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第123話 首狩り戦術

 アーク共和国は概ね、烏合の衆である。

 何故か?

 それはアーク共和国を構成する者たちが、それぞれ異なる事情を持つからだ。


 パラディアム王国に深い怨恨を抱く者たち。

 パラディアム王国から追放された、ならず者の集団。

 王国統一以前に存在していた、古い国の末裔たち。

 どこにも居場所が無いが故に、仕方がなくアーク共和国に加わった放浪者たち。


 国という体裁を取るため、アーク共和国創立の構想を描いていた者は、とにかく数を集めることを第一とした。

 そこには厳密な選定基準など存在しない。

 とりあえず、パラディアム王国に反旗を翻す意思を持つ者たちを集めたのだ。

 故に、だからこそ、アーク共和国に軍隊は無い。

 同じ目的を共有する同志ではあれども、明確な上限関係のある軍隊を構築できるほど通じ合えていないのだ。

 大まかなまとめ役という者は居るには居るが、大抵は数百人、あるいは数十人規模でそれぞれコミュニティが存在しており、それぞれのリーダーが居る形だ。

 一応、いざ戦争になれば、どのコミュニティも戦闘には参加するだろうが、そこにもやはりモチベーションの差というものが存在する。

 単に食い扶持を求めているだけの傭兵。

 単にコミュニティのリーダーについてきただけ元市民。

 このアーク共和国が独立するしか、希望の道は無い放浪者たち。

 各々の理由があるため、軍隊のように統一されたパフォーマンスを発揮することは出来ない。

 恐らく、いざ戦争が始まったとしても、コミュニティの各自が勝手に判断して戦うだけの、おおよそ国家の武力とは思えない無様を晒すことになるだろう。


 しかし、それでも数は力だ。

 烏合の衆であっても、人が集まれたそれは力となる。

 ましてや、アーク共和国に集まったのは、王国に反旗を翻す反乱者たちだ。

 個人差は大きいものの、相応の力はある。

 たとえ、王国が規律ある軍隊を組織して、制圧に望もうとしても、少なくない被害を受けることは確実だろう。


「さて、やるか」


 だからこそ、トーマが動くのである。



●●●



 その集団は、王国を追放された犯罪者たちで構成されていた。

 アーク共和国に参加した戦力の中でも、そのモラルは下の下。

 各地方を襲った反乱の際、一般市民に対する略奪や暴行をするのは日常茶飯事。

 ひどい時には、アーク共和国内の同志――別のコミュニティにすらちょっかいを出すほど。

 まさしく、筋金入りの屑の集団である。


「ふぃー。まさか魔王軍の城が落とされるとはねぇ。大統領とその側近はこれからどうするんだか。魔王軍と合わせて動かなきゃ、こっちは順当に潰されるだけだってのに」


 そして、その犯罪者たちが曲りなりもコミュニティになっているのは偏に、群を抜いて強い統率者が居るからだ。


「美味い汁を吸えそうだから参加してみたが。こりゃあ、引き際も考えないといけないかね?」


 統率者は童顔ながらも、顔に幾多の傷を付けたスーツ姿の青年だった。

 共和国が設置した仮住まいの喫煙所で、一人葉巻を吸う姿はどこか哀愁が漂うものだったが、その実力は紛れもなく本物。

 単独でA級魔物を屠れるほどの英雄個体である。

 国外追放されるほどの悪党たちが従うのも偏に、従わなければ死ぬから、というシンプルな理由に過ぎない。


「どの道、魔王軍とこの反乱で王国が混乱するのは目に見えてんだ。後は、地方の田舎町でも襲って、適当に楽しんでから――」


 統率者は明日の献立でも考えるような顔で、悪辣なる計画を立てて。


 ――――ごきゃっ。


 その首が、突如として真横に曲げられた。

 統率者は一瞬の内に首をへし折られ、絶命したのである。

 そして、その死体は地面に倒れこむよりも先に、何者かによって転移されてしまう。

 残ったのは、まだまだ長さがたっぷり残った葉巻が一つ。


 統率者を失った犯罪者たちは、その内勝手に争いを始め、勝手にコミュニティは瓦解することになった。



 遠い昔、滅んだ国の復活を目指す集団。

 その指導者は、上位のドラゴンを従えるテイマーだった。

 S級には及ばずとも、A級上位には食い込めるほどの実力者だった。

 地方の反乱の際は、何人ものテイマーやウィザードを屠り、その戦果により、アーク共和国内でも一目置かれるコミュニティの主だった。

 四十代半ばに差し掛かった男性でありながらも、三十代前半のように若々しく、筋骨隆々で威圧を常に纏っているような人物だった。

 さながら、あらくれものたちの頭領という言葉が似合うほど、その指導者は活力にあふれていた。


「ごっ、が」


 もっとも、それも数秒前までの話であるが。

 現在の指導者は心臓を穿たれ、首をねじ切られ、頭部が潰されていた。

 きっちりと蘇生対策が為された、『蘇る余地が無い死体』だった。

 また、その指導者の近くには、ばらばらに解体された上位ドラゴンの姿がある。

 どうやら、指導者と共に、指導者の力の象徴だった魔物も屠られたらしい。


 指導者を失った集団はやがて、疑心暗鬼に駆られて、互いに攻撃し合うようになった。



 死んでいく。

 消えていく。

 コミュニティのリーダーのみが綺麗に、まるで何かの怪異のように死んでいく。

 時に、その死体すら残さずに消えていく。

 アーク共和国に異常が起こっているのは、誰もがわかっていた。

 だが、その異常を解決に動くだけの余裕が、アーク共和国内部には存在していない。


「くそっ! リーダー! どこですか、リーダー!?」

「どうせ、お前らみたいな落伍者があの方を殺したんだろう!?」

「ああ!? 難癖か!? 俺達のリーダーも消えてんだよ!!」

「馬鹿ども、静まれ! これは王国の工作員の仕業――おい、誰ださっき殴った奴は!?」

「あはははは、殺される! 殺されるんだ! みんな殺されるんだ!」


 元々が烏合の衆。

 攻めている時はともかく、内部から異常が起こった時は脆い。

 足りないのだ、秩序が。規律が。全体を仕切る者が。

 これが、規律のある軍隊だったのならばあるいは、異変が起こった時に迅速な対応が出来たかもしれない。

 だが、コミュニティのリーダーを失った、ただ力だけある集団ではもはや対応は不可能。

 混沌と喧騒がアーク共和国内に溢れ、段々とその争いの規模は大きくなりつつあった。




「ふぅ、大体こんなところか」


 合計八十七人の始末を終えたトーマは、誰にも見られぬ建物の影で一息吐いた。


「んー。もうちょっと手こずると思ったが、やっぱり本命の戦力は魔王城に集まっている奴らで、こっちはあくまでもおまけって感じだな」


 敵地に忍び込み、孤立無援での首狩り戦術。

 それは即ち、命を省みぬ特攻戦術である。

 ただし、その特攻戦術を行うのが、トーマという超越者でなければ。


「数だけは多い囮……確かに、魔王軍と一緒に対応するのは面倒だったかもしれないが、魔王軍が動かなければ浮いた駒に過ぎない」


 トーマに暗殺者としての適性は無い。

 故に、トーマはその有り余る身体能力と魔道具によってごり押しした。

 アーク共和国の要所に敷かれた結界は、魔道具の力ですり抜けて。

 各コミュニティのリーダーは不意打ちによって即座に抹殺。

 抹殺後は、空間転移を用いての離脱。

 後は、アーク共和国内部が混乱してきたのならば、それに乗じて更に首狩り戦術を続けていくだけ。

 個人戦力としてトーマを超える戦力が味方に存在しない以上、アーク共和国はこの攻撃を止めることは出来ない。

 魔王による暗殺を、パラディアム王国が止めることが出来なかったのと同じように。


「本当だったら、ここら辺で一つ、戦力を半壊させていくわけだが……余力がなぁ」


 そう、この戦争は主に、トーマと魔王という二人の極大戦力の使い方が肝心となっている。

 両方とも、有象無象を圧倒するだけの力を持ち、単独での国家転覆すら可能な超越者。

 同格にトップテイマーのヨハンも居るが、今は主戦力であるニュクスは行動不能状態。

 従って、どこでこの極大戦力を投入するかによって、戦況は大きく変わるのだ。

 もっとも、どちらも互いの戦力を止められるのは極大戦力しか存在しないので、いつかは再び相対して戦わなければならないので、あまり他で酷使し過ぎると肝心の戦いの際に競り負ける可能性もある。

 極大戦力を使えば、容易く他の戦力は落とせるが、極大戦力と戦う時に不利になる。

 だからこそ、トーマも今、必要以上に暴れることをせずに自重しているのだ。


「仕方ない。後は、トップの首を切って終わりにしよう」


 そう、散々アーク共和国の内部をズタボロにした上に、これから止めとばかりに組織のトップを暗殺しようとしていたとしても、まだまだ自重している方なのだった。

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