07.既視感
家に帰るとカルマのその傷だらけの体を見て父と母が駆け寄った。
「カルマ!どうした、何があったんだ!」
「……ごめん父さん、左目見せちゃったんだ」
「なに!?目を...それでどうしたんだ!」
カルマは経緯を父に話した。左目を見せたことで街の住人に囲まれ暴力を受けたことを、そしてアリディアという魔術師に助けられたことを、
記憶の改竄をアリディアが行ったことは信じてもらえないかと思ったが、なぜだか疑問すら持っていない様子であった。
一連の経緯を話し終えると母、ティニエがカルマを抱き寄せた
「ごめんね。カルマ怖かったね。」
バトロフもカルマの肩に優しく手を添える。
「なんで、母さんが謝るんだ…」
「ごめん、ごめんね」
カルマは怒られると思っていた。だからこそ理解ができなかった。人を助けるためとはいえ父の言いつけを破ったのは自分なのだ。それがこのような結果に至った。
だが、父と母はまるで自分達が悪かったかのように謝罪し、カルマに優しい言葉をかけた。
カルマはもどかしい気持ちになった。
そして、なぜだろうか。そのもどかしさがこんなに懐かしく感じるのは…
アリディアに助けてもらった後日、カルマは恐る恐る街に出てみたが驚いたことに、街の人はカルマに対し何事もなかったかのように対応した。
本当に記憶がないのだ…
「おう、どうした坊主!元気無いじゃねえか」
「・・・」
カルマは呆れた顔で魚屋の店主を見つめる。
「おい、なんだよ…」
「覚えてないだろうからいいよ。」
「おい、なんだっ、ちょ、坊主」
そしてそれからしばらくは平和な時が過ぎた。
カルマは魔術の訓練をしたり、イリーナに魔術を教えたり、ノーリエのところに行ったりして過ごした。
ところが不思議なことが一つだけあった。
最近カルマは夜、よく同じ夢を見るのだ。
見慣れない家の中にいて、女の人が自分に対して優しく笑いかける。
それに対して何か文句を言ってその家を飛び出す夢。
その夢の中の状況は曖昧な記憶ではあるものの、
妙にリアルな夢、そして家を飛び出したところでいつも目が覚めて、何か悲しいような後悔したような気持ちになるのだ。
そんな夢が何度も続くのでこれは予知夢?誰かの記憶?そんな馬鹿馬鹿しいことまで考えるようになった。
〈頭の中の整理用 メモ〉
バトロフ= カルマの父
ティリエ= カルマの母
イリーナ= カルマが救った少女
ノーリエ= カルマが懐いている魔術士