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第22話 二人一組になって

 トーマは別に、コミュニケーション能力に難があるわけでは無い。

 むしろ、故郷の村では社交的な部類だったと言えるだろう。

 しかし、だ。テイマー科の学生としては、交流戦、Ⅾ級トーナメントでの蹂躙劇、その上、百体を超えるゴーレムを一瞬で倒すという神技を見せた存在だ。

 『あいつはやばすぎる』と一線を引かれるのも仕方がない。

 積極的に孤立したわけではなく、強すぎるが故の孤高状態になってしまっているのが、現在のトーマだった。


「……っ! いや、大丈夫!」


 だが、トーマはこういう時のために、きちんと社交的な交流は行っていた。

 具体的に言うのならば、Ⅾ級トーナメントの打ち上げを行い、二人のC級昇級者とコミュニケーションを取っていたのである。

 故に、トーマは若干の焦りを見せながら、まずは男子であるヴォイドの方へと視線を向けて。


「おい、お前の能力が必要だ。僕と共に来い」

「え、あ、うん!」


 ヴォイドが素早く、サバイバル能力に適した魔物を持つ学生を勧誘している姿を見つけた。

 早い。あまりにも早すぎる決断に、勧誘だった。

 けれども、トーマは諦めない。男子が駄目ならば女子だ。本来ならば、三日間のサバイバルとして共に過ごす相手として、異性はちょっと問題なケースであるが、教師が事前に通告していないので、異性同士のコンビも大丈夫だろうと判断。

 助けるを求めるかの如く、素早くトーマはナナを探して。


「じゃあ、私たちはサバイバル開始に合流を目指すという方針で!」

「「「りょーかい!」」」


 二人一組どころか、自分を含めた四人二組のチームを作り、サバイバルを優位に進めようとするナナの姿を見かけた。

 コミュニケーション能力に長けた、ナナらしい戦法だった。


「万策、尽きたか!?」


 うぬぅ、と呻き、トーマは地面に膝を着いた。

 このままだと残っているのは、余り者同士の二人一組。互いに最後まで残ったことに若干、傷つきながらの妥協ということになる。

 テイマーとしての青春を楽しみたいトーマとしては、出来れば、そうなるのは勘弁してほしいと考えていた。折角、サバイバルという得意分野の授業なのだ。もっと明るく、相方や周囲からも頼られるような時間を過ごしたい。


「いや、でも、なんだかんだ、余り者同士でも頼られるなら――」

「おい」

「うん?」


 思考の最中、ややぶっきらぼうにかけられる声に振り返る。


「トーマ。お前はもう、相手を決めたか?」


 すると、そこには緊張も焦りも微塵も見られない、真顔のジークが立っていた。


「い、いいや? 決まってないけど? うん」

「そうか。なら、俺と組まないか? 俺とお前の能力なら――」

「組むぅ!」

「判断が早いな」


 あまりにもあっさりと差し伸べられた救いの手に、トーマは一も二も無く飛びつく。

 しかも、相手はジーク。他の二人ほどではないにせよ、いくらか交流のある相手だ。

 共に青春を過ごす相手としては申し分無い。


「安心してくれ、ジーク。俺のサバイバル能力は、村一番だったんだぜ!?」

「そうか。お前の村の基準がわからないから判別しづらい」

「極寒の冬山でも余裕で生き残れるぜ!」

「その場合、俺は寒さで確実に死ぬだろうから、もっとわかりやすい例えを言ってくれ」

「狩猟が得意なので、毎食、美味しいお肉が食べられます」

「なるほど……それは素晴らしいな」


 こうして、トーマとジークのコンビが結成され、テイマー科の学生たちによる花結びが始まるのだった。



●●●



 自身満々になるだけはあって、トーマのサバイバル能力はテイマー科の学生の中でも、隔絶としたものだった。


「ふんふふーん♪」


 鼻歌交じりにテントを設営する手際は、早すぎて残像が残るほど。

 それでいて、一切の無駄なく、間違いなく、正しくテントが組み立てられている。


「これで、よし」


 また、テントを設営する場所の選定も優れていた。

 可能な限り平な場所を選び、そこからさらに、設営の工夫でテントの接地面を平らに近づける。これにより、休憩中に体を斜めにすることなく、ゆっくりと休めるようになった。


「さぁて、そろそろこっちも良い頃合いか」


 そして、サバイバルに於ける定番とも言える課題、食糧確保をトーマは狩猟で補っていた。

 授業の最初、支給される食料品は全て最低限。ギリギリ栄養に問題ない程度の代物でしかない。栄養はある程度補給されても、空腹感は紛らわせない、そういう類の食料だった。

 故に、トーマはまず、山中に生息する野生動物――若い鹿を仕留めて、血抜きをしていたのだ。


「ふん、ふふふん、ふふふふーん♪」


 鼻歌交じりに皮を削ぎ、肉を解体していくトーマの手つきは流麗だ。

 完全に慣れ切っており、解体用のナイフを動かす手に、一切の迷いが無い。


「トーマ」

「うん、なんだ? ジーク」

「お前にもしも余裕があれば、肉の解体を教えてもらいたい」

「おう、いいぜ! 勤勉な相方は大歓迎だ!」


 その上、ジークに解体技術を教える余裕すらある。

 狩猟と解体に於いて、トーマは既に熟練の猟師にも勝るとも劣らない技術を身に付けているのだった。


「ほいっと。これで大体肉の解体は終わり。後は、きちんと流水と、可能ならば専用の薬品で手を洗うこと。今回は俺が調合した薬品を使うけど、薬局に売っている消毒用の薬品でも代用が可能だぜ」

「なるほど……待て、自分で調合したのか?」

「そうだけど?」

「トーマ、お前は薬品の調合も可能なのか?」

「得意じゃないけど、人並にはね?」

「……ひょっとして、大体何でもできるのか、お前?」

「いいや。大体は人並程度に過ぎないぜ、俺は」


 専用の薬品で手を消毒するトーマ。

 その顔は平然としており、語る言葉にも謙遜は感じられない。

 だが、ジークからすれば間違いなく、トーマが持つ技術は専門家のそれに踏み込んでいるように見えた。


「でも、サバイバルは子供の頃からやっていたから、得意の範疇ではあるな。もちろん、野外料理も得意だから、安心して任せてくれ」


 そして、そんなトーマの言う『得意分野』の料理は、確かに美味な物だった。

 少なくとも、ジークは教えられたからと言われて、すぐさま真似できる気がしない。


「今日は鹿尽くしだ、遠慮なく食べてくれ!」


 鹿肉のシチュー。

 鹿肉のステーキ。

 鹿肉のサンドウィッチ。

 トーマの手がけたジビエ料理は、ジークだけではなく手持ちの魔物たちの腹も満たした。

 そう、あくまでも最初に配られた食料品はテイマーのものだけ。ギリギリの栄養補給ができるのはテイマーだけ。魔物の食料は自分で確保しなければならない。そういう意図に気づいて、トーマは手早く狩猟に手を付けた――のもあるが、理由の大半は自分の良いところをジークに見せたいが故の見栄である。


「はい、食べたら片づけ! アゼル、お前も自分の分はきちんと片づけるように!」

「ふん。野趣な肉だったが、たまにはこういうのも悪くない……いいだろう、やってやろう! 今だけは貴様のメイドになってやろうではないか!」

「いや、お前は若干、力加減があれだから、紙皿を集めてまとめるだけでいいよ」

「あ、はい」


 だが、ジークがトーマを一番に評価しているのは、そのサバイバル技術ではない。


「……警戒していたが、結局、襲っても来なかったか」


 小さく呟くジークが見るのは、設営したテントの周囲に潜む魔物の影だ。

 魔物たちは先ほどから様子を伺っているのだが、手を出してこない。目の前で肉を解体し、香ばしい料理の匂いを漂わせても、襲って来ない。

 何故か? その理由をジークは正しく認識していた。


「それほどの存在か、トーマ・アオギリは」


 トーマが強すぎるため、魔物が近寄ろうとしないのだ。

 ただ、そこに居るだけで周囲の魔物を圧倒し、近寄らせもしないのだ。

 恐らくはほぼ意識することも無く。


「やはり、群を抜いている」


 食事の片づけをしているトーマを鋭く見据えて、ジークは呟く。

 利用し合う予定の相手の、その強さを称えるかのように。




「御覧の有様さ!!」

「…………」


 食事を終えてから三十分後。

 サバイバル技術を遺憾なく発揮し、十分な拠点を確保したトーマは、意気揚々と魔物たちのスカウトに向かった。

 そして、一体たりともまともに相手にされず、現在に至るというわけだ。


「俺も成長したから、ひょっとしたらどうにかなると思ったら、御覧の有様さ!!」


 トーマはやけくそに叫び、膝を着いて地面に何度も拳を叩き込んだ。

 そう、食事を終えてスカウト活動に入ったトーマは、先ほどまでの頼りがいのある様子から一転、惨めな敗北者の如き有様になっていた。

 魔物に声をかけようと思えば、逃げられる。

 仕方がないから気配を消して、そっと魔物に声をかけると命がけの反撃をされる。

 襲ってきた魔物を完全無力化してから交渉しても、気高い女騎士の如く『く、殺せ!』的な意味の言葉しか返ってこない。低級で、自分の生命維持を優先するはずの魔物たちですら、そうなってしまうのだから、ある意味で、トーマの性質というのは凄まじいものがあった。


「これはひどい」


 トーマが魔物から拒否され続ける様子を観察していたジークは、予想以上にひどい有様となっていたので、思わずそんな言葉を零してしまった。

 いくらスカウトが苦手であっても、限度があると思っていたのだ。普通に、トーマが魔物たちとの交流が不得手なだけだと思っていたのだ。

 しかし、これはもっと、呪い染みた理不尽なものだと察してしまったのである。


「ふ、ふふふっ……いいんだ、いいんだ。俺は他の皆がスカウトしている中、大人しくキャンプしているだけの人間になればいいのさ」


 久々の魔物からの連続拒否に、トーマのメンタルはバキバキに折れかけていた。

 圧倒的強者なはずのトーマが、思い通りにいかない現実に打ちのめされていた。

 だからこそ、今こそが好機だと思ったのかもしれない。


「なぁ、トーマ。だったら、ダンジョンに行かないか?」


 ジークは、トーマを利用するための言葉を投げかけた。

 全ては、己が目的を果たすために。

 トーマに生じた心理的な隙を突くことにしたのだ。

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