1-8「戦士の道①」
フィルスがカルマへ歩み寄る。
(あ……)
「貴様はなぜここにいる?」
鋭い視線。
「あ、いや……僕も役に立ちたくて……」
「修行を積んだとはいえ、まだ青二才だ! 魔人に遭遇していれば命はなかったかもしれんのだぞ!」
「魔人……なら、一人会ったけど……」
「!?」
「カルマ、魔人と戦ったのか?」
ダグラスが振り向く。
「どんな奴だ」
「グラヴィスって名乗ってた。炎魔の配下だって。」
「あの応徳魔術の魔人か……」
「二人も戦ったの?」
「いや、雷魔の前に絡んできただけだ。無視した。」
「……はぁ。」
ダグラスがカルマを見つめる。
「それで? どうした」
「戦って……逃げられたよ。」
「なに!?」
(今日来ていた魔人は上級以上のはずだ……しかも応徳魔術持ち……)
ダグラスは一瞬だけ黙り込む。
「……まぁいい。」
「どういう意味?」
「合格だと言ったはずだ。お前の修行は終わりだ。私はこの国を発つ。」
「え!? もう!?」
「ああ。やることは終わった。」
「昔からこういうやつなんだ。」
ダグラスが肩をすくめる。
「とりあえず家に帰ろう。久しぶりなんだ。少しくらい休め。」
「……まぁ、そうだな。」
_______
一行はカルマの家へと戻った。
家の前にはイリーナの姿があった。
カルマに気づいた瞬間、駆け寄ってそのまま抱きつく。
突然連れ去られてから一年以上。
どれだけ心配していたのか、その力の強さが物語っていた。
家に入り、両親の無事を確かめる。
ティニエは、久しぶりに帰ってきたカルマを優しく抱きしめた。
「ちょっと離れていただけだよ、お母さん……」
「わかってるわ。でも、嬉しいの。」
その温もりに触れた瞬間、カルマは前世の記憶を思い出す。
小林涼太として生きていた頃。
優しかった母親に、きつく当たってしまったこと。
もう二度と謝れない後悔。
だからこそ――
カルマはそっとティニエの背に手を回す。
(今度は、後悔しない)
静かに、そう誓った。
⸻
その後、家族とフィルスを交えての会話が続く。
話題は自然と、フィルスの旅立ちへ。
「フィルスさんは、いつ発つんですか?」
「今夜だ。この国を出る。」
「今夜!? そんな急に……」
「この国での私の役目は果たしたからな。」
フィルスはそういうと、チラリとカルマの方を見る。
「家は……ガラフ村だったな。戻るのか?」
「ああ。私は依頼で来たわけではないからな。」
「そうか。また戦場で会うこともあるだろう。その時は頼む。」
「ああ。」
⸻
その夜。
カルマはフィルスに呼び出される。
「カルマ。十五になったら国を出るつもりか?」
「うん、そのつもりだけど……」
「戦士協会の風習に縛られる必要はない。」
「え?」
「私は八歳の時、旅に出た。」
「……十五より早く出ろってこと?」
「いや。そういう道もある、というだけだ。力があれば救える命もある。」
カルマは言葉を飲み込む。
「まぁ、ゆっくり考えてみればいい。では、私は行くからな。」
「え!? このまま?」
「ああ、長居する気はないしな。」
歩き出すフィルスを、慌てて追いかける。
「あの! 最初は怖い人だと思ってたけど……フィルスが先生でよかった! 本当にありがとうございました!」
フィルスは振り返り、わずかに笑みを浮かべる。
手を上げるだけの別れ。
その背中が夜の闇に溶けるまで、カルマは見送った。
⸻
フィルスは一人、夜道を歩く。
星空を見上げながら、カルマとの日々を思い返す。
(弟子とは不思議なものだな)
かつて、自分は師に別れも感謝も伝えられなかった。
(……今なら、届くだろうか。先生。ありがとう)




