2-5「ミルズ王国動乱⑨」
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回想(グロウス視点)
このミルズ王国はかつて、大国カイルディアとコロラド連邦に挟まれた緩衝地帯だった。
戦は日常。
炎は風景。
敵兵の足音と泣き声が、街の音だった。
グロウスも、その中の一人。
名もなき戦争孤児。
食べ物を求め、瓦礫の隙間を漁る日々。
ある日、豪奢な馬車が街を進んでいた。
衛兵に囲まれた、明らかに重鎮の移動。
グロウスは躊躇なく飛び出した。
「なんだ貴様!」
槍が向けられる。
「兵士でも、なんでもいい。僕に仕事をください……」
「何を言っている、このガキ――」
「待て。」
低く、よく通る声。
馬車の扉が開く。
現れたのは、この国の王――ゴードンだった。
「仕事が欲しいのか?」
グロウスは、ただ頷く。
王はしばし彼を見つめ、静かに言った。
「ならば、一緒に来なさい。」
「なっ!?ゴードン様?」
「いい。出しなさい。」
それが、すべての始まりだった。
グロウスは兵士として育てられた。
血を流し、骨を折り、何度も死にかけながら強くなった。
やがてミルズ随一の矛の使い手と呼ばれるまでに。
ある夜。
ゴードンは城のバルコニーで語った。
「この国は、戦争が多すぎる。」
夜風に乗る、重い声。
「侵略され、防ぎ、また奪われる。その度に兵は疲弊し、君のような孤児が生まれる。」
拳を握る王の背中。
「私はね、グロウス。他国がこの国を攻めることを諦めるほど、強くなりたいのだよ。」
振り返る。
その目は、王ではなく、一人の人間の目だった。
「そうすれば、国民が傷つくこともない。君のような子も、もう生まれない。」
その言葉は、少年の胸を撃ち抜いた。
「ゴードン様。僕は、陛下と共にこの国を強くするために命をかけます。」
「はっはっは。心強いな、グロウス。」
その後、彼は噂を聞く。
元天級の戦士が、故郷ミルズに戻っていると。
会いに行った。
それが、ガーディスとラミだった。
ゴードンと引き合わせ、三人は誓いを交わす。
――ミルズ三傑。
守れる国へ。
攻められぬ国へ。
そして、ミルズは強くなった。
攻められても、守れる国へと。
とりわけ元天級の戦士ガーディスは圧倒的だった。
グロウスは自ら筆頭剣士の座を譲る。
それでいい。
国が強くなるのなら。
やがて他国は、ミルズを攻めることを躊躇うようになった。
夢は、確かに形になっていた。
*****
「僕は……ゴードン様の夢を守るため、負けられない……!」
グロウスは血に濡れた手で矛を握り直し、ローグベルトへと踏み込む。
「おい!逃げろ!!」
「くそ……体が、動かん……!」
振り上げられる矛。
「間に合わん……!」
――その瞬間。
「魔剣術
炎
抜ノ型
炎閃斬」
閃光のような炎が走る。
「!!!」
カルマの抜刀が、矛を横から弾き飛ばした。
グロウスの手を離れた矛は壁を裂き、床へと突き刺さる。
「安心しろ。」
静かな声。
「お前と、お前の主の夢は――俺たちが守ってやる。」
「……なに……?」
直後。
ドン、と鈍い衝撃。
ダースの蹴りが、グロウスの腹を打ち抜く。
「ぐ……っ!」
グロウスはそのまま崩れ落ちた。
「団長……」
「お前……蹴りって、土がないと本当に使えないんだな。」
「うるせぇよ!助けてもらったことには感謝してるがな!」
「ボス!」
「ハウロス、大丈夫か?」
「はい……なんとか。状況は?」
「悪いが時間がない。国軍兵が下の階まで迫ってる。」
「カミルは……?」
「あそこだ。」
カルマの指差す先。
壁にもたれ、意識を失っているカミルとクレディア。
「命に別状はないけど、戦える状態じゃない。」
「……よかった。」
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〈少し前〉
カルマとダースは、国軍兵の足止めをガーディスに任せ、室内庭園を抜ける。
辿り着いたのはとある部屋。
「なんだ……ここは。」
扉の向こうは、異様な光景だった。
無数の刀が床も壁も埋め尽くしている。
「これ、全部……刀か?」
「進める隙間がある。行くぞ。」
二人は刃と刃のわずかな間を縫い、奥へ進む。
やがて中央付近に、空白地帯が現れる。
「キューー!」
「メラ!?」
カミルの召喚魔獣が駆け寄る。
「カミルがいるのか?」
メラは振り返りながら先導する。
部屋の隅。
血に染まりながら壁にもたれるカミルと、倒れたクレディア。
「カミル!!」
「……メラ……連れてきたのか……」
「大丈夫か!」
「なんとか……だが、もう戦えん……」
全身に走る無数の傷。
クレディアも重傷だが、呼吸は安定している。
「あれが……」
カルマの視線の先。
倒れているラミ。
「ミルズ三傑のラミだ。魔力暴走で刀が無限に増殖した……この有様だ。」
「よく止めたな。」
「部屋が刀で埋まる前に、意識を奪った……それだけだ……」
「時間がない。背に乗れ。」
「……すまん。少し……寝る。」
ダースもクレディアを背負う。
「奥に階段がある。三階へ向かうぞ。」
こうしてカルマたちは三階へ。
そして――
ハウロスとの合流を果たした。
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カルマはハウロスに現状を手短に説明する。
「分かりました。なら、ボスはバランを連れて四階へ向かってください。」
「王国軍が迫ってるんだぞ?」
「ええ。足止めくらいなら、なんとかしてみせますよ。」
「でも……」
カルマが迷いを見せると、ダースが口を開いた。
「心配すんな。ミルズ三傑のガーディスが相手してるんだ。兵士どもがそう簡単に上まで来られるわけねぇ。
来たとしても、俺はまだ動ける。ローグベルトも、そっちの兄ちゃんも……ボロボロだが立てるだろ?」
「そっちのボスも、ずいぶん人使いが荒いな。」
「がはは、違いねぇ!」
カルマは小さく息を吐き、バランの元へ歩み寄る。
そして、その手を握った。
「分かった。俺は四階へ向かう。危なくなったら上がってきて。」
「はい!」
「おう。」
「行こう、バラン。」
「うん!」
カルマはバランを連れ、四階へと駆け上がる。




