52.少年バラン
そんなことを考えていると王宮近くまでやってきた。
左には長い階段があり、この上が王宮である。
その麓にあるこの大きな建物が魔導図書館だ。
「待て!このガキ!」
カルマが魔導図書館へ入ろうとしたその時、王宮の階段を衛兵が5〜6歳程の少年を追いかけ駆け降りてくる。
「わぁ!」
少年はカルマの前で階段を転がり落ちる。
カルマは少年の腕を掴み立ち上がらせる。
「おいその少年を引き渡せ!」
「んー……」
カルマは困った様子で少年の顔を見ると、涙を流しながら怒りの形相で衛兵を睨む。
「お前達が母さんを奪ったからだろ!」
カルマはその言葉を聞いた後、少年を抱え、その場を走り去る。
「あっ!おいまて!貴様!」
カルマは少年を抱えて走る。追いかけていた衛兵の姿はもう見えなくなっていた。
「何で……?」
「話は後で聞く。とりあえず今は人気のつかないところまで離れるよ。」
王宮を離れ、街の中に入る。周りに衛兵の姿はない。
街の路地裏まで来るとカルマは少年を地面に下ろし座り込む。
「ふーっとりあえずこの辺まで来れば……」
「君、名前は?」
「バラン……」
「俺はカルマ・ミラ・フィーランだ。」
「……何で助けてくれたの?」
「話を聞いてみてみないと判断できなかっただけさ。君が悪党ならすぐに衛兵につき出すよ。」
……
「あそこに母さんがいるんだ。」
「あそこって、王宮?」
少年は黙ったままうなづく。
「バランのお母さんはこの国の王家の家系なのか?」
バランは首を横に振る。
「母さんは僕が生まれる前、王宮に仕えていた使用人だったんだ。」
「その時にこの国の王子は母さんと結婚するって、母さんの意見を無視して勝手に決めたらしいんだ。」
「えっ、じゃあバランはこの国の王子の子供…?」
「違うよ、僕は母さんが王宮から逃げ出した後に生まれた。お父さんはもういないけどね。」
「それで君のお母さんは?」
「その王子は今はこの国の王様になってる。
そして、逃げ出した母さんの居場所を突き止めた王は母さんを王宮に連れ戻そうとした。」
「母さんは僕を連れて逃げようとしたけど、衛兵に囲まれて……」
「連れ去られたのか?」
「最後は自ら王宮に戻ったよ。」
「どうして?」
「母さんは王に、僕に危害を加えないことを約束する代わりに戻ったんだ。」
「……」
「それで、お母さんに会いに行くために王宮へ行ったのか……」
バランは黙って頷く。
バランは立ち上がりカルマの肩を掴む。
「お前は魔術師なんだろ!なら僕を母さんの元へ連れてってよ!」
「……」
カルマは考え込むように俯く。
その時だった、大きな炎の球が飛んできて、カルマ達へ向かって着弾し爆発を起こす。




