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第158話 悪竜殺しの契約

「始まりは理不尽に抗うための方法でした。皆で死ぬよりは、そちらの方が良いとあの子は判断しました。ですが、我々は知らなかったのです。魂を扱うことの難しさも。力に溺れることの快楽も。あの子に全ての責任を押し付けてしまった愚かさも」

「…………」


 レオンハルトが語った銀の悪竜の過去に、トーマは苦々しい沈黙で応えた。

 無論、許すつもりは欠片も無い。

 情状酌量の余地などはとうに過ぎている。

 そもそも、銀の悪竜も遥か過去のことを言われたところで、特に何の感慨も示さないだろう。

 しかし、だ。

 理不尽に抗うために力を手に入れて、結果、その力に溺れてしまう。

 その未来は、トーマが幼少の頃から恐れていた、自分自身の可能性なのだ。


「自分が何故、銀の悪竜から吐き出されたのかはわかりません。このような形で変貌したのも、何か意味のあることなのか、それとも単なる偶然だったのか。答えは出ません。ですが、この肉体のおかげで、長い年月、銀の悪竜を追い続けることが出来たのは事実です」

「…………レオンハルト。お前が銀の悪竜を殺そうとしているのは、過去のためか?」

「最初はそうでした。あの子が邪悪に成り果てたことに耐えきれず、あの子を止めるために後を追い続けました…………しかし、自分は何度も銀の悪竜の振る舞いを見て来ました。滅ぶ世界、死にゆく人々を見ていました……見ていただけで、ほとんど何もできませんでした」


 レオンハルトは獅子の顔に、拭いきれない後悔を滲ませて言う。


「もはや、感傷だけで動くには、自分の中に様々なものが降り積もり過ぎた。故に、万が一にも銀の悪竜に対して情は湧かない。土壇場になって、貴方を裏切ることは無い。それは断言しておきます…………いえ、心配ならば、魔術による契約も――」

「いいさ。それはお前の覚悟に対する無粋になる」


 はぁ、とトーマは大きくため息を吐くと、表情を引き締めてレオンハルトを見据えた。


「契約は、互いの誇りを賭けて結ぶだけでいい。互いに、悪竜を殺すために手を組む。お前のために俺は動き、俺のためにお前は動く。それで十分だ」

「……感謝します、マイマスター」


 レオンハルトは何度目かの恭しい礼を見せる。

 しかし、その所作は変わらぬものの、込められた感謝の気持ちは確かにトーマに伝わっていた。託された期待の重さと同時に。



●●●



「さて、それじゃあ、仲間になったところで、改めてレオンハルトの出来ることを教えてもらおうかな?」

「了解です、マスター」


 仲間になったレオンハルトを連れて、トーマはまず未開拓地の比較的安全地帯まで戻って来た。流石に、未開拓地の深部は作戦会議には適さないからである。


「くくく、新入りか……わざわざマスターの仲間になる奇特な奴め」

「アゼルちゃん。多分、それって私たちの自虐にもなっちゃう奴」

「銀の悪竜を殺す仲間が増えるのは素晴らしいことですね!」


 なお、新しく仲間になったレオンハルトを紹介するため、既存の仲間三体も招集済みだ。

 各自、レオンハルトという未知の強者に対して、まだ警戒は解かずにいるものの、期待の視線を向けている。


「まず、自分は獅子の形態とこの人型に可変可能な魔物です。獅子の形態は、近接特化。人型の形態は魔術特化と切り替えることが可能です。得意な技はエネルギードレイン。今まで数多の世界を渡ってきましたが、自分のエネルギードレインは大抵の強者には通用した実績があります。ただ、あの竜銀個体の戦いでお察しの通りですが、あまりにも多くの竜銀を持った相手には通じないようです。自分のエネルギードレインは元々、銀の悪竜が持つ力の派生みたいなもので。本家本物に通じる竜銀個体には効きづらいとお考え下さい」


 一方、レオンハルトは向けられる期待にも動じず、流暢に己のプロフィールと注意点を語っていた。

 どうやら、伊達に長い年月を生きているわけでは無いらしい。


「ふむ。獣モードと魔術師モードを切り替えられるのは強いな。戦術の幅が広がる。それはとても嬉しい。モンスターバトルで普通に活躍しそうだ…………うう、まさかこの俺が、四体目の魔物を仲間にして、戦術の幅を広げる話が出来るなんて」

「何故、いきなり涙を流すのですか、マスター?」

「色々あったのだ、新入り」

「そうだよー。新入りちゃんには影響ないけど、色々とね?」

「ぶっちゃけ、マスターはこの世界の魔物に嫌われているのです」


 自らの言葉に感慨深く頷き、涙を流すトーマ。

 その様子に、ちょっと引くレオンハルト。

 そんなレオンハルトに、トーマの仲間たちが微妙にフォローを入れる。

 一年前からは考えられないほど、今のトーマはモンスターテイマーらしい状況の中にあった。

 その事実に、トーマはまた涙がこみ上げるのだが、流石にこのまま感慨にふけっているのもどうかと思い、すっと涙を引っ込めてレオンハルトと向き直った。


「ともあれ、お前がモンスターバトルに協力してくれるのは嬉しい。俺たちの目標はトップテイマー、つまりこの世界のテイマーの頂点に立つことだ。是非とも力を貸してくれ」

「ええ、もちろん。ですが――」

「ああ、わかっている。お前が蓄えている『膨大なリソース』についてだろう?」


 言い淀むレオンハルトに、トーマは軽い口調で言う。


「それはお前が悪竜を討つために蓄えているものだ。いくらマスターになったとはいえ、それをモンスターバトルで放出しろ、なんて言えないし、言わない。それは、俺と一緒に銀の悪竜を倒す時に使ってくれ」

「――――理解いただき、感謝を」


 対して、レオンハルトは恭しい礼で応じた。

 前と同じく、形だけではなく、きちんと想いの重みで頭が下げられた礼だった。


「まぁ、今のところは銀の悪竜がばら撒いた竜銀の対処しかやることは無いし、あいつが何を狙っているのかもさっぱりだが。そこら辺、長年あいつを追って来たレオンハルトとしては、何か推察できることはあるか?」

「いいえ、残念ながら。今回のケースは非常に稀なのです。いつもならば、銀の悪竜は黒幕を気取って、ほとんど姿を見せないのですが…………今回はやたらと貴方を絡む傾向にある。その上、自らの存在をばら撒くなんて、控えめに言っても弱体化極まりない真似をするとは。今までとは別人、と呼んでも差支えが無いほどに、行動パターンが変わっています」

「ふぅむ…………今まで、俺以外に銀の悪竜を撃退した奴も居たんだろ?」

「はい。片手の数に収まる程度ですが」

「その時はどうなったんだ? 今回と同じく、撃退された後も再び襲撃してきたか?」

「いいえ。その場合は、むしろあっさりと襲撃を諦めていました。余力はあれども、『一度でも自身に勝利した報酬として、二度と手は出さない』みたいなことも言っていましたが」

「…………んー、その時と今回の場合、何が違うんだか」


 トーマとレオンハルトは互いの情報を出し合いつつ、銀の悪竜に対して話し合う。

 どちらも銀の悪竜の邪悪さを知っているが故に、万が一にもこのまま竜銀を片づければ問題は終わる、なんて考えは無い。


「おいおい、貴様ら。そういう話はまた後にしろ」


 ただ、シリアスに話し込む二人に対して、アゼルが呆れたように声を上げた。


「特に、マスター。今の時間は何だ?」

「なんだよ、アゼル……ええと、今はレオンハルトが仲間になった報告で――はっ」

「ようやく気付いたか」


 アゼルは古参の仲間らしく、トーマの表情で以心伝心。

 自分の考えまで至ったことに、満足げに微笑む。


「歓迎会! そう、新しい仲間には歓迎会が必要だ!」

「そう、その通りだ、マスター。吾輩としても、銀の悪竜にはリベンジマッチをしたいところだが、今はそういう話をするよりも、祝うべきだろう。新しい仲間を得たことに」

「くっ、この俺としたことが! 銀の悪竜への対策に思考を割き過ぎて、当たり前の日常を忘れていた! これじゃあ、銀の悪竜の思うつぼだ!」

「おうとも。敵を倒すために思考するのはいい。だが、没頭し過ぎて飲み込まれるな」

「ああ、ありがとう、アゼル…………ふっ、やっぱりいいな、モンスターテイマーは」


 アゼルからの忠告に、トーマは柔らかな笑みを浮かべた。

 銀の悪竜への対策で余裕が無くなっていたのは反省しなければならない。ただ、それはそれとして、先ほどのやり取りと言うのは、トーマにとって『過去に思い描いていたテイマーと魔物の理想的なやり取りの一つ』だったようで。


「よし! とりあえず、頭が痛くなる話はここまで! 今から、レオンハルトの歓迎会だ! 開拓村だろうと関係ねぇ! この俺が最高級品を揃えて、盛大な宴会を開いてやるぜ!」

「いえ、自分は――」

「新入り、遠慮はするな」

「と言うより、アゼルちゃんが騒ぎたいだけというか」

「アゼルさんは意外とこういうのが好きですからね」


 新たな仲間を迎えたトーマは、開拓村の住民も巻き込んで、盛大に宴会を始めることにした。

 たとえ、未来に邪悪が待ち受けていようとも。

 今、この瞬間、喜ばしい気持ちを否定しないように。

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