第32話 新しい仲間
当然ながら、トーマとジークは担任教師のフェイに物凄く叱られることになった。
それはもう、周りの学生たちがドン引きするほどのお叱りだった。
いかにトーマがS級ウィザードとしての資格を有していようが、それはそれ。
勝手に踏破不能のダンジョンへと突入。
ダンジョン内部での危険な戦闘行為。
ダンジョンが起動し、飛行して学園の敷地外へと飛んで行ってしまったこと。
その他諸々、細々とした問題点を叱られたのだが、最終的なフェイの結論として、言いたいことは一つ。
「いくら力があったとしても、貴方たちは十四歳の子供です。自分に自信があるのはわかりますが、それでもせめて、何かをやるときは事前に教師に相談してください」
「「……はい」」
授業中に無許可で危ない真似をしているんじゃねーぞ! ということだった。
いかに、最終的にダンジョン――軍船の制御を掌握し、きちんと無人地帯に不時着させることが出来たとしても。
神話の時代から存在し続けてきた、神人のリッチーを仲間に勧誘することが出来たとしても。
その結果、後々王国の研究機関から、様々な協力を求められるほどの成果を出していたとしても。
大人として、叱る時はきちんと叱る。
それが、フェイという教師のスタンスだった。
「それはそれとして」
そして、叱ることとは別にもう一つ。
「よくぞ、無事に帰ってきてくれましたね? 未知のダンジョンを攻略し、踏破したことはきちんと貴方たちの成績に反映させましょう」
どんな状況であったとしても、褒める時はきちんと褒めること。
それもまた、フェイという教師の譲らないスタンスだった。
●●●
花結びと共に行われた、サバイバルの授業は終了した。
途中、凄まじいアクシデントが起こったが、それでも中断することもなく。
ダンジョン攻略から帰還した、トーマとジークもまたサバイバルに再合流し、合計で三日間の授業は、どうにかこうにか問題無く――否、問題は結構あったものの、最終的には全員無事で終了することになったのである。
「えー、それじゃあ、ダンジョン踏破を祝して! かんぱーい!」
『『『かんぱーい』』』
そして、授業の後の休日。
トーマとジークは、魔物同伴可能の焼き肉店の一角で、打ち上げを行っていた。
「いやー、なんだかんだあったけども、お互いに利益のある形になって良かったぜ、ジーク」
「担任から物凄く叱られることになったけどな」
手持ちの仲間たちは別のテーブルで、肉食べ放題プランで放置。
後々の合流はあるかもしれないが、とりあえずはテイマー同士の二人でゆっくり会話しよう、というノリの打ち上げである。
両者とも食べ盛りの年齢ながら、気取って『最初は会話できながらつまめる奴』と、焼き時間の長い肉などを注文していた。
「うん、割ととびっくりした。S級ウィザードになってから、割と初めてだったから。大人からあんなに叱られたの」
「煩わしかったか?」
「いいや、ちょっと嬉しい。S級の資格を持っていると、割と『仕方ねぇな』で済まされることが多いけど、駄目なことをしたら駄目だと叱ってもらえるのは存外、嬉しいものだったぜ」
「……大人なんだな、トーマは。俺としては、早くそういうのから解放されたいと思う。早く、自立した一人の大人として、強くなりたい」
「んー? 今でもジークは十分に大人びていて、強いと思うけど?」
「大人びているはともかく、お前に強いと言われても、こう、なぁ?」
「言葉に含みがあるとでもー?」
「だって、お前、明らかに『俺よりは弱いけど』って補足が付いているだろうが」
「それは邪推だぞ」
互いに網の上に肉を載せて、じゅーじゅーという肉が焼ける音をバックに、二人はのんびりと言葉を交わしている。
それは、一つの冒険を乗り越えた者だけが味わえる、安息の時間だった。
「俺がジークを強いと思っているのはマジだって。シラサワ……あのダンジョンの主が配置したボスエネミーを討伐したんだろ? あいつ、『自信作だったのにぃー!』って悔しがっていたぞ? S級魔物のリッチーが、だ。そこは素直に胸を張った方がいい。そっちの方が多分、一緒に戦った奴のためにもなると思う」
「……そうか。まぁ、そうだな。ああ、俺は、俺たちは強かった。だから、あの理不尽な強さのスケルトンに勝利できた。それは紛れもない事実だ」
「そうそう。アゼルも手出ししなかったと聞いているし、素直に称賛しているんだぜ、マジで」
トーマの言葉に、ジークは小さく笑みを浮かべた。
それはトーマが初めて見る、ジークの年相応な喜びの笑みだった。
「あの戦いは限界ギリギリだった。だが、だからこそ、成長できたんだと思う。改めて、ダンジョン攻略に付き合わせてもらって感謝する、トーマ」
「いやいや、こっちもなんだかんだ、手持ちを一体増やすことが出来たから万々歳よ。あのまま、サバイバルを続けても結局、手持ちを増やせなかったと思うし」
「ふっ。しかし、S級のドラゴンの後は、S級のリッチーか。まるで、S級テイマーのような手持ちだな?」
「逆に、S級ぐらいじゃないと魔物は俺の仲間になってくれないことが、今回の件ではっきりとわかったけどなー」
笑みを保ったまま、上機嫌に話すジークと、喜びと悲しみが織り交ざった複雑な表情を見せるトーマ。
二人はどちらともなく、焼き上がった肉を己の皿に乗せて、食べ始める。
食べながら、行儀が悪いと知りつつも会話は続ける。
「どういう条件で勧誘したんだ?」
「契約を交わした」
「不利な条件か?」
「いいや。戦いには勝ったから、大分、俺に都合のいい契約を結べたよ」
肉を食べ、会話を交わし、肉を再度焼く。
少し離れたテーブルでは、手持ちの仲間たちが思い思いに騒いでいて。
心地よくも緩やかな時間が、二人の間で流れていた。
「戦いに負けたら俺の手持ちになるって契約の他に、後は多少の人体実験に協力する条件も付け足してやった。シラサワ――あいつは研究者気質だから、俺の肉体データが欲しくて仕方がないらしい」
「それはまぁ、確かに。だが、そうなると、今はリッチーになっているとはいえ、神人の研究者が調べるのだから、お前の強さや妙に魔物に拒否される理由がわかるかもな?」
「どうだろうな。今のところは『なにこれ、全然わっからなーい!』とか言って、楽しそうに笑っていたけど」
「なるほど。進展があるのは、随分先になりそうだ」
トーマは露骨に肩を竦めて見せて、ジークは苦笑する。
一方、話題の張本人であるシラサワは、手持ちの魔物たちと一緒に『これこそが、私が生み出したドリンクバーの究極配合!』などと馬鹿をやっている。
どうやら、早速、手持ちの仲間たちの間に馴染んだらしい。
「ところで、トーマ」
「なに? あ、肉を追加する?」
「お前の手持ちが二体になったから訊くが、魔物同士の連携のやり方とかわかるか?」
ぴたりと、トーマの箸が止まった。
「理論は分かるんだよ、理論は」
「理論は分かるのか」
「小さい頃からずっと勉強していたからな。上級テイマーの実用書とかも大体全部読んだし、何度も脳内で魔物を連携して動かす妄想はしていた」
「ふむ。それで?」
「…………実際に仲間にした魔物を考えると、良い意味で予想外というか。俺が妄想していたのはもっと下級の魔物で、S級魔物同士のコンビネーションとなると、一般的な理論が通用しないことに今更ながら気づいたというか」
真顔で言うトーマの言葉に、ジークは納得したように頷く。
「確かに、S級のほとんどは規格外の怪物ばかりだ」
「そう! 魔物同士の並べ方とか、おすすめの組み合わせとか! 連携中の魔術による補助のタイミングとか! 色々勉強してきたものが、全部役に立たないかもしれないと気づいた時の絶望たるや、ちょっと泣きそうになったもん」
「全てが全て無駄というわけじゃなさそうだが……まぁ、そうだな。下手に型に嵌めてしまうよりは、一からオリジナルの戦術を組み上げた方が手っ取り早いのは確かだ」
よし、と小さく言って、ジークは悶々と悩むトーマの目を見据えた。
「今回の対価として、まずは連携について一緒に考えることにしよう」
「お? いいの?」
「いいもなにも、それが対価だ。契約は正しく履行されなければならない。だから、俺の技術、経験、全てをつぎ込んで、俺はお前に協力する。今回のダンジョン攻略は――いや、俺たちの『冒険』は、それだけの価値があるものだった」
「ジーク……」
ジークの真剣な言葉に、トーマは思わず胸に手を当てた。
打算上等で利用し合う関係なれども、ここまで真っすぐ協力を申し出てくれるのは、思わず感動してしまうほど嬉しいことだったのだろう。
「だからこそ、連携について一番大切で、お前にとって困難なことを最初に教える」
「一番大切で困難なこと? はっ、上等だ。どんな難題もこなして見せるぜ!」
故に、トーマは意気揚々とジークの言葉を待つ。
きっと、ジークならば今の自分に必要なことを教えてくれると信じて、待つ。
「ならば、よし」
そして、ジークは真剣な表情のまま、己が持つ秘訣の一つを告げた。
「トーマ、魔物たちと触れ合い、スキンシップするんだ」
「…………???」
トーマには困難で、けれども連携には必要不可欠な秘訣を。




