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第145話 後輩

 トーマの影響により、ミッドガルド魔法学園に入った一年生は武闘派が多い。

 確実に、去年に入って来た者たちよりも戦闘に特化した者が多い。

 ウィザードとして入る者、テイマーとして入る者、そのどちらも平年のそれよりも遥かに一年生の戦闘力が高くなっている。

 理由としては主に二つ。

 一つは英雄であるトーマに師事するため。

 元から強い者が、更なる強さを求めるため、英雄との関係を求めているのである。

 もう一つは英雄であるトーマと戦うため。

 元から強い者が、更なる強者との戦いを求めるため、英雄との関係を求めているのである。

 従って、例年通りに行われたテイマー科の交流戦は、例年以上の見応えのある代物となった。

 通常、交流戦はテイマーになりたての素人も混ざっているため、ぐだぐだした試合展開も多くあるものだが、今回の交流戦は控えめに見積もってもB級トーナメントに匹敵するほどの激戦が繰り広げられていた。


「……ば、馬鹿なっ! S級の魔物だと!?」


 そんな激戦の中、ひと際目立つ戦績を持つ一年生が一人。


「S級の魔物を使役できるほどのテイマーが、どうして今更学校に!?」

「あの魔力量、尋常では無い!」

「なんだあのリッチーは!? 見たことのない形式の魔術だぞ!?」


 制服を纏う少女型の魔物――リッチーを使役し、単独で交流会全ての戦いに勝利した者。

 使役するリッチーは、この世界とは異なる魔術を扱い、無尽蔵の魔力で相手を圧倒する。

 そんな規格外のテイマーが一年生として現れたのである。


「一体、奴は何者なんだ?」


 テツヤ・ホンジョウジ。

 長すぎる前髪と、陰気な気配が特徴的な黒髪の少年。

 まるで覇気を感じさせないその少年こそ、一年生の頂点に立つ覇者だった。



●●●



「せいやぁ!」


 空気をビリビリと振動させる気合の声と共に、セラは己が聖剣を振るった。

 剛剣でありながら流麗な軌跡を描く斬撃。

 それは剣鬼をして、不意打たれれば致命傷すら受ける、セラの技量の集大成。

 魔物ならばともかく、人間でこの一撃を受けられる者はほぼ皆無だろう。


「ほいっと」


 そんなセラの斬撃を、トーマは指先一つで止めた。

 物理法則がおかしくなっているんじゃないか? と思わずに居られない光景であるが、紛れも無い現実である。


「……は? え、は!?」


 当然、これにはセラも驚いた。目を血走らせる程度には驚いた。

 師匠であるトーマには勝てずとも、最近はまともな戦闘の形になる程度には強くなったと思っていたセラである。

 だというのに、久しぶりに組手をして己の全力をぶつけたら、指一本で止められたのだ。

 驚愕するのも無理はない。


「はい、戦闘中に動揺しない」


 その隙を見逃してやるほど、トーマは甘くも無いし、適当に師匠をやっているわけでは無い。

 ぱちんっ、と受け止めた指でデコピンのように空間を打撃。

 その衝撃をセラにまで伝播させて吹き飛ばす――――自作の訓練場の壁にめり込むほどの威力で。


「がはっ!? …………いや、いやいやいや、師匠!」


 しかし、セラはこれで頑丈な剣士である。

 壁にめり込んだものの、すぐさま壁から出てきてトーマへ食って掛かる。


「いつの間にそんなに強くなったんですか!? 今までの組手は手抜きだったと!?」

「手加減はしていたが、手抜きじゃないぞ」

「私、こつこつ成長して、師匠に構えを取らせたことを喜んでいたのに!」

「いや、お前が強くなっているのは本当だから、そこは安心してくれ」

「でも、師匠はそれ以上に強くなっていません!?」

「そりゃあお前、自分と同格以上の相手である魔王殺し合ったわけだからな」


 信じられない、という顔のセラへ、トーマは当たり前のように言う。


「成長するに決まっているだろ、そんなの」

「……ず、ずるい! ずるいです、師匠! 私、物凄く強くなったのに! 強くなったはずなのに! 師匠の方が弟子よりも成長率が高いなんて!」

「お前も同格以上の相手と、ギリギリの死闘を体験すれば強くなるぞ」

「神人アーカイブにある武侠小説じゃあるまいし! そんな機会は滅多にありません! そもそも、普通の人間は死闘をしたぐらいでそこまで急激に強くならない!」

「悪い、逆境で成長するタイプの天才で」

「ただでさえ強い師匠の成長率がバグっていますぅ」


 必死に作り上げたプラモデルの模型の隣で、いつの間にか師匠が城一つ建築していた。

 そんな格差と無力感を覚えたセラは、わなわなと震えて床に蹲る。


「まぁまぁ、落ち着け。いいか、大丈夫だ。お前は強くなる。劇的に強くなった俺が師匠なんだから、お前をさらに強く引き上げることが出来る。わかるな?」

「ぐすっ……本当ですか、師匠?」

「ああ。とりあえず、シラサワが作った超人薬の第二段階を服用させよう。更なる強さが手に入れられるぞ?」

「強さの引き上げ方が身も蓋も無い!?」

「安心しろ。シラサワの薬で強化した後に、俺が技量も強化すれば完璧だ」

「その完璧はクレバー過ぎて情緒が足りていませんよぉ!」


 色々文句を言うセラだが、結局、強さを求める渇望に勝てるわけも無し。

 再び、栄えあるファーストペンギンとして、シラサワの薬による強化を受け入れたのだった。




 二年生になったトーマは多忙の日々を送っていた。

 まず、弟子であるセラの育成。

 次に、シラサワが開発した超人薬に関する企業との会合。

 そこに、イオリの戦闘技術更新のための調整に加えて、人型で鍛え始めたアゼルとの組手の予定も入っている。

 常人ならば過労で倒れるほどの過密スケジュールであるが、トーマは超越者。

 人間としての道理を越えた存在である。

 二十四時間労働どころか、一か月睡眠無しで動いてもまるで痛痒に覚えないほどのフィジカルを持っている。

 更には、追い詰められれば追い詰められるほど勝手に強くなる性質を持っているので、段々とその多忙さを乗り越えるための能力を身に着ける。

 今は多忙であったとしても、一週間後のトーマは余裕でそのスケジュールを捌けるようになっているだろう。


「そういえば、マイマスター。知っていますか? 一年生で凄い後輩が出たららしいですよ?」

「ほう?」


 そして、今でもなんだかんだ作業をしながら雑談を交わす程度の余裕はある。


「なんでも、交流会で負けなしだったとか」

「へぇ、去年の俺と同じだ」

「去年のマスターは、ちょっとあれな戦法を使ったと聞いていますが?」

「全力を尽くしたと言ってくれ」


 シラサワの研究施設で、イオリの再調整を行いながら、トーマは言葉を交わす。

 その最中も、手元で複雑な魔導器具を動かすことは止めない。

 完全に雑談と手元で思考を切り分けて行動しているのだ。


「噂によればその後輩、S級の魔物を使役しているらしいですよ?」

「ほう、奇しくも去年の俺と同じ」

「去年のマスターはアゼルちゃんをボコボコにして無理やり従わせていたと聞いていますが?」

「違うよ? 両方の合意の下の契約だよ? なぁ、アゼル?」


 いきなり話を振られたアゼルは現在、研究所の中に居ながら静かに座禅を組んで精神統一していた。

 故に、アゼルの心は乱れない。

 そう、人の修行中に、思い出したくない過去の話題を投げかけられたからと言って。

 精神が乱れることは無いのだ。


「吾輩はその話嫌い。二度と言うなよ、貴様ら」

「ごめんなさい」

「ごめんて」


 それはそれとして、幼児のように拗ねた口調で文句は言うのだが。


「ともあれ、マスター。そんな凄い後輩が出てきたわけですから、一度ぐらい顔を見に行きませんか? いつか将来のライバルになるかもしれないのですし」

「ふむ。一考の余地はあるな。確かに、先を見ることばかりではなく、後進からも学びを取り入れるのが真なるモンスターテイマー」

「ちなみに、今のマスターの風評だと、テイマーというより凄腕のウィザード、もしくは最強の戦士みたいな扱いが主流です」

「早くテイマーとして大成したい…………まぁ、後輩の顔を見るのが良いが、そんなに都合よく会えるわけでもないからな。普段、俺は偽装魔術を使っているわけで、あっちから声を掛けて来るのも難しいだろうし」

「では、会えた時のために特徴を教えます。一言で言うなら『堕ちたギャルゲー主人公』です」

「お前の地元の娯楽で例えるな、わかりづらい」


 トーマとイオリは調整中の暇つぶしとして、後輩の話題を口にする。

 実際に何をどうこうするつもりはなく、単なる世間話の延長線として。

 会えたら嬉しいが、実際に関わり合うことは無いだろうと思いながら。




「英雄トーマ。俺と戦ってください……アンタには挑戦に応える責務があるはずだ」



 もっとも、その予想はすぐに覆されることになるのだが。

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