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第12話 二回戦

 テイマーであるキョーコの失神により、トーマは一回戦を不戦勝という形で勝ち上がった。

 なお、トーマの威圧戦術は、審判から反則扱いを受けなかった。トーマの考え通り、この威圧戦術はあくまでも、単なる気迫に過ぎない。魔力を込めていない威圧に過ぎない。

 失神した上、失禁することになったキョーコにも外傷は一切認められず、魔術等の精神干渉を受けた痕跡すら無い。

 ただ単に、トーマが強すぎるがため、その殺気を受けたキョーコが気を失っただけなのである。これを反則にするのならば、強面のテイマーや戦意や気迫に満ちたテイマーですら、反則ということになってしまう。

 そう、つまりトーマの威圧戦術は、現行ルールでは罰することのできない、テイマーに対する精神攻撃となったのだ。


「……はぁ、失敗したぁ」


 もっとも、その裏技的な戦術を生み出した張本人は、試合後に反省会を始めてしまっているのだが。


「まさか、俺の威圧がここまで対戦相手に影響を及ぼすとは……ううむ、俺の威圧が強すぎるのか、今回の対戦相手がたまたま気弱だっただけなのか」

「魔物の吾輩からの意見だが、貴様の威圧は全盛期の吾輩を凌ぐ迫力だぞ? 常人に耐えられるわけがあるまい」

「えー、そんなに?」

「そんなに」


 アゼルからの言葉を受けて、トーマは深々とため息を吐く。

 色々と常識が欠けている部分があるトーマであるが、それでも、女の子を失神させた上に失禁させるような趣味は無い。今回の出来事は完全な事故である。なんなら、トーマ自身がこの件で軽くトラウマになったぐらいには事故だった。

 ほんのちょっと動きを止めるだけ。

 相手を委縮して、魔物との連携を阻害するだけ。

 そのような考えからの威圧戦術だったのだが、まさか威圧を受けた相手が、あんな社会的に重傷を受けるような有様になるとは思っていなかったのだ。


「だがまぁ、投石戦術とは異なり、審判や協会では制限できないような攻撃だ。これ以上、テイマー戦に於いては有効な戦術は存在しないだろう。何せ、魔物と戦う前からテイマーの戦意をへし折り、不戦勝にしてしまうのだ。もはや、魔物がどうこうという次元に無い」

「だけどさ、アゼル。この戦術で勝ち進むテイマーってどう思う?」

「控えめに言っても、テイマーと呼び難い何かだと思う」

「だよなー!」


 故に、トーマは威圧戦術が失敗であると考えていた。

 勝利だけを突き詰めるのならば、この戦術の優位性は計り知れない。現行ルールに当てはまらない、強すぎる力を持つトーマだからこそ為せる、オンリーワンに近い戦術だ。

 これを使えば、ほぼ確実にA級までは確実に昇格することが出来るだろう。

 ――――拭い切れない汚名と引き換えに。


「はぁーあ、良いアイディアだと思ったんだけどなー!」

「吾輩思ったんだが、貴様の『良いアイディア』は大抵、良いことではないから、もうちょっと自重した方が良いと思う」

「いや、でも今回の戦術に関しては事前に相談したじゃん!」

「そうだな。貴様に手加減や容赦というものを期待した吾輩が間違いだったよ、悪かった」

「なにおう!?」


 ぎゃあぎゃあと、トーマはアゼルの頬を引っ張ったり、逆に蹴りをくらわされたりなど、微妙に微笑ましくないじゃれ合いを繰り広げて。


「…………はぁー、折角の新戦法だけど、もうちょっと上級のトーナメントに挑戦する時まで、封印しておこうと思いまぁーす!」

「まぁ、それが妥当だな」


 やがて、互いの鬱憤が多少なりとも解消される時には、冷静に物事を客観視できる程度の理性は取り戻せていた。

 少なくとも、目先の勝利のために汚名を被るような真似をしない程度には。


「じゃあ、悪いがアゼル。次の試合から、俺はろくに支援が出来なくなると思うから、頑張ってくれ」

「ふん、最初からそうしていればいいのだ」


 投石戦術はナーフを受けたことと、評判が悪そうなので封印。

 威圧戦術は対戦相手の精神が高水準に達するまで、しばらく封印。

 その結果、トーマは完全にやれることがないテイマーとなってしまった。

 だが、そのことにトーマは焦らない。


「貴様は大人しく、吾輩に『勝て』とだけ命じればいい。契約に基づき、吾輩はそれを為してやろう」


 何故ならば、トーマの手持ちには、本来、D級トーナメントで出るわけがないような、S級魔物が存在しているのだから。



●●●



 トーマの二回戦の対戦相手、ケンジ・フォークロアは自他共に認める秀才だった。

 中央のテイマー育成機関である魔法学園に、『例外』を除けば首席で入学。

 手持ちの仲間たちは全て、B級の魔物。

 加えて、その仲間たちは幼少の頃からケンジと共に過ごし、かけがえのない絆を育んだ仲間たちである。以心伝心は当然のこと、視線を交わすまでもなく互いの意思が伝わり合うような関係性だった。

 しかし、テイマーの新米としては極めて優秀なケンジであるが、慢心はしない。


「なるほど、次の対戦相手はトーマ・アオギリ。交流戦に於いて、全戦全勝の記録を誇る、規格外のテイマーですか」


 ケンジはメアリーが引率として連れてきた学生の一人だが、情報収集は怠って居なかった。

 第一回戦が始まる前から、積極的に地元の学園の学生たちと交流し、『目立った学生』の存在を調べていたのである。


「ナナ・クラウチ、ヴォイド・アーズ、有望株であるこの二人を圧倒した実力の持ち主。まさか、二回戦で当たることになるとは、私も運がありませんね」


 ケンジは二回戦が始まる前、ギリギリの時間まで情報収集を行っていた。


「彼の手持ちは、アゼルと呼ばれている角ありの人型。少女の形をしているものの、強度は明らかに見た目以上。交流戦で他を圧倒した能力……ナナ・クラウチですらまともに傷を与えられないような魔物……恐らくS級に分類される魔物でしょうね」


 対戦相手の情報を可能な限り集め、頭の中で何度もシミュレートを繰り返し、最善の可能性を追求する。

 データを積み重ね、勝負の天秤を勝利へ傾かせる。

 それが、ケンジの戦い方だった。


「ですが、本当に厄介なのは恐らく、魔物よりもテイマー」


 故に、ケンジがトーマというテイマーの恐ろしさに辿り着いたのは、当然のことだった。


「投石戦術。ただの石ころに魔力を込めて投げ込むだけで、魔物たちを全滅させる。そんな規格外の真似ができる人間は、英雄個体だけ。英雄個体のテイマーは大体が、厄介な『固有能力』を持っていることが多い。あのトーマ・アオギリにも、その手のものがあってもおかしくはありません。投石戦術の他にも、魔物たちの戦いの戦況を左右するクラスの能力があってもおかしくないでしょう」


 テイマーでありながら、魔物と同等以上の力を持っていること。

 それは即ち、対戦する相手にとっては悪夢に等しい。

 ルールによってテイマーに対する直接攻撃が禁止されている以上、トーマの動きを止める手段はほぼ皆無。トーマが自重していなければ、投石戦術だけで交流戦はおろか、このD級トーナメントすらも制覇していただろう。


「いえ、それよりも問題なのは、一回戦で見せた『謎の攻撃』です」


 だからこそ、ケンジはトーマの一回戦でやらかしたことに最大限の警戒を抱いていた。


「対戦相手のキョーコ・フジナリは決して弱い相手ではなかった。むしろ、得意の戦術に持ち込めれば、このランク帯の相手ならば、ほぼ確実に沈められる実力の持ち主だったはず。なのに、結果は戦うよりも前に失神。実力の一端も出せないまま、不戦敗になってしまった」


 一回戦開始直後、キョーコが失神した謎の攻撃。

 一見するとトーマが吠え猛るように叫んだ後、キョーコが倒れただけ。

 魔力の痕跡も、外傷もなかったため、審判は反則を言い渡すことが出来ず、トーマの不戦勝となった。


「あの攻撃の原理を解明しなければ、次は私がああなる番です」


 ケンジは考える。

 己の持ちうる能力を動員して、トーマが行った謎の攻撃を推理する。


「逆に言えば、あの攻撃の原理を解明すれば、こちらの勝機も見えるはず。あのわけのわからない攻撃の正体こそが、恐らくはトーマ・アオギリの無法な力の秘密なのですから!」


 その先にこそ、勝機があると信じて。




「えー、トーマ・アオギリとケンジ・フォークロアの試合は、ケンジ・フォークロアの棄権によって、トーマ・アオギリの不戦勝とする!」

「何故に???」


 なお、謎の攻撃の正体を推理した結果、『単に殺気を向けただけ』というどうしようもない事実に直面してしまい、ケンジは戦う前から棄権してしまった。

 どうやら、流石の秀才でも失神と失禁の危険性がある戦いは避けたかったらしい。

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