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第13話 準決勝戦

 二回戦以降、トーマの対戦相手の棄権が相次いだ。

 だが、それも当然のことだろう。

 誰しも失神や失禁なんてしたくない。

 対策をしようにも、トーマの威圧戦術は魔力を介さぬ、純粋な殺気オンリーな技術である。ほとんどがその正体にも気づかず、正体に気づいたものでも対策なんて立てようがない。

 少なくとも、この大会の間は、誰もトーマの威圧戦術を止めることは出来ない。

 そのような結論に陥った結果、棄権が相次いだというわけだ。

 この事態に、張本人のトーマは『もしかしたら全試合不戦勝で優勝するかもしれない』という、異例の可能性に戦々恐々としていたわけだが。


「ほう、中々にいい連携だ! だが、この鱗を貫くには威力が足りんっ!」


 準決勝の対戦相手となった人物はなんと、棄権することなくトーマと戦うことを選んでくれたのだ。

 今、こうしてアゼルが元気よく結界内で暴れているのがその証拠である。


「くっ! 一号、二号、連携Aパターンで抑えて! 三号は後衛から狙撃集中!」


 対戦相手の男子――イメイ・ダヤードが必死にアゼルに抗おうとする姿を、トーマは感動と共に見ていた。

 棄権が相次いでいた中、自分と正々堂々戦おうとしてくれる漢の姿を、しっかりと心の中に刻み付けていた。


「ぬるいわぁ! 機械人形の馬力が足らぬわぁ! 吾輩を止めたければ、この百倍の馬力を持ってくるのだなぁ!」


 それはそれとして、意気揚々と戦うアゼルに手加減を命じることはあり得ないが。


「この威圧感、この力……薄々感じていたけど、やっぱりS級か!」


 イメイは感嘆の声を上げながら、魔物たちへの指示を飛ばしていく。

 使役する魔物たちは、三体全てが機械人形――ゴーレムである。

 魔導機械の技術によって作られた、人造魔物である。

 血肉は循環液と鉄鋼。

 思考は魔導計算機。

 けれども、確かにその中に魔力を生み出しうる『疑似魂』が存在している、れっきとした魔物の一種だ。

 当然、モンスターバトルで使役することに、何の問題も無い。

 どちらかと言えば、S級魔物をD級トーナメントで出してくる方が問題視されるぐらいだ。


「決勝まで取っておくつもりだったけど、ここで使うしかないか――――総員、リミッター解除。限界を超えて、駆動せよ!」


 イメイはアゼルを相手でも絶望しない。

 使役するゴーレム三体の制限を取り払い、全力以上の力で勝利を狙いに行く。


『委細了解。対象を切り裂きます』

『委細了解。対象を貫きます』

『委細了解。対象を射抜きます』


 イメイが使役するゴーレムは、それぞれ人型だ。

 一号は剣を持つ細身の男性型。

 二号は槍を持つ巨体の男性型。

 三号は槍を構える小柄な女性型。

 それぞれのゴーレムは無表情に、けれども確かな応答によって己の限界を取り払う。


『『『対象を排除します』』』


 ゴーレム三体は、先ほどまでとは倍以上の速度で動き始める。

 機体を赤熱させながら、関節部を軋ませながらも、アゼルを翻弄せんと取り囲み、次々と手に持った武器を振るう。


「くはははっ! 悪くない、悪くないぞ! 機械人形と侮ったことを謝罪しよう! 確かに、貴様らの中には魂があるとも! だがなぁ!!」


 ただ、それでもゴーレムではアゼルに追い付けない。

 人知を超えた強度を持つ肉体のアゼルには、人化しているとはいえ、【原初の黒】という伝説のドラゴンであるアゼルには、まだまだ追い付くことが出来ない。


「悲しいかな! 吾輩には劣る!!」


 アゼルが爪を振るう。

 一号の胴体が吹き飛び、結界内から排除される。

 アゼルが蹴りを放つ。

 二号の頭部が吹き飛び、結界内から排除される。


「そして、これは吾輩を楽しませた者への手向けだぁ!!」


 アゼルが息を放つ。

 ドラゴンブレスを放つ。

 灼熱の吐息が三号の機体を飲み込み、消し飛ばす。

 当然、結界内からは排除され――結界の機能により、巻き戻ったゴーレムたちがイメイの背後に積み上げられていた。


「そこまで! イメイ・ダヤードの手持ち全ての戦闘不能により、トーマ・アオギリの勝利!」


 審判の宣言により、勝敗は分かれた。

 だが、今までのトーマの戦いとは異なり、周囲からは歓声とは拍手が巻き起こっている。

 どうやら、真っ当な激戦をやったことにより、トーマの悪評というか畏怖が多少薄まっているらしい。


「負けたよ。君の魔物は本当に凄かった」

「いやいや、お前のゴーレムも凄かった。まさか、ゴーレムがここまでアゼルに食いつけるとは思わなかったぜ」


 試合を終えた両者は、爽やかな笑みを浮かべて握手を交わしていた。

 麗しきスポーツマンシップに溢れる光景である。


「ふふっ、そう言ってもらえると僕も研究者冥利に尽きるね。実はあれ、三体とも僕のオリジナル作品なんだ」

「なんと!? マジか、すげぇな、それ! え? 天才少年!?」

「僕としては、その年でS級を使役する君の方が天才少年なんだけど」


 試合後、対戦相手と感想戦をする。

 トーマはかつて夢見た中にある、テイマーとしてやりたかったことの一つが叶い、非常に上機嫌にイメイと言葉を交わしていた。


「じゃあ、二人とも天才少年ってことで、どうだ!?」

「あははは、天才の大安売りだね。完敗した僕にとっては、ちょっと重い称号かもしれないけど」

「いやいや、あのゴーレムの性能はマジで凄いって。瞬間的にB級以上のポテンシャルがあった。それに、この大会で俺に怯えずに戦ってくれたのは、今のところイメイだけだぜ?」

「……まぁ、それはね? 君の良心に期待したというか、ぶっちゃけ、漏らす覚悟は決めてきたというか」

「やべぇ! 漢だぜ、イメイ!」

「やばいのは女子を失禁させた君だよ、トーマ」

「それはとても反省している」

「うん、後で謝りに行った方がいいんじゃない?」


 だからこそ、気づかなかったのかもしれない。


「ともあれ、君が自重してくれて助かったよ。失禁はしたくなかったし、それに……君との戦闘データは、今後にとても役立つだろうから」

「おう! そう言ってくれて何より!」


 イメイの瞳の中に潜む、警戒の感情に。



●●●



「決勝進出おめでとう、トーマ」

「おう、ありがとうな、メアリー! まぁ、ほぼアゼルのおかげで、俺は何もしてないわけだけどさ!」


 準決勝を勝利で収めた後、トーマはメアリーと合流した。

 引率の仕事があるからか、メアリーの背後には中央の学園の学生たちが居るのだが、その誰もが、トーマに対して警戒の視線を向けている。


「ぐすっ、ひっく……」


 そして、約一名――失神と失禁のコンボを衆目に晒してしまったキョーコが、恨めしい目つきでトーマを睨んでいた。


「うん?」

「ぴうっ!?」


 しかし、視線に気づいたトーマが振り返ると、キョーコは小さい悲鳴をあげて、他の学生たちの背後に隠れてしまう。

 どうやら、威圧戦術を食らった時に、根深いトラウマが植え付けられたらしい。もはや、単独ではトーマの前に立つことは不可能だろう。


「あれ? 気のせいか」


 自分の対戦相手がそんなことになっているとはつゆ知らず、首を傾げるトーマ。

 謝罪への道は、まだまだ遠いようだ。


「ともあれ、アゼルのおかげで決勝まで進出したけど、戦っている間、俺が手持ち無沙汰なのが問題だな!」

「トーマなら支援どころか、殲滅も可能でしょうに」

「可能だけど、やり過ぎて周りの印象があまりよろしくない。具体的には、モンスターバトルなんだからモンスターを使えよ、みたいな事を言われた」

「やり過ぎね、大馬鹿者。普通に支援魔術とかを使えばいいのに」

「俺の支援魔術は、何故か魔物にかけると、ちょっと強すぎて肉体がぱーんってなるんだよなぁ」

「相変わらず、強すぎることがネックな生命体ね」

「いやー、俺がもうちょっと器用ならよかったんだけどなー」


 呆れたように言うメアリーに、トーマは苦笑で応える。

 そのやり取りは今まで何度も為されていたのか、二人の間ではもはや定番のような雰囲気を出していた。


「あ、そういえば、メアリー。俺の決勝の相手、知っている?」

「ええ、知っているけれど」

「じゃあ、さくっと教えてくれ。決勝が始まる前には連絡は来ると思うけどよ、その前に心んお準備を済ませておきたいんだ」

「心の準備なんてなくても、どうせ貴方が勝つわよ」

「いや、そうとも限らない。何せ、このD級トーナメントには、あいつが居るからな。ナナ・クラウチ。今のところ、俺の要警戒対象――」

「そのナナ・クラウチなら、準決勝で負けたわ」

「へっ?」

「しかも、相手の手持ちを一体も減らせなかった、完全敗北よ」


 メアリーの言葉に、トーマは目を丸めた。

 ナナの強さを知っているからこそ、このD級トーナメントで敗退してしまったことに驚いているのだ。少なくとも、ナナのコンビネーション攻撃は、S級であるアゼルの興を乗らせる程度には強かったのだから。


「そんな、まさかあいつが?」

「そうね。相手はそこそこ出来る奴だったから」


 そして、メアリーが他人を褒める時、『そこそこ出来る奴』は、一般的な基準で言うところの『かなり凄い奴』という意味である。


「トーマ、貴方が負けるとは思わないけれど――――もしかしたら、少しぐらいは苦戦するかもね?」

「…………へっ!」


 素っ気ない忠告に対して、トーマはにやりと好戦的な笑みで応えた。


「面白れぇ! どんな奴なのか、決勝で確かめてやるぜ!」


 簡単で歯ごたえもなく進んでいく栄光の道よりも、想定外だらけの苦難の道の方が、トーマにとっては楽しめるが故に。

 もうじき顔を合わせることになる決勝の相手に、トーマは胸が躍るような期待を抱いていた。

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