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第36話 順調な戦い

 骸骨が生み出される。

 魔力を物質化することにより、疑似的にスケルトンが作成される。

 それも、一体や二体ではない。

 十数体のスケルトンが作成され、対戦結界内のバトルフィールドを埋め始めていた。


「さぁーて! 実験を始めよう!」


 スケルトンを作成したのは、白衣を纏うリッチー、シラサワだ。

 シラサワは骨のパワードスーツを纏ってはおらず、余裕綽々の表情で眼前の光景を眺めている。そう、自らが作り出したスケルトンが、対戦相手の魔物たちを蹂躙する光景を。


「くそっ、こんなのアリかよ!?」


 対戦相手であるテイマーが悲鳴のような文句を言うが、これはルール上、問題ない行為だ。

 何故ならば、これは外部からの『召喚』ではなく、魔物の能力による『作成』だ。

 外側から新たに戦力を持ってくるわけでもなく、既存の戦力を群体という形で出力しているだけ。

 故に、シラサワの行動は咎められない。

 むしろ、A級以上のモンスターバトルでは、この手の眷属作成の戦略はよく見られるものなので、いち早くそれを取り入れた優秀さを褒められるかもしれない。


『カカカカッ』

『カカッ』

『カッ』


 しかも、このスケルトンは単なる疑似的なD級魔物ではない。

 シラサワが千年に及ぶ研究の中で生み出した、『かつての英雄』の技能をトレースしたスケルトンである。

 つまりは、端役の雑魚魔物の如き外見をしていながら、このスケルトンたちは一体一体が一騎当千の実力者たちなのだ。


『ガァアアアッ!?』

『ギィッ!?』

『くそっ、浄化の魔術を使えれば!』


 だからこその蹂躙が成った。

 相手の戦力も決して弱かったわけでは無い。

 C級トーナメントを勝ち進むのに、十分な格の魔物は揃えられていた。

 具体的には、全てがB級の魔物で揃えられた、優勝候補の一人だった。

 しかし、そんな優勝候補の一人であったとしても、シラサワが作成したスケルトンたちを突破することも敵わない。


「んんー、効果は大! けれども、問題はA級以上の相手なんだよねー! これぐらいの魔物相手なら、量産品でもなんとか対応できるだろうけども。あー、でも、手持ちがB級魔物だけのテイマーでも、私の『とっておき』を突破されたし。安易にランク付けで判断するのも、愚かなことかもしれないねぇ」


 スケルトンたちの蹂躙を眺めて、けれどもシラサワは満足していなかった。

 何故ならば、シラサワは戦いを求める戦闘者ではなく、研究者である。

 実験と称して戦闘を楽しむことはあっても、そこに満足することはない。

 新たな課題を見つけて、その課題の改善に取り組むだけだ。


「ふぅむ。露払いは任せたわけだが、存外、これでは吾輩は暇なだけだな。仕方がない、今回はシラサワに任せ、次回は吾輩が露払いを担当しよう」


 一方、蹂躙されていく戦場を眺めて、暇をしているのがアゼルだった。

 新戦力のお披露目ということで、いつもの『適度に相手をしてやる』スタイルではなく、傍観を選んだアゼルは、もはや完全に戦闘の空気を纏っていない。対戦相手が処理されていくのを眺めているだけの状態だ。

 手を出す必要も無く、手を出すつもりも無い。


「くそっ、くそくそっ! なんで、こんな怪物が……っ!」


 そして、アゼルがダラダラと傍観している内に、戦闘は進み――結局、スケルトンを打破することが出来ず、対戦相手の敗北となった。


「C級トーナメントってのは、こんな怪物が潜んでいるものなのかよ!?」


 純然たる実力差に愕然とする対戦相手だが、単に戦った相手が悪かっただけである。

 普通、C級トーナメントにS級魔物が二体も揃うことは無い。


「連携……特訓……」


 そして、怪物扱いされているテイマーのトーマだったが、当人は勝利を喜ぶよりも先に、特訓の成果が発揮されないモンスターバトルに、侘しい想いを抱いていた。

 皮肉なことに、S級魔物を二体揃えた時点でトーマの戦力は既に、連携するまでも無く相手を蹂躙可能なレベルまで達していたのである。



●●●



 トーマはC級トーナメントを順調に勝ち進んでいた。

 しかし、それも当然のことだろう。

 何せ、トーマの戦力はS級魔物が二体。

 【原初の黒】であるアゼル。

 神人のリッチーであるシラサワ。

 どちらも、単独で王国に災害を巻き起こせるほどの戦力である。

 それが二体も揃っているのだ。

 C級程度のランク帯であれば、蹂躙になってしまうのも当然だ。

 いや、むしろ一体でも十分な戦闘が続いてしまい、残りの一体が暇になってしまうという事態が相次ぐほどに戦力に余裕があった。

 余裕があり過ぎて、ジークから習った技術を使う必要も無いほどに。

 その上、ナナとヴォイドはトーマとは別ブロックに参加している。

 このままならば、トーマは何の歯ごたえも無くC級トーナメントに優勝するだろう。

 そう、思わぬ『偶然』が無ければ。


「ダンテ! 障害を切り払え!」


 屈強なる銀騎士の魔物へ指示を出す、セラの姿が無ければ。

 トーマのC級トーナメントは退屈なものになっただろう。


「エルメは遠距離射撃に集中! キキーナはそのまま破壊工作を続けろ!」


 モンスターバトルに挑むセラの姿は、さながら戦場の指揮官だった。

 バトルフィールドを俯瞰し、的確に状況を判断。

 己の戦力の増減を常に把握し、絶好のタイミングで相手の防御を切り崩さんと指示を出す。


「ダンテ、決戦だ! 相手のエースを刈り取れ!」


 そして、手持ちの魔物の戦力も十分。

 二体は古ぼけた鎧に憑依したゴーストの類で、ランク付けするならD級程度ではあるが、シラサワのスケルトンのように、戦闘の技量に優れた個体。

 指揮官のように魔物を動かす、セラとの相性は抜群だ。

 残りの一体は、セラのエースと思しき黒騎士。

 白銀の全身鎧を纏う――あるいは、その鎧そのものである魔物だ。

 その鎧から溢れ出る潤沢な魔力に、マスターのセラに似た嵐の如き剣技。

 紛れもなく、A級以上の魔物だった。


「状況終了…………よし!」


 優れた指示を出すテイマーに、屈強な魔物たち。

 元々の地力が強い上に、どんな相手の搦め手も、淀みのない連携で切り捨ててしまうのだから、セラたちはC級トーナメントで注目されていた。

 そう、トーマと同じブロックを進む強者として、どれだけあの理不尽なS級魔物たちに通用するのか、周囲からの期待を受けているのである。

 もっとも、そんな無責任な期待の中に、『俺たちに全力を出させてくれぇ!』と戦いを修羅の顔で待ち望むトーマの姿もあったのだが。



●●●



 トーマは上機嫌だった。

 何せ、このまま進めば準決勝でセラと戦うことになるからだ。


「順調に勝ち進むのも悪くないけど、やっぱりテイマーの王道といえば、強敵を倒して成長してこそ、だよな!」


 偶然、セラと遭遇し、その相手が同じブロックを勝ち進むテイマーだった。

 物語染みた流れに、トーマは湧き立つ心を抑えきれない。

 幼い頃から愛読していたジュヴナイルノベルのように、これから自分がテイマーとして戦うのかと思うと、童心が躍り出すようだ。


「セラの剣技は中々に良かった。きっとあの剣技を自分の手持ちにも教え込んでいるんだな、うん。ああいう形の鍛え方があるなら、俺も今度真似してみよう」


 ただ、冷静に考えれば結構なこじつけというか、テイマー本人の強さとテイマーとしての強さは別に比例するものではないので、トーマの思い込み補正もかかっているのだが、なんにせよ、実際にセラが強かったので問題は無い。

 後は、互いに勝ち進んでぶつかった時、全力を尽くして戦うだけ。


「んっ?」


 などと、上機嫌で次の試合の準備をしようと居ていたトーマだが、奇妙なものを見かける。

 C級トーナメントの会場である、都市のドーム型スタジアム。その観客席からバトルフィールドまで向かう途中の通路。


「おぶるろろろろろ……」


 そこに、何故か気分が悪そうなヨレヨレの成人男性が居た。

 年齢は二十代後半ぐらいだろうか?

 ぼさぼさの黒髪に、無精ひげ。青白い顔色に、しわだらけのスーツ。


「の、飲み過ぎた……くそっ、都会の酒が美味すぎるから……うぼぇ」


 おまけに、情状酌量の余地が無い自業自得の言葉を吐いている。

 本来ならば、関わり合いになることを真っ先に拒否するところだが、今のトーマは上機嫌だ。


「大丈夫ですか? はい、よければ毒消しのポーションです」


 さらりと空間魔術を使って、自身の保持領域から手持ちの魔法薬を渡す。

 さりげなく高度な魔術を用いた、小さな親切である。


「……うぇ? あ、えっと、いいのかい?」

「いいですとも。今日の俺は良いことがあった――いや、ある予定なので。それは幸せのおすそ分けだと思ってください」

「あ、ありがとう、少年……このお礼はいつか必ず……」

「はっはっは、期待しないで待ってまーす」


 ヨレヨレの成人男性は、拝むように毒消しのポーションを受け取った後、頭を下げる。

 そんな大仰な感謝の動作に、トーマはひらひらと軽く手を振って、再度歩き出した。


「しかし、珍しいこともあるもんだなぁ」


 そして、ヨレヨレの成人男性からしばらく離れたところで、ぽつりと呟く。



「あれほどの強者と、こんなところで出会うなんて」



 セラに引き続き、合縁奇縁の出会いがあったことを楽しむように。

 思わぬ場所で出会った強者――ヨレヨレの成人男性の姿を、トーマは記憶の片隅に置いておくことにした。

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