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5周目の人生で異世界を救った話   ~5人目の転生者を英雄へと仕立て上げる兄と、仕組まれた運命に抗う少年~  作者: MINMI
一章 平和の国カストリア編

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1-8「戦士の道③」


 カルマは、母のその言葉に驚いた。


 なぜならカルマは、父と母の前で「国を出たい」と言ったこともなければ、そんな素振りを見せた覚えもなかったからだ。


「母さん……なんで?」


「私はあなたのお母さんよ? あなたの考えていることなんて、顔を見ればすぐにわかるわ。」


 カルマは知っていた。

 母親とは、いつだって子供のことを一番に考えている存在だと。


 思い返せば、ティニエはカルマのすることを一度も否定したことがない。


 町の変わり者と言われるノーリエの家に入り浸っていた時も。

 街中で眼帯を外してしまった時も。


 いつもカルマを信じ、尊重してくれていた。


 ――だからこそ。


 今回は、行けない。行ってはならないのだ。


「母さん……でも……」


「カルマ……あなた、お父さんやお母さんのためにって思ってるでしょう?」


「……!? ……うん」


「あのね。そうやって考えてくれるのは嬉しい。けれど、それはね……お母さんのためにはなっていないのよ。」


「えっ?」


「ねぇカルマ。私の幸せって何だと思う?」


「……わからない。」


「あなたが成長して、幸せになることよ。」


 ティニエは、そっとカルマを抱き寄せる。


「だからね。あなたが自分の道を決めて進むことを、お父さんも私も止めたりはしない。」


「母さん……」


 ティニエはカルマの両肩に手を置き、まっすぐに目を合わせた。


「カルマ・ミラ・フィーラン。あなたは戦士ダグラスの弟で、私たちの最愛の息子。

 それは、離れていても絶対に変わらない。

 寂しくはなるわ。でも、あなたが健やかでいてくれるなら……それでいいの。」


 カルマは、もしかしたら自分は思い違いをしていたのかもしれないと思った。


 前世の自分は、母に冷たく当たってしまった。

 けれど――もしかしたら、あの母はそれすらも理解し、尊重してくれていたのではないか。


 だからあの時、穏やかに笑っていたのだろうか。


 後悔が消えることはない。

 それでも、胸の奥が少しだけ洗われた気がした。


「母さん……ありがとう。」


 ティニエは目に涙を浮かべながら、カルマを強く抱きしめた。


 その温もりを胸に刻みながら――


 カルマは、この国を出て戦士として旅立つことを決意した。


 _______

 


 数日後――


 カルマは荷物を肩に担ぎ、剣を携える。

 旅立ちの日だ。


 家には両親のほかに、イリーナも来ていた。

 


「あ……すみません。」


 扉をノックする音とともに、か細い声が響く。


「あなたは……」


「ノーリエさん!外に出るなんて珍しい。」


「君には世話になったからね。」


 バトロフは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにノーリエを快く招き入れた。

 ノーリエは照れくさそうに礼を言い、家の端へと静かに下がる。


 それを見て、カルマはくすりと笑った。


 バトロフはカルマの前に立つ。


「カルマ。今日はお前の旅立ちの日だ。まだ十二歳だが、その才能は天級の戦士たちのお墨付きだ。お前ならきっと立派な戦士になるだろう。

 だが――困ったことがあれば、いつでも帰ってこい。ここにいる皆は、いつでもお前の力になる。」


 その場の全員が、静かに大きく頷いた。


 バトロフは、器に並々と注がれた赤い液体をカルマに差し出す。


「これは……?」


「この国の伝統だ。戦士として旅立つ者は、ギラムの実のジュースを飲む。」


「ギラムの実って、町外れにたまに生えてるやつ?」


「そうだ。あれは“腐らない果実”と呼ばれている。もいで十年経っても水々しさを失わない。


 それを飲むことで、何事にも耐えられる強い意志を得られると言われている。」


「へぇ……」


 カルマは赤い果汁を見つめ、覚悟を決めるように一気に飲み干した。


「がっ!?!?」


 次の瞬間、喉を押さえて地面を転がる。


 焼けるように、辛い。


「カルマ!」


 イリーナが慌てて駆け寄る。


「はっはっは。言わなかったが、ギラムの実は激辛だ。」


「うぅ……辛い……」


「だが腐らないうえに栄養満点だ。旅先で困ったら食べるといい。」


 バトロフはギラムの実を一つ、カルマの荷に忍ばせた。


「父さんから多くは語らん。立派になって帰ってこい。」


「うん。父さん、ありがとう。」


 ティニエも涙をこらえながら近づく。


「どれだけ優秀な戦士になっても、あなたはあなたよ。

 いつでも帰ってきなさい。」


「うん。母さん。行ってくるね。イリーナも、ありがとう。」


 扉へ向かうカルマの肩に、ノーリエがそっと手を置く。

 言葉はない。ただ静かな微笑みだけがあった。


 イリーナはずっと下を向いている。


 扉を開けると、空がいつもより広く見えた。


 ――自分は今、人生の一歩を踏み出すのだ。


「カルマ!!」


 イリーナが外へ飛び出し、呼び止める。


「今の私には、まだあなたについていける力はない。でも……必ず、あなたの力になれるようになる。

 そしたら……私もあなたについていく……から!」


 カルマはふっと笑い、振り返る。


「イリーナと旅ができるの、楽しみにしてるよ。」


 そして、再び前を向いて歩き出した。


 イリーナは涙を流しながら、その背中が小さくなるまで見送った。

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