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第159話 レギュラー交代

「レギュラー交代を申し出るよー」


 それはレオンハルトの歓迎会が終わった後の出来事だった。

 トーマが空間転移を何度も使い、最高級品で揃えた開拓村総出のバーベキューパーティーは大成功に終わっていた。

 開拓者や、開拓村の住人は、突如始まった宴会をすんなりと受け入れた。

 王国本土よりも死が身近にある場所であるが故に、この手のお祭り騒ぎは乗れる時に乗っておくという方針らしい。

 故に、歓迎会は大成功。

 誰もがレオンハルトがトーマの仲間になることを祝福し、祝いの言葉が溢れる宴会となっていた。

 そんな盛況だった歓迎会が終わった後。

 バーベキューパーティーの片づけも全て終わり、未開拓地深部の探索の準備を始めようとしていた時のことだった。


「私は元々戦闘員じゃないからねー。新しいメンバーが入ったのなら、私はそろそろ研究に専念したいんだよー」


 シラサワがあっけらかんと言う態度で、マスターであるトーマにレギュラー交代を申し出たのである。


「…………シラサワ」


 その申し出に、トーマは何かを噛みしめるように頷いた後、悲しみを堪えるような笑みを見せた。


「そうか。シラサワ、お前はあれだよな、意外と気を遣うタイプだったよな……本当は第一線で戦いたいのに。俺たちの総合力を上げるため、わざと自分から身を引くような発言を」

「違うよー? いや、マジで違うからねぇ? というか、度々言っていたよねぇ? 私は研究者が本分で、戦闘は苦手な方だって」

「謙遜するな、お前は強い。お前が居てくれて本当に助かったぞ、シラサワ」

「その評価に関しては素直に受け取るけど、戦闘に関しては仕方なくやっていたことだと早く認識してねぇ? マイマスター」


 感極まった様子のトーマと、釈然としない表情を浮かべるシラサワ。


「……先輩方、自分も何か言った方がよろしいでしょうか?」

「気にするな、レオンハルト。こういう時のマスターは馬鹿になっているから、相手にするな」

「テイマー関係のことだと、ちょっと思い込みが激しくなる時があるよね、マスター」


 そして、そんな二人を他の仲間たちはどこか呆れた様子で眺めていた。

 戦闘中は以心伝心を容易く決めるだけの関係性はあるものの、決して普段からはそうではないとわかる光景である。


「とにかく! 私のレギュラー交代は受け入れてくれるということでいいんだねー?」

「ああ、シラサワ。今までご苦労だった……でも、時々、お前を試合に出した方が良い場合は出すから、そこら辺は柔軟に対応してくれ」

「雑魚狩りはともかく、強敵との戦いとかは懲り懲りだよ……まぁ、うん。それは気が向いたらね? 私としてはそれよりも、研究の方でマスターの力になる予定だから」


 シラサワは白衣の袖をフリフリと揺らすと、にやりと得意げに笑みを浮かべた。


「マスター。今、貴方の問題は『竜銀の処理』だよねぇ?」

「ああ、そうだ。可能な限り、竜銀はこの世界から根絶したい」

「だけど、この世界に散らばった竜銀は多すぎる」

「そう、だな。対処できる人員が限られる上に、銀の悪竜がばら撒いた竜銀の数は多すぎる。だが、だからといって対処しないという方法は取れない。否が応でも、竜銀を消し続けなければならない」

「うん。でも、それをしていると今度は、マスターがテイマーとして活動する時間が無くなるよねぇ? 実際、今は学校を休んで未開拓地に来ているんだし」

「それは……仕方がない」

「そうだねぇ、仕方がない。でも、このままずっと竜銀を探して世界中を旅するなんて気の遠くなる真似をしていても多分、銀の悪竜とやらの思惑通りなんじゃない?」

「それは…………ああ、あり得るな、それは」


 苦々しい顔になったトーマは、かつて戦った銀の悪竜の悪辣さを思い出していた。

 さほど長い付き合いがあったわけでは無い。

 一週間ほど殺し合っただけの関係だ。

 ただ、それでも、戦いを通じてなんとなくわかることはあるのだ。

 戦い方の癖、相手の攻撃に込められた悪意、戦いの中で、幾度も『心をへし折るための伏線』を張っていた銀の悪竜が、たかが竜銀をばら撒いただけで終わるはずが無いと。


「竜銀への対処は、可能な限り短く終えた方がいい。銀の悪竜の思惑から脱するためにも、マスターがテイマーとしての活動に戻るためにも――――そこで!」


 シラサワは声を張り上げ、自信満々に告げる。


「これから竜銀を一気に滅ぼすための研究を始めるよ!」


 現状の問題を打破するための方策を。


「シラサワ、出来るのか? いや、やってくれれば助かることこの上ないが」

「ふふふっ。何を言っているかなぁ、マスター! 出来るも何も――この研究には、マスターの手助けが必要不可欠なんだよー?」

「……俺の?」


 戸惑うトーマの胸を指差し、再度、シラサワは告げる。


「そう、S級ウィザード最強にして、『因果に干渉する固有魔法』を開発したマスターの協力が必要なんだよー」


 竜銀を滅ぼすための鍵は、トーマにあると。



●●●



 トーマが持つ固有魔法【先んじる復讐者】は、因果応報を先んじる魔法だ。

 人質。

 脅し。

 その他諸々、トーマが想像しうる悪辣な手段を用いて、『トーマの行動を制限しようとした時』に発動する固有魔法である。

 一度発動してしまえば、相手が仕掛けようとしていた悪行に応じた呪詛を放つ。

 その呪詛は因果を辿り、実行者だけではなく、実行者の関係者までにも感染する代物だ。

 仮に、悪行のレベルが『無関係な人質を使い、トーマの動きを止めようとした』程度のものでも、魔王軍四天王レベルでも、やがて死に至るほど呪詛を受けるだろう。

 ましてや、人質を殺そうとする前提の運用などをすれば、仮に直接的に関わって居なくとも、超越者クラスの相手すら呪殺可能である。

 あるいは、銀の悪竜にすら死を与えるかもしれない。

 この固有魔法こそ、トーマが王国東部で恐れられる理由だ。

 卑怯な搦め手や、外道な方法がまるで通じない。

 そればかりか、下手にそんな手段を取ろうとしてしまえば、その時点で一つの組織が滅ぶ。

 実際、トーマを上手く使ってやろうとしていた犯罪組織などは、この固有魔法でいくつも滅んでいる。構成員を根こそぎ殺している。

 悪に対する絶対的なカウンター、それこそが【先んじる復讐者】という固有魔法だ。

 無論、ここまでやっても『絶対に大切な者を守れる魔法』というわけではなく、あくまでも搦め手や悪辣な方法に対するカウンターに過ぎない。

 だからこそ、トーマは固有魔法だけではなく、あらゆる方法で保険をかけているわけだが、本題からずれてしまう。

 今、肝心なことは、トーマが『因果に関わる固有魔法を開発可能なほどの実力を持った魔術師』ということだった。


「竜銀は元々、銀の悪竜の一部だったんだからさ。『同じもの』として、因果を辿ることは不可能ではないと思うんだよ、私は。そこら辺、マスターはどう思う?」

「…………そう、だな」


 元々が同一個体だったことを利用した、因果の追跡。

 縁を辿るような魔術。

 これを開発可能か? とシラサワから問われ、トーマはしばしの思案の後、顔を顰めながら答える。


「可能ではある。だが、リスクとリターンが見合わない。因果を辿って竜銀を探すってことは、多少なりとも竜銀と縁が出来て、一時的に繋がるということだ。その結果、竜銀による汚染を受けてしまう可能性が否めない」

「なるほどね。つまり、辿ることは出来る、と言うことだねぇ?」

「……何を考えている、シラサワ?」


 鋭く問いかけるトーマに、シラサワは不敵な笑みを浮かべた。


「『共振』だよ、マスター。呪詛の基本。因果を繋げて、多くの竜銀を一度に破壊する。いや、竜銀を連鎖的に破壊する呪詛を構築する、と言った方が正しいかな?」

「言っている意味は分かる。相手の一部が入った人型を傷つけて、相手を呪うのと原理は同じだからな。だが、あまりにも世界に散らばっている竜銀が多い。下手に因果を繋げれば、連鎖反応から最悪の災害が発生するかもしれない」

「――――だからこその私だよ、マスター」


 元神人として、研究者として、シラサワは自身を持って語る。


「集めた竜銀を使って、私が『竜銀を破壊するための端末生命体』を造り出す。竜銀を呪い、破壊するための固有魔法を持った、意思なき生命体を造り出す。これで、竜銀を破壊する時の災害の発生、及びフィードバックのリスクはかなり取り除けるはずだよー」


 それは冒涜的な提案だった。

 殺し、呪わせるためだけに一つの生命を造り出すという、まともな倫理や道徳から外れた行いの提案だった。

 命を尊ぶ者ならば、嫌悪感を覚える内容だった。


「なるほど、ありだな」


 だが、トーマはそれを肯定する。

 シラサワの狂気と冒涜を受け入れ、頷く。

 何故ならば、トーマは英雄なれども、清廉潔白からは程遠く、大切な者たちを守るためならば、平然と手を汚すことを躊躇わない超越者だから。


「レオンハルト、シラサワの研究への協力は可能か?」

「無論ですとも。自分としても是非とも協力させていただきたい。多くの竜銀を滅せる可能性があるのならば、身を切る覚悟です」

「わかった、感謝する…………よし! んじゃあ、シラサワ、それで行こう! 因果に関わる魔術の協力なら、いつでも言ってくれ」

「ふふふっ。マスターはこういう時、きちんと私を認めてくれるから好きだよー」


 かくして、新しい仲間を得たトーマたちは、多くの竜銀を求めて更なる深部へと踏み込む。

 冒涜と禁忌を踏み越え、悪辣なる銀の災害に対抗するために。

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