


 だからこそ、トーマから告げられたテストの内容に、間抜けな声を上げてしまった。


「組み手をして、俺に一発当てること。これが弟子入りの条件だ」


 何故ならば、それは王国中の猛者を集めても、可能な者がいるかどうかわからないほど、困難なものだったのだから。

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