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第14話 決勝戦

 ドラゴンにも格が存在する。

 地竜や亜竜などと言った、下位に属するドラゴンは基本的にブレスを吐けない。

 己が属性の魔力を凝縮し、口内から吐き出す攻撃。これは下位と中位のドラゴンを分ける重要なファクターである。どれだけ強かろうが、魔物としての脅威度が高かろうが、ドラゴンとしてはブレスを吐けないものは下位に属する判定になるのだ。


 そして、ブレスを吐けるドラゴン同士の格を分けるのは、知性である。

 具体的に言うのならば、魔力を吐き出すだけのブレスではなく、多種多様な魔術の行使が出来なければ、ドラゴンとしての格は上がらない。中位から上位には上がらない。

 そのため、ブレスを吐けるようになったドラゴンの大抵は、知性を求める。あらゆる手段をもって、時に人を食らい、その知識を奪い取ることによって。


 最後に、上位と最上位を分ける基準は、年数である。

 生きている年数が多ければ多いほど、ドラゴンの格が高くなるのだ。

 加えて、長く生きているドラゴンというのは大抵の場合、生きた年数分だけ強くなっているものである。

 特に、エンシェントと呼ばれる神代からの生き残りのドラゴンは、ほぼドラゴンの中でも上澄みの上澄み、もっとも上位に位置するドラゴンと言っても過言ではない。


 だが、そんなドラゴンよりもさらに上位に位置するドラゴンが存在する。

 創生神話。

 この世界が誕生した時、もっとも古い生命の一つ――ドラゴンの始祖として生まれた、いくつかのドラゴンが存在する。

 そのドラゴンたちは、S級魔物の中でも最上位に位置する存在であり、他者に対して名乗りを上げる際、【原初の】という言葉から続く異名を告げる特徴がある。

 つまりは、【原初の黒】――アゼルはドラゴンの中でも最上位に君臨する存在なのだ。

 たとえ、テリトリーである【試練の塔】から離れていても。

 人化によって能力に制限がかかっていたとしても。

 その竜鱗を超えて、攻撃を通すのは困難極まるだろう。


「く、ははははっ!」


 故に、だからこそ――――その竜鱗を切り裂く一撃を貰った時、アゼルは思わず哄笑した。


「素晴らしい、素晴らしいぞ、人間! そして、その使い魔ども! よくぞ、この【原初の黒】に傷を付けた!」


 頬を切り裂いた一筋の傷は、すぐに回復して消えた。

 しかし、アゼルのプライドに付けられた傷は消えない。

 それ以上に、アゼルの中で沸き立った好奇心は収まることがない。


「その褒美を取らせよう」


 アゼルの肌が鱗に覆われ、手足が竜のそれとなり、背中からは翼が生える。

 今、【原初の黒】の人化が解け、真なる姿が解放されようとしていた。



●●●



 話は数分前へと遡る。


「これより、ジーク・オーガストとトーマ・アオギリの試合を始める!」


 トーマの決勝戦の相手は、同世代の少年に見えた。

 というか、テイマー科の新入生の中の一人だった。

 くすんだ銀髪に、鋭い三白眼を持った、高身長の少年だった。


「胸を借りるつもりで挑ませてもらおう」


 その少年――ジークは試合開始後に殊勝な言葉を吐いていたが、その瞳はどこまでも冷たく、勝利を見据えているようだった。

 ただ、扱う魔物の格はそこまで高くは無い。

 結界内に並べられた手持ちの魔物は三体。


『ひえぇえええ……ドラゴンさんが相手なんて、聞いてないよぅ!』


 一体はゴースト。脅威度はD級。

 元は人間なのか、かなり古代の学生が着ていた制服――セーラー服姿の黒髪少女だ。


『ふしゅぅるるるる』


 一体はサラマンダー。脅威度はC級。

 煌々と燃える体を持つ精霊であるが、その姿は手のひらに乗りそうなほど小さいトカゲだ。


『…………怯えるな、オレたちは役目を果たすだけだ』


 一体は人狼。脅威度はB級。

 白銀の毛並みを持ち、二本の後ろ足で立つ二メートル大の狼だ。


 三体とも、普通の魔物の範疇だ。

 少なくとも、【原初の黒】であるアゼルと相対するには格が足りない魔物ばかり。


「予定通りのプランAで進める」


 だが、ジークは一切の恐れなく指示を出した。

 遥か格上、S級に位置するアゼルを刈り取るための指示を。


『ふしゅらあっ!』


 最初に動いたのはサラマンダーだった。

 地面から人狼の肩に飛び乗り、煌々としたその炎を纏わせる。


『炎身変化』


 そして、炎を纏った人狼の肉体が変化する。

 白銀の毛並みが紅蓮へと変わり、その肉体が狼からより人間に近づき、前かがみの姿勢から、完全なる二足歩行に移行して。


『加速』


 きゅぼっ、と紅蓮の毛並みから噴き出した炎が、人狼の動きを加速させた。

 獣の飛び掛かりではなく、炎の推進力を利用した移動法。更に、武術の歩法が混じった距離の詰め方により、人狼は一瞬でアゼルの懐に潜り込んだ。


「ほう」

『ドラゴンよ、お前を打ち倒す』


 宣言と共に人狼が振るうのは、人間が獲得してきた武術の一つ。

 流れるような打撃の連結に特化したものだった。

 相手が回避しようが、相手が受けようが、相手に致命の一撃を食らわせるまでコンボが止まらない。そういう類の攻撃だった。


「面白い、魔物が人間の技を弄するか」


 アゼルは攻撃を竜鱗で受けながら、魔術を編み上げる。

 雷の暴風の魔術により、眼前の人狼を吹き飛ばさんとする。


『や、やめてくださぁーい!』

「ぬぅ!?」


 だが、編み上げられた魔力は、発動前に霧散した。

 ゴーストからの妨害だった。

 本来、ポルターガイストで脅かす程度のことしかできないはずのゴーストが、アゼルの魔力に干渉し、魔術の発動をキャンセルしたのだ。


「ドラゴンを討つつもりで来た。こちらの手持ちに『無駄』は無い」


 結界外から、ジークが油断なく言葉を紡ぐ。

 その視線は終始、魔物たちの戦いに向けられており、鋭く神経を集中させていた。


「だが、そちらに『無駄』はある。そのドラゴンは人化に慣れていない。人の動きを習熟していない。故に、こうして隙が生まれる。いかに高位のドラゴンとはいえ、人化したまま、魔力妨害を受けた上、達人の動きで詰められれば――――傷は与えられる」


 言葉と共に、ジークは補助魔術を発動する。

 それは人狼の攻撃力を強化するもの。

 一瞬だけ、けれども飛躍的にその一撃を強化する魔術。


『まずは、一撃』


 慣れぬ人の体に、魔力妨害、加えて人狼の卓越した体術に、テイマー側からの補助。

 ここまで無駄なく積み重ねた一撃を受けては、流石のアゼルも傷を負わざるを得ない。


「く、ははははっ!」


 たとえそれが、頬をわずかに切り裂いただけの一撃だったとしても。

 確かに一撃、アゼルは格下からの攻撃を受けてしまったのだ。


 そして、現在に至る。



●●●



 ドラゴンは基本的にプライドが高い魔物である。

 当然、格下の魔物が自身に傷を与える行為などは、そのプライドを障る行為だ。


「見せてやろう、挑戦者たちよ! 吾輩の真なる姿を!!」


 だが、アゼルはむしろ、そのプライドが障られる行為にこそ、歓喜を覚えていた。

 長い間、ドラゴンの頂点に君臨していた【原初の黒】であるアゼルは、手ごわい挑戦者の存在こそが喜びだったのである。

 その上、アゼルが好むのは『脆弱な人間と魔物が培った絆で自分に挑む』というシチュエーションだ。

 そう、トーマの手持ちの仲間になること自体には生理的嫌悪感を抱くアゼルだが、こうして数多のテイマーが使役する魔物たちと戦える大会は、好ましく思えるものだった。

 そして今、ついにアゼルに傷を付けるだけの挑戦者が現れた。

 ならば、今の本気で迎え撃つのが礼儀というものだろう、とアゼルは考えている。


「ぐるぅううおおおおおおおおおっ!!」


 吠え猛る声と共に、アゼルの肉体が変化する。

 少女の肉体から、龍の肉体へと変化が始まっている。

 肌は鱗に。手足は爪に。胴体は大蛇の如く蠢いて、膨張を続けていく。


「プランBだ。完全に『元に戻る』前に少しでもダメージを与えろ」


 無論、その隙をジークは見逃さない。

 手持ちの仲間たちに、ありったけの攻撃を行うように指示を行う。

 吠え猛るドラゴンに、冷静に事態の推移に合わせた戦略を練る人間。

 あまりにも肉体強度が違う者たちはけれども、この時、確かに互いを倒すべき敵だと認め合っていて。



「あ、どっこいしょーっと!!」



 そんな激闘の予感を一切合切吹き飛ばす、一発限りの投石――多重エンチャントにより、魔導兵器クラスの威力となった投石により、強制的に勝敗は決することになった。

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