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第153話 竜殺す獅子

『グルルルゥ……』


 黄金の獅子は、唸り声を上げると虚空を疾走した。

 自在に宙を足場に、飛竜の群れへと襲い掛かる。


『ガァッ!』

『ゴルッ!』


 飛竜たちは当然、乱入者たる黄金の獅子を許さない。

 逃げる開拓者たちよりも優先的に、黄金の獅子を狙って攻撃する。

 爪。

 牙。

 暴風の息吹。

 それらの攻撃手段を、群れのコンビネーションで隙無く黄金の獅子に叩き込む。


『――――グル』


 しかし、それらの攻撃は黄金の獅子に届くことは無い。

 何故ならば、黄金の獅子を中心として展開した『何らかの魔術』により、飛竜たちは攻撃を当てるよりも先に墜落していったのだから。

 さながら、蚊取り線香に巻かれた羽虫の如く。


「魔力……いや、生命力の強制徴収か」


 黄金の獅子が使った魔術の正体を、トーマは一目で看破する。

 エネルギードレイン。

 それも、サキュバスやインキュバスなどの淫魔が扱う低級の代物ではない。

 生命力という、存在の根幹を担うリソースを奪い取る、規格外の代物。

 この魔術を扱えるという時点で、既にこの黄金の獅子は並大抵の魔物よりも遥か上に位置する存在だった。


『グルルルッ!』


 黄金の獅子は、墜落してく飛竜たちを狩る。

 牙で竜銀を抉り、砕き、次々と竜銀個体を倒して行く。

 まるで、竜銀そのものをこの世界から消し去らんとしているように。


「竜銀の危険性を理解している、か? いや、あの執拗なまでの破壊は、それだけでもないように感じるが……」


 竜銀は知性の低い魔物からすれば、絶好のパワーリソースだ。

 その危険性を知らなければ、竜銀個体を倒しても、その竜銀を喰らって新たなる竜銀個体になるという事態が起こってしまう。

 だが、黄金の獅子にはそれが無い。

 外見通りの獣ではない。

 ただ強いだけの存在ではなく、明らかに獣以上の知性を持った何者かである。


『グル……』


 やがて、黄金の獅子は全ての飛竜を噛み殺し終えた。

 もちろん、竜銀は全て粉々に破壊済み。

 新たなる竜銀個体が発生する心配も無い。


「さて」

『グルル』


 黄金の獅子とトーマは対峙している。

 互いに、竜銀個体が敵であることには変わらない。

 だからこそ、トーマは黄金の獅子の狩りが終えるまでは手を出さなかった。

 しかし、竜銀個体を狙って倒しているからと言って、黄金の獅子がトーマの味方とはならない。そうは繋がらない。黄金の獅子はS級最上位の魔物を越えるほどの気配の持ち主だ。トーマは人間離れした力を持つ超越者だ。

 互いに、警戒に足る相手であることには変わりない。


『グルルル……』


 黄金の獅子はトーマとの間合いを図りつつ、戦意は出さずに警戒を続けている。

 少なくとも、即座に『殺す』とはならないタイプの魔物だ。

 獰猛だったり、人間への敵意があるタイプではない。


「よし」


 ならば、とトーマは一歩踏み出す。

 互いに警戒し合い、保った間合いを詰めるように、一歩近づく。


『――――ッ!』


 当然、黄金の獅子は警戒を高めた。

 即座に攻撃が出来るように身を構え、低い唸り声を喉の奥から鳴らして。


「お前、俺の仲間にならないか?」

『…………???』


 トーマから向けられた勧誘の言葉に、黄金の獅子は『マジか、こいつ』という顔をした。

 恐らく、人間の言葉を完全に理解している個体なのだろう。

 故に、トーマの場の空気をぶち壊すような勧誘発言に、戸惑いを覚えたのだ。


「今なら三食昼寝付き。福祉厚生もしっかりしているが、どうだ?」

『…………』

「俺と一緒に栄光の頂点を目指してみないか?」

『…………グルゥ』


 黄金の獅子は、『何言ってんだ、こいつ?』という表情を隠さぬまま、そのまま背を向ける。

 そして、トーマが「あっ」と手を伸ばすのにも構わず、急加速してこの場を去って行った。


「…………くそっ、やっぱり俺には無理なのか! この世界の魔物を勧誘することは難しいのか!? 久しぶりに感じたぜ、これがテイマーとしての才能の欠如!」


 一方、トーマは勧誘が空振りに終わったことで、苦悩の表情を浮かべていて。


「いや、マスター。吾輩が思うに、貴様は空気が読めてない」

「マスター、自分の気持ちをぶつけるだけじゃなくて、相手と会話しないと」

「引きこもり研究者だった私よりも会話が下手ってどういうこと? 普段は普通なのにー」


 いつの間にか、酒場に駆け付けていた仲間たちから、辛辣な指摘を受けることになった。

 そう、何を隠そう、トーマは魔物たちから集合的無意識レベルで嫌われているのもそうだが、いざ勧誘の時になると、変に緊張してろくにスカウトが出来ないのだ。

 伊達にテイマーとしての才能が皆無だったわけでは無いのだ。

 三体のフルメンバーが集められたのも、特殊なケースが揃っただけ。

 実のところ、トーマのスカウト技術は低級テイマー以下である。


「ぐっ……仲間の言うことが正論で心が凹む……だが、俺は諦めない! あいつにもう一度、きちんとした言葉で俺の想いをぶつけて、スカウトして見せる!」

「貴様、仕事は?」

「仕事もちゃんとやる!」

「ならば、よし」


 トーマは仲間三体から、ぺしぺしと気安く体を叩かれて励まされた結果、無事にメンタルが復活。

 先ほどまでの情けなさが嘘のように、雄々しい表情で黄金の獅子のスカウトを決意したのだった。



●●●



 魔物をスカウトする時の基本は、情報収集だ。

 魔物の生息地帯。

 魔物の生態。

 魔物の好みとする物、魔物が嫌悪する物。

 これらをきちんと理解していなければ、スカウトする時も、スカウトした後も、色々と苦労することになるのだ。

 故に、トーマは早速、開拓村での情報収集を始めたのだが。


「黄金の獅子? 知らないねぇ」

「いや、ちょっと見たことは無いな」

「あー、前に一度。竜銀個体、って奴を集中的に狩ってたな」

「そもそもあの黄金の獅子、ここら辺の魔物じゃない気がするぞ?」


 得られた情報はほんの僅か。

 黄金の獅子は、竜銀個体を狙って攻撃していること。

 黄金の獅子は、未開拓地で活動する開拓者ですら滅多に姿を見かけない魔物であること。

 つまりは、ほとんど正体不明と言うことである。


「ふーむ」


 トーマは飛竜の襲撃で壊れた酒場の天井を直しながら、思考を回す。

 通常、いくら未開拓地と言っても、黄金の獅子ほどの力を持った魔物が存在しているのならば、噂話の一つとして広まっていてもおかしくない。

 けれども、黄金の獅子の情報は極端に少なかった。

 まるで、つい最近まで、黄金の獅子という存在が居なかったかのように。


「渡りの魔物か? だけど、あれほどの力の持ち主で、派手な外見なら、テイマーたちの情報網に引っかかるはず。それも無いとすると、普段は違う姿になっている? あるいは――」


 思考を回りながらも、トーマの動きは機敏で性格だ。

 あっという間に酒場の天井は、元通りに修復されて行く。


「いや、どちらにせよ、実際に何度か会ってコンタクトを取るのが手っ取り早いか」


 そして、完全に酒場を修復し終えると、「ふぅ」と一息吐いた。


「ありがとうございます! これ、もしよろしければ……」

「ん、どういたしまして」


 酒場の店長は、トーマの仕事の出来を見て、感激したようにミルクを差し入れる。

 キンキンに冷やした、高級ミルクだ。資源の限られる開拓村の中では、かなりの高級品である。


「ごくごくごく……ぷはぁ。うん、そうだな」


 グラスに注がれたミルクを一息に飲んだトーマは、ふと思いつく。


「まずは会って、一緒に飯を食う。そこで段々と親交を深めていけばいい。焦る必要は無い」


 言葉だけでスカウトするのではなく、必要なのは交流だと。

 何度も会って、言葉を交わし、共に食事をする。

 そういうコミュニケーションの積み重ねが、相手へ自分の想いを伝えるための最適解なのだと。急がば回れ、焦ると返って逆効果。地道な積み重ねこそが、結局のところ、一番の近道になるのだと。


「会える場所は、まぁ、大体わかるな。黄金の獅子の目的が、俺たちの仕事と同じなら」


 そして、出会う機会はこれから山ほどある。

 何故ならば。


「竜銀の災害が起こる場所で会えるはずだ」


 トーマも黄金の獅子も、共に竜銀を滅ぼさんとする者なのだから。

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