表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

115/157

第115話 王子、二人

 アルス・パラディアムは第三王子だ。

 諜報機関を部下としており、いくつもの『影』を従えている。

 その他、護衛の騎士なども普段は周囲に侍らせている。

 だが、今この時、アルスは周囲に部下を置かない。

 何が起こるかわからないような騒乱の中、それでも部下を手元に置かない理由はただ一つ。


「シータ」

『み、みみみみ、みつけた! みつけた!』

「ムーコ」

「きゃはっ! わかってるよ! 真体はまだお預け! この体で戦う!」

「スカサハ」

『…………任務、了解』


 邪魔だからだ。

 S級に匹敵するテイマーであるアルスにとって、この状況での人間の部下は必要ない。

 むしろ、戦う上で邪魔になるから遠ざけているのだ。

 本来、王族が直接戦うというのは愚行極まりないことだとしても。

 それでも、必要としている戦力が自分自身であるが故に、アルスは単独――否、仲間たちと共に第二王子であるカインを追う。

 反逆者を、殺すために追っている。


「まったく、S級を三体も御するとは。案外、お前が我ら兄弟の中で一番才能があったのかもしれないな」

「――――っ!」


 探しているカインは、思いもよらぬ場所から姿を現した。

 即ち、アルスの頭上。

 入り組んだ王都の建物――その屋上から飛び降り、アルスの仲間たちが察知するよりも先に、アルスの命に白銀の刀身を届かせようとしている。


「温いです、兄上」


 しかし、アルスはその程度の奇襲に動じない。

 素早くシータを動かし、カインの剣を防ぐための肉盾にする。


「ちぃっ! 増殖系は斬っても死なないから困る!」

「スカサハ」


 カインの剣を防いだその後は、スカサハへと指示。

 アルスは明確にカインの命を奪う殺意を持って、スカサハに攻撃させる。

 無色透明の騎士からの攻撃。

 しかも、歴戦の英雄にも匹敵するほどの力を持ったスカサハの攻撃。

 仮に、王国騎士団の精鋭であっても為す術無く死ぬしかない、S級魔物からの攻撃。


 ――――ギィンッ!


 それを、アルスは平然と弾いて見せた。


「はっはぁ! 気配で読めるんだよぉ、気配でぇ!」


 白銀の装飾剣を振るうカインは、スカサハの攻撃を幾度も防ぐ。


「おらぁ!」

『――っ!?』


 加えて、それだけではなくスカサハへと反撃さえして見せた。

 英雄個体ですら死ぬしかないS級との戦闘を、平然とこなしているのだ。


「兄上、一体何を為されたのですか?」


 その結果に、アルスは眉を顰める。

 カインは確かに、武術と魔術に秀でた才能を持つ王子だった。

 だがしかし、S級の魔物と直接やり合えるだけの力は無かったはずだった。

 強くはあってもあくまでも人間の範疇。

 スカサハと対峙すれば、抗うことは出来ても戦いになるほどの力は無い。

 だからこそ、多くの仲間を増やし、強いテイマーやウィザードで回りを固める。

 そういう戦い方をする人間だったと、アルスは記憶している。


「何を、だって? そりゃあ、決まっている。悪魔に魂を売ったのさ!」


 しかし、今のカインは一人だ。

 護衛と合流するために逃げたのかと思いきや、戦いに出てきたのはカイン一人だけ。

 しかも、かなり強い。

 S級の魔物と同等以上の強さだ。


「そのおかげで、今は実に良い気分だぞ、アルスっ!」


 幾度の剣戟の後、カインが振るう刃はスカサハを押し飛ばした。

 そして、今度こそアルスを仕留めるため、シータの肉盾ごと両断しようと構えて。


「かぶっ!」


 真横から、空間を噛み砕く一撃を受けた。


「ぐぎっ!?」


 影絵を作るかのように、両手を挟み込み、空間を『噛み砕く』ムーコの一撃。

 その殺意をカインはギリギリで察知していたのか、体が空間ごと粉砕される前に、辛うじて回避することに成功した。


「…………ヨルムンガンド。未開拓地深部に生息する創世神話の怪物。ああ、まったく。我が弟はとんでもない力を手に入れたものだ」


 左腕を犠牲にすることによって。


「力じゃないですよ、兄上。大切な仲間です」

「仲間も力だろう? しかし、嫉妬するな。俺は力を得るため、色々と犠牲にしたというのに。ほら、この通り」


 だが、噛み砕かれたはずの左腕は再生する。

 ぞぞぞぞ、という音を立てて、カインの体内からわき出たワインレッドの血液――否、血液に擬態した魔物の力によって。


「魔物をその身に埋め込んだのですか?」

「くくっ。『その程度』で、これほどの力を手に入れられるわけがないだろう? もっと色々だ。そう、例えば――――狂え、『ダインスレイヴ』」


 白銀の装飾剣が、一気に赤く染まる。

 さながら、血液でも被ったかのように。


「はははぁっ!」


 同時に、カインの身体能力が急激に上昇した。

 剣を横薙ぎに振るっただけで、周囲の建物は切り刻まれ、吹き飛んでいく。


『ままま、まもる!』

「助かった、シータ」


 シータが割って入って守らなければ、その刃はアルスにも届いていただろう。


「魔剣による強化ですか! 寿命が縮みますよ!?」

「くくっ! 殺し合いの場で今更何を!」


 ムーコが正面から相対し、スカサハはあらゆる死角から奇襲を繰り返す。

 アルスがジョンというテイマーとして行う、強みを押し付ける定番のコンビネーション攻撃。


「今更、今更だぁ!」


 しかし、それでも今のカインを削り切るには足りていない。


「俺の肉体は既に、魔王軍の『英雄化』手術によって改造されているんだよ! ただの人間からは程遠い! 寿命だと!? そんな問題、とっくに克服したわ! この心臓に、不死鳥の血液をぶち込んでな!」


 ムーコの空間破壊の一撃、スカサハによる奇襲。

 それらをギリギリの見切りで回避し、アルスは魔剣を振るう。

 人間を超える魔力によって、たっぷりと魔剣を強化した上で、斬撃の範囲を拡張する一撃を振るう。


『うぎゃっ!?』

「くっ!」


 その拡張された斬撃は、シータの肉盾を貫通した。

 アルスが身を伏せねば、胴体を両断していたほどの威力を発揮した。


「力だ……力だ、我が弟よ。力が無ければ、何も為せぬのだ! だからこそ、お前もその魔物たちを従えたのだろう!?」

「僕は――」

「俺は! 力を手にしたお前が羨ましかったぞ!」


 振るう。

 鍛え上げた武術の腕で、カインは魔剣を振るう。

 強化する。

 鍛え上げた魔術の腕で、カインは魔剣を強化する。


「俺の積み上げてきたものを凌駕する力を得たお前が、憎らしく思えたぞ!」

「――っ!」

「理不尽なものだ、テイマーとは! 人間が積み上げたものを易々と蹴り飛ばす! 魔物を従え、人間の強さを超えていく!」

「兄上、僕たちは――」

「挙句の果てに」


 カインの顔から表情が消えた。

 先ほどまでは、怒りと笑みが混じった表情だったというのに、今では能面のように何の感情も浮かんでいない。


「俺は、魔物や人間なんて区分など超越した怪物に出会った。出会ってしまった。あの力の化身に。魔王に」


 振るう剣筋が研ぎ澄まされていく。

 語りながらも、カインの集中は高まり、段々とその間合いをアルスへと近づけていく。


「勝てるわけがない。あの魔王に、我らが王国は勝てるわけがない。だから、我は服従した。屈服した。父上が死んだ後の算段も立てた。だというのに」


 だん、と力強いカインの踏み込みと共に、魔剣が振るわれる。

 それはアルスの命を奪う軌跡を描こうとしたが、怒りの表情を浮かべたムーコによって止められる。がぢん、と思い切り魔剣に噛みついて。


「お前には、あの魔王にすら匹敵するほどの力もあったとは、な。ああ、あの時は正直、負けた気分だったぞ、アルス」

「…………兄上」


 カインとムーコは互いの力で押し合う。

 その隙を狙ったスカサハの一撃が、カインの背中に突き刺さるが、致命傷にはならない。

 カインの体内に潜む液状魔物によって止められたのだ。


「訂正してください」


 そんな魔物たちとの拮抗の中、カインは見た。


「二度目です、兄上。僕の仲間と友達を、『僕の力』なんて安易な価値観で定義しないでください」


 死が迫りくる中、怯えではなく、その瞳に怒りを宿したアルスの姿を。


「僕らの絆を、馬鹿にしないでください、この野郎ォ!」


 アルスは怒りを携えたまま、さほど鋭くない拳でカインの横っ面を殴り抜いた。


「――――は?」


 それは紛れもない愚行で、意味の無い行動のはずだった。

 魔物からの攻撃でもない、大したことのない、今のカインには何の痛痒にもならない一撃。


「あ、アルス……お前……っ!」


 しかし、カインの表情は歪んだ。

 魔物たちの攻撃を受けた時よりも遥かに歪み、わけのわからない怒りに満たされていた。


「兄を殴るとは何事だ!?」

「うるせぇ! 殴られるようなことを言うからだろうが、馬鹿兄上ェ!!」


 かくして、王子は二人。

 殺し合いの果てに、生まれて初めての兄弟喧嘩をすることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ