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第132話 決戦

「ん、なんだ?」


 王都に配置されたテイマーの内の一人が、地面から伝わってくる揺れを感じ取った。


「地震か?」

「魔王軍が大地の精霊でも使って来たか?」

「まて、これは……地響き?」


 次第にその揺れは段々と増していく。

 ごごごご、と遠くから地鳴りも響いてきた。

 当然、王都を守る者たちは外へと視線を向ける。

 王都の外――――遥か先から迫りくる、津波の如き魔物の大群へと。


「敵襲! 敵襲! 魔物のスタンピードをぶつけて来やがった!」

「遠距離攻撃、範囲攻撃持ちは即座に王都の外周に集まれ!」

「王都の中に入られる前に、可能な限り減らすぞ!」


 常人ならば正気を疑うような光景。

 けれども、この王都に残った者たちは、テイマー、ウィザードを問わずに手練れ揃いだ。

 この程度では動揺しない。

 いかに数百、数千による魔物の大群だろうとも、きっちりと滅ぼす算段を付けられるだろう。



「魔王様から借り受けた炎の精霊、その頂点たるイフリート。その力を今こそ、解き放つのであります」



 迎撃者たちの出鼻を挫くような強襲が無ければ。


「んなっ!?」

「王都の上から!?」

「くっそ、二方向からの攻撃かよ!」


 王都の上空に、巨大な炎の塊があった。

 それはさながら隕石のように、王都を焼き尽くさんと落ちて来る。


「――――イグニス」


 だが、魔王軍に王都を滅ぼすだけの火力があるように、王都の防衛組にも、その火力を凌駕するだけの力を持った存在が居た。


「吹き飛ばして」

『了解だ』


 赤き竜――【原初の赤】が、王都から空を撃ち抜くようにドラゴンブレスを放った。

 その威力たるや、王都を滅ぼさんとする炎の塊を吹き飛ばすほど。

 炎の精霊による、広範囲攻撃。

 エンシェントドラゴンによる、ドラゴンブレス。

 並大抵の戦いならば、勝負を決するだけの火力の攻撃の激突。

 けれども、そんなものは王都でこれから起こる防衛戦の前哨戦に過ぎない。


「やはり、お前はここに配置されていると思っていたであります。メアリー・スークリム」

「王都を滅ぼすのなら、あの虐殺者よりも、貴方の方が適任のようね。統率者ミーナ」


 王都の上空にて、二人の規格外が相対する。

 片方は魔王軍が四天王、統率者ミーナ。

 片方はS級テイマー三強の一人、月の愛し子メアリー。

 二人の少女は、王都に於ける戦いの特記戦力として向かい合っている。


「お前に言われて反省したのであります。やはり、私には魔王様の真似事は似合わない、と。魔王様のお役に立ちたいのならば、そのこだわりは捨てるべきなのだと」

「その結果がこれ?」

「――――いいえ、まだまだ、これからであります」


 ミーナは軽く右手を上げた。

 すると、空の天幕が剥がれたかのように、偽装が解除される。

 大魔導士フェイスが予め施しておいた、認識阻害が剥がれる。


「数は力」


 魔物。

 魔物魔物魔物魔物。

 無数の翼ある魔物たちが、空を覆っていた。

 さながら、草木を喰らう蝗の災害のように。


「不格好は承知の上」


 更に、ミーナが右手を何かを引き剥がすように横薙ぎに振るう。


「無様で情けないのも上等」


 すると、今度は地上の認識阻害が剥がれた。

 王都に向かうスタンピードの群れ。

 それは王都を囲む魔物の大群の一角に過ぎなかった。

 数万、否、数十万に及ぶ魔物の群れが、王都を滅ぼさんと集まっていたのだ。


「それでも、勝つのは我々であります」


 ミーナは吹っ切れたようにメアリーに宣言した。

 どれだけ不格好で情けなく、馬鹿みたいな戦法だろうとも、勝つことこそが全てなのだと。


「奇遇ね」


 けれども、ミーナと相対するメアリーはそれを否定しない。馬鹿にもしない。


「私も似たようなことを考えていたわ」


 ただ、一緒に視た映画で同じ感想を呟いた友人を見るような、気安い笑みを浮かべた。


 ――――どんっ!!!


 次の瞬間、地面ではなく空間が揺れた。


「恥も外聞もなく、勝つためなら使えるものを使おうって」


 空に稲妻が走った。

 地面に巨大な剣が突き刺さった。

 地中から煌めく光が溢れた。

 次々と、S級相当の魔物の気配が王都の周囲に現れ始めた。


「っつ! そうだ、そうだったのであります! 私にフェロモンがあるように! お前には! メアリー・スークリムには月の愛し子としての加護がある!」

「その通り。普段は仲間にする数が多いと管理が大変だからやらないんだけど。今日は特別――――私は、トーマを迎えるための居場所にならないと」


 メアリーは笑みを消し、覚悟を決めた視線でミーナを見据える。


「だから、勝つのは私たち」

「いいや、それでも! 我々が勝つであります!」


 互いに勝利は譲らない。

 戦意で敗北を押しのけ、相手の命運を潰す。

 今、王都の前で相対する二人の少女は、その覚悟を持って戦闘を開始した。



●●●



 王都での防衛戦が始まった頃、魔王城での戦いは最初から今後の戦況を左右する局面となっていた。


「さぁ!」

「さぁさぁ!」

「ぶち殺すぜ!」


 幻術。

 S級ウィザードの固有魔法による幻術。

 それはトーマの疑似情報を他者に張り付け、能力の一部も偽装することに成功していた。

 つまりは、トーマよりも遥かに劣る程度の身体能力と戦闘力――S級以下の相手ならば、即殺出来る程度の力が、魔王城へと突入する面子に付与されているのだ。


「ひぃ!? つ、強いぞ、こっちの奴! まさか本物!?」

「馬鹿、本物だったら、俺達は殺されている!」

「ええい、戦闘狂の修羅どもを先に行かせろ! 俺達はフェイス様の補助だ!」


 魔王城を縦横無尽に駆ける無数のトーマの姿は、魔王軍の一部を混乱させるには十分な効果があった。

 何せ、トーマだ。

 魔王軍の最高戦力である魔王と互角以上の力を持つ怪物だ。

 接敵すれば死は免れない。下手をすれば、瞬きの間に即死する。

 そんな相手の外見をした偽物が無数に居るのだ。

 思わず、警戒して及び腰になってしまうのも仕方が無いだろう。


「ああ、外れですかい」


 しかし、これで混乱するのは一定以下の力量を持つ者に過ぎない。

 魔王軍四天王が一人、剣鬼マサムネは当然のように偽物を切り捨てていた。

 見破るのではなく、本物を探すための行為として、平然と偽物のマサムネを切り捨て続けている。


「折角の殺し合える機会、逃す手はありやせん。さぁ、トーマ殿。小生が偽物を殺し尽くす前に現れてくだせぇ」


 斬る。

 斬る、切る。切断る。

 マサムネは卓越した剣技によって、一瞬で偽物たちを切り伏せた。


「そ、そうだ! 本物以外は大したことは無い! 落ち着いて戦え!」


 そんなマサムネの戦いぶりに、魔王軍は冷静さを取り戻す。

 トーマの姿を見ても焦らない。

 冷静に対処し、持ちうる戦力を十全に引き出して戦い始める。


『待たせたね、皆! 相手の幻術を解除するよ!』


 そこに、追い風のようにフェイスからの連絡が入る。


『【前を向け。目を開けろ。夢は覚めよ――――現よ、現れろ!】』


 魔王城に響くフェイスの詠唱の後、幻術を破るための魔術が発動した。


 ――――ぱりんっ。


 次いで、ガラスがひび割れるような音が響いて、偽物のトーマの姿が消える。

 代わりに、トーマの姿を被っていた者たちがその姿を現し始める。


『これは?』


 そう、既に死体になったものも含めて、『死体の継ぎ接ぎで作られたような生物兵器』が姿を現したのだ。

 その肉体に刻まれた、魔法陣も全て。


『しまっ――』


 フェイスはその瞬間、己の失策を悟った。

 罠は二重構造。

 一層はトーマのガワを被った幻術。

 二層は生物兵器に刻まれた魔法陣。

 それが相手に認識されると同時に、発動する魔術。

 魔王城内に十分に散らばったことにより、効果範囲を広げた――――空間転移の魔術。


 ――――ガオンッ!!


 空間にひび割れに吸い込まれ、魔王軍の約半数の戦力が強制的に転移させられた。

 その中には、数多の偽物を切り伏せたマサムネの姿もある。

 そう、他と比べて強すぎるが故に多くの死体を積み上げ、その結果、魔法陣の影響が強くなってしまい、逃げ切れなかったのだ。


「さぁて、大分減ったみたいだねぇ。行くよ、ガキども」


 そして、転移させられた魔王軍の戦力と入れ替わるように、アラディアを筆頭としたS級テイマーの集団が魔王軍の内部に入り込む。


「固有魔術【全天蒼火】」

「固有魔法【苦痛貸与】」

「固有魔法【枯死海生】」


 次いで、生物兵器たちが魔王軍を翻弄している間に、潜り込んだS級ウィザードが、各自の固有魔法を発動。魔王城の一部を己の領域と化す。


『ええいっ! 僕はウィザード共を片づける! 他はテイマー共を足止め! トーマ・アオギリの捜索は探索特化の者たちが行うように!』


 劣勢を自覚したフェイスは、素早く立て直すために指示を出した。

 だが、その判断は一足遅い。


「これ見よがしに気配に、如何にもな扉……魔王はこの先か」


 何故ならば、既にトーマは魔王が座す、玉座の間の前へと辿り着いていたのだから。

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