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第119話 独立宣言

「我らがアーク共和国は今より、パラディアム王国より独立を宣言する!」


 独立宣言は、王国西部に向かって発表された。

 王国の反乱分子を集め、それを一つの国としたばかりではなく、正式にパラディアム王国からの独立を宣言したのである。

 つまりは、王国の権威に真っ向から抗う姿勢を見せていた。

 舐めているどころの話ではない。

 反乱に乗じて新たなる国を名乗ったばかりか、その独立を宣言する。

 それは例えるのならば、王国の権威に対して思いっきり右ストレートを叩き込み、文句があるならかかってこい、と言っているようなものだ。


「アーク共和国を名乗る『反乱組織』の独立宣言は認められない」


 この独立宣言が王都に伝えられた時、当然ながらアルスは相手の主張を認めなかった。

 否、そもそも、相手が名乗る国家の存在すら認めなかった。

 何故ならば、一度でも相手が『国家である』と認めてしまえば、それは非常に政治的に面倒でややこしい問題が生じてしまうからだ。


「即刻、反乱組織の制圧、及び解体を行う…………わけだが、そのための戦力は今、王都には存在しない。各地方への協力を仰ぐことになる」


 王城の会議室にて、アルスは毅然とした態度でアーク共和国への対処を語る。

 だが、その内容は正しくあっても適切ではない。


「アルス王子――いえ、陛下。意見を申し上げても?」

「ああ、許す」


 会議室に居る家臣の一人は、アルスの不備を補うために自身の意見を語り始めた。


「今、中央から各地方へ協力を求めるのは、各地方からの不信を抱かれる可能があります」

「ふむ。その理由は?」

「我々は今、王都の半分を潰され、王を暗殺されました。この時点で既に、王国と中央と面子は大分潰されています。この上、戦力の提供を呼びかければ、パラディアム王国ははっきりと『武威を失った』と判断されるでしょう」

「そうなれば、あの反乱組織だけではなく、各地方から独立を望む者たちが現れると?」

「はい。当時者である大陸西部と協力して反乱組織の制圧に向かうこと、これが王国の面子を辛うじて守れる最低限のラインかと」

「うぅーむ」


 家臣の意見は正しい。

 国家は民から舐められてしまえばおしまいだ。

 国家の面子を守らなければ、反乱を起こす者を罰するだけの武威がなければ、今後発生するのは王国の瓦解。様々な勢力が、己の覇を唱えんと一つの大陸で争い合う未来だ。

 そのためにも、国家の舵取り役である国王、ひいては中央部は、この窮地だからこそ武威を示さなければならない。

 独立などと、舐めたことを抜かす反乱組織を叩き潰せる程度の武威は、最低限でも必要だ。


「しかし、だ。実際問題、我らが保有する戦力が少ないのは事実。この問題を解決しなければ、西部への戦力派遣も形だけのものになり、かえって王国の権威を地に落とす結果となるだろう」

「陛下、その件に関しては一つご提案が」

「許す、言ってくれ」


 だが、戦力が足りない。

 王都で魔王軍が暴れた所為で、騎士団の半数以上は死亡。

 有望なテイマーたちも疲労と負傷は避けられず、今は休息にあてなければならない。

 反乱組織の制定に出そうにも、どこにも動かせる戦力が無い。


「カール王が亡くなられる前から、進めていた計画がございます」


 だからこそ、その問題を解決するために、先ほどとは異なる部下が説明を始めた。


「計画?」

「はい。カール王はかねてより、魔王軍の動きから自身のお命が危ぶまれる可能性を考慮されていました。故に、密かに『その時』の備えられていたのです」

「……つまり?」

「『予備戦力』がございます」


 予備戦力。

 その言葉に一瞬、アルスは心を躍らせかけたが、直ぐに冷静さを取り戻した。


「その予備戦力があるのならば何故、王都の内乱の際に使わなかった?」

「使わなかったのではなく、使えなかったのです。何故ならば、あれは王にのみ従う、生物兵器の集団ですので」

「僕が正式に王座を継承した今ではないと、その予備戦力は使えなかったと」

「さようでございます」

「…………それで? 生物兵器とはどんなものだ? 父上に限ってないだろうが、万が一、人倫を犯すものであったのならば、たとえ予備戦力だろうとも処理しなければならない」

「ご安心を。あれは既存の生命たちを改造したものではなく、一から生命を製造し、自由意思を持たぬ機械のようなものですので」

「…………そうか」


 アルスは苦々しい表情を浮かべた後、その感情を飲み込み、真顔で家臣に訊ねる。


「戦力の質は?」

「A級魔物相当の個体が二百体。S級魔物相当の個体が十五体でございます」

「予備戦力への命令権は、他の者へと引き継げるものか?」

「陛下が予備戦力へと命じられるのであれば、対応するでしょう」

「…………わかった」


 カールが遺した戦力は、王国の威信を取り戻すには十分なものだった。

 無論、魔王やトーマと比べれば何枚も落ちるものの、魔王軍相手ではなく、反乱組織相手ならば十分すぎるほどだ。

 少なくとも、共に戦う予定の王国西部はこの戦力を歓迎するだろう。


「なら早速、その戦力を確認――」

「陛下、会議中失礼します! 外を! 外を見てください!!」


 だが、事はそう簡単には運ばない。

 額に汗を滲ませて会議室に飛び込んできた部下の言葉に、アルスは疑うことなく従った。

 そして、見た。

 王都の上空に浮かぶ、巨大な『空飛ぶ城』を。

 ――――その幻像を。




 それはいかなる魔術によるものか、王国全土の空に映し出された幻像だった。

 小山にすら匹敵するほどの巨岩――否、『切り抜かれた大地』、その上に乗る白亜の城。

 城の外部には、魔導機械技術によって造られた最新の砲台が無数に設置されている。

 更には、空飛ぶ城の周囲には、無数の翼ある魔物たちが飛行していた。

 しかも、その魔物たちのほとんどはA級以上の魔物。

 中には未開拓地の奥地から引っ張り出したのか、未知なる魔物も存在していた。


『あーあー。聞こえるかな? 我らが王は休憩中だから、僭越ながら代わりにこの僕、大魔導士フェイスが宣言させてもらうよ』


 響く。

 王国全ての空から降るように、フェイスの軽薄な声が響き渡る。


『僕たち魔王軍は今から、パラディアム王国への侵略を開始する』


 そして、軽薄な声には似合わない、物騒極まりない宣言が為された。


『進路は王国西部から南部、東部、北部を経由して、最終的に王都を落とす』


 それは荒唐無稽な内容の宣戦布告に思えた。

 王を殺し、王都の半分を潰した魔王軍が口にしたものでなければ。


『歯向かう者には容赦はしない。老若男女問わず、王国の民は皆殺しだ』


 淡々と、けれどもはっきりとした口調でフェイスが王国全土に告げる。

 これから始まるのは、王都の比ではない殺戮だと。


『ただし、僕たちも鬼畜外道というわけじゃない。こちらに降伏する者が居たのならば、きちんと受け入れる用意はある。ああ、そうそう、あれだよ? 別に、降伏したからといって酷い扱いはするつもりも無い。そんなことをしても意味はないからね? それどころか、降伏して魔王軍の下に来るというのならば、以前と変わりない生活も保障してあげよう』


 だからこそ、ここで垂らされる蜘蛛の糸は魅力的だ。


『勘違いされているかもしれないから言うけど、僕たちの敵はあくまでも『王国』だ。君たちじゃない。そりゃあ? 虐殺が大好きな人は居るかもしれないけど、彼女も我らが王には忠実だからね。約束しよう、降伏した者には手を出さない。ただ、王国から外れて、魔王軍に屈服するのだと認めてくれればそれでいいんだよ』


 テロリストの言葉を信じる者は少ない。

 ただ、それはあくまでも『平時』で『普通のテロリスト』相手ならば、だ。

 魔王軍は国家への宣戦布告を可能とするほどの戦力を持った組織だ。

 事実、王は討たれ、王都の半分は潰されている。

 そんな強大極まりない組織が、王国の地方から順番に侵略を開始すると言っているのだ。

 抵抗する戦力が無い都市は――否、中途半端な戦力があったとしても、下手に抵抗して虐殺されることを考えれば、全面降伏する場所が出てもおかしくはない。


『そうそう。ちなみにだけれどね? 自分たちは王国ではなく、違う国家なのだ! なーんて詭弁も歓迎だよ? 好き勝手に新しい国家を興しても構わない。そういうことをしてくれるのならば、僕たちは喜んで見逃そう。いいかい? 王国から所属が外れさえすれば、僕たちは手出ししない。それをよく覚えておくように』


 加えて、フェイスは服従を好まぬ者に対して逃げ道を与えた。

 この逃げ道は王都を切り分け、分裂させるには十分すぎるほどの魅力を持った提案だろう。

 特に、王国の庇護が見込めない地方の者たちは、独自で国家を興すかもしれない。

 たとえそれば、一時しのぎのものだったとしても。

 戦乱が終わるまでの様子見だったとしても。

 王国の戦力が削がれるのは変わらないのだから。


『さて、事前通告はここまで。後は――――蹂躙を始めよう』


 かくして、王国を滅ぼさんとする悪意が進軍を開始した。

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