表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/154

第21話 花結び

 花結び。

 それは、王国東部に古くから伝わる伝統行事である。

 始まりは、大陸全土を支配した国家――現在で言うところの王国が誕生した頃。

 一人の少女が、王国東部の山中へと逃げ込んできたことだ。


 一人の少女は、王国の姫だった。

 美しくも賢く育ち、将来は国を支えるべく、選び抜かれた益荒男と結ばれることが約束されていた少女だった。

 当然、少女の生活は籠の中の鳥の如く。

 美しく、綺麗に、汚らわしいものからは遠ざけて。

 王国の責務を背負わせて、自由意思を悉くへし折って、単なる生きた人形として暮らさせていたのだ。

 だが、そんな日々も、王国に仇なす賊の集団が襲ってくるまでのこと。


 賊は、優れたテイマーの集団だった。

 過去に王国が、開拓地へと送った者たちの末裔だった。

 厳しい自然と魔物の脅威に揉まれながら成長し、大きすぎる力を手に入れた末裔たちは、国家転覆を狙って、王国に攻め入ってきたのである。

 王国は全力をもって迎え撃ったのだが、賊が強すぎた。

 王城の内部に踏み込まれるほど苦戦し、戦乱の中、賊によって姫を奪われてしまったのである。籠の鳥の如く育ててきた、美しき姫を。


 賊たちにとって、姫は大切な存在だった。

 何せ、姫さえいれば、王国の血を賊の中に取り入れることが出来る。

 仮に、賊たちが王族を殺したとしても、手元に残った姫さえ居るのならば、王国の正統なる血筋を主張できるのだ。

 無論、それだけではなく、普通に人質としても有効。

 賊とはいえ、これだけ重要なファクターは大切に扱わざるを得ない。それこそ、籠の中の鳥の如く、大切に。

 けれども、どうにも姫は美しすぎた。

 素っ気ない態度をとっても、無口に不機嫌だとしても、その美しさに惚れてしまう者たちが、賊の中で続出。

 やがて、姫の処遇を巡り、賊は内部分裂して争い合い、そのどさくさに紛れて、姫は逃げ出すことに成功したのだ。

 ――――王国中央から遠く離れた、大陸東部の山中で。


 蝶よ花よ、と育てられた姫――その少女に、山中で生き抜くだけのサバイバル技術などは無かった。

 山の中を歩くだけでも、靴擦れで足の皮が擦り向けて。

 喉が渇いても、それを潤すだけの手段を知らない。

 賊の追手は、大声を上げながら段々と少女を追い詰めてくる。

 籠の中で育てられた鳥は、野生では生きていけない。

 このまま、山の中で枯れて死ぬか、賊の中で囲まれて生きていくか。

 どちらを選んでも、その少女に笑顔が浮かぶことなどはなかっただろう。


『きゃはははっ! お姉さん、綺麗だね! アタシと一緒にお茶しない?』


 小さな、小さな、一匹の花妖精が、少女の前に現れなければ。


「私の手伝いをしてくれるのなら、お茶だろうが、なんだろうがしてあげるわ」


 少女は決意する。

 この小さな魔物と契約を交わし、困難を乗り切ることを。


『本当に? じゃあ、契約成立ぅ!』


 花妖精は喜び飛び回り、契約の証である花の指輪を、少女の指に結び付けた。

 これが、始まり。

 今まで籠の中の鳥に過ぎなかった少女が、やがて、多くの魔物と契約を交わし、賊の全てを討ち果たし、王国まで凱旋するまでの、長い長い冒険譚の始まりだった。


 王国の長い治世の中で、最初の女王として君臨した少女。

 その冒険譚の始まりを祝うかのように、王国東部では花結びと呼ばれる伝統行事が存在する。

 かつて、少女が花妖精と契約を交わした山の中に入り込み、テイマーとなる者たちが、集団で魔物をスカウトしていくという、一種のお祭り行事が。



●●●



 花結びに使われる山道は、大抵が整備されたものだ。

 それどころか、道中には屋台がずらりと並んでおり、軽快な音楽が流れているのだから、もはや完全にお祭りだった。

 花結びに参加する者たちの大半は、十歳を過ぎた子供たち。

 そんな子供たちを安全に魔物たちと触れ合わせて、あわよくば契約までもっていこうとする行事が、現在の花結びである。

 当然、山道に出てくる魔物は低級も低級。

 しかも、既にたっぷりの嗜好品で餌付け済みの魔物たちだ。

 完全無欠に安全、とは言えないが、子供でも参加するには十分な準備は整えられているのだった。


「これから皆さんには、三日間のサバイバルをしてもらいます」


 そして、そんな整備された山道から遠く離れた、山奥。

 獰猛なる野生動物はもちろん、人間を殺すことをためらわない魔物たちが生息している危険地帯。

 そこに、テイマー科の学生たちは集められていた。


「サバイバル用の道具、食料品などはこちらが全て提供します。サバイバル中、本当に命の危険がある場合は、助けに入ります。ですが、我々教師陣が干渉するのはそこまでです」


 運動用の服に身を包んだ、担任教師のフェイは毅然とした態度で、学生たちへと告げた。


「キャンプ場の選定から、その組み立て。食事の準備。夜間の見張りなどは、全て自分たちで行うのです。これはそのための授業です」


 フェイの前に整列している学生たちは、そのほとんどが中々にスパルタな授業に動揺していた。

 だが、それも仕方がないことだろう。

 何故ならば、この場に集められる時、フェイは学生たちに『今日は花結びに関連する授業ですよ』と教えていたのだ。

 祭りに参加できる、とは思わずとも、最悪でも危険地帯での魔物のスカウト。そこから先はいくらなんでもないだろう、と考えていたのだ。


「無論、三日間の内に出会った魔物はスカウトしても構いません。むしろ、積極的にするように。これはサバイバルと同時に、貴方たちのスカウト技術を向上させるための授業です。花結びの伝説を遺した、我らが『冒険女王』のように、極限状態の中で魔物たちと共に在ることで、貴方たちの才能を開花させてください」


 フェイの淡々とした無茶ぶりに、学生のほとんどが軽く引いていた。

 何が悲しくて、花結びという楽しい行事の時に、こんな過酷なことをしなければならないのか? 学生たちは妙に悲しい思いになった。


「ちなみに、テイマーにとってサバイバル技能は基本中の基本です。ダンジョン攻略する時も、フィールドワークを行う時も、開拓者として行動する時も、サバイバル技能がなければ話になりません。ということで、今回は皆さんの現時点での能力を自覚してください」


 更に、容赦なく付け加えられたフェイの言葉に、学生たちのほとんどは打ちのめされた。

 楽しい気分で山中に集まったら、駄目出しからの過酷なサバイバルである。

 授業が始まる前から、ほとんどの学生はメンタルが折れかかっていた。


「ふ、ふふふっ」


 しかし、その中でも例外の一人。

 トーマは自信満々の笑みを浮かべていた。


「来たな、俺の時代」


 何故ならば、トーマはサバイバルが得意中の得意。

 幼い頃からダンジョン攻略の際、単独でサバイバルを行うのなんて日常茶飯事。時には、S級に指定される危険地帯で、一週間ほど自給自足で過ごしたこともある。

 それに比べれば、この程度の山中、半分寝ていてもまるで問題ないのだ。


「テイマーの授業中、頼りにされる俺……いい。うん、とてもいい。実に、テイマーとしての青春を謳歌している感じがする」


 トーマは夢想した。

 授業中、困っているクラスメイト達を助ける自分の姿を。

 D級トーナメント以来、ちょっと周囲から引かれている自分が、周囲と馴染むきっかけをつかむ姿を。


「どんとこい、サバイバル」


 そして、トーマは微笑みながら開始の合図を待った。

 ここから自分の栄光が始まるのだと、雄々しく胸を張っていた。

 だが、現実は無情である。



「では、二人一組になってください。ペアが出来た者から、サバイバルの道具を受け取って、教師陣が指定したポイントに進むように」



 二人一組になってください。

 古代から続くボッチ滅殺呪文に、トーマの笑みは崩れ去ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ