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第1話 才能皆無

新作始めました。

 竜が居た。

 赤い鱗、見上げるほどの巨大な体躯、空を遮るような翼。

 ただそこに存在しているだけで、周囲を圧倒するような存在感を持つその竜は、金色の瞳をたった一人の少女に向けている。


『月の愛し子よ。我らが王の血を引く者よ。力を望むのならば、契約を結ぶがいい』


 竜の眼前には、一人の少女が居た。

 銀髪碧眼の、人形のように整った容姿の美少女が。


「私を助けてくれるの?」


 少女は見上げ、竜へと問いかけた。


『然り。汝が宿命を受け入れ、相応しき座へ君臨すると誓うのならば、我は【原初の赤】の名に於いて、契約を結ぼう』


 竜の答えに、少女は少し目を伏せた後、何かを覚悟したように再び顔を上げた。


「わかった」


 竜が発する威圧にも震えず、挑むように告げる。


「契約を結ぶ。だから、私を、私たちを助けて」

『――――了承した』


 かくして、ここに一つの伝説が生まれる。

 齢十歳にして、伝説の赤竜と契約を交わし、魔物の大群から故郷を守らんとした少女の伝説が。




「……メアリー」


 そんな伝説の始まりを少し離れた場所から見ている者が居た。


「そんな、まさか、メアリーがS級の魔物と契約を……」


 その者は銀髪の少女とは異なり、外見は平凡極まりない黒髪の少年。

 しかも、少女が伝説の赤竜と契約を交わしたことにショックを受けている様子だった。


「一緒にテイマーになろうって。ライバルとして競い合おうって、言ったのに……メアリーだけ、あんな凄い魔物と……俺は、俺は未だに一体の魔物とも契約できてないのに!」


 少年は苦悩していた。

 伝説の光景を目撃した感動と、ライバルだと思っていた少女が遥か遠くに行ってしまったことに対する悔しさ。

 ごちゃまぜになった感情をどう処理していいのかわからず、苦悩していた。


「ずるい、ずるいじゃないか、メアリー……やっぱり、お前は特別で……」


 苦悩、嫉妬し、涙すら流しながら――――周囲の魔物を素手で殴殺していた。


「俺みたいな凡人とは、違うってことか!」


 叫びながら少年は、故郷の村に向かう魔物を殺す。

 脅威度にしてB級。『単眼巨人』と名付けられた、筋骨隆々で全長五メートルを超えている魔物の頭部をねじ切り、それを思いっきり蹴り飛ばして他の魔物の血肉を散らす。


「所詮は才能が全てってことか!」


 涙を流しながら少年は、地面の下から奇襲をかけてきた地竜の攻撃を、残像すら残さぬほどの素早さで避ける。

 そして、地竜の、A級にランク付けされている魔物へ思い切り手刀を振るう。

 ――――ザンッ!!

 それだけで、地面は深く抉られ、地竜の胴体が真っ二つに両断されていた。


「でも、俺は諦めねぇ!」


 故郷の村に向かっていたはずの魔物たちは、少年の暴虐に恐れをなし、その歩みを鈍らせていた。

 人間の形をした災害に、明確な命の危機を感じていた。


「俺だってなるんだ! テイマーに!」


 魔物たちの危機感知は非常に正しく、けれども無意味だった。


「どんな手段を使っても、俺はテイマーに……ううん、トップテイマーになってやる!」


 明らかに音速を超えた動きで、少年は次々と魔物を屠る。

 頑強な肉体を持つ魔物は、それを砕き得る攻撃で。

 実態を持たぬ虚ろな魔物には、魔術を付与した攻撃で。

 魔物の大群を率いていた、【ワイルドハントの王】というS級に位置する魔物でさえも、僅か三発の打撃で消滅させて。


「凡人の俺だって、お前のライバルになれるって証明してやる!」


 単身、そのような偉業を成し遂げた規格外の怪物――もとい、自称凡人の少年は、涙ながらにそう誓ったのだった。




『ところで、我が主』

「ん、なに?」

『汝の名前を呼んでライバル宣言をしている、人型の災害は一体、何者だ?』

「トーマ。トーマ・アオギリ。私の幼馴染なの」

『……あやつが居るならば、我と契約しなくても助かったのでは?』

「トーマはあんまり範囲殲滅が得意じゃないから、念のために」

『念のために』

「ほら、私たちの村はトーマが守っても、トーマに恐怖して逃げていった魔物も潰さないと、他に被害が及ぶ可能性もあるから」

『数百年ぶりの契約遂行が、残敵の片づけか……世知辛いものがあるな』


 なお、自称凡人の少年を、伝説の赤竜はドン引きするような目で見ていたわけだが、そんなことは当の本人はさっぱり気づいてなかったという。



●●●



 四年後。

 十四歳となった、自称凡人の少年――トーマ・アオザキはテイマーを志すべく、準備を重ねていた。

 四年間の鍛錬により、平凡な容姿だったトーマは歴戦の気配を纏うようになった。

 肉体が鍛え上げられているのはもちろん、幼さの残る顔立ちながら、右目から右頬にかけて縦の傷跡が残っている。死闘を乗り越えた者が持つ気配と傷跡がある。

 加えて、トーマは肉体だけではなく知識も鍛え上げた。

 テイマーとしてやっていけるように、四年前から数多の書物を読み漁り、時にはフィールドワークをしながら知識を蓄えて行ったのである。

 そして今、トーマは満を持してテイマーになるべく、ミッドガルド魔法学園のテイマー科に入学しようとしていた。


「トーマ・アオギリさん。残念ながら、このままだと貴方は入学できません」

「!!?」


 入学しようとしていたのだが、何故か、学生課の受付で入学拒否されていた。


「な、何故ですか!? 俺、きちんと入学試験に合格しましたよね!?」

「はい、そうですね」


 動揺を隠せないトーマに対して、受付を担当する事務員のお姉さんは営業スマイルで告げる。


「アオギリさんの成績は素晴らしいものです。筆記、魔力量、実技、どれをとっても好成績を残しています」

「だったら、どうして!?」

「……アオギリさん」


 笑顔のまま、淡々と受付のお姉さんは問いかけた。


「テイマーとはどういう職業かわかりますか?」

「もちろん! テイマーは『魔物と契約を交わし、その力を借り受ける者』のことです。俺たち人間は魔物と比べればひどく脆弱な肉体しか持ちません。ですが、その代わりに契約を結ぶことにより、魔物を育て上げ、強化することが出来ます。脆弱な人間は魔物の力を借り、魔物は人間に育てられることで今よりも強い力を得る。そんな共生関係により、テイマーという職業は成り立っています」


 お姉さんからの問いかけに、トーマは自信満々に答えた。

 幼少の頃からテイマーになることを志しているトーマだ。こんな初歩的な問題で間違えるはずがない。


「その通りです。流石、成績優秀者ですね?」

「ありがとうございます!」

「でも、それなら理解できますよね?」


 受付のお姉さんは仮面の笑顔を保ちながら、トーマに言う。

 成績優秀なトーマが、テイマー科に入学できない理由を言う。



「魔物一体とも契約を結んでいない貴方では、流石にテイマー科は無理です」



 正論だった。

 一分の隙も無い正論だった。

 というよりも、正論以前の問題だった。


「…………ふぅー」


 正論以前の問題を指摘されたトーマは、『やれやれ』と言った様子で肩を竦めて。


「わかりました。今から一体、長期契約プランで魔物を借り受けてきます」


 金の力でどうにか、問題をごり押しで解決しようとした。


「駄目です」


 だが、当然の如く却下された。


「何故に!? 実技試験の時は許されたのに!?」

「実技試験はあくまで、テイマーとしての技量を見るもの。無論、契約を交わして仲間にした魔物の格により、試験結果にボーナスは付きますが、基本的にはどんな魔物だろうが、的確に指示を出せていれば合格判定になります。たとえそれが、金で企業から雇ったレンタル魔物だったとしても」

「だったら!」

「ですが、流石にテイマー科に入学するのであれば、一体ぐらいは魔物を使役してもらわなければ困ります。レンタル魔物は基本、金を支払った貴方ではなく、企業と契約を交わしたテイマーが貸し出しているものですので」

「うごごご……」


 トーマはがくりと膝を床に膝を着き、苦悶の声を上げる。

 そう、このトーマは四年間で一体たりとも魔物と契約を交わせていないのだった。


「逆に言えば、入学式の時までにどんな魔物でもいいので、一体でも仲間にすれば入学できます。頑張ってみてください、アオギリさん」

「わ、わかりましたぁ」


 以上の理由により、トーマの学園ライフは始まる前から終わりそうになっていた。




 トーマの肉体は強靭だ。

 上級の魔物すら、拳一つで殴殺出来る。

 トーマの魔力は潤沢だ。

 魔力を測定する器具の限界を超えているため、底が知れない。

 トーマの能力は明らかに人間を遥かに超えたもの。

 超人、あるいは超越者と呼んでも差支えの無い力の持ち主である。

 しかし、残念ながらそれがテイマーとして優秀であることには繋がらない。

 具体的に言うのであれば――――トーマは魔物のスカウトが苦手だった。

 物凄く、途轍もなく、何かの呪いにでもかかっているのではないかと疑いたくなるほど、魔物を従えるという行為が苦手極まりなかった。


 上級の魔物は疎か、小指一つで殺せる、下級の魔物すら仲間に出来ない。

 通常、魔物を仲間にする際、テイマーたちは心を通わせたり、実力で相手を認めさせたり、相手の欲しがるものを与えて買収したり、継続的な条件を飲んだり、様々な駆け引きによって魔物を仲間にする。契約を交わす。

 だが、何故かトーマに限ってはそれが上手くできないのだ。

 心を通わせようとスキンシップを図ろうとすれば、生理的に無理だからと泣きながら拒否されて。

 実力で相手を認めさせようと思えば、お前に従うぐらいなら死ぬぅ! と自害まがいの行動を取られて。

 相手の欲しがるものを与えて買収しようとすれば、どんなに欲深い魔物であっても、お前に心は売らんっ!! と激高されて。

 そして、当然の如く、魔物がトーマの話を聞いてくれないので、継続的な条件を飲む以前に、関わり合いになりたくないとばかりに逃げられて。

 トーマは四年間の間、下級の魔物の一体とでさえ、契約を結ぶことは出来なかった。




「レンタル魔物なら、辛うじて、渋々、俺の指示に従ってくれるのに……」


 学生課で入学拒否の通達を受けた後、トーマは学園内の図書館に赴いていた。

 未だ、正式な学生ではないので本を借りることは出来ないのだが、閲覧自体は可能なので、何か打開策を探ろうと書物を調べているのだった。


「いや、愚痴を言っても仕方がない。何か、打開策を……」


 トーマは小さくぶつぶつ呟きながら、図書館を歩き回る。

 ミッドガルド魔法学園の図書館は広大だ。

 背の高い本棚が、ずらりといくつも立ち並ぶ光景は、本好きならば垂涎ものだろう。


「魔物の好みを調べて……いや、生理的嫌悪感を抱かれる。魔物を支配する魔道具は? 駄目だ、そんなのは俺が望むテイマーじゃない。なら、俺の体質をどうにかする? どうにかできるのなら苦労はしない。そうなると……」


 小さく、小さく、誰にも聞こえないほどの声で呟き、トーマは素早く本棚の背に目を通していく。

 やがて、一つのタイトル――『勇者を待ち望むダンジョン』の本を手に取り、何となく、大して期待せずにぱらぱらと読み進めて…………やがて、その目を見開かせた。


「【試練の塔】……っ! これだ!!」


 そして、図書館内にも関わらず、思わず声を上げてしまった。

 現状を打開する、起死回生の方法を見つけて。

この後、一時間後ぐらいにまた更新します。

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