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第152話 開拓者たち

 基本的に開拓者の職業に就く者は、荒くれ者が多い。

 正確に言うのならば、開拓者を専門の仕事とする者は、荒くれ者が多い。

 上級のテイマーには実力に伴った場所の開拓義務が課されるわけだが、大抵の場合、開拓者という仕事を専門としない。

 何故ならば、開拓者という仕事は過酷だからだ。


 基本的に、寝泊まりする場所は未開拓地付近の危険地帯。

 魔物除けの結界は張ってあるものの、上級の魔物に対してはあまり意味を為さない。

 つまりは、寝ている間でも一定の警戒を残しておかなければ死ぬ可能性のある場所だ。

 しかも、娯楽は皆無。

 飲食店や寝泊まりする宿はあるものの、娯楽施設と呼べる場所はほとんど存在しない。

 未開拓地近くの危険地帯に、その手の店を出せるほどの戦闘能力を持った商売人が居ないのだ。いくら需要があったとしても、先駆者として試した前例が、いくつもの死体だったのならば、流石の目ざとい商売人も手を出せない。

 ただ、溜まり過ぎると良くないということで、娼館だけは例外的に備えられている。

 こればかりは、荒くれ者揃いの開拓者たちも、真剣な顔で娼館周りの安全を確保している。

 仮に、娼館も危険性故に撤退した場合、その後の生活環境ががくっと下がることは間違いないからだ。


 以上の通り、開拓者の仕事は過酷だ。

 現代社会の中でも、かなり劣悪な条件で仕事をしなければならない。

 だからこそ、大抵のテイマーというのは開拓者を専門とせず、あくまでも課せられたノルマを達成する程度の開拓に留めているのだ。

 つまり、開拓者を専門とする者には、相応の事情というものが存在する。

 無理をしてでも、莫大な資金が欲しい者。

 未開拓地に生息する魔物を研究したい者。

 常に合法的な殺し合いの場に身を置かなければ、殺人鬼と成り果てる性を持つ者。

 純粋に開拓という事業に浪漫を見出している者。

 彼ら、あるいは彼女らは大抵の場合、社会的な常識からかけ離れた感性の持ち主だ。

 故に必然と、『荒くれ者』と呼ばれるような気性の持ち主となるのである。


 さて、ここで疑問である。

 開拓者を専門とする者は、荒くれ者が多い。

 特に、未開拓地の深部に挑まんとする猛者たちなどは、その傾向が強い。

 そんな開拓者たちが突然、王国側から『お前たちでは解決できない問題が起こったから、対処するための人材を送るわ。そいつの邪魔をせずに、死なないように大人しくしているように』などという連絡――実際はもっと丁寧でオブラートに包まれた言葉――を受けたらどうなるだろうか?

 ましてや、いくら英雄とはいえ、問題解決のための人材として送られた存在が、明らかに自分たちよりも年下の子供だったならばどうするだろうか?

 その答えは一つ。


『『『舐めてんじゃねーぞ、お?』』』


 当然、その人材に突っかかりに行くのだ。



●●●



「店長、ミルクを一つ。良く冷えた奴で」

「は、はい……」


 トーマは未開拓地近くに存在する、開拓村の酒場で飲み物を頼んでいた。

 その気になれば、二十四時間戦闘を一週間ほど続けられるフィジカルとメンタルの持ち主であるが、それはあくまでも無理を重ねる必要がある場合に限る。

 トーマであっても、疲れるものは疲れるし、精神的にしんどいものはしんどいのだ。

 従って、トーマは未開拓地の深部で戦闘をある程度行うと、転移魔術でこの開拓村に休憩しに来ているというわけだ。


「うごごご……」

「つ、つえぇ……」

「足元にも及ばないってのは、こういうことかよ……っ!」


 なお、そんなトーマの周囲には、突っかかってきた開拓者たちが転がっていた。

 まるでお約束の如く、酒場で休憩していたトーマに絡んだ開拓者たちは、文字通り、指一本でトーマにボコボコにされてしまったのである。


「英雄ってのは伊達じゃない、か」

「というか、本当に人間か?」

「魔物でもあんなに強くねぇぞ?」


 だが、ここは荒くれ者が揃う、開拓者たちの酒場だ。

 力さえ示せば、トーマの外見が子供だろうとも関係無い。

 強者には敬意を払う。

 むしろ、トーマは強すぎたので、敬意を通り越して畏敬の念になってしまっているのだが、肝心のトーマ本人としては気にした様子は無い。

 昔から、外見と強さのギャップでのトラブルは欠かしたことが無かったが故に。

 もう既に、色々と慣れてしまっているのだ。


「へい、魔王殺しの英雄! 一杯奢らせてくれ!」

「アンタの武勇伝を教えてくれよ!」

「噂によれば、アンタもテイマーらしいが、魔物はどんな奴らなんだ?」


 だからこそ、しばらくして、一部の開拓者たちが自分の周りに集まって来た時には驚いた。

 今までの経験から、トーマがその実力を発揮した場合、大抵の人間はよそよそしく離れるのがデフォルトだったからである。


「へへへ、俺ぁ、強い奴が大好きでよぉ。強い奴とは友達になって、いつかその友達に殺されるのが夢なんだぁ」

「はぁい、素敵なボーイ。アタシと一夜の夢はどう? ちなみに、どっちの性別が良い? 自由に選択可能よ? 外見も百パターンぐらいあるわ」

「休憩が終わったら、真剣勝負をやろうぜ! 真剣勝負! 俺、圧倒的格上に挑んで、無残に負けるのが大好きなんだ!」


 ただ、トーマに近寄ってくる開拓者と言うのは、実力者あるものの、曲者揃い。

 まともな開拓者たちはトーマに畏怖を抱いて近寄らない分、まともじゃない者たちが集まってきたのだ。

 つまり、類は友を呼ぶの典型的な例である。


「…………うるさい。俺の休憩が終わったら相手をしてやるから、大人しくしろ」

「「「はーい」」」


 トーマはこういう輩を相手にする時のセオリーとして、あえてぶっきらぼうを装った。

 この手の癖の強い奴らは、一度引いたらどんどんと押してくるタイプだ。

 英雄としての仕事で来ている以上、あまり無駄な時間は過ごせない。

 故にトーマは、自分に物おじしない曲者たちとの遭遇を少しだけ嬉しく思っていることは隠しつつ、適度に対応しようと口を開いて。


「全員、伏せろ!」


 酒場の外から感じた、強烈なる殺気への警告を叫んだ。


 ――――どぉんっ!!


 次の瞬間、酒場の天井が吹き飛ぶ。


『ゴゥルルルルルッ』


 吹き飛んだ天井から見えたのは、一体の飛竜。

 その胸元には、突き出た竜銀が存在している。


『ガァアアッ!』


 吐き出す息吹は暴風。

 竜銀によって強化されたドラゴンブレス。

 それは酒場に居る者たちを全て、まとめて細切れにせんと放たれて。


「甘い!」

「結界発動!」

「結界の強度を底上げする!」

「俺たちは飛竜への反撃だ!」


 けれども、トーマが動くまでも無く、開拓者たちは対応する。

 ドラゴンブレスを結界で防いで。

 残った者たちは、各々の攻撃方法により、空飛ぶ飛竜を堕とさんとしている。


「へぇ」


 その動きの良さに、トーマは素直に感心した。

 酒場に居た者たちはほとんど、手元に魔物を置いていない。

 だが、即座に魔術を使えるものが結界を発動。その後、召喚魔術で手持ちの魔物たちを召喚。慣れたような連携で、飛竜の翼を狙って攻撃を始めている。


「悪くない」


 開拓者たちと飛竜の戦いを観察し、トーマは手を出さなくてもいいと判断した。

 このままの戦況ならば、何事も無く無事に倒せるだろう。

 ――――このままの戦況ならば。


『ガァアアアアアアアアアッ!!』


 開拓者たちに追い詰められていく飛竜は、大気が鳴動するほどの咆哮を放つ。

 しかし、それは威嚇でもなければ負け惜しみでも無い。

 飛竜が魔術を発動させるための、簡易詠唱だ。


『ゴルルルル』

『ガァアッ』

『ギャウ』


 転移魔術。

 それにより、飛竜は数十体に及ぶ仲間を召喚していた。

 しかも、それらの胸元には全て、竜銀が寄生している。


「――――っ! 撤退! 可能な限り逃がすぞ!」


 開拓者たちの判断は速かった。

 戦力の逆転。

 圧倒的に不利な状況。

 それを素早く察知すると、撤退の判断を下して、開拓村の者たちを逃がそうと行動を始める。


「さて、周辺被害を気にしながらの戦闘にもそろそろ慣れて来たな」


 故に、ここでトーマは動き始める。

 英雄としての仕事を果たすため、無数の竜銀個体を倒さんと構えを取って。


「うん?」


 空中を無音で駆け巡る、黄金の軌跡を見た。


『ゴギャッ!?』

『ギャウ!?』

『ギィ!?』


 黄金の軌跡は、飛竜の群れを蹂躙し、そしてトーマの前に降り立つ。


『グルルルルゥ』


 低い唸り声を上げる、黄金の毛並みの獅子が。


「なるほど、強いな」


 S級最上位の魔物すら凌駕するほどの気配を持つ何者かが、トーマの前に姿を現した。

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