表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/155

第118話 本当の狙い

 王国北部の反乱は、冬の女王の討伐を持って終了した。

 元々、この反乱の核となっていたのは冬の女王とそのテイマーである。故に当然、その核たる張本人が討伐されたのならば、もはや反乱を続ける意味は無い。

 都市には温かさが戻りつつあり、負傷者は多数なれども、死者は数人程度。

 大規模な反乱だった割には、テイマーたちの奮戦もあり、犠牲は最小限に収められた。


「……釈然としない。あれではまるで、死ぬためにこの反乱を起こしたようなものだ」


 しかし、激闘を制したテイマーの一人、フォルテの心は浮かない。

 犠牲者に対する追悼の念の所為もあるが、それとは別に、何か違和感が頭の中にこびりついていた。

 この反乱はもしかして、何かの作戦の一過程に過ぎないのではないかと。




 王国東部は今ようやく、王都の内乱の情報が伝わったところだった。

 未曾有の大規模な内乱。

 パラディアム国王、カール・パラディアムの死。

 王都の半分が潰れるほどの被害。

 その他、凶報と呼ぶに相応しい情報がどんどんと王国東部の管理者の下まで届いていた。


「ふむ…………至急、王都へ救援を送れ。大規模転移ゲートの使用も許可する。いち早く、王都には立ち直ってもらわなければ」


 王国東部の管理者は、単なる被害情報以上のものを凶報から感じ取っていた。

 魔王軍によるテロリズム――否、内乱。

 この状況が示す、最悪のシナリオを想定して動き始める。

 全ては、自分が管理する民の平穏を守り抜くために。




 王国南部は現在、歌によって意思を挫かれたテロリスト――元反乱者たちによって、様々な情報を得ていた。


「本命は王様の暗殺だ」

「ああ、そうだ。カール王が死にさえすれば、後は流れで、って感じだった」

「あの王様はもう死んだんだろ? じゃあ、この流れは止まらねぇよ」

「俺達も魔王軍の誘いに乗ったからわかる。これは『過去の清算』だ」

「パラディアム王国が過去に生み出した罪、それが今、目に見える形で爆発しているんだろうよ。まぁ、この状態でも、あの王様の手腕があればまだどうにかなっただろうが」

「カール王はもう居ない。んじゃあ、もう駄目だな。各地に散らばった火種は止まらない」


 元反乱者たちは語る。

 王が殺された時点で、全ては始まってしまったのだと。

 今、各地の反乱が潰されようとも、一度火種が点いてしまったのならば、次々と反乱の医師は燃えていく。

 さながら、ゴミが溢れる場所に火のついたマッチが投げ込まれたかのように。

 王国は割れてしまうのだと。


「特に、『西部』は酷いからな」

「ああ、王国の厄介者を開拓者として押し付けるための場所だ。不平、不満はごまんとある」

「その上――――あっちは俺達よりも遥かに多いんだ」

「案外、あっちは反乱成功させちまっているかもなぁ?」


 どこか観念したように、元反乱者たちは己の考察を語る。

 心は既に歌によって挫かれてはいるが、それでもかつて反乱を為そうとした者として、王国南部に一矢報いるための警告を送る。


「最悪、戦争が始まるかもしれねぇぜ?」


 もう、平和の時間は終わりなのだと。




 王国西部は決して敗北したというわけでは無い。

 王国に不満を持つ荒くれ者たちによる進撃を、きちんと防ぎ切っていた。

 少なくとも、領土を切り取られるような真似はされなかった。

 だが、それでも勝利と呼ぶにはあまりにも困難なものが発生してしまったのだ。


「我らの旗を立てよ!」

「我らの領土に我らの旗を立てよ!」

「我らは、王都の統治を良しとしないもの!」

「我らは、王都に逆襲する者!」

「我らは、新たなる国家を求める者!」


 王国西部に隣接する未開拓地。

 いつの間にかそこには、大きな砦が建てられていた。

 いや、砦だけではない。

 未開拓地は数の暴力によって切り拓かれ、あっという間に人類の生存圏内に。

 生存圏内となった場所には、次々と新しい建物が建てられていく。

 最初の荒くれ者や開拓者たちだけではない。

 いつの間にか、王国全土から反乱者――あるいは、元々王国の治世に疑問を持っていた者、このような機会を伺っていた貴族、そういった者たちが多く集まってきたのだ。

 そして、一日も経たない間に、一つの国が誕生したのである。


「我らは『アーク共和国』!」

「この世界に新たなる文明の火を灯す者なり!」


 新たなる王を頂くのではなく、新たなる在り方によって作られようとしている国が。



●●●



「なるほど、これが魔王軍の本当の狙いか」


 アルスは未だ慌ただしい王城の中、情報機関から受け取った情報を考察する。


「父上を……王を殺し、王都を半壊させた。その時点で、奴らは本命を終えていたのだ」


 ぎりぃ、と奥歯を噛みしめ、苦々しく呟く。


「王国の実力不足に、国を纏めていた国王の死――――国が割れるのも当然か」


 国というのは様々な人間の集合体だ。

 そして、様々な人間を統率するために一番わかりやすいのが『武力』である。

 こいつには敵わない。

 こいつなら守ってくれる。

 そう思わせるだけの武力が無ければ、誰も国の命令などには従わない。

 そして、パラディアム王国は現在、王都による内乱及び、国王の暗殺によってその武力が揺らいでしまっていた。


 もしかしたら、魔王軍の方が王国よりも強いかもしれない。

 もしかしたら、今ならば王国の統治から逃れられるかもしれない。

 もしかしたら、今ならば新たなる国を興せるかもしれない。

 そのように王国の民に思わせること自体が、魔王軍の本当の狙いだったのである。


「このままでは遠からず、王国は瓦解する」


 沈痛なる面持ちで吐き出したアルスの言葉は正しい。

 王国は元々、巨大な大陸一つを統一した『大きすぎる国家』なのだ。

 王威は辺境まで届かぬことも多く、王族よりも各地方を統治する管理者が敬われることが多い。王族が直接統治する中央部ならばまだしも、他の地方の王国に対する帰属意識は強くない。

 そう、パラディアム王国は、元々が王族の権威がさほど強くない統治形態なのである。

 従って、今回の内乱はただでさえ強くない王族の権威が地に落ちた形となり、このままでは王国西部のように、新たなる国を興そうとする者たちが続出するだろう。


「そうなれば、この大陸に未曾有の群雄割拠始まってしまうかもしれない」


 このまま放置すれば、平和は崩れ去り、戦乱の世が始まるのは必須。

 ――――否、内乱が起こってしまった時点で、既に平和は崩れ去っていたのかもしれない。

 それでも、アルスは全てを諦めるつもりは無かった。


「僕に可能か? この混乱の中、各地の反乱を制定し、再び統一することが?」


 苦々しい苦境を噛みしめながら、アルスの瞳の中には決意の炎がある。


「あるいは、これを機に領土を割るべきか? いや、だが、そうなると……」


 思案、思案、思案。

 既に王は亡く、王族も残るはアルス一人のみ。

 故に、最後の王族として、新たなる王として、アルスは王国の最善を求めていた。


「ふむ」


 そして、十分を超える思考時間の末、一つの結論に辿り着く。


「さっぱりわからんので、まずは家臣を集めての会議だな」


 一人で考えていても仕方がない、と。

 王は国の行く末を決める役割を持つが、一人で何もかもを決める必要は無い。

 不幸中の幸いか、王城の中にはカールに仕えていた家臣が残っているのだ。

 これからの方策を決めるのは、家臣たちと話し合ってからでも遅くはない。


「僕には父上や兄上ほどの才能は無い。だが、それでも王となったのだ。無様だろうが、なんだろうが、頼れる者には頼るべきだ…………そして、今頼るべきは家臣たちの他に、魔王を退けた我が友トーマ…………なのだけれども、うん」


 アルスは考える。

 家臣たちと相談する場に、可能であればトーマが居て欲しいと。

 魔王軍の最大戦力すら退ける力を持ったトーマが協力するかしないで、何もかも話が変わってくるのだと。


「流石に、あれだけの働きを見せた後に、追加で何かを言う気は起きないな」


 しかし、それはあくまでもトーマの意識があれば、の話である。

 トーマは現在、意識不明の昏倒中。

 魔王とその仲間たちを退けた代償は決して安くは無く、超越者の肉体すら蝕んでいた。

 故に、現在のトーマはメアリーによってつかず離れずの護衛を受けながら治療を受けている。

 その邪魔をするのならば、今度はメアリーが王都を滅ぼすだろう。


「願わくば、我が友が起きて来るまでに、ある程度の反乱は鎮めておきたいものだ」


 深々とため息を吐くと、アルスは家臣を集めるために動き出す。

 何が最善かもわからぬ動乱の中、それでもより多くの民の平穏を勝ち取るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ