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第135話:剣鬼は死なず

 生物兵器に刻まれた魔法陣により、転移魔術を受けた魔王軍の約半数。

 そして、剣鬼たるマサムネ。

 彼らが転移させられたのは、王国内に存在する古城の一室だった。

 しかも、一人一人が離されて転移させられている。

 分断されてしまっている。

 故に、魔王軍の兵士たちは転移の直後、覚悟した。

 この場所こそ、王国が自分たちのために用意した『狩場』なのだと。


「くそっ! 早く仲間と連絡を――」


 一人の兵士は、仲間との合流を目指そうとしたところで殺された。

 壁の中から這い出た刃によって、首を掻き切られて。


「ちくしょう! 直ぐにでも帰らねぇと――」


 一人の兵士は、魔王城への帰還を目指して転移魔術を発動しようとした。

 だが、その発動よりも先に、足元から生えて来た槍によって串刺しにされた。


「――――この建物全域、全てがミミックか!」


 三人目の兵士は、この古城に仕掛けられたトラップに気づいた。

 ミミック。

 ダンジョンなどで宝箱や何かの物体に擬態する魔物。

 擬態した物体によって等級は異なるが、仮に、この古城全てがミミックだったとするのならば――その脅威度はS級にも匹敵する。


「つまりは、この建物全てが敵みたいなものかよ!?」


 三人目の兵士は粘った。

 体中を包むような魔力防壁を発動させて、周囲からの攻撃に耐えた。

 だが、それはいつまでも続かない。人間が貝殻を剥いて、その中身を食べるように。古城に擬態したミミックもまた、丁寧に魔力防壁を剥がし、三人目の兵士の命を喰らおうとして。


「魔物の相手はやっぱり、乗り気になれやせんねぇ」


 きん、という澄んだ切断音と共に、周囲の建物が全て切断された。

 たまたま近くに転移していたマサムネによって、ミミックの攻撃は切り払われてしまったのである。


「マサムネ様!」

「あー、小生程度に様付けは必要ないですぜ、同志」


 救われた兵士は感謝の視線を向けるが、マサムネはそれを軽く流した。

 ひらひらと手を振って、何でもないように歩き出し、再び刀を構える。


「小生が切り拓くんで、ゆるりと後から来てくだせぇ」


 剣閃が迸る。

 縦横無尽に斬撃が飛ぶ。

 それらは容赦なく古城に擬態したミミックを切り裂き、着実にダメージを負わせていく。


「おっと」


 マサムネの行動に脅威を覚えたのか、古城ミミックはやり方を変えた。

 武具を生成してのトラップ攻撃ではなく、建物自体を狭めて押し潰す方法へと。


「んんー、ここら辺、ですかねぇ?」


 圧倒的物量による圧殺。

 全方位からの押し潰し。

 普通であれば絶望しかないような状況であるが、四天王の一人が普通であるわけがない。


「しぃっ!」


 鋭い呼気と共に、マサムネは斬撃を一つ飛ばした。

 それは容易く壁を切り裂き、どこまでもその威力を落とすことなく飛んで行って。


『――――ガッ!?』


 やがて、古城自体が響くほどの断末魔が聞こえた。

 どうやら、マサムネが放った先ほどの一撃は、古城ミミックの急所を狙ったものらしい。

 当然、命が絶たれた古城ミミックはもう動かない。

 殺された者はもう、動くことは無い。


「じゃあ、行きやしょう――――っとぉ?」


 そう、動くことは無いのだ。

 マサムネが古城ミミックの対処をしている間に、首を裂かれて死亡していた三人目の兵士もまた。


「……へぇ」


 仲間が殺されたというのに、マサムネは笑みを浮かべた。

 いくら周囲の壁が動き始めて、圧殺を企てていた間のことだったとしても、自身の感知を掻い潜って殺せるほどの力量の持ち主が居ることに、興味を抱いたのだ。


「転移魔術を受けた時はもう、やらかしたと思いやしたが――――中々どうして、悪くない戦場になりそうじゃありませんか」


 くくく、と喉を鳴らしてマサムネは即座に切り替えた。

 仲間の救助ではなく、強者との殺し合いへと。




 マサムネは警戒を閉ざさす、通路を進んで行く。

 時折、通路やドアが半開きになった部屋の中には、魔王軍の兵士や修羅たちの死体が転がっていた。

 そう、戦力的に魔王軍全体の中ではあまり強いと言い難い兵士たちだけではなく、S級相当の実力を持った修羅たちすらも死体になっているのだ。

 この事実に、マサムネは歓喜していた。


「この『狩場』を攻略して、魔王城に戻って、あの超越者二人と殺し合う。うん、中々に素晴らしい予定だ」


 歩く、歩く。

 油断なく、刀に手をかけたままの状態で歩いて。


「ほう」


 そして、マサムネは辿り着いた。

 古城の内部にある、円形のコロッセウムへと。


「待っていたぞ、我らが怨敵」


 そこには、合計十六人もの騎士たちが待ち構えていた。

 王国騎士団。

 王国を守る騎士団の中でも、更に精鋭が選び抜かれた騎士団だ。

 かつて、王国最強の騎士が所属していた組織だ。


「彼の人から奪い取った、王国最強の称号」

「今、この時を持って切り捨てらえると思うがいい」

「あの方の命を奪ったお前を殺して、我々は初めて恥を雪げる」


 殺意溢れる騎士たちの視線と言葉を受けて、マサムネは刀を抜くことで応じた。


「是非も無し」


 マサムネの中には、かつて王国最強を殺した頃に対する罪悪感は無い。

 あるとするのならば、もう二度とあの王国最強とは殺し合えないのだな、という自分勝手な感傷のみ。

 故に、だからこその剣鬼。

 斬り合いのことしか考えられない、人でなし。

 されど、その振るわれる剣閃はどこまでも鋭く、眩しい。

 容易く、鍛え抜かれた強者の命を奪えるほどに。


「はぁっ!」

「ほう?」


 ただ、今回ばかりはその刃は、騎士たちの命を奪わない。

 何故ならば、弾いたからだ。

 騎士たちがマサムネの剣に反応し、その刃を防いで見せたからだ。


「中々どうして、悪くない」


 その事実に、マサムネが愉悦の笑みを浮かべるが、騎士団は取り合わない。

 ただ、己の役割を果たすため、次々と剣を抜いてマサムネに斬りかかる。

 ――――凡庸からかけ離れた、達人の一撃のような鋭さで。


「へぇ!」


 マサムネは歓喜の声を上げて、それらの一撃を捌いていく。

 その技量は剣鬼の名に恥じないものだったが、それでも動きに余裕は無い。

 騎士団の達人染みた剣技と、連携による絶え間ない攻撃に防戦一方となっていた。


 ――――無論、これは王国騎士団が最初から、これほどの強さを持っていたわけでは無い。


 強さの種は二つある。

 一つは、シラサワが開発した超人薬。

 セラも服用したそれを、王国騎士団の精鋭たちが服用し、自身を強化したのだ。

 これにより、王国騎士団の基礎性能は格段に跳ね上がり、各自、S級ウィザードほどの理不尽なものではないにせよ、固有魔法を手に入れた。

 もう一つは、S級ウィザード――第二位の固有魔法【再構成】によるものである。

 この固有魔法は、人間の経験を組み替える。

 さながら、ゲームのステータス振りを経験値の総量が変わらぬままやり直すように、自分自身を一時的に新しい存在へと組み替えることが可能なのだ。

 これら二つの要素により、王国騎士団の騎士たちは達人級の力を得ることになった。


「炎よ」

「牙よ」

「傷よ」


 王国騎士団は一糸乱れぬ連携で剣を振るう。

 それぞれの固有魔法を纏わせた剣技を振るい、マサムネへと叩きつける。

 己の強さを押し付け、相手に防戦を敷いたまま、押し潰さんとするために。


「ああ、これは素晴らしい――――本気を尽くす甲斐がある」


 だが、次の瞬間、王国騎士団は己の死を連想した。

 達人級に跳ね上がったからこそわかる、マサムネの脅威。

 これから振るわれる『何か』に、死を直感したのだ。


「万象噛み砕け、『ラタトクス』」


 宣言と共に、マサムネは新たなる刀を抜いた。

 刀身は白。

 形は歪。

 されども、纏う魔力は刀単体でありながら、S級魔物を凌駕するほど。

 つまりマサムネは、魔剣を振るわんとしているのである。

 この状況を一変させるだけの威力を秘めた魔剣を。


「応じるぞ!」

「「「おうっ!!!」」」


 死を直感しながらも、王国騎士団は下がらない。

 下がっても死ぬと直感しているからだ。

 故に、活路は前にしかない。

 魔剣を振るう剣鬼を越えなければ、生存の道はない。

 そして今、剣鬼と騎士団は互いの全力をぶつけ合おうとして。



「ようやく見せたな、隙を」



 白銀の聖剣が、横薙ぎにマサムネを斬った。

 マサムネと王国騎士の間合いが重なり合う、その寸前の出来事だった。

 今の今まで、隠れ潜んでいた聖剣の主――セラが奇襲を仕掛けたのだ。

 確実に、マサムネに痛手を与えられるタイミングを狙って。


「リビルドによる隠密特化のスタイル。そのおかげで奇襲が出来たが、その所為で貴様を仕留めそこなった…………だが、傷は深いだろう?」

「く、はははっ! 三度目とは! 中々にしつこく、そして愛らしいですぜ、お嬢さん!」

「復讐者だからな」


 マサムネは笑う。

 わき腹から大量の血を流しながらも、心底愉快そうに笑う。

 致命傷を負いながらも、まったくその気迫を衰えさせずに。

 けれども、セラは今更、その程度で怖気づくような精神は持ち合わせていない。


「さぁ、行きますよ、皆。お父さんの――最強の騎士の敵討ちです」

『『『おうっ!!!』』』


 剣鬼は死なず。

 されど、復讐の刃は今、その喉元に届かんとしていた。

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